主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
いつかの日、まだ幼かった日のこと。
エレーナになっていることはわかってたけど、あんまりその意識が強くなかった頃だったと思う。
家の中にいるのがつまんなくて、外で思いっきり遊んだ。
リーデルの家は、まるで貴族の家みたいで息苦しくて。
エレーナというキャラクターに収まるのも、なんとなく嫌だったんだと思う。
だから……女の子として生きていくことに反発してしまって、そのまま泥まみれで帰ってきた。
その時の、家族の顔は人を見るような目ではなくて。
ああ、やっぱり。ちゃんとエレーナをやらないといけないんだ、と理解できてしまった。
その時は、まだ何の魔力を持っているかもわかっていなかったのに。
そういう運命なんだな、と理解して。
リーデルの人形姫へと、俺は向き合うことになった。
◇◇◇
俺がきっと、消えてしまうのはいつなのか。現時点ではよくわからない。
火の悪魔の件はいつ頃起きたのかわからないから。ちょっとだけ探ろうとしたけど……一個人だとなにもできなかった。
まあ、異存在の件は一般人が簡単に触れることじゃないんだけどね。
異存在はそれぞれ、同じ属性の強い魔力持ちと接触すると活性化するんだけど。火の悪魔のいるところに、たまたま強い火の魔力を持つ人物が現れてしまうってことが起きる。
その人がどんな動きをしているのかとか、火の悪魔はどの辺りにいるのかとか。そういうことを知るために、まずはミーツェに出会う必要があった。
ミーツェはエレーナに出会ってくれて、尚且つそこら辺の事情にも精通してるから。
……なんだけど。
「ねえ、エレーナちゃん。聞いてるかしら」
「はい、聞いて、ます」
「そんなに畏まらなくてもいいのに。で、あなたとそこの彼は恋人なのかしら?」
なんで、この人はそんなに気にしてるんだろ。
ステラはコイバナ大好きモード入ってたけど、ミーツェも入るの?
「恋人じゃ、ないです」
「だそうだけれど、そっちの彼はどう?」
「俺たちは友達なので」
「ふうん」
目を細めて、俺とれーくんが手を握ってるのをじっと見ている。……確かに、友達でこれをしてるのも変だけど。少し落ち着くから。
いやまあ、落ち着くからってこんなことしてるのも変か。でもなんか、れーくんも離してくれそうにないし、いいや。
「まあ、それはいいけれど。友達ができたのは嬉しいわ」
ミーツェの口元が緩んでいく。……そんなに友達いなかったっけ。
「あなたも、苦労してきたのでしょうから。今日からは、私が守ってあげるわ」
……なんか、好感度高くない?
原作だと、れーくんとかに全然協力してくれなかったぐらいには、ツンツンというか。とりつく島もないというか。そんな感じだったのに。
エレーナ補正ってことね。
「ありがとう、ございます……」
「もう、そんな畏まらなくてもいいって言ってるのに。……今まで、そうして人を遠ざけてきたの?」
「いや、別に……」
「だって、そこの彼とばかり関わってきたのでしょう?」
「うっ」
まあ、そうなんだけど。遠ざけてきたってのも間違ってないし。
そのうち死んでしまうなら、あんまりいない方がいいかなと無意識に考えていただけ。
そういう意味では、れーくんと一緒にいるのもよくないんだろうけど。
「だから、私が守ってあげる。いいわね?」
「……はい」
「ふふっ」
……なんでずっと撫でてくるんだろう。庇護欲でも刺激してんのかな。エレーナはそういうとこはあるけどさ。自分がされてるって思うとこう、ムズムズする。
「今日はもう遅いから、あなたたちは帰りなさい」
そう言われて外を見ると、もう随分と暗いな。
「行くよ、エレーナ」
「待って、れーくん」
れーくんに引っ張られるような形で、部屋を出ていく。
たぶん、このまま送ってくれるつもりなんだろうけど。
少し振り返ると、にこやかに笑みを浮かべたミーツェがこちらを見ていた。……まあ、知り合いになったから、いずれ話を聞けそうだしいっか。
にしても。
「れーくん、いつまで握ってる、の」
そう、なんかずっと手を握ったままだ。……手汗とか気になるから、そろそろ離してほしい。
握った手から熱が伝わっていく。ちょっと、恥ずかしいしさ。
「……もうちょっとだけ」
消え入り方な声で、そう聞こえてきたものだから。少しぐらいいいかな、と思ってしまった。
にしても、繋ぎたいのかな。もし、そうだとしたら。まるで、エレーナが好きみたいな。
実際、原作のれーくんはエレーナが好きだったんだろうか。と考えたことはあるけど、たぶんそこまでだ。
エレーナとは仲良くなったばかりで、お別れしたし。
そういう意味では、こういう風にあらかじめ仲良くなっていたのなら。好きになる可能性とかあったのかもしれない。
と、考えたときに悪戯心が鎌首を持ち上げた。
「れーくん、私のこと、好きなの……?」
繋いでいたいなら、そう思われても仕方ないし。だから、ちょっとだけ悪戯してもいいかなってね。
ぴしり、とれーくんが固まる。やっぱり、いい反応するね。
「れーくん?」
だから、追い打ちをかけるように顔を覗き込む。視線がぶつかると、れーくんの瞳が揺れて。そのまま逸らされた。
「……エレーナ、それってどういう意味?」
「だって、手を繋ぎたいって言うから……」
「それは、エレーナが心配だから」
まあ、そういうことだとは思ってるけど。この過保護め。
なんとなく、守られてばかりで気に入らないので、最後に爆弾を残しておいてやる。
「私は、好きだよ」
「……え?」
「れーくんの、こと」
また、固まった。俺とばっかり関わってきたからか、女の子と絡むのも慣れてなさそうだもんね。
「え、エレーナ……?」
「友達として、ね」
「……からかったでしょ」
じとっと、視線で抗議してくる。れーくんはかわいいな。
ちょっとだけ沸いてきた庇護欲のせいで、また撫でたくなってしまうけど。手を繋いでるせいかやりにくいな。
今回は諦めておく。
「だって、れーくん。過保護すぎるから、好きなのかなって思われても、仕方ないかも?」
「だったら、エレーナは心配になることしないで」
「……普通にしてても、れーくんは心配する、よ?」
「エレーナは危なっかしいから」
「なにそれ」
まあでも、これもある意味好かれてるのかもね。
ああでも、好きだよと言ったあの時。僅かに跳ねた胸の鼓動のことは、考えないようにする。
そうしないと、壊れてしまう気がしたから。
◇◇◇
「れーくん、バイバイ」
「エレーナ、またね」
いつもの挨拶。君は、毎回「またね」って言うけど。俺のバイバイは、いつか本当になってしまうってことをうっすらと気付いていそうで、たまに怖くなる。
自分の部屋に入り、真っ暗な室内でじっと佇む。
なにも見えない、聞こえない。でも、そんな場所が一番落ち着く。
なんか、生きてても許される気がするから。
それに、光のある場所にずっといると。決意が鈍ると困ってしまうから。
ねえ、れーくん。俺は君に結構救われてるんだけどさ。
これ以上生きたいと思わせないように、踏み込んできてほしくはないな。
なんて思って、ベッドに身を投げ出した。暗いことは眠ったら忘れるから。