航空祭と言うものの存在をなのはちゃんから聞いて初めて知った。
なのはちゃん曰く、自衛隊基地などで開催される催しで、普段立ち入ることが出来ない基地の中に入り、航空機を見て回ることができるらしい。
航空ショーも行われていて、ブルーインパルスはこういうところで行われるんだとか。
飛行機好きのなのはちゃんはこれに興味津々で、県内の基地で航空祭が開催されることもあって、絶対に行くと前々から宣言していた。
とは言え、なのはちゃんはまだ小学生。世界の危機を救ったことがあるとは言え、子供であることに間違いない。だから一人では行かせられないという話。
基地までJRとバスを乗り継いで結構時間がかかるみたい。普通の両親なら心配するのは当然で、誰かしら着いて行かないといけないのに、みんな予定があって行けない。それならばと僕が名乗りを上げた。
はやてちゃんはお仕事。すずかちゃんとアリサちゃんは興味がない。フェイトちゃんは多分お仕事がありそうで、でも行けたら行きたい。
お友達が全滅したところで、男のロマンに理解のある僕の出番だったわけさ。
調べてみたらバスだけでも一時間ぐらいかかるみたいだから、なのはちゃん一人だとやっぱり心配だしね。
あと、「魔法使いなんだから心配も何もないだろ」とか「飛んでいけば?」なんて簡単に言っちゃダメだよ? 身近に執務官の目があるからね。魔法の私的使用は厳禁さ。いざとなれば僕がなのはちゃんを抱えて走ってもいいけど、最後の手段だからね。
そんなわけで、なのはちゃんとお出かけすることになったのさ。
「デートかな?」
「違うよ?」
なんて会話を交わしたりしながらね。
◇ ◇ ◇
「凄い混んでる……」
「すごいねえ」
JRから下りて、バス停に向かった僕たちを待っていたのは長蛇の列だった。
JRに乗っている時点で凄く混んでいたのに、バス停はそれ以上の混雑。
どうしてこんなに混んでいるんだろうと思ったら、ブルーインパルスがあるからみたい。みんな航空機の曲技飛行が見たいんだね。
これは困ったなあ。今から並んでもバス一本乗りそびれるかもしれない。ブルーインパルスには間に合うと思うけど、でもそれまでに色々見て回る予定だったから、出鼻をくじかれた形。
仕方ないことなのだけど、折角朝早くからここまで来たのに、こういうので冷や水差されたくはないよね。
「よし、なのはちゃん。飛ぼうか」
「え」
決断は迅速に。
幸いなことに、僕たちは空を飛べる。
バスに乗れない人がタクシーに乗るのと同じことで、飛んでしまえば問題はないわけだ。頭いいでしょ?
「こんなことで魔法を使うのはダメだよ……それにフェイトちゃんにばれたら……」
「何を言ってるんだい、なのはちゃん。これは神が僕たちに与えた特権だよ?」
大いなる力には、大いなる特権が与えられる。
僕たちは魔法使いだ。天才には天才故の責務がのしかかる。ならば特権だってあっていい。みんながバスにぎゅうぎゅう詰めになっているのを尻目に、大空を優雅に駆けたっていいじゃないか。
「周りを見てごらん? ここにフェイトちゃんはいるかい?」
「……いない」
「考えてごらん? 僕らは共犯者だ。僕がフェイトちゃんにこのことを言いつけると思うかい?」
「思う」
そうだね。多分機会があれば裏切るね。
「なのはちゃん、基地はあの方向だ。全力で飛べば10分で着く。バスに乗れば一時間だ。この混みようなら、もしかしたらもっとかかるかもしれない。この差は大きいよ」
「うん……」
悩むなのはちゃん。基本的に良い子ちゃんだからね。悪いことには慣れてない。でも大丈夫。僕が慣れさせる。それが将来君の役に立つって知ってるのさ。
「行こう。僕らは一蓮托生だ。決して裏切らず、置いて行かず、二人で共に」
格好つけて手を差し出してみる。
なのはちゃんはやっぱり迷っていたけど、最後はその手を取ってくれた。
なのはちゃんの手を握ってエスコートする。
周りに見えないように姿を隠して空を飛んだ。空を飛ぶのはいつだって気分がいい。自由だって気がしてくる。何をしても許されるんだって気になってくる。僕たちは無敵だ! 誰にも止められないぞぅ!
◇ ◇ ◇
航空祭。
基地の中には航空機や車両が展示されていて、ミサイルまであった。
展示されていたのはちょっと古めの戦闘機だったけど、すぐ近くまで行って見ることが出来たのは良かったね。なのはちゃんはコックピットに座ってたよ。凄く嬉しそうだった。
僕はエンジンの前で仁王立ちしているところを写してもらったよ。いつか、こいつのジェット噴射に勝つのが僕の夢なんだ。
売店にはタオルやキーホルダー、模型とかがあったよ。
やけに精巧な模型を前になのはちゃんが悩んでたけど、結局諦めてた。流石に二万円は手が出なかったみたい。今度の誕生日プレゼントにしようかな。
そんな感じで航空祭を堪能して、午後に予定されているブルーインパルスを前に昼食にしようと歩いていたところ、向こうの方に知っている人影を見つけたんだ。
「……フェイトちゃん?」
「フェイトちゃんだねえ」
金色の髪を風になびかせて、赤い瞳で何かを探している様子のフェイトちゃんがそこにいた。
まだまだ子供なのに、その美貌は周囲の目を惹いてたね。はやてちゃんの涙ぐましい努力の成果でおっぱいも実りつつある。将来は美人さんになるのは間違いないよ。
「……」
「……」
僕となのはちゃんは二人で顔を見合わせた。
誘った時、フェイトちゃんは仕事がありそうだって言ってたけど、なくなったんだろう。だからここに来て、多分僕たちを探している。予想はつく。なら僕たちがやることは一つだね。
視線の先でフェイトちゃんが僕たちを見つけた。
途端に顔が輝いた。知らない場所に一人は心細かったんだね。分かるよその気持ち。
だから目が合った瞬間に逃げ出した僕たちの気持ちも分かってほしいな。
「
「なんだいなんだいなのはちゃん!!」
逃げ出した僕たちは横並びに走りながら、お互いの名前を呼んで状況を整理していく。
「フェイトちゃんがいるよ!? どうして!? お仕事は!?」
「仕事がなくなったんだろうね。もしくはなのはちゃんを追いかけてきたんだ。場合によってはそれが仕事かもしれない」
「私追いかけられるようなことしたかなあ!?」
「さっき大空を駆け抜けたね」
「あれは俊くんがそそのかしたから!」
「なのはちゃんだって反対しなかったよね?」
「俊くんが悪いよ!」
「人のせいにするのはやめてほしいな。なのはちゃんも悪いよ」
二人で罪を被せ合う。
ちらりと背後を伺うと、不思議そうな顔で僕たちを追いかけているフェイトちゃんがいた。
まだセーフだ。僕たちが罪を犯したことは気取られていない。今ならまだ隠し通せる。
「いいかい、なのはちゃん。見つかった以上、逃げるのは悪手だ。ここは立ち止まってフェイトちゃんと合流するんだ。そして隠し通そう。これが最善だ」
「逃げ出したことをどう説明するの?」
「うんち漏らしそうだったからって説明しよう」
「俊くんが漏らしそうってことにしてね」
合意は取れた。やはり、これ以上逃げるのは馬鹿のすることらしい。
「3、2、1で止まるよ? いいね?」
「うん」
「3……2……1、止まって!」
最後の一歩は強く、広く、深かった。
全く止まる気のなかった僕は走り幅跳びのように大股を開いて跳び、そのまま地面を蹴って駆け抜ける。
横を見ればなのはちゃんがいた。同じように走り続けている。
「……あれ? なのはちゃん、さっきぶりだね? どうしたの?」
「私たちは一蓮托生なの」
「そうだったね。忘れてたよ」
さて。
「僕の考えでは、フェイトちゃんはなのはちゃんを追いかけてると思うんだよね」
「ううん。きっと俊くんのことを追いかけてるよ」
「いいや、なのはちゃんだよ」
「俊くんだよ」
「譲らないね。じゃあこうしようか。僕は左に行くから、なのはちゃんは右に行って。それで追いかけられた方が原因だからね」
「いいよ」
「じゃあ行こう」
言い切った瞬間、僕は左に直角に曲がった。
トムソンガゼル並みの急旋回は僕の身体能力がなせる技だった。
大半の人間は僕について来れない。問題なのは、すぐ後ろをなのはちゃんがついて来ていると言うことだ。
「……あれ? なのはちゃん? どうしたの? 君の進む道は反対だよ?」
「うん。でも、やっぱり私たちは一蓮托生だと思うの」
気付かれたか。
フェイトちゃんなら、多分なのはちゃんを追いかけるだろうなと言う僕の読みはおそらく正しい。それになのはちゃんも気づいたのだろう。
そっとフェイトちゃんの様子を伺うと、不思議そうな顔に少しの悲しみがブレンドされていた。意味も分からないまま友達に逃げられているのだからそう言う顔にもなる。
仕方ない。これ以上逃走劇を続ければフェイトちゃんを無駄に悲しませてしまう。ここは早々に決着をつけさせてもらおう。
「お遊びはここまでだ、なのはちゃん」
「え?」
「僕の本気を見せてあげよう」
僕の本気はチーターを置き去りにする。人間離れした脚力でもって僕は駆けた。
素のなのはちゃんでは決して追いつけない高み。僕が天才と言われる所以だ。
ズダダダッと走る僕。
車よりも速く、チーターよりも速く、JRよりも速く。
そんな速度で走る僕の真横に、全身に魔力を纏ったなのはちゃんが並んでいた。
「……なのはちゃん?」
「逃がさない……!!」
「趣旨がズレてきてるよ、なのはちゃん」
魔法まで使うのは反則だよ?
ほら、見て。フェイトちゃんの顔。執務官の顔で僕たちを追いかけてきてる。管理外世界での魔法の私的使用は犯罪だって知ってるよね?
僕は考えた。
本気になったフェイトちゃんは速い。僕でさえ捕まるかもしれない。
そこで閃いた。
なのはちゃんは魔法を使った。これは許されないことだ。フェイトちゃんもそれを怒ってる。つまり、怒られるべきはなのはちゃんであって僕じゃない。
僕は瞬時に決断する。速度を維持したまま、その場で180°Uターン。なのはちゃんをその場に残し、フェイトちゃんの元へ直行する。
なのはちゃんは僕の動きについて来れなかった。逃げるために前に向いていた意識で僕に追いつけるわけがない。
それでもなお、なのはちゃんは踏ん張った。その場でブレーキをかけ、土煙をあげながら止まろうとしている。漂ってきた焦げ臭さが鼻についた。ブレーキの摩擦で靴の底が焼け焦げているらしい。凄いよなのはちゃん! これでその靴はもう駄目だね!
「フェイトちゃん!」
「……っ!?」
フェイトちゃんが驚いた顔をしている。
僕を捕まえるか迷っていた。交差は一瞬。その一瞬で僕は言うべきことを言った。
「なのはちゃんが魔法を使ってるんだ! 正気を失ってるみたい! 助けてあげて!」
フェイトちゃんの顔が使命感に燃えた。
友のご乱心を知り、その心は熱く燃え上がっている。
「――任せて」
格好いい一言と共にフェイトちゃんは過ぎ去っていく。
ブレーキをかけていたなのはちゃんと、更に速度を上げたフェイトちゃんでは勝負にならなかった。
フェイトちゃんがなのはちゃんに飛び掛かる。
なのはちゃんに出来ることはない。「裏切りものぉ!!」と言う絶叫。「にょわぁ!!」と言う悲鳴。制圧されたなのはちゃんの苦しむ姿。
完全栄養食いただきました。