異世界を知った悪役令嬢、転生者を捕まえます 作:生ハムおじさん
「イセカイテンセイって何ですか?」
私は気づいたときには彼女に質問していた。
「異世界転生が何って…。すっとぼけてるんじゃないの?......あんた中身日本人?あ、もしかして海外の生まれとか? 」
ニホン人?海外の生まれ?おそらくニホン人とはどこかの民族の事か。聞いたことがない。そして海外の生まれとはどういう事か?
「私は生まれも育ちもこのマグナテラです。他国の血も入っておりません。それに二ホン人とはどこかの少数民族の事ですか?」
「どういう事?本気で言ってる?ほんとに転生者じゃないってコト?前世の記憶とかない?」
“イセカイテンセイ””ゼンセ”とはどういう意味なのだろうか?テンセイ者とはテンセイした者という解釈でいいのだろうか。
「ナアマ様。今おっしゃっていたイセカイテンセイとゼンセという言葉の意味を、お教えいただきたいのですが」
ナアマさんが不思議そうな顔でこちらを見る。
「異世界転生は異世界に転生するって意味で、前世は転生する前の記憶で。そういう宗教の考えあるじゃん」
常識じゃんと溜息をつくナアマさん。何を言っている、この女は。
この時の私は彼女に言いしれぬ恐怖をわずかに抱き始めていた。
何故ならば、彼女の語るテンセイなる考えは、国教のマテル教には無い。一体彼女はどの様な考えを持っている?彼女の経歴を全て調べたが、生まれも育ちも全てこのマグナテラだ。何処でテンセイという考えを身につけたのか?ただの平民育ちの小娘だと考えていたが、もしかすると元から頭のおかしい異常者なのか?
「もう少し具体的にイセカイとテンセイの内容についてお教えいただけますでしょうか」
「異世界はこことは違う世界が別にあるってことで~。え〜っと、転生っていうのは、死んでもまた生まれて新しい人間になることかな、多分。異世界転生は別の世界に生まれるって事。あたしはこことは違う文化も技術も違う世界で生きて、死んじゃった。そのことを覚えてる」
彼女は真実を語っているのだろうか?違う世界とは突拍子もないことを。文化や技術が違う?ならどの程度の技術だったかを聞いてみる。ただの平民生まれの女が思いついただけの狂言を聞けば、妄言を垂れ流しているだけとわかる筈だ。
「ナアマ様、よろしければどの様な生活を送っていたかをお教えいただけませんか?」
口をわずかに歪ませながら私は聞いた。
「どの様なって、う〜ん……そうだ。あんた達に伝わるかわからないけど、前の世界だとスマホっていうのがあって、これくらいの大きさと形で」
ナアマさんは空にスマホなる物の大まかな形と大きさを示した。
「スマホを使えば遠くにいる人と話すことや、文字でやり取りがすぐにできて便利なの。この世界には手紙しかなくて攻略対象とコミュニケーションするのマジで大変だった~。手紙なんて書かない現代人にはマジで苦行」
彼女は懐かしみながら口元を緩めた。
スマホ、聞く限りだとかなり有用そうな道具だ。だが私も一度は遠方の者と速やかに連絡が取れれば便利だと考えたことはある。まだ狂言の可能性は捨てない。平民の妄言かもしれ……
「誰でも持ってて、もはや生活必需品で、ないと生活できないレベルだった」
誰でも持ってる!?そのような万能の道具を!?……まさか平民も持っているとでもいうのか。聞いた限りだとその利便性からかなりの高値だと思われるが、まさか貴族平民が分け隔てなく持っているとすれば、大変なことだ。
いやまだ真実だと決まったわけではない。ほかの事も聞いてみる。
「スマホなる道具のことは分かりましたわ。では他に貴女の暮らしていた世界にはあって、この世界にはないものをお教えいただけませんか」
さあ、次はどのような妄言かしら。
「他だと……移動手段とかかな?こっちだと馬と徒歩と船で移動するけど、前世で馬車とか使ったことない。前世で馬乗れる人なんて会ったことなかったし。それに初めて馬車使ったとき、目的地に着くのおっそいな~って思ってた。乗り心地も最悪だし」
馬車を使わない世界?では移動や物流はどうなっているのか。それに遅いとは。現在では早馬を使えば1日で隣国にたどり着ける。おじい様の時代からすれば、だいぶ早くなったと聞いている。乗り心地はまあ、わからなくはないが。
「馬車がないとは、ではどの様にナアマさんは移動していたのですか?」
「馬車の代わりに車や電車に乗ってた。あとは飛行機っていう空を飛ぶ乗り物で遠い場所にすぐに移動してた。海の向こうの場所に日帰りで行けたりも。マジで技術レベルが昔過ぎて、普通に生きるだけで毎日が不便の連続」
と最後に愚痴をこぼすナアマさん。
空を飛ぶ乗り物で海の向こうの土地に日帰りで移動できる?単純に考えればとんでもない移動距離と速さだ。空を飛ぶ乗り物なんてありえない。それを前世でも平民であったであろうナアマさんが利用できるとは、恐ろしく高度な技術が市井へと浸透していたという事だ。
いよいよ、ただの平民の異常者が考えることのできる範疇を超えて来た。私の様な高位貴族で、魔法も納めている者ですらも、空を移動するという発想はなかった。なぜならば人は空を飛ぶことが出来ないから。魔法で強化して空まで飛び上がる事は出来るだろうが、空に浮き続けることは出来ない。
空を飛ぶことが出来るのは鳥と女神だけ。
そう考えるのが普通だ。
だが彼女は違う。
彼女はこの世界の当たり前を、不便だと断じた。彼女の知っている世界と、かけ離れた技術だけで生活している私たちは一体何なのだろうか?
もしかすると彼女は異常者ではなく、本当に転生者なのかもしれない。