「またそんなの食べてるの?」
小学校の屋上で、いつものようにみんなで集まって昼食を食べている最中、対面に座っていた女の子に、突如としてそんなことを言われた。
その一言のせいで、みんなの視線が僕に集まる。僕の手には賞味期限切れの惣菜パンがあった。
そっと背中に隠し、なんのこと?と言わんばかりに首を傾げる。
彼女は半ば呆れ、半ば労るような視線を僕に向けていた。
「またお弁当作ってこようか?」
「いや、そんな。悪いから」
「でも、そういうのばっかりじゃ健康に悪いし……」
そういうのとは、今僕が食べているコロッケパンのことを指す。確かに健康には悪そうだ。
かく言う彼女のお弁当は色とりどりで、確かリンディさんが作っていたはずだ。
フェイトちゃんだけならまだしも、リンディさんにも迷惑をかけることになるかもしれないと思うと、簡単には頷けない。
何より人に世話を焼かれるのは好きじゃない。そんな理由で、僕はその提案を断わることに決めた。
「でも、フェイトちゃんだって忙しいんでしょ?」
「そうだけど……」
「じゃあ、いいよ」
時空管理局で執務官として働くフェイトちゃんはとても忙しい。
今でさえ度々小学校を休んでいるぐらいなのだから、僕に弁当を作ってる暇なんてないはずで、そんなに忙しいなら、他人のことよりも自分のことを気遣ってほしいのが正直なところだった。
「それに、ほら。僕のことよりなのはちゃんを心配した方がいいんじゃない?」
「え?」
今の今まで、我関せずにいたなのはちゃんに矛先を向ける。
突然自分の名前が出たなのはちゃんは驚いてお弁当から顔を上げた。
「最近、右半身吹っ飛んだばっかりだし、結構不自由してるんじゃないかな?」
「……確かに」
「もう治ったけど……」
フェイトちゃんは頷き、なのはちゃんは否定している。
フェイトちゃんの中ではなのはちゃんよりも僕の言葉の方が信頼度は高い。
だってなのはちゃんっていうのは、無理をしすぎて右半身が吹き飛んだ女の子なんだから、信用しろって言う方が無理だ。
「本人は大丈夫って言うけどさ、実は細かい動きが出来なかったりするかもしれないよ? 目だって本当に全部見えてるのか不思議じゃない? 例え見えてたとしても色とかどうなんだろう? なのはちゃんって辛いことを辛いって言ってくれないし……」
「……うん」
二人でなのはちゃんを見る。
なのはちゃんは右手で箸を閉じたり開いたり、米粒をつまんだりして健全であることを主張している。利き腕じゃないのに凄いね。
ついでに、自分の弁当箱を指さして「ピンク!」とか言っていた。
僕はスマートフォンで検索してブルーグレーを見せる。「青!」と不正解。
首を横に振り、「ブルーグレー」と教えたら「なにそれ!?」と驚いていた。知ってる? 白って二百色あるんだよ?
「やっぱり無理してる気がするね。フェイトちゃん、余裕がある時でいいから、なのはちゃんのこと気にかけてくれる?」
「うん。任せて」
「ありがとう。僕も出来る限りなのはちゃんのこと見ておくね」
使命に燃えた眼差しのフェイトちゃんが、なのはちゃんにお弁当を食べさせようと動き出す。
その間に、僕は背中に隠していたコロッケパンを完食した。賞味期限が二日前であることに気付かれる前にゴミを隠す。
やり切った僕は、スッキリした心持ちで二人を眺めた。
お弁当をあーんされそうになっているなのはちゃんは、健康体であることを頑張って主張するけども、「そう言えば、この前の健康診断で数字悪化してたよね?」と終わったことを蒸し返してみれば、フェイトちゃんの意思はますます固くなり、なのはちゃんは恨みがましい目で僕を見てくる。
最早フェイトちゃんの眼中に僕の姿はなく、見ようによっては百合が咲き誇っているような光景に満足して、僕ははやてちゃんの隣に腰を下ろした。
「どう? 僕の手腕」
「さすがやな」
適当に答えながらモリモリとご飯を食べているはやてちゃん。最近、大人になる魔法を身につけて、そんなに大きくならなかった現実に突き動かされている。たぶん、どんなに頑張って食べても背は大きくならないと思うよ?
「あんた、自分が助かるためになのはを使うのはやめなさいよ」
「なのはちゃんが心配なのは本当だし……」
相変わらず正論で突いてくるアリサちゃん。その横に座っているすずかちゃんは、百合百合しい二人を眺めている。
「なのはだって最近はまともになってきたじゃない」
「うん。趣味もできたしね」
「飛行機でしょ?」
「この前ブルーインパルスを見に行ってきたよ」
女の子で飛行機が好きって珍しいんじゃないかな。僕もロマンは感じるけどね。試しにエンジンの後ろに立ったら吹き飛ばされたし。質量兵器万歳って感じ。
「フェイトちゃんにも、どうせ世話を焼くなら、僕じゃなくてなのはちゃんのお世話を焼いてほしいんだよね」
「知ってるわよ。なのはの困った顔が見たいんでしょ? 歪んだ性癖だこと」
「知らないの? なのはちゃんの困り顔は完全栄養食なんだよ?」
「あんただけよ」
アリサちゃんとの会話を楽しみつつ、みんなの様子を観察する。
丁度、はやてちゃんがお弁当を完食したところだった。若干顔色が悪い気がするのは食べ過ぎたからだと思う。
「食べたね」
「食べ過ぎじゃない?」
「これぐらい食べんと大きくなれへん」
決意が滲んでいるお言葉。
何がこの子を突き動かすのだろうか。
あれかな? 身長よりも胸かな?
太って痩せたら胸が大きくなったって都市伝説を信じてるの?
あれ多分豊胸手術してると思うよ?
「ないものねだりは身を滅ぼすだけだよ?」
「どこ見て言ってるん?」
「胸」
「セクハラや」
「すずかちゃんはともかくはやてちゃんは別に……」
「ええか。仕事上のパートナーとして忠告したる。女の子はいくつであっても女の子なんや。小学生とか関係ないで。不用意な一言が人を傷つけるんや。覚えとき」
「それで、はやてちゃんはどんな一言で傷ついたの?」
「貧乳」
「実際なかったからね」
魔法で三十歳ぐらいに成長したはやてちゃんは、背も胸もなかった。言ってしまえば老けただけで、他にどこが変わったの?って感じ。
あれって術者のイメージで変身してるだけで、実際にそうなるかは未知数らしいけど、でも本人のイメージであれだから、今後自分は成長しないって内心諦めてるんじゃないのかな?
「これも身体が不自由だったんが悪いんや。それさえなければ、今ごろはすずかちゃんにも負けず劣らずのナイスバディだったはずなんや」
「はやてちゃんがおっぱい魔人になっちゃったのは、自分にないものを求めたからなのかな?」
「そうかもしれへん。……なんや。傷ついたわ」
「そこにすずかちゃんのおっぱいがあるよ」
おっぱいに癒しを求めに行くはやてちゃん。
魔人曰く、未だかつてすずかちゃんの胸だけは揉めたことがないらしい。
今日のチャレンジは背後から行った。どこかぼうっとした顔でなのはちゃんとフェイトちゃんを見ていたすずかちゃん。けれどもはやてちゃんが近づいたら、即座に振り向いて警戒してしまった。たぶんはやてちゃんの邪気に気づいたんだと思う。下品な中年親父みたいな気配が滲み出てるからね。
そんなわけで今日もチャレンジに失敗したはやてちゃんは、代わりを求めてフェイトちゃんの胸を揉みに行った。結果は成功。これでまた胸が大きくなるね。
自分の胸は大きく出来ないのに、他人の胸を大きく出来るのは才能だと思うよ。
「さて、今日もいい天気だ」
立ち上がって、うんと伸びをする僕に、アリサちゃんがどこか小馬鹿にした調子で聞いてきた。
「あんた、曇りが一番好きって言ってなかった?」
「そんなこと言ったっけ? でも、みんな違ってみんな良いぐらいには思ってるよ」
肩をすくめるアリサちゃんに微笑みかける。
まだ昼休みは残ってる。小学生らしく、今日は何して遊ぼうかな。
続きは未定