「スターフェイズさん」
「どうした?」
ある日の午後。ツェッドさんが来てからもう暫く経って、珍しく何も起こらない昼下がりのこと。
「なんか新三番街の方で暴動起こってるみたいすけど、行かなくて良いんすか?」
「大丈夫だ。今回はあいつがいる」
「あいつ?」
「バックだよ。向かったらしい」
ザップさんとスティーブンさんの会話の中で、少し気になる名前が出てきた。バック。この街に来てから時々聞く名前だけれど、実際それが何なのかは未だに知らない。
「うへぇっ…そりゃ行かなくて正解っスね」
「全くだ」
「あの、すいません。そのバックって誰なんすか?」
「僕も…名前以外は知らないので気になります」
反応見る限り余り良い存在ではないんだろうけど、スティーブンさんまで言うなんてよっぽどだとは思う。
「…ああ、君達は知らないんだったか」
「HL警察特殊対策課。通称特課に所属する人間。性別は男。名はバック·O·ジョイマン」
「この街で最もイカれた警官だよ」
今日も今日とて霧が濃い。果てしなく広がる霧はもはや雲のようだ。空がこんなじゃ気分も下がるしやる気も起きない。しかし仕事は仕事。体の状態を確認して気合いを入れる。サングラスをかけ、髪までバチッとキメれば、大体いつも上手くいくのだ。
「俺はバットで行きます」
「私は中華拳法で」
これで準備完了だ。
「行くぞォ!!」
「オラァ!突入突入っ!」
目の前の扉を蹴破り、中へと侵入する。そこでは複数の異形と人間が何処からどう見ても違法な薬物に手を染めていた。
「俺達は尋常じゃねえぞ!○ねええっ!」
「特課だ!逃げろぉっ!」
バットを振りかぶり目の前にいる奴らを片っ端から殴り倒す。薬で体が変異しようが銃弾が体を掠めようが当たらなければ問題ない。
「上手く避けろよお!」
「おいバカてめえっ!?」
「うわあああっ!!」
終いにロケットランチャーをぶち込めば建物ごと崩壊してジ・エンドだ。今日も良い仕事をした。
「麻薬カルテル制圧完了!!」
「テメェ何しやがる!」
「おおリーダー!誰にやられたんスか!?」
クッソ許せねえ!俺が仇を取ってやるぜ!
「お前だよ!」
「チクショウ!ふざけやがって!」
「お前だっつってんだろバカが!」
この人はリーダー。名前は忘れたが俺達、ヘルサレムズ・ロット警察特殊対策課のリーダー。そして全身黒タイツに女児の服を着る変人だ。どうやらさっきの爆発にやられたらしい。
「ったく、さっさと起こしてくれ。足がやられて起きれん。あと救急車手配」
「ウッス。じゃあ俺は帰るんであとお願いします」
「おい待て。せめて犯罪者共どうにかしろ」
「チッ…分かりました。俺に任せろリーダー」
「舌打ちした?なあ舌打ちしたかお前?」
そんなこんなで、犯罪者を署まで送っていく。取り敢えずそこにブチ込んだら…
「おいゴルァ!テメェさっさと吐かんかい!」
「えぇ…」
取り調べの時間だ。さっさと吐かせて軒並みムショ送りにしてやらあ!
「おっ、なんだ吐かねえな。ならカツ丼食うかカツ丼。特上2つで!」
「そんな金は無い」
「クソッ!どうなってやがる!」
いつから警察はこんな貧乏になった!?
「なあ刑事さん。こいつも何かヤッてんじゃねえの?」
「元からだ。こいつに捕まったのが運の尽きだな。同情するぜ」
「えぇ…」
何故か犯人に同情しているダニエル·ロウ警部補を横目に取り調べを続ける。
「さっさと答えろっ!さもないと16親等まで呪うぞテメー!」
「…はあ、取り調べは俺が変わるから、お前もう帰ってろ」
「マジすか!?アザス警部補!失礼します!」
「マジで帰った…」
どうやら今日の勤務はこれで終わりらしい。腹も減ったからいつものカフェへ向かう。ここからは少し遠いが、車で行くよりはマシだ。持論だが、プライベートでの走行は事故に合う確率が高い。ただの迷信とも言う。
「青空の一つでも見たいもんだな」
道行く異形と人。見渡す限りの摩天楼。街を包み込み空さえ覆う白く不可思議な霧。ここは元ニューヨーク。数年前の大崩落という未曽有の大災害を期に色々変わって、今はヘルサレムズ・ロットと呼ばれるようになった。異界と現世が交わり全てがおかしくなって、この街は混沌と災いで溢れている。それでもまだ、世界はギリギリ存続していた。
まあ、そんなところで俺は警察をやっている。所属は特殊対策課。この街の異形とか、ヤバい奴らに対抗するために生まれた部署だ。これも色々あって所属することになったが、それはまた今度。もう目的地に着いてしまった。
「いらっしゃーい」
「おうビビアンちゃん。繁盛してるか?」
「あらオードリー!」
元気に対応してくれる女性の名はビビアン。ここ、ダイアンズダイナーの経営者であり看板娘。この店は父のマスターと娘のビビアンという人の良い親子が経営するカフェ兼ダイナーだ。
「久しぶり。1年ぶりか?」
「一週間経ってないよ」
「そうか?そうかもな」
「はあ…」
「ここはいつも客が居る。良いことだよな」
大崩落からこっち、ここはずっと店を開いてきた。だから多くのファンがこの店にはいるし、閑古鳥が鳴くこともない。そんな店内を見回しながら椅子に座ると、ふと見慣れない少年が目に入った。
「……マジか」
「どうかした?」
「ああいや、それよりそこの、隣の彼は例の?」
「ん?ああ、前に話したっけ?」
写真機を手に持ちながらコーヒーを飲む隣の彼。前にビビアンから聞いた、最近こっちに来たという新聞記者の少年だろう。別になんらおかしいところはない。普通の人間だ。そんな彼のことが俺は無性に気になった。どうしても確かめたいことがあったから。
「誰です?あんた」
「俺?俺はオードリー。君は?」
「レオです。レオナルド·ウォッチ」
「レオね、よろしく」
茶色がかった髪に開いてるのか分からない細目。中背中肉の体型に傷一つない綺麗な肌。特徴的なのはその目と首から下げたオレンジレンズのゴーグルぐらいだろうか。やはり一般的で普通。そのゴーグルも普通に考えればオシャレか何かだと予想がつく。
しかし、その普通さが俺の求めていたものだった。何よりもレオナルド·ウォッチというその名前が、俺の中の推測を確信に変えた。
「ビビアンちゃんから少し聞いてるが、君も凄いね。『ヘルサレムズ・ロットの歩き方』編の記者なんだろ?その為にこんなところまで来るなんて」
「その話さっきしたよ、オードリー」
「あ、そうなの」
「はい…それで、こんなものまで出してもらって」
「ん?そのバーガー、君が頼んだんじゃないの?」
「実はさっきビビアンさんに出してもらって…皿洗いしてけって…」
やはり彼女はお人好しだ。金を持ってない腹を空かせた少年に色々理由を付けて出したのだろう。彼女はこの街には珍しい、人情を忘れていない人間である。この店も例の災害で行方不明になった母親を探す為にやってるのだとか。まあ、本人から聞いたわけでもないので事実かも分からないが。
「フッ、優しいところあるねービビアンちゃん」
「ちげぇって。大体、常連に餓死なんてされちゃ、こっちがたまんねーよ」
「はは…ありがとうございます…」
この会話…そろそろだろうか。
「…うおおぉ!?…コラ待て猿っ!」
会話の途中、何が起こったのか分からないが、レオ少年がいきなり奇声を上げて店を出ていった。いつの間にか写真機も無くなっていたし、どうやら早すぎて見逃したらしい。
「…なんだあいつ?」
「カメラが取られてたところ、見えなかったな」
「音速猿さ…早すぎて人の目じゃ追えねんだから」
ということだそうだ。
このようなファンタジーなことも当たり前のように起こる。何せここはヘルサレムズ・ロットなのだから。そして血界戦線という架空の物語の舞台でもある。
「ごめんビビアンちゃん、お勘定」
「あいよー」
神秘現象、魔導犯罪、その他諸々がはびこるこの街で、レオナルド·ウォッチという少年はある者達と出会う。それこそが超人秘密結社ライブラ。世界の均衡を守るために暗躍する組織であり、その構成員達と共に、レオナルド少年は世界を救うだろう。
「待ちくたびれたぜ…」
思い出すのは三年前のあの日。この愉快な街に囚われ、出られなくなったあの日のこと。人々が消えたと思えば化け物が現れて、世界が当たり前のようにそれを受け入れたあの日。俺は彼を待つことに決めたのだ。
「頑張ってくれよ、少年」
店を出てすぐ、遠くで何かが爆発したような音が聞こえた。銀行強盗か何かだろうか。
爆発音に一瞬足を止めた通行人はすぐに気にせず歩き出す。車のクラクションも往来の喧騒も、全ていつも通りだ。つまりちょっとやそっとの爆発なんて、この街じゃ日常に過ぎない。そしてそんな日常を守るのが、今の俺の仕事だ。
『ベーカー通り!銀行強盗の通報がありました!』
当たったらしい。少年との出会いもうそうだが、今日は何かとツイてる。
もう一度サングラスをかけ、乱れた髪を直す。そうすれば、今日も上手くいくだろう。
「こちら特殊対策課!現場へ向かいます!」
血界戦線の二次創作を見たいので書きました。誰かもっとかいてくれたら、嬉しいなあ。