主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
エレーナと初めて会ったのは、雨の日の公園だった。そこで、ずぶ濡れになってるもんだから、目についてしまった。
儚げな風貌と相まって、不思議と画になっていたけど。そんな状態の子を放っておけなくて、強引に傘の中に入れたことを覚えてる。
ろくに表情も動かなくて、何を考えているのかもいまいちわからなかったけど。なんとなくこの子のことが気になった。
でも、なんでこんなところにいるんだろうか。わざわざ、雨の日に傘も差さずに公園に来る理由なんかあるのかな。
そう思って聞いてみたけど、全然教えてくれない。
まあいいか。そう思ってそのままずっと、二人で雨の中を過ごしていた。
だって、このまま放置してるとそのまま消えていきそうに思ったから。
触れれば消えてしまいそうな雪だった。
「僕は如月玲。君の名前は?」
だから、この子をなんとか引き留めようとして、自分の名前を教えた。どうせなら、名前も聞きたかったし。
そんな時――彼女の目が僅かに見開かれた。今まで、ぴくりとも表情が動いていなかったのに。
「私は――」
と、名乗り始めた名前は、意外と普通の名前で……でも、それを取り消した。
「エレーナ・マエルストロム・リーデル、よろしく……」
辿々しく、それでもはっきりと告げられた名前は、とても僕と同じ日本人だとは思えないけど、それもなんとなくわかる。
魔法名――本来の名前とは違う別の名前をつけて、強制的に魔力を上昇させる儀式。
それをつけられた人たちは、持っている魔力の属性と同じ名前をつけられている場合は、その魔力が上昇するというもの、だったはず。
あんまりいいものだとは思わないけど……それ関係で嫌なことがあったのかな。
そう思っていたときだった。不意に、エレーナが僕に肩を寄せてきた。
「……君、いい人だね」
ぽつり、と呟かれたその言葉がやけに重く感じた。
「れーくんって呼んでもいい?」
「……急だね」
「俺……じゃなくて、私も。れーくんが好きに呼んだらいいし」
「なにそれ」
急に距離を詰めてきて少し驚いたけど、まあいいや。
ざーざーと降る雨の中、肩に触れたエレーナの体温だけを感じていた。
それ以降、何かある度に彼女を見つけて。気付けばそのまま、友達になっていた。
きっと、彼女と高校を過ごすのも楽しそうだなと思っていたけど。
なんとなく、この日からなにかが起こりそうな気がして。少しだけ胸騒ぎがした。
◇◇◇
エレーナとクラスは違っていて、ちょっとだけ嫌だと思ったけど。たまには、エレーナには僕以外と話してほしかったし、いいかな。
エレーナはいつ見ても、ひとりぼっちだったから。
一度、彼女の家に行ってみたいと言ったことがある。その時は、静かに首を横に降っていた。
「私は、家族からしたら、いないようなもの、だから……」
そう言っていたエレーナの言葉が、ずっとこびりついている。
魔法名によって、本来とは違う名字がつけられているけど、本来の名前と同じように家族の場合はそれを統一しなければならない。
だから、エレーナの家族も全て、リーデルの名前がつけられている。
同じリーデルの名前をつけられていても、同じ家族とは認められてないらしい。
やっぱり、エレーナに一人にしてはおけない。でも、僕ばっかり一緒にいるわけにはいかないし。
だから、これを気に友達を作ってほしかった。
僕の方はまあ……何人か友達は作れると思う。何人かと話したから。
そうやって、なんとなくボーッとしてると。
「如月くん」
不意に誰かから声をかけられる。顔を上げると、深い海のような青い瞳がこちらを覗き込んでいた。
ふわり、と頬を緩めてその女の子は笑う。
「私は、ステラ・メーアって言います!」
元気のいい声で、びっくりしてしまう。そういえば、明るい感じの子がいたな。この子もきっと、魔法名をつけられてる気がするけど。
「他の人たちとはもうみんな挨拶したんですけど、如月くんはまだだったので!」
全員と挨拶?……よっぽどだけど、どっちかというと、エレーナの友達にそういう人がいた方がいいのかな。
とりあえず、こっちも返そうか……そう思ったときに、視界の端に動くものが見えた。
……エレーナ?
「……如月くん?」
「ごめん、ちょっと」
ステラさんの横を通りすぎて、廊下の方へと出るとそこにエレーナがいた。……なんでわざわざ、僕のところに?
そんな風にしてると、急に撫でられてびっくりした。……エレーナは時々、僕のことを犬か何かだと思ってそうな時がある。
なんでここに来たのか聞いてみると、僕の様子を見に来たらしい。
「友達、できそう?」
余計なお世話だし、エレーナの方が必要でしょ。そう思ったけど。
「――別に友達とか、いらないよ」
そう言われて、固まってしまった。
エレーナ、君はひとりぼっちになるつもりなの?
わからない。これだけ一緒にいるのに、彼女はどうしたいんだろう。
……消えたりしないよね、エレーナ。
しまいには、僕がいるからとか言い出すし。
やっぱり、君のことは放っておけない。
その後にもう一回ステラさんに挨拶を挨拶をさせられたりとかしたと思えば、変な初対面ごっこもさせられたけど。
……それもやっぱり、今とは違うどこかを見てそうで、ちょっと心配だけど。
◇◇◇
「れーくんはさ、何の魔力を使うの?」
次の日、不意にそんなことを聞かれた。
別に、エレーナは送り迎えとかいらないし、他の友達と一緒に登校すればいいのに、と言ってきたけど。なんとなく放っておけなくて、強引に一緒に登校してる。
エレーナは一人暮らしだし、今のところ他に友達もいないみたいだから。
そういえば、エレーナには魔力のことは話してなかったな。
魔力の属性ってものは幼少期にはわからなくて、ある程度成長してから固まるものらしい。
だから、決めきる前に魔法名をつけることである程度固定化できるんだとか。
エレーナは、それで固定されなかったみたい、という話だけは聞いた。やっぱり、家族からの扱いが酷いのって。とは思ったけど聞かないでおく。
「僕は水の魔力だけど」
「おー、やっぱり……」
何、やっぱりって。エレーナは時々、変なことを言う。
まあただ、水の魔力の方が基本的には好まれてるみたいだけど。
思い返してみれば、未来予知みたいなことも言ってたような。
あとそれと、たまに俺って言うときもあるけど。あれはなんなんだろう。
「エレーナは土の魔力だっけ」
「うん。ほら」
手のひらに、砂のようなものが集まって。そのまま、小さな土の塊になる。
「……あと、こういうのも、できるよ?」
たったっ、とステップを踏んだ後。強く地面を踏み込んだ。
――エレーナの姿が消える。
違う、ジャンプしたんだ。
そういや、土の魔力には身体強化の力もあるんだっけ。
すたっ、と着地したエレーナが得意気にこちらを見てきた。
「……すごいでしょ」
前々から思ってたんだけど。エレーナって結構かわいい性格してるかも。
主人公君の目線的にメインヒロインちゃんのことはあんま眼中に入っていないので描写少なめです