前話の補足ですが、主人公とユーノくんが恋バナで盛りあがっていたのと同じように、女子部屋も盛りあがっていました。
「俊ってフェイトのこと好きなんじゃない?」
「俊ってすずかのこと好きなんじゃない?」
「俊って(ある意味)なのはのこと大好きだよね……」
と言う内容です。
上記の内容を頭に入れて前話を読み直すと別の味がしてくるかもしれません。
温泉旅行から少しだけ経って、とあるお金持ちの誕生日パーティに出席することになった。
本当は妹が出席するはずだったんだけど、行きたくないと駄々をこねて僕にお鉢が回ってきた。
僕も行きたくないって駄々をこねようかと思ったけど、未来を見たらアリサちゃんも出席することになっていたから、二つ返事で快諾した。
パーティに相応しい格好に着替えて、主役の子が一番喜ぶプレゼントを用意して出陣。気分は合戦に臨む戦国武将かな。
今日の主役は僕より年上で、最近中学生になったばかり。とても有名な学校に入学できたみたいで、孫のことが可愛くて仕方ないおじいちゃんが自慢も兼ねてパーティを開いたみたいだね。
プレゼントは両親が色々候補を挙げていたけど、センスがなかったから薔薇の花束を用意した。
僕のチョイスに間違いがあるわけないし、これを送ったところでこの先困ることもない。喜んでくれるならあげちゃう。細かいことは気にしないよ。
車を走らせて向かった先は都心のホテル。ワンフロア丸々貸切だ。普通こう言うのは自宅に招いてやるものだけど、わざわざホテルを借りた辺りに溺愛っぷりが伺える。
この辺りは夜景が綺麗だから、思い出に残るものにしたかったんじゃないかな。
エレベーターを降りてすぐの会場にはでかでかと誕生日おめでとうって書かれていた。ここまで来るといっそ恥ずかしいまである。僕はなのはちゃんの家でやるパーティの方が好きだよ。
中は立食形式でのパーティになっていて、一番目立つ格好の主役が真ん中あたりで挨拶回りに励んでいた。隣には孫バカおじいちゃんが付き添っている。
薔薇の花束を抱えて順番待ちをするつもりもなくて、着いて早々に挨拶に行く。ハッピーバスデイの一言を添えて、両腕一杯の花束を手渡した。
最初ポカンと呆けた彼女は、次の瞬間には感激してくれた。泣きそうな顔でありがとうって素敵な笑顔を浮かべてくれてね。興が乗ったから手の甲にキスまでしちゃったよ。……まだ大丈夫。もう一押ししたら危ないけどここまでならセーフ。
付き添いのおじいちゃんが口を挟んで空気を壊してくれるからね。ありがとう、おじいちゃん。
一通り話を終えたところで退散する。
主役には主役の役割があって、僕一人に時間をかけるわけにはいかないんだ。挨拶待ちの順番もたくさんいるからね。
そうして副菜を食べ終えた僕は、本日のメインであるアリサちゃんの元へ向かう。
「薔薇って……薔薇の花束って……」
先に来ていたアリサちゃんはとっくに挨拶を済ませて会場の隅で慎ましやかにしていた。
僕の行動を目撃したらしく、頭を抱えてブツブツ呟いていた。
「やあ。こんにちは。今日のアリサちゃんはいつも以上に可愛くて素敵だね」
黒色で統一されたドレスを着ているアリサちゃんを褒める。
ホストを目立たせるためにわざとそう言う色にしたんだと思う。でもアリサちゃんの美貌はそんなものじゃ隠しきれないぐらい輝いてるからね。その眩しさときたらなのはちゃんにも負けないぐらいだ。そろそろ僕も光合成の準備をしなくちゃいけない。
「知らずにやってるなら救いようがないし、分かっててやってるなら地獄に落ちるべきね」
「知らなかった? 僕は細かいことは気にしない性格なんだ。一番喜ぶものをあげただけさ」
今日の主役がもしあの子の弟だったのなら、僕は二百万円のパソコンを担いでいたよ。
「じゃあ地獄行きね。冥土の土産に蜘蛛の糸ぐらいなら恵んであげるわよ?」
「アリサちゃんの糸なら百人力だね。地獄の住人を全部連れて天国まで這い上がれるよ」
僕の冗談にアリサちゃんは鼻で笑う。こう言う冷たい感じが好きなんだよね。
「で? いつもチョロチョロしてる生意気な妹はどうしたの? 風邪でもひいた?」
「いや、元気だよ。元気に我が儘を言い出したから、その代理で来たんだ」
「……甘やかしすぎじゃない?」
「僕は甘やかしてないよ。なんなら優しくもしてないからね」
僕の両親がアリサちゃんのご両親に挨拶をした。僕も一言「こんにちは」と挨拶をする。
アリサちゃんが内緒話をするように、コソコソと話しかけてきた。
「あの子も大変ね。あんたみたいなのがお兄ちゃんなんて」
「そうだね。人類史上最高の天才である僕と常に比べられる人生なんて、前世でどんな業を積んだんだろう。両親が甘やかすのも分かるよ。可哀想に。生まれる家を間違えてる」
正直妹のことはどうでもいいのだけど、アリサちゃんは面倒見が良いので気にしてくれている。
顔を合わせるたびに無礼千万なはずなんだけどね。年下の子に対しては、どうしても世話を焼きたくなっちゃうのかな?
アリサちゃんと話しながら時間を潰す。今日の話はフェイトちゃんとすずかちゃんの話題が多め。フェイトちゃんが可愛くて、すずかちゃんも可愛いって話。
二人が可愛いのはとっくに知ってるけどね。もしかして、アリサちゃんってば最近気づいたの? 人を見る目がないんじゃない? そんなんじゃ僕のライバルは名乗れないよ?
「あの二人がとても素晴らしいのは周知の事実だけど、アリサちゃんだって負けず劣らず可愛いよ。特に今日のアリサちゃんは言葉にするのが難しいぐらい素敵だ。自己主張をなるべく抑えてるところに普段とのギャップを感じるね。存在自体が輝きを放っているのに、他者を慮る奥ゆかしさ。自分より主役を際立たせようとする心遣い。もう抱きしめたいぐらいさ」
「それ以上近づいたら殴るわよ」
僕たちの会話が盛り上がるのと同じように、大人たちの会話も弾んでいた。漏れ聞こえてくる内容は互いの近況についてだった。
僕の親なんて言うのは野心と下心ばかりの俗物なんだけど、曲がりなりにも大富豪と呼ばれる領域にもなれば、外面を取り繕うのはお手の物だった。
知ってるかな? 僕の両親は成金だ。大人になってからお金持ちの世界に飛び込んだものだから、この世界に馴染むのにすごく苦労した。
成金というのは偏見で見られることが多くてね。特に古くからのお金持ちのコミュニティにとっては陰口の対象になる。
それを嫌った両親が求めたのは成金からの脱却。つまりは名声。
僕という出来の良すぎる息子をどこかの名家と結婚させれば、最早成金と馬鹿にされることもないと踏んだわけ。まあ、間違ってはいないと思うよ。
その最有力候補がアリサちゃん。僕がアリサちゃんと同じ学校に通っているのもそれが理由だね。
アリサちゃんのご両親がその企みに気づいているのかは知らない。
気づいていようがいまいが、アリサちゃんは同世代で一二を争う才女だ。安売りなんかしないだろうし、アリサちゃん自身がとても強い女の子だから、僕の両親ぐらい返り討ちにしてくれると信じてる。
だから僕は気兼ねなくアリサちゃんと友達関係でいられるんだ。
今回のパーティは未成年が多かったみたいで、あまり長引くのもよろしくないと、ほどほどで切り上げられた。
去り際にホストが一人一人見送ってくれる。僕も少し話した。
花束は大事にしてくれるらしい。「枯れたらまた新しいのをあげるね」と言ったら喜んでくれた。もちろんリップサービス。
外に出たらアリサちゃんをお見送り。
しばらく会えないから、挨拶を兼ねてね。
「それじゃあ、僕とはやてちゃんは明日からしばらく居ないから、なのはちゃんのこと頼んだよ」
「どの目線で言ってんのよ」
ぶっきら棒な返事を残して車に乗った彼女に手を振る。
すぐに出発するだろうと思っていたんだけど、直前で心変わりしたらしく、窓を開いて顔を見せてくれた。
「いつまでいないの?」
「今回は遠くまで行くからね。クリスマスまでには帰ってきたいけど、どうなるかな」
「そ」
アリサちゃんは仏頂面だ。
はやてちゃんがクリスマスパーティを欠席するかもしれないのが気に食わないのかな?
「僕と会えなくて寂しい?」
「それは死ぬほど嬉しいわ」
「冗談きついなあ」
「マジよ」
特に別れの挨拶もなく、車は発進する。
車のテールランプが見えなくなるまで見送って、僕も帰路につく。
帰りの車内で、妹にお土産を買っていこうと話している両親の会話を聞きながら、鏡で自分の顔を見て物思いにふける。
……やっぱり、クリスマスまでに帰ってくるのは難しいかな。