「こんなところで魔法使ったらダメだよ」
「ごめんなさい……」
フェイトちゃんに現行犯逮捕されたなのはちゃんは、そのまますぐ近くの椅子まで連行されて、管理外世界における魔法の私的使用について懇々と説かれていた。
大真面目に説教をするフェイトちゃんと、それを受けてシクシクと泣きそうな顔のなのはちゃん。泣きそうというかちょっと泣いてるかな。泣き顔も可愛いね。
手錠まではかけるつもりもないらしく、あくまでも注意と言う形でおさめるみたい。友達に執務官がいるといざという時はコネで片づけてくれるから便利だよね。まあ、僕ぐらいになると捕まる様なドジは踏まないけど。
「ダメだよ、なのはちゃん。こんなところで魔法を使ったら。みんな見てるんだからね」
「………………うん」
「僕が注意を惹かないように細工したから騒ぎになってないけど、普通なら大騒ぎだからね。金輪際しちゃダメだよ? わかった?」
「わかったの……!!」
わお。なのはちゃんってば、拳を握りすぎてぷるぷる震えてる……。ダメだよそんなあからさまなことしちゃ。フェイトちゃんに気づかれるよ? ほら、スマイルスマイル。
僕となのはちゃんがにっこりと笑い合ってると、フェイトちゃんが僕たちの顔を交互に見ていた。雰囲気の悪さに気づいたのかもしれない。いや、言わせてもらうと、僕となのはちゃんはそんなに仲悪くないからね。勘違いしちゃダメだよ?
「フェイトちゃんもお休みのところごめんね。おかげで助かったよ」
「ううん。これが仕事だから」
「……僕がきちんとなのはちゃんを見てなかったばっかりに、休みの日に仕事させちゃって……ほら、なのはちゃんももう一回謝って」
「ごめんねフェイトちゃん……!!」
うん。謝れて偉い偉い。ところで、フェイトちゃんに気づかれないようにお腹を抓るのはやめてくれないかな。足も踏んでるよ? 痛覚遮断すればいいのかな?
「ところでフェイトちゃんお昼ご飯食べた?」
「まだだけど……」
「じゃあ一緒に食べようよ。向こうにイートインスペースがあるから。迷惑をかけたお詫びに奢るからさ」
「俊くん、私にも奢ってくれるよね?」
「いいよ」
それでようやく許されたみたい。踏んでいた足をどけてくれた。
なのはちゃんと二人であっちあっちとフェイトちゃんを連れて行こうとしたら、「お昼ご飯の前に聞きたいんだけど……」とどこか疑わし気に尋ねてくる。
「どうして二人は逃げたの?」
一瞬、僕となのはちゃんは真顔になった。
即座に笑顔を作り直して、聞き返す。
「え? なんて?」
「どうして二人は逃げたのかなって。そもそも、なのはが魔法を使ったのは、私から逃げるためだよね? 私の顔を見た途端に逃げ出したように見えたけど……どうして?」
「いや、うんちしたくて」
「……そうなんだ。トイレは向こうだけど、行く?」
「うん。ちょっと行ってくるね」
踵を返した僕の腕をなのはちゃんが掴む。その顔は必死だった。
「放してくれるかな。僕はトイレに行くんだ」
「俊くんが行くなら私も行こうかな。ずっと我慢してたから」
「そうなんだ。女子トイレは凄く混んでるみたいだから、早く並んだ方がいいよ」
「こういう時、男の子が羨ましくなるの」
「女子トイレの個数は増やした方がいいかもしれないね」
二人で手を取り合いながらトイレに向かおうとして、フェイトちゃんに手首を握られた。同様になのはちゃんも握られている。
二人で振り返る。綺麗な笑顔のフェイトちゃんが僕たちを見ていた。
「どうして、逃げたの?」
「……」
「……」
目の笑っていない威圧感のある笑み。
フェイトちゃんもこういう顔が出来るんだね。僕ちょっと驚いちゃった。執務官には必須スキルなのかな。
僕はなのはちゃんの肩をぽんと叩いてトイレに向かおうとする。
なのはちゃんは握る手を放してくれず、僕をこの場に留めようと余計に握り締めてきた。
「どこに行くの? 俊くん? フェイトちゃんが聞いてるよ?」
「なのはちゃんにお任せするよ。僕はトイレでうんちしてくるね」
「嘘つき! 俊くんはうんちなんてしたくないでしょ!? フェイトちゃん! 俊くんが嘘ついてるよ! 逃げようとしてる!」
「なんだい? なのはちゃんは僕の心が読めるのかい? 僕は嘘なんかついてない! 僕は今うんちがしたいんだ! 肛門が限界なんだ!」
なのはちゃんと叫び合う。
我ながら恥ずかしい会話を交わしているけど、周囲からの視線と聞き耳についてはそのままにしておいた。だって、あとでこの会話を思い出して恥ずかしがるなのはちゃんの顔が予知できたから。
「裏切らないって、裏切らないって俊くん言った!!」
「僕は裏切らないよ。でも肛門が僕を裏切りそうなんだ。ごめんね、なのはちゃん」
「肛門と私どっちが大切なの!?」
「肛門」
僕たちの会話を聞いて、さしものフェイトちゃんも苦笑い。周りの人たちも微笑んでいる。暖かく見守っててほしいな。
「今フェイトちゃんと二人っきりになったら全部白状しちゃうよ!? 俊くんが守って!!」
「力及ばず、君を守れなかったことを残念に思う」
「裏切者!!」
「うん。ぶっちゃけ僕は魔法使ってないから関係ないんだよね」
「ずるい! ずるいよ俊くんは!! 魔法なしで空飛べるのはおかしいよ!!」
「天は僕に百物を与えたんだ。なのはちゃんに出来て僕に出来ないことは何一つないのさ」
「ナルシスト!!」
うんうん。なのはちゃんとのこういう会話も楽しいね。
……さて、フェイトちゃんの顔から笑みが消えてるね。なのはちゃんが語るに落ちたからね。しようがないね。
「それじゃ、僕はこれで!」
「あ!? え!? 待って!? どうして!? 今掴んでたのに!?」
「あとで会おう!」
ビシッと腕を上げてトイレに走る。フェイトちゃんがなのはちゃんへの詰問を開始していた。いついかなる時も仕事熱心なのは感心するね。たまには休んでほしいよ。今度みんなで温泉でも行こうか。
◇ ◇ ◇
用を済ませてトイレから出てみると、出てすぐのところにぷんぷん顔のフェイトちゃんとシナシナに
「ごめんね。待たせちゃった?」
「うん。待った」
「そっか。ごめんね」
話しながらフェイトちゃんの元へ歩み寄ると、周囲からの視線を感じた。二人とも可愛いから目立つよね。ここにいる間中ずっとこの視線を浴びてたんじゃないかな。本人たちにその意識が薄いのが怖いところだけど。
「じゃあお昼にしようか」
「その前にお話が先かな」
「食べながらでもいいんじゃない?」
「ダメ。今するから」
おほんと咳ばらいを一つ。
可愛い顔のフェイトちゃんが、可愛い声で説教を始めた。
「俊。なのはに魔法を使うように唆したって本当?」
「うん。本当」
「どうして?」
「バスに乗るのが面倒でね」
「ダメだよ、そんなことで魔法を使っちゃ。ここは管理外世界なんだから――」
魔法技術の見つかっていない世界で安易に魔法を使う怖さを教えてくれるフェイトちゃん。
二度とこんなことはさせないと意気込んで語るフェイトちゃんは可愛いなあ。なんだか守ってあげたくなる可愛さだよね。薄幸美人と言うか、儚い感じと言うか。外見はそんな感じなのに意志の強さはビンビンにあるからね。このギャップがたまらないっていうのは僕もよくわかる。意志の強さで言えばなのはちゃんに軍配が上がるかもしれないけど、でも勝ち負けの問題じゃなくて、可愛さで言えばなのはちゃんも可愛いんだけど、それとは別種の可愛さがあるよね。こんなに可愛いのに生涯にわたって男の子の影が見えないのは人類の損失だと思うよ。今のところ一番仲の良い男友達がユーノ君だからね。クロノ君は義兄になっちゃったしエイミイちゃんと結婚しちゃうからそう言う未来はないし。それでなくてもプロジェクトFATEのことを気にしてるみたいで、そんなこと全然気にしなくていいのに、それを伝えられないのは僕の弱さなんだけど、未だに影を背負わせてるのがあの事件の痛ましさを痛感させるよね。
「わかった?」
「わかったよ、フェイトちゃん。僕が全面的に悪かった」
「わかってくれたならよかった……」
直前まで厳しい顔をしていたフェイトちゃんの雰囲気が緩む。
「……あの、厳しいことを言っちゃったかもしれないけど……」
「フェイトちゃんが気に病むことはないよ。僕がいけないことをしたんだから、僕が悪いのさ」
ほっとした顔のフェイトちゃんはまだ執務官の仕事に慣れてないみたい。友達に説教するのも精神的に辛いものがあったんだろうね。
そんな心情を理解しているからこそ、フェイトちゃんの言葉は胸に突き刺さったよ。二度と安易な魔法使用はしちゃいけないって思わされたね。
でも、帰りのバスも凄く混むんだよねえ。並ぶ時間によってはフェイトちゃん痴漢されちゃうみたいだし。だから帰りは僕が二人を背負って帰ることに決めたよ。大丈夫。魔法は使わないから。マジカルじゃなくてフィジカルだから何の問題もないね。もし問題があるんだとしたら、終わった後にぷんぷん怒ってもらおうかな。怒った顔も凄く可愛いから、何の問題もないよ。
「じゃあお昼ご飯食べようか。フェイトちゃんは何食べたい?」
「えっと、特に食べたいものはないかな。なのはは?」
「一番高いやつ」
じゃあステーキかな。
うん? あ、大丈夫だよフェイトちゃん。気にせずになんでも頼んでいいよ。僕の実家は太いからね。
でもなのはちゃん。一応言っておくけど、多少は遠慮しないとブルーインパルスと並んで飛ぶつもりだったってフェイトちゃんにばらすからね?