主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
昔、エレーナの家にこっそり行ったことがある。
大きな屋敷があって、中を見るのも苦労した。
門をよじ登れば、ようやく人がいるのを見つけて、その姿はエレーナに近かったから。
それに声を掛けようとして。
「神様、生きててごめんなさい」
か細い声が聞こえてきて、聞き間違いだと思い込みたくて近づくのをやめた。
あの日、もう少し近づいておけば、もう少しエレーナは本音を話してくれたんだろうか。
◇◇◇
なんか、メインヒロインちゃんとれーくんが友達にはなりそうなんだけど……そのまま俺が巻き込まれてしまった。
いやその……ステラと友達になるのは悪くないけどさ。別に、動きにくくなるだけだし。あんまりよくはないんだよね。
というか、さっさとルートに進みたいのに。
なんてことを……現実逃避として考えてた。いやね、なんで現実逃避してるのかというと。
「火の魔力の人たちはこっち!火力調整して!」
「水の魔力の人たち……多いな。水の操作と軽めの治癒を教えるぞ」
魔法の授業中なんです。め、めんどくさい。
いやね。ちょーっとエレーナってぼっち気質というか。割と孤独な行動してるので。
魔法の授業って基本的に、外でやるので。体育の授業みたいな感じになってる。
はーい、二人組作ってー。ではないんだけどね。なんかその頃の気持ち悪い感情を思い出しかねない。
ちなみに、ここでは魔力の特性について実演で学んでる。俺は土なので、土は身体強化をちょっと確かめる、みたいな。
ちなみに……水は回復能力があるし、風は音とか拾えるぞ!
だいぶファンタジーだよな、この世界。
「おっ、リーデルの人形姫じゃん。お前、本当に不一致なのかよ」
――けらけら、と笑う不快な声が聞こえてきた。ぴりぴり、と何かの圧を感じる。これ魔力だなあ。
振り返ってみると、男子が一人見下ろしていた。
「特性を確認するんだってさ。お前もやってみろよ」
「……なに、を?」
「強化だよ。俺が思いっきり殴ってそれを、それをちっせえお前が受け止められたら、確認できんじゃねーのって」
……ちょっと不遇キャラ、みたいな立ち位置でしかないのに、こんないじめみたいな展開ある?
っていうか雑すぎるけど、ちょっとやるか。
問題ないかっていうと、全く問題ではないんだよね。
魔力にも強度があって、エレーナは原作キャラなのでとても魔力の強度が強い。
「いい、よ?怪我しないでね」
「誰にいってんだ!」
男子が拳を振りかぶる。そしてそのまま、振り下ろされた。
魔法があるからって、ほぼ現代日本で授業中に男子が女子を殴り付けるなんて、やばいな。蛮族?
ぱしっ、と軽く音が響く。男子の拳を手で弾いてやった。
唖然としてて面白い。
相手も相応に強化はしてたみたいだけど、簡単に防げてしまった。さすが、退場予定とはいえ、ヒロインの一人だ。
……ヒロインの一人だからって能力が高いのは変な話か。
にしてもごめんね、これぐらい受け流してないと、今まで耐えれてないからね。でかめの水の玉とか、こっそり燃やされかけるとかもあったし。……もしかして、嫌われすぎなのでは。
「確認させてくれて、ありがとう、ね」
お礼は言っとかないとな。
「あ、ああ……」
ちょっとびびってる。属性が一致してないだけで、弱いわけじゃないのにね。
◇◇◇
授業はそんな感じで、面倒なものが混じってる。だるいなあ。
ともかく、放課後はそろそろ動かないとね。今回はれーくんはいない。
たまには、れーくんなしで動いとかないと、と見つからないようになんとか校舎を出てきたところだったりする。
そんで、こっそりと動こうとしたんだけどね。
「エレーナさーん」
なんか、こうしてステラが引っ付いてきてる。……邪魔。なんで、れーくんの方に行かないの。
っていうかさ、その。内面はまだ男のつもりのわけで。かわいい女の子がすごい引っ付いてくると緊張すると言いますか。
やりづらい。……やっぱり、れーくんと一緒が一番落ち着くなあ。れーくんポイントを補充しないと、俺はやってはいけないかも。他の男子との距離が近くなると……ね?
……そういえば、野良猫とか見つけては捕まえていくタイプだった気がする。じゃあそういうことかい。
って誰が猫だよ。
「エレーナさんとお友達になれて嬉しいです」
「いや、了承してない、けど」
「え、そうなんですか?でも、友達だって言わせて見せますからね!」
……眩しいなあ。さすが、メインヒロインの子。光属性すぎるよ。
にしても、なんでステラが俺を気にしてるんだろ。関係ないのに。れーくんと早くちゃんと仲良くなってほしい。
ストーリー上は、この二人がメインで進むわけで。この二人が仲良くないなら、ストーリーが進まなくなったりしない?大丈夫?
っていうか、それよりも先にイベントが起こったら困るなあ。
……まずはなんでこっちにわざわざ来るのか聞いてみるか。
「なんでそんなに、構うの……?」
「んー、放っておけないから、ですかね?」
何それ。エレーナの儚げオーラだけでそうなってしまったってこと?
おかしいな、そんなつもりはないんだけどね。
――俺は一人でも、別にやれるのにね。
「別に大丈夫、だよ」
「そうですか?でも、如月くん以外に友達いないじゃないですか」
「……そうだけど」
ぼっち罪ってこと!?
それぐらい、許してくれないかな。いいでしょ、それぐらいさ。
「だから、私がまず友達になりますっ!」
……これ、なんとかできなさそうだ。ステラって、こう頑固というか。一度決めたことをなかなか崩してはこないから。難しいね。
うーん、どうしよかな。このままだと、イベントとかに問題があるのかも。
「別に、友達にならなくていいけど」
「冷たい、そんなんじゃダメですよ。本当に、如月くん以外と関わらないつもりなんですか?」
「違う、よ?他の人にも、会うつもりだし……」
そう、さっさとイベントを進めるために会っとかないと。
ちなみに、どういうイベントがあるのかというと……異存在に絡んだ話なんだよね。
異存在、この世に降り立った人知を越えた存在たち。
魔力の属性は火と水と風と土があるみたいに、異存在もそれぞれの属性で存在してる。
水の神とか諸にそうだしね。
で、そのうちの一つが火の悪魔。
火を操る、苛烈な存在。この世界にやってきたときに、あらゆる場所を燃やし尽くさんと暴れていた。
なんだかんだで、水の神の協力を得て封印に成功する。
そして、そのまま世界中を漂っているらしい。
その火の悪魔が、一定周期で日本に近づいてくる。それが、この数日付近ってわけ。
まあ、封印されてるから問題ないんだけどね。……たまたま解けてしまうので。
水の神の力がちょっと弱まっているせいで封印も緩くなってる、みたいなことだったかな。
なので、そのイベントが進む前に先に準備したい。
「エレーナさん、ボーッとしてどうしたんですか?」
「どうも、してないよ」
「で、誰に会いに行くんです?」
「ミーツェ・マール・インテリオール」
「……マジですか」
まあ、しょうがないか。ミーツェはそこそこ有名人だし。
不一致でありながら、圧倒的な魔力で周囲を圧倒してきた女帝。この学園に君臨する最強の少女。
「うん、マジ。友達になろうと、思って」
「なんでそう、変なところで思い切りがいいんですか!?」
だって、原作ルートだし。……そういえば原作のエレーナはどうやって仲良くなったんだろう。
……もしかして、孤独に過ごしていたら声を掛けられたとか?
ミーツェも不一致だし、同じように感じるところがあったとか、あるかもしれない。
「――あら、私の話をした?」
急に、空気が静まり返ったように感じた。
銀の髪が揺れて、それと同時に風が駆け抜けていく。
俺よりも少し高い身長で、自然と見上げてしまうけど。見下ろされる深紅の瞳が、酷く綺麗に見えた。
ミーツェ・マール・インテリオール。
マール・インテリオールまでが属性を示している、という珍しい魔法名を持っていて、それでいて学園でもっとも強力な風の魔力を持っている人。
……なんでたまたまいるの。エレーナはなんか俺の後ろに隠れているし。
「なんで、ここに……」
「私の名前が聞こえてきたからだけど」
「……」
何喋っていいか、いまいちよくわからないな。
どうしよ。共通点とかあるけど、話しにくいよね。
いやー、自分もよく家族から迫害されてー……とか言えないし。
……やばい、思い出して気分悪くなってきた。
――出来損ない
――見た目も悪くはないが、どうにも気味が悪い
――こんなのと同じ血?勘弁してよ
そうだ、そうだった。みんなの期待に応えてちゃんと消えないと。
偽物でごめんなさい。変なことしてごめんなさい。
やっぱり表情が動かせなくてごめんなさい。笑えなくてごめんなさい。
まだ死ねなくてごめんなさい。
……れーくん、と勝手に出会ってて、ごめん、なさい。
れーくんと会うだけは許してくれませんか。
「あなた、大丈夫?」
そっと、頬に手を添えられた。
「……ごめんなさい」
でも、出てきたのはその言葉だけで。息がうまく吸えなくて。
その後はどうなったのか、よく覚えていない。