主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
黒くさらさらとした髪、酷く白い肌。触ると消えてしまいそうな儚さがあって、不気味な美しさがある。
それでいて、表情があまりにも動かない。無理して、張り付けたような笑みを浮かべることはあっても、ほとんど誰もが彼女が笑ってる瞬間を確認したこともない。
いつしか、そんな彼女――エレーナ・マエルストロム・リーデルは人形姫と呼ばれて。
彼女と付き合っていこうとする人間も滅多に現れず。
如月玲が現れるまでは、ほとんど一人で過ごすようになってしまった。
それもそうだ。家族もエレーナを見放して、相手をしなかったのだから。
◇◇◇
おかしいな、メインヒロインちゃんと話してたのにれーくんがこっち来てるんだけど。
ちょっと、原作の出会いシーンを見ようとしただけなのにね。
「どうしたの、エレーナ」
なんか、この子俺に懐いちゃってる?
やだ、パパ感激してしまうよ。
「よーし、よし、よし……」
れーくんの頭を軽く撫でてやる。すると不満そうに、れーくんはそれを軽く払いのけた。
なんか、そういうところもかわいいね。懐かない動物を可愛がってるみたい。
「……エレーナ、あのさ」
「れーくん、犬みたいだね」
「ちょっと、聞いてる?」
「……はいはい」
軽く流してたけど、そろそろ聞いてあげなきゃ。
「エレーナ、僕に何か用だった?」
「うん?れーくん、友達出来てるかな……って」
「親じゃないんだから」
パパ否定されちゃった、そんな。
いつでも俺は、れーくんを男手ひとつで育てるぐらいの気持ちでやっていけるのに。
ほら、原作通りに進むんだぞ~ってやるのも、育ててる感があるじゃないですか。
育成ゲームとかみたいな。……ちょっとそれは失礼か、やめとこ。
別に、俺はちょっと未来を知ってるだけだし。そこまで傲慢になったらいけないよね。
と、考え込んでいると、れーくんがじっとこっちを見ているのに気付く。
「そういうエレーナはどうなの?」
「何が?」
「友達、できそう?」
友達かー。まあ、あんまりぼっちが好きとかそういうわけでもないんだけどさ。
仲良いやつがいても、どうせ俺は消えるし。あんまり作っても仕方ないというか。原作からそこまで逸れないように、ある程度はそのまま進んでもらわないといけないけどね!
「――別に友達とか、いらないよ」
だから、そのまま伝えると、ひゅっと息を飲むような音が聞こえて。
「……エレーナ」
なぜかこっちを不安そうに見てくるものだから、またれーくんの頭に手が伸びそう。父性を刺激してこないでね、れーくん。
「何その、不安そうな感じ」
「だって、エレーナは」
「そんなに、深刻そうに、しなくても……」
ああ、やっぱり。ちょっと、長めの文章を喋ろうとすると、途端に辿々しくなる。この体使いにくすぎないか。
「だって、エレーナ。このままだと、ひとりぼっちにならない?」
「ならない、よ。れーくん、いるし」
今はれーくんがいるし、それに原作通りに進むなら他の知り合いもできるからね。
そう、例えばメインヒロインのステラちゃんとか。うーんでも、友達だとあんまりいないのかな?
あと、そもそも原作通りにいくならあんまり友達作れないしね。エレーナの友達って誰がいたっけなー。あんまりいないのは変わんないか。
……って、そうじゃなくて!
れーくんが、メインヒロインとの出会いを破棄しちゃってるんだよねこれ。どーしよーかな。
って、考え込んでいると、不意にれーくんに手を握られた。
しかも、なんかちょっと覚悟決まってそうだし。何?
いや、それよりもメインヒロインと絡んでもらわないと。
「……エレーナ」
「ねえ、れーくん。さっきの人と、何か、話そうとしてなかった?」
「……え?」
拍子抜けしたみたいに、真剣なれーくんの表情が
すっと抜ける。
「さっきの、黒い髪の人。ほら、青い目の」
「ああその、挨拶をしてたけど……エレーナがこっちを見てたから」
「……挨拶返した?」
「してない。だって、エレーナが――」
「こらっ」
ぺち、とれーくんの額を弾いた。
「しないと、ダメでしょ」
「……エレーナ、やっぱり親みたいなこと言うよね」
「うるさい、な。早く行って」
ぐいぐいと、無理やりれーくんを押していく。
にしても、こうやっていると――まるでれーくんとのお別れみたい。
原作の道を通っていくれーくんと、原作から外れてしまってもとに戻らないといけない俺。
これから、変わっていないといけないから。
なんて、談笑をしているうちに放課後になってしまった。
一応、メインヒロインのところに強引に送り出して、出会いのシーンを再現はさせたよ。私もせいで、なくなったら嫌だからね。
にしても、よかったなあ。ステラとれーくんの出会い。
元気なステラにちょっと押され気味なれーくんの様子は結構よかったねー。もうちょっと、眺めていたかったな。まあ、原作でもちょっとしたワンシーンでしかなかったからいっか。
……でも、その時に強引にれーくんに一緒に挨拶する流れになりかけて危なかったね。異物を入れちゃダメ。
原作シーンが見たいの!こっちは!
とりあえず、それで初日にやりたいことは終わりかな。
……ああ、そういえばエレーナとの出会いイベントとかやってなかったな。どうせだし、やっちゃおう。
っていうか、なんか結局れーくんいるんだよね。なんでだよ。
いやあれだね、これまで関係を深めすぎちゃったか。本来なら、れーくんはクラスメイトと帰っていく感じになると思ったんだけど。
――俺とれーくんは、半ば幼馴染みたいなもだから。
……あーあ、雨の日に外に走ったりなんかしたから。やらかしたな。
まあ、いいや。ちょっと頼んで
「ねえ、れーくん」
「……え、何?」
「やりたいこと、あるんだけど。いい?」
「急だね、エレーナ。まあ、いいけど」
やったね、れーくん。愛してる。
「だから、とりあえず。こうやって、こうやって」
「……細かいね、エレーナ」
◇◇◇
玲が廊下を歩いていると、何かが耳元に聞こえてきた。
――♪
――♪
小さな、鼻唄。耳をすませないと聞こえないそれがなんとなく気になって、近くにある教室内から聞こえてくるから、そこに向かう。
近づけば、鼻唄がよく聞こえてくる。なんとなく、消え入りそうなそれが、なぜか玲はすごく気になった。
扉に手を掛ける。
がらがら、と開くと鼻唄がぱたりと止まった。
中には、一人の女の子がいる。
「……誰?」
何かを探るような視線が、玲に向いた。
その少女には少し見覚えがあった。同じクラスではないけど、それでも他の人が噂しているのを見たことがあったから。
エレーナ・マエルストロム・リーデル。通称、人形姫。
確かに、こうしてみると人形だと言われてるのも納得してしまうほどに、人間らしさがあまりない。綺麗な作り物みたいだから。
「僕は、如月玲。君は?」
名前はすでに知ってる。けれど、本人から聞いておくべきだと思ったから。
「……エレーナ。エレーナ・マエルストロム・リーデル」
「そっか。よろしくね」
軽く笑いかけると、驚いたように少しだけ目を見開いた。
なんだ、表情も変わるし、わかるじゃないか。
◇◇◇
「うん、いい感じ」
「なんだったの……」
「私が、もし。れーくんとあの日出会ってなかったら。こうなってたかもしれないから」
もし、そんなことがあったなら、こうして話せることがあったのかもよくわかんないけどね。
さて、原作開始まではできたし。さっさとストーリーを進めにいくぞ!
「……エレーナ、どこにも行かないでね」
「どうしたの、れーくん。行かないよ」
おっ、れーくん。寂しいか?
また、よしよししてあげないと。あっ、拒否されちゃった。
そういえば色つきました。ありがとうございます。