ユーノくんのお肌がスベスベなことにショックを受けた子がいる。
なのはちゃんとはやてちゃんです。
二人はユーノくんのモチスベ肌に加えて、絹のようにしなやかな髪にショックを受けていた。「……男の子なのに」って呟くぐらい。
凄いでしょ? 司書の中にはユーノくんを女装させたいって思ってる子がいるほどだからね。その願いが遠からず叶うことをあの子はまだ知らないけど。
ユーノくんとの格の違いを見せつけられて、本格的にスキンケアに目覚めたなのはちゃん。
化粧水と美容液と乳液の違いをレクチャーして、手本としてなのはちゃんの顔に塗りたくる。
塗っている最中から「潤ってる気がする!」とご満悦だったけど、アリサちゃんたちから見ても明らかにモチモチらしい。それが何を示すかというと、僕の手は神の手って言うわけ。
フェイスパックは持ってきてないから、今度一緒に買いに行こうね。
はやてちゃん……は今さらだからスルーするとして、次はフェイトちゃん。
おいでおいでと手招きしたら、おずおずと近づいてきた。
なのはちゃんにしたのと同じ要領で化粧水から順番に塗っていく。
手のひら全体に液体を馴染ませて、叩くのではなく押すように塗り拡げていく。
感覚としては犬を撫でるのに近いのかな。女の子だからもう少し丁寧にやらないといけないね。髪に液体がつくのは嫌だろうから、そこも慎重にやっていく。
頬をぐにぐに押しているわけだから、たまに変顔みたいになっちゃって思わず笑ってしまうんだけど、フェイトちゃんはそれに目ざとく気付いちゃう。ぷくっと頬を膨らませて抗議してきた。ごめんねと優しく頬を撫でながら謝る。
その赤い瞳を見つめながら乳液を塗っていく。
フェイトちゃんも僕から目を離そうとしなかった。こうしていると、なんだか世界に二人っきりしかいないかのような気分になる。ドキドキするなあ。
「はい。終わったよ」
十分に馴染ませたところで手を離す。
手に残った液体を拭き取る僕の隣で、フェイトちゃんは自分の頬を触って感触を確かめていた。
「どう? 少しは違うでしょ?」
「うん……全然違う」
感心した様子のフェイトちゃんは、鏡の前で自分の顔をつぶさに観察していた。
そのうしろから、なのはちゃんがフェイトちゃんに抱きつき、頬ずりをしてお互いのもち肌を堪能し始めた。
「アリサちゃんとすずかちゃんもどうだい? 今ならこの自称神の手が料金0円で味わえるよ」
「もう自分でやったわよ。次はいの一番に声かけなさいよね」
「私もまた次の機会で」
二人のお断りに頷いてはやてちゃんを見る。
ニコニコと笑顔のはやてちゃんが化粧水3点セットを僕に押し付けてきた。
「俊くんったらいけずやわあ。そない得意やったんなら、もっとはよう言ってほしかったわあ。ずっとやらせてあげたのになあ。奴隷みたいに」
「ごめんね。はやてちゃんのガサガサ肌に触りたくなかったんだ。ほら、僕の手まで荒れたら困るでしょ?」
なんとなく煽ってみたところ、はやてちゃんのコメカミに青筋が浮いた。
「ほんま冗談がうまいわあ。車でもそない冗談で楽しませてくれよったからなあ。俊くんは芸人さんも顔負けの話上手さかい」
「楽しんでくれたなら幸いだね。化粧水についてはマジだけど。でも冗談だと思いたいなら、わざわざ訂正はしないよ」
はやてちゃんの顔から笑みが消えた。危険信号だね。次の瞬間に襲いかかってくるやつ。
「いい加減その減らず口をやめんと絞め殺すで」
「絞まってる絞まってる。もう首が絞まってるよ」
馬乗りで首を絞められている。別に呼吸しなくても一時間ぐらいは生きられるから問題ないけど、でも気分の問題もあるから、可及的速やかにどいてくれたら嬉しいな。
「ごめんね、はやてちゃん。そんなに肌荒れを気にしてたんだね。紙やすりって言ったのは冗談だよ。ただちょっと荒れてるから気にしてほしかっただけなんだ」
「そないはっきり言わんでも分かってるわ。でも仕事が忙しすぎるんよ。肌が荒れることはあっても良くなる要素が一つもあらへん。俊くんかて分かっとるやろ?」
「そうだね。もっと仕事の配分を考えようね。ほら、化粧水塗ってあげる。ついでにマッサージもするからね」
「優しくしてや」
もにゅもにゅと顔のマッサージをしながらオイルを塗り込む。
突然始まった喧嘩は一瞬で終わった。みんなびっくりしてるけど、いつものことなんだよね。
「なのはちゃん、フェイトちゃん。二人にその化粧水をあげるよ。僕には必要ないからね」
「え、いいの?」
「うん。二人のために買ってきたんだ」
二人にそれぞれ化粧水3点セットを進呈する。
これを機にお洒落に目覚めてくれれば嬉しいな。
「眠くなってきたわ……」
「夕飯までまだ時間あるから寝てれば? 起こしてあげる」
「そない言うて、起きたら朝だったなんてオチ嫌やで?」
「折角旅行に来てるのに、そんな無駄になるようなことしないよ」
座布団を並べてはやてちゃんを寝かせる。
あっという間に眠りについたはやてちゃんの頭を一撫でして、四人に静かにするようにお願いする。
「夕飯まで寝かせてあげてくれるかな?」
四人とも頷いてくれた。はやてちゃんを起こさないよう、声を潜めて会話をしてくれている。
申し訳ないね。昨日も仕事だったんだ。疲れが溜まってるみたい。やっぱり、健康診断は半年に一回がベストかな。
◇ ◇ ◇
夕飯は山の幸を堪能した。古き良き和食。日本人としては嬉しい限り。
少し眠ってすっかり元気になったはやてちゃんは、出されたすまし汁を家でも作りたいと、具材について根掘り葉掘り聞いていた。
女将さんも快く答えてくれていたよ。子供ばかりだから警戒心もないだろうしね。
夕飯を食べ終えたあとは自由時間。好きに過ごしていいのだけど、こう言う時間は恋バナと相場が決まっている。
僕はユーノくんと二人の部屋で恋バナに花を咲かせる気満々でいたのだけど、「トランプ持ってきたからみんなでやろうよ」と言うなのはちゃん誘いは断れなかった。
そうして、神経衰弱で僕が三連勝し、ババ抜きで二連勝したところでアリサちゃんがキレた。
「やっぱりどう考えてもイカサマしてるわよこいつ!」
「そんなことはしてないよ」
してないよー。本当にしてないよー。
「神経衰弱は自分の番で全部めくるし、ババ抜きでも取る札取る札全部ペアじゃないの! これでイカサマしてないってどういうことよ!」
「それは僕の天才性が成せる技というか。有り体に言えば僕が天才だからだね」
「ムカつく!」
「落ち着いて、アリサちゃん」
アリサちゃんの暴力をすずかちゃんが抑えてくれる。いつもそんな役割ばかり押し付けて申し訳ないね。
結果的に、僕とやっても面白くないと言うことで、僕は輪から追い出された。
僕を抜いて六人でやることにしたみたい。偶数だからそれでいいと思うよ。
窓際に置かれていた椅子に座って一休み。
一度は完全に盛り下がったババ抜きも、僕がいなくなったことで盛り上がりを見せ始めた。
みんなの楽しむ声を聞きながら、スマートフォンに取り付けてある鏡で自分の顔を眺める。
僕という人間は、天才であるがゆえに考えなければいけないことも多い。こういう時に考えておかないと間に合わないぐらいには。
先々のことについて、色々な角度から考えに没頭している内に随分と時間が経っていたらしい。
すずかちゃんに声をかけられて我に返る。
「俊くん? 大丈夫?」
「……ん? どうかした?」
気がついた時には、すずかちゃんが対面の席に座りながら微笑んでいた。内心でいつの間にそこにいたのかと驚く。けれど、そんな素振りは絶対に見せないように注意した。
「ずっと自分の顔を見てるからどうしたのかと思って。私がここに座ったのにも気づいてなかったよね?」
「そうだね。地球の至宝たる僕の顔に傷でも付いてないかと心配だったんだ。日頃の行いのおかげか、今日も無傷で済んだよ」
「また大きく出たね」
くすくすと笑ってくれるすずかちゃんを見て、僕も微笑む。
「もしかして、鏡に問いかけてるのかなって思っちゃった。『鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?』って」
「白雪姫だね」
残念だけど、己の美しさのために他者を殺せるほどの自己愛は僕にはないかな。
「もし僕が鏡だったら、すずかちゃんって答えるかな」
「フェイトちゃんじゃなくて?」
「確かにフェイトちゃんも綺麗だけど、今はすずかちゃんの方が美しいよ」
「ありがとう」
お互いに相手が本気で言っているわけではないと分かっているから、安心してこういう会話ができる。口説くつもりはないからね。本当さ。
「でも、そうなると私は毒リンゴを食べさせられるのかな。王子様が助けにくるまで眠っちゃうね」
……ああ、映画の方の話ね。
「それは大丈夫だよ」
「どうして?」
「僕が守ってあげるから」
本気で言った。その内心はすずかちゃんにも伝わってたみたいで、綺麗な顔にとびっきりの笑顔を乗せて答えてくれた。
「本当? 嬉しい」
「何かあったらいつでも相談してね」
「俊くんも困ったことがあったら相談に乗るからね」
当たり障りのない会話を終えたところで、アリサちゃんがやってくる。その手にはトランプ。突きつけられて、勝負を挑まれた。
「リベンジよ。神経衰弱の相手をしなさい」
「いいのかい? イカサマされるかもよ」
「トランプに仕掛けがないことは確認したわ。フェイトとなのはがあんたを見張って、ユーノとはやてと協力する。これで万に一つも負けはないはず」
なりふり構わないにも程がないかい?
「ちょっと僕が不利すぎるね。すずかちゃんは僕の味方にしていいのかな?」
「……好きにしなさいよ」
物凄く渋々と言った感じで応じてくれた。本当はすずかちゃんも仲間に引き込みたかったんだね。
「それなら応じよう。下々の我が儘に付き合うのも上に立つ者の役割だ」
「何様よ。コテンパンにしてやるんだからね」
「王子様さ」
僕は立ち上がり、すずかちゃんに手を差し出してエスコートを申し出る。
「御手を。白雪姫」
にっこりと笑ったすずかちゃんが僕の手を掴む。
「俊くんが王子様なのは凄く似合ってるよ」
「そうかな? 僕としては大王様を目指してるんだけど」
「俊くんならなれそう。連れて行ってくれる?」
「もちろん。どこまででも」
僕たちのやりとりを見ていたアリサちゃんが「けっ」と唾を吐きそうな顔をして、足取り荒く皆のもとに向かう。
僕はすずかちゃんをエスコートしながら、ゆっくりとそのあとを追った。
なのはちゃんとフェイトちゃんに左右を挟まれながら、すずかちゃんと並んで座る。
対面にはアリサちゃんを真ん中にはやてちゃんとユーノくんが座っていた。
……さて。
じゃんけんで先番を勝ち取って、1ターン目で全部のペアを揃えてあげよう。
僕が大王様だってことをみんなに知らしめないといけないからね。
みんなの悔しがる姿を想像するだけで心躍るなあ。