主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
エレーナ・マエルストロム・リーデルというキャラは、零界のセレスティアにおいては人気キャラだ。
当然、物語上必要な役割をするキャラクターだけど、そうじゃない。
それはシンプルに、エレーナが不憫なキャラクターだから。
家庭からも酷い扱いをされていて、結局物語上も、結局幸せになることもなく。
主人公と少し仲良くなっただけで消えていく。
だからこそ、幸せになってほしいと人気が集まる、そんなキャラクター。
エレーナ本人は、覚悟が決まっていたからそれを実行できた。
だって、エレーナは昔から未来を見ることができたから。
これは彼女だけのちょっと特殊な事情。そして、消える理由でもあるけど。ここまであんまり関係ないし、語るのはやめとく。
眠った意識の中で籠ってるだけだけど、ただ無を揺蕩うようなこの感覚がなんとなく気持ちいい。
起きるのは怖いし。れーくんでもいないと、俺はきっと立ち上がれない。
なんでこんなことになってしまったんだろう。それは簡単な話。
それは――エレーナの中に普通の人が入ってしまったから。
俺はただ、その境遇に耐えられなかっただけの存在で。それを耐えるために、主人公に縋りついてしまった。
……もう、ダメかも。そう思ってるときに、何か変な感覚がした。
暖かいものが手を包む。これは、手を握られてる?
「……エレーナ」
不意に聞こえてきた声に、びくりと震えそうになる。
れーくんの声だ。少しだけ、気持ちが軽くなった。
少しだけ、目蓋が軽くなる。
少しだけ目を開くと、うっすらとれーくんの顔が見える。
「れー、くん……」
「エレーナ、大丈夫?」
「俺は、大丈夫……」
「俺?」
「…………気にしないで」
ダメだ、メンタルが揺れてると素が出そうになる。いけない、今の俺はエレーナなんだから。
ようやく、目を開くとどうやら寝かされてるらしい。どこだろう、ここ。隣にれーくんがいる。
ああでも、よくわからない。ちょっとだけ、れーくんに甘えても……甘えるってなんだ。おかしいだろ。
「……エレーナ、本当に大丈夫?」
「うん。……なんで、れーくんがここに?」
「ステラさんが心配して呼んできてくれたから」
「そう、なんだ」
……こっそり抜け出していたのに、結局バレちゃうなんて。そういう才能がないのかも。
にしても、れーくんに手を握られてる?
なんかこれだと、重病の女の子を看取ってるシーンみたい。
いやその……そのうちそうなるんだけど。そんなことばっか考えてるから気が沈むんだ。
楽しいことを考えよう、楽しいこと。
……れーくんと一緒に帰ってるときとかは楽しいかな。
あとは、れーくんと登校してる時とか。
あれ、れーくんのことしかない?
……一人でやっていけるとか言ってたのに、不甲斐ないやつ。
「エレーナ、聞いてる?」
「ごめん、聞いてなかった」
「……心配したんだからね」
安心したように、ホッと息を吐いている。
「……ごめんね、れーくんに心配かけて」
「そうじゃないでしょ」
ぎゅっと、握られる力が少し強くなる。
「エレーナはずっと、何かを抱えてるんだってわかるけど、それを教えてはくれないんだよね?」
「……それは、その」
あんまり、教えていいことじゃないし。きっと、心配性なれーくんは止めるだろうから。
だから、これは言えない。未来が見えていたエレーナだって、同じようなことを思ってただろうし。
「言わなくてもいいけど、無茶しないで」
「……無茶とか、してない、よ?」
「急に倒れたのに」
「……それは、その。ちょっと嫌なことを、思い出して。あっ」
やべ、言っちゃった。
恐る恐るれーくんの表情を見ると……感情が抜け落ちたように、無表情になってる。怖いってば。
「エレーナ、僕がいるから。だから、大丈夫」
「うん、れーくんがいてくれるし、大丈夫だ、よ?」
なんか、オウム返しするみたいになってしまったけど。別に今もれーくんいてくれるだけで、メンタルの回復が段違いだからね。
さんきゅーれーくん。
「――へえ、そういう感じだったの。私のせいで気絶してしまったら、どうしようかと思ったわ」
「……ミーツェさん」
れーくんの後ろから、銀色の髪が揺れてるのが見えた。
れーくんと反対側の、私の隣に座り込む。
赤い瞳が、こちらを覗いている。
ライバルヒロイン、ミーツェ・マール・インテリオール。
そっか、この人の目の前で倒れちゃったから。
……どうしよ、この人と会っていい感じに関係を深めて、そこから色々な足掛かりにしたかったんだけど。
この空気だとできるかな。
っていうか、わかった。ここ、ミーツェの部屋だ。学生寮みたいなところに住んでるはずなんだけど、そこの部屋だな。
「あなたも、大変そうね?」
ポン、と頭に手が置かれた。ミーツェにそのままなぜか撫でられる。おかしい、まだ出会ったばっかなのにそんな扱いなの?
「……あの」
「うふふ、かわいいわねあなた。どうやら聞いた話だと、私と同じような境遇らしいじゃない」
不一致で、同じように家族に見捨てられて。それでも、それを実力で見返した人。
……この人だけ追放ものみたいなことやってるよな。
同じようなものだけど。そこまでおなじではないというか。エレーナの方が酷い……って感じなのかな。
家庭の事情までは描写されないし。
……まあこっちは、結構きつかったけど。でも、俺はれーくんがいて。この人にはいないから。
「で、私に何か用だったらしいわね?聞いた話によると、仲良くしたいんだとか」
「……それ、誰から?」
「ステラって子が言ってたわね」
なんで言っちゃうかなそれ。困るんだけどね。
「いいわ、友達になりましょう」
ふふっ、と頬を緩めて笑って。そのままずっと頭を撫でてくる。
「……ありがとうございます?」
「礼なんていいわ。私も、後輩と仲良くしたかったもの。でもね、なぜか知らないけれど。あまり関わってくれる人がいないのよね」
困ったわ、と頬に手を当ててるけど。たぶん怖いんだと思う。なんていうか、ミーツェは威圧感があるから。
……でも、こんな甘やかしキャラだっけ。ステラとか、れーくんとはバチバチにやりあってた時もあった気がするんだけど。
隣のれーくんは、微笑ましそうにこっちを見てるし。おかしいでしょ。
ああでも、ようやく一歩進んだ。
ごめんね、れーくん。そんなに嬉しそうにしてるけどさ。
あくまで、これは――俺が死ぬための準備だから。
家族のこととかもさ、あんま気にしないでいいよ。俺が役割のせいで、しがみつかないといけなかっただけだし。
……なんて、そんなことも言えないけど。
「どうしたの、エレーナ」
「なんでも、ないよ」
そんな気持ちを胸に仕舞い込んで、とりあえずミーツェとの交流を深めないと。
「ところで、あなたたちって恋人なの?」
……これ、誰かと会うたびに毎回やるの?