異世界を知った悪役令嬢、転生者を捕まえます   作:生ハムおじさん

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イセカイテンセイって何ですか?

私は元聖女を家に連れて帰り、彼女を邸内に存在する離れの地下室で軟禁する生活が始まった。

 

ナアマさんが屋敷に匿われていることは、信頼に値する使用人にしか伝えていない。聖女の生存を知るものは少ないほうが都合がいい。

 

連れ帰ってから数日後、そろそろ軟禁生活にも慣れて来てくれたことと思い、聴取を始めようと思い、私の昔からの側仕えで信頼できる侍女ハガルを連れ、彼女を閉じ込めている半地下室に足を運んだ。

 

「ごきげんよう、ナアマさん。もうここでの生活には慣れていただけましたか?」

 

軽い挨拶で語りかけると彼女は、以前より少しふっくらした顔で挨拶を返してきた。

 

「まあね。けどあんた全然会いに来ないじゃん。閉じ込められてごはん食べてるだけじゃ前とあまり変わらないんだけど」

 

ナアマさんの軽薄な回答に、隣のハガルから強い怒気がにじみ出た。十分この環境に慣れた様子。では早速本来の目的に取り掛かるとする。

 

「申し訳ございませんでしたわ。ですが安心してくださいませ。これからは退屈させませんから」

 

「ねえ、あんたに協力するって約束でここに来たけど、あたしは何すればいいのか全く聞いてないんだけど」

 

確かにまだ彼女にはどのようなことをするのか話をしていなかった。ではまずどこから話始めるとしましょうか。しばしかける言葉を思案する。

 

「ではナアマさん、私の目的は、貴女の男性を誘惑する技術を一冊の手引書にまとめることですわ。そのために貴女の知りうる全ての知識をお教えなさい。」

 

そう伝えるとナアマさんは瞬きを繰り返し、私が言ったことをゆっくりと時間をかけて理解しようとしていた。

 

「は、はぁ? 男性を誘惑する技術って、何言って……、あたしそんなこと知らないんだけど……。わざわざそんなことのためにあんた、あたしを牢屋から連れ出して来たの……?」

 

彼女がようやく口を開いてくれたと思えば、そんなことと言われてしまった。これには少し困った。しばしの沈黙が3人しかいない部屋を包む。

 

彼女の口から理論を全て説明させようと考えていたが、変更だ。本人が無意識のうちに行なったことを理論立てて説明させることは不可能だろう。であれば、質疑応答という形で進めるとしよう。彼女の機嫌を損ねないよう、優しく語りかける。

 

「私はナアマ様が類稀なる才を持っている存在だと考え、貴女を牢から連れ出したのですよ?」

 

「そ、そんなこと言われても……、そんな知らないもの知らないし」

 

「私は貴女の特技をきちんと目に見える形で、記録したいのです。貴女は私の質問に答えるだけで衣食住が保証され続ける。悪くないお話だと思うのですがいかがでしょう?」

 

そう伝えるとナアマさんは、顎に手を添えて考える素振りを見せ始めた。説得が効いたのか、熟考の末に回答を出してくれた。

 

「……わかった。あんたの口車に乗ってあげる。けど条件がある。絶対にあたしの命の保証はすること!あと美味しいご飯と娯楽も頂戴。ここ暇潰すもの無さすぎ」

 

「その条件、喜んでお受けいたしますわ。では後ほど用意しておきましょう」

 

まあこの条件程度なら良いでしょう。あとで私と同じレベルの食事を用意する指示をハガルに出しておく。彼女はどのような娯楽を好むのだろうか。

 

「というかなんであんたは、男を誘惑する方法を知るためなんかにあたしを選んだの? そういうスキルって誰かほかにも居るんじゃないの?」

 

……やはり貴女は自身の才を小さく見積もりすぎている。ここは彼女と円滑にやり取りするために、私から見た彼女への率直な意見を、彼女へ伝える。

 

「私、学園で断罪事件を起こす前から貴女には注目していましたの。聖女という肩書を抜きにしてね。」

 

私の返答を聞いてナアマさんが、何を言っているのか?という表情で私を見てきます。

 

「入学して早々に王子と出会い、生徒会への入会を後押して頂き、生徒会の面々とも親睦を深め、やがて恋仲になっていき婚約破棄へ誘導する。鮮やかな手腕でしたわ」

 

ナアマさんはそんなことしていない、心外だと口にしてきましたが、紛れもなくこれは彼女が実際に行ったこと。見事な手管だったと伝えたが、勘に障ったようだ。彼女は何を考えているのかよくわからない。

 

そんな彼女を宥め落ち着いていただいたところで、再び質問を投げかけ始める。

 

「まず初めに、貴女はどのように王子達を魅了したのかを具体的にお教えください」

 

「え〜っと〜ーー」

彼女に回答を一つ残さず記録しようとハガルのペンの音とナアマさんの声だけが部屋に響く。

 

彼女の回答を纏めるとナアマさん曰く、各人の性格を把握し、当人の悩みやコンプレックスを慰めるとのこと。言葉に起こすと簡単そうではあるが、5人の性格を把握し、それぞれ異なる生まれや悩みを的確に慰める言葉を掛けることができるとは、やはり彼女は恐ろしい。

 

各人に行った行為なども聴取することにした。

 

「貴女が魅了した方々にはそれぞれどの様なアプローチを行なったのですか?初めに第一王子からお願いいたします」

 

「王子サマは〜ーー」

 

第一王子エサウ殿下は私に劣等感を抱いていたらしい。彼自身は優秀な成績や周囲からの人望を持つ一方、自身は王家の血を引くだけで周囲から色眼鏡で見られていると信じていた。そして自身より優秀な弟と比較されることに嫌気を覚え、できる事ならば王子の肩書を捨て、自由に生きてみたいという願望を持っていたそうだ。

 

エサウ殿下の話を聞き、心底くだらない男だと思った。そんな悩みを持っているのなら、国王陛下に相談し継承権を放棄でもすればよろしい。決断だけ先延ばし、自分から変化を起こせない凡愚に、私の貴重な人生を浪費させられた。それだけで非常に腹立たしい。同じ気持ちなのかハガルからも憤りが感じ取れた。

 

そんなエサウ殿下にナアマさんは彼の悩みを解きほぐし彼女の助言や交流を経て親密になり、自信を取り戻すことで王子としての覚悟を固めていったそうだ。

 

確かにナアマさんと親密になってからの王子の成長には目を見張るものがあった。だが成長したとしても所詮は凡愚であった。だからアレは今、望み通り廃摘され監禁されているのだ。

 

しかし私には決して見せなかった弱みをなぜ王子はナアマさんには教えたのか?

 

「なぜエサウ殿下は貴女にその悩みを打ち明ける様になったのですか?」

 

「なぜって、ーー」

 

どうやら彼女自身、か弱い存在として彼に近づき学園生活の悩みや困りごとを日頃から相談しており、そんな中で彼の言葉に共感することで、親密度を上げ悩みを打ち明けて貰えるまでになったそう。

 

私には無く、彼女にしかない物が見えてきた様な気がした。

 

他の殿方達も同様の手法で親密になったとの事だった。

 

回答の中でも気になったのが、各人の属性をパターン化し、矮小化(デフォルメ)することでそれぞれの個性に合った好みの女性を演じていたと言うのだ。

 

王子の属性ははコンプレックス持ちのリーダー。騎士団長の子息は爽やか熱血系イケメン(イケメンとは?)。宰相子息は腹黒鬼畜メガネ。飛び級していた天才魔法使いの少年は無邪気な子犬系後輩。以前より問題を起こしていた侯爵子息は一匹狼系アウトロー。ナアマさんと恋仲になった教師はやれやれ系ちょいワルイケオジ。

 

もっとも1人だけ性格分類が役に立たず、親密になれなかった者もいるようだが。

 

彼らの個性を分類することで、最適な誘惑方法を考えることができるという訳だ。

 

この分類を応用すれば、様々な者に間者を送ることができるだろう。この方法を聞き出すことができ、私は大いに満足していた。ハガルも記録が終わり体をほぐしていた。そんな時ナアマさんが不可思議なことを口にしたのだ。

 

「まあ彼らの悩みや性格は前から知ってたというか、前世でゲームを全スチル回収するほどやり込んだから、何を言ったら好感度上がるかバッチリ暗記してたんだけどね」

 

ゲーム?すちる?悩みや性格を知っていた?市井で生まれたナアマさんが貴族の子息と接点がある訳がない。そしてゲームとは盤上遊戯のことか?でもどんな関係が?私が思案していると、さらに彼女の口から言葉が続いた。

 

 

「あーあ、それにしても死んだと思ったら前世でプレイした乙女ゲームの世界に転生できて、『異世界転生最高!』って思ってたのにさ。シナリオ通りに進めてもエンディング通りにならないとか最悪なんだけど。……あ!もしかしてあんたも転生者なんじゃ!」

 

彼女は何を言っているのだろうか。シナリオ?エンディング?つまりは計画通りに物事を進めていたが、最終目的を達成できなかった、という意味だろうか?

 

 

そして最後に意味不明な質問をされた。頭の中が疑問で埋め尽くされながらも私は彼女に問いかけていた。

 

 

「イセカイテンセイってなんですか?」

 

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