俺の婚約者が破滅予定の悪役貴族でヤバい 作:匿名
気が付いたら白髪金眼のロリに転生していた。
何を言ってるかわからないって? 大丈夫、俺もよくわかんない。
突然目が覚めたら異国情緒溢れるファンタジーな部屋の中だった。
ザ・お貴族様の屋敷という感じでゲームや漫画なんかで目にするアレだ。
鏡の前では美少女ロリが挙動不審な動きをしている。
パンツの中を確認するが、当然男にあるはずのアレがない。
現状の情報量の多さにフリーズしていれば誰かの足音が聞こえる。
「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」
鏡の前で右往左往していれば扉越しに声を掛けられた。
これ、悪役令嬢転生とかそういう感じですか?
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はい、色々お話があって自室に戻って来ました。なんか婚約者がどうたらとか言われてやっと理解できた。
ここ、俺が前世で遊んでたゲームの世界だわ。
『英雄たちの
小規模スタジオが作ったゲームながら最近の流行を取り入れたキャラデザインに、オタクを唸らせる重厚な世界観設定と王道を外さない素晴らしいシナリオとそれに合ったBGM。クチコミのジワ売れから配信者が取り上げてヒットを飛ばした。
世界観としてはファンタジー学園もので、各地に魔物が現れるようになった時代。主人公とヒロイン達は世界を揺るがす騒動に巻き込まれ、最終的には邪神を倒してハッピーエンドな話だ。
それで俺がいったいどこの誰かという話だが、ゲーム舞台の王国の四大貴族の血筋の人間だ。
この世界はエンブリオといい、エンブリオの中にあるルクシア王国が主な舞台である。そして、その王国の中には四大貴族というありがちな設定がある。
その四大貴族のひとつのフルーネフェルト家のひとり娘が俺、イヴ・シエラ・フルーネフェルトである。
ゲームなら登場しててもおかしくない立ち位置、なんならヒロインぽいポジションだが未登場だ。家名以外は名前すら聞いたことない。
「どーすっかなぁ」
この世界がこれからどうなるかは、三周は遊んでいたので熟知している。
『英雄たちの
攻略できるヒロインは全部で五人存在するのだがそれは割愛。俺は推しと推し2とハーレムエンドを拝む為に三周した。
現在は原作本編開始のちょうど十年前。干渉しようと思えばし放題だが、これといって関与する気はない。
下手に関与して原作崩壊しても困るし、俺は既にこの世界に生きるひとりに過ぎない。あくまでこの世界の住人のひとりとして生きるだけだ。
本当にこの世界が原作通りなのか、ゲーム通りに進行するのかも分からない。原作知識はあくまで大まかな未来予想図として頼りにする程度に留めるべきだ。
何より俺がすべきことは決まった。
それ即ち、貴族としての地位を利用してグータラな生活をすることである。
前世はクソみたいな親の元で育ちクソみたいに働いて死んだ。ならもう働きたくない、甘やかしてくれる両親の元で一生働かずに生きていくのだ。
「今世は働かずに暮らすぞ!」
その後、俺の決意は一日で砕け散った。
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「ぐえ〜……」
俺は現在、机の上に積まれた大量の装丁本の前で潰れたカエルの様な声を出していた。
「お嬢様、その様なはしたない声を出すのはおやめください。旦那様に叱られますよ」
「はい……」
言われてスっと背筋を正す。
貴族の子女ならだらけた生活ができるんじゃないのか。
毎日狂ったように勉強勉強。受験生の頃並に勉強漬けの毎日を送っている。しかも大量の習い事付きだ。
嫌がると先生達に普通に鞭で引っぱたかれるので勉強せざるを得ない。
DVだ、ドメスティックバイオレンスだ。
この世界、DVの概念どころか基本的な人権すら制定されてないんだよな。
この世界に来てから数週間が経過したが、現状大きな問題は起きてない。
記憶の齟齬が起きないか心配だったが、元のイヴの性格も結構ヤンチャだったようで、最近は授業をちゃんと受けるようになりましたね、と言われた。
現在、俺の身体はイヴ・シエラ・フルーネフェルトのものな訳だが、この身体の元の持ち主。イヴはどこへ消えてしまったんだろうか?
気にはなるが、考えてもわからないので気にしないことにした。わからないことに悩み続けても仕方がない。
それより目下の課題はどうやって誰にも邪魔されないグータラな生活を手に入れるかだ。
この世界は女性当主もいたりするから後継問題は大丈夫だが、男と結婚するのは嫌過ぎる。
貴族に生まれたのはいいんだけどなぁ。世継ぎは勘弁してほしい。
というかそもそも家督を継ぐのは絶対に嫌だ。だって面倒くさいから。
俺はこの世界で可能な限り楽して、可能な限り自堕落な生活を送りたい。
貴族って普通あれじゃないの?
圧政を敷いて税金巻き上げて楽に生活できるんじゃないの?
めちゃくちゃノブリスオブリージュについて説かれている。
「お嬢様、聞いておりますか?」
「聞いておりません」
いってえ!! 暴力反対!
「全く……ここ最近授業に出席してくださるのは喜ばしいですが、なんですかその口調は。いったいどこで覚えてきたのですか? 公の場でその様にふざければ、今度こそ旦那様からお叱りを受けますよ」
「わかってるってばぁ」
中身入れ替わってますとは言えないので、適当に誤魔化す。
使用人は逆らえないみたいな感じじゃなくて普通に鞭で攻撃してくるんだよなあ。
不敬を働いた使用人は比喩じゃなく本当に首を飛ばされるんだけど、我が家の使用人はみんな忠誠心が高いのか、教育の為にちゃんとシバいてくる。
さて、『英雄たちの
ゲーム的に拾う余裕がなかったと言われればそれまでだが、他の四大貴族は登場するのにフルーネフェルトだけ誰も登場しない。
なんなら四大貴族のひとりは後々ラスボス化する悪役キャラ。
残りのふたりはヒロインなので、完全にフルーネフェルトだけ浮いてる形だ。
イヴ……もとい自分の年齢は丁度主人公達と同年代なのでガチでヒロイン感がある。
もしかして、予定されていたDLCの隠しヒロインの可能性もある。
ただ、開発スタジオが小さくて新作に手を付け始めたから追加DLCはないって明言してたんだよなぁ。
陽の光を反射して輝く、光沢のある美しく滑らかな白髪。
月のような美しい白金色に、クリっとした可愛らしい瞳。
スッと通った鼻筋に、造り物とも思える可愛らしい顔立ち。
うーん、これはヒロインの風格。
やっぱこれ隠しヒロインじゃね?
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授業のない休憩時間に裏庭に来た俺は持ってきた魔導書を広げた。
これより隠しヒロイン検証会を始める!
急に頭がおかしくなったわけではなく、真面目な検証である。
この世界にはいわゆる魔法の適正的なのがあるんだが、ヒロインはみんな属性がバラけている。
四大元素で地・水・火・風、さらにプラスアルファで光闇がある。
ゲーム内では四大元素と闇を専門とするヒロインが存在したのに、光をメインで担当するヒロインは登場しなかった。勿論、光属性を主軸とするNPCはいるし、適正以外の魔法が使えないわけじゃない。
ただ、それぞれ得意属性が綺麗にヒロインの間で別れてたのに、光だけ登場しないことは前世でも不思議がられていた。
そこで思いついたのが、自分の魔法を検証して光属性が得意なら、間違いなく隠しヒロインという寸法よ。ヒロインで属性ひとつだけ欠けてるのに、登場しないなんてことある? いや、ないね。
ということで早速魔法を試す、最初は火属性から。
「『火よ、我が手に集え──燃え盛る炎となりて、敵を穿て』」
ボッ、勢いのよい音を立てながら赤い炎が手から吹き出した。
「なんか思ったより火力高いな……もしかして火属性が適正か?」
いや、まだ火属性が適正だと決まったわけじゃない!どんどん行くぞ!
えー、結果が出ました。
全属性使えますこれ。
「えぇ~……?」
強いに越したことはないんだけど、なんか絶妙に期待を裏切られた気分。
中級魔法までなら初手実践のノー勉で行けたので才能は間違いない。
ぶっちゃけ、ゲームで実装されてたら魔法系キャラの中でも結構なチートだと思う。
四大貴族ってことで魔力は同年代の中でも相当高い。実際、出力が凄かった。
後なぁ……
「『月光よ、この身を照らせ──静かなる銀の刃よ、我が手に』」
手元に集約した淡い月の明かり。それが手元で短剣を形成した。
『
ゲームでは基本六属性以外の属性は、特殊なキャラしか使えない。
基本六属性以外を使うのは、
パッケージのメインヒロインにすら与えられてない。
それだけ特殊な力ってことである。
「な~~んで自分が使えるんだよぉ……」
結果:多分隠しヒロイン。
しかも、基本属性全部載せの特殊属性込み。
うお、盛りすぎ。もうちょっと痩せてくれ。
これあれじゃないの? 破棄されたグランドルートヒロインだったりしない?
『英雄たちの
プレイヤー達はみんな次作の伏線だろうと話し合っていたが、スタジオが発表した次作は全く関係ない和風系の作品だった。それで改めて色々と考察されたりもしたが、良くも悪くも考察して楽しもうみたいな作品ではなかったので、あくまで
あ~~~、マジで開発者インタビューとか見ておくんだった。
これで『実は初期構想ではグランドルートのヒロインが~(笑)』とか言ってればすぐにわかったのに。結構遊んだゲームだけどミーハーな自分の癖で、普通に遊んで満足してた。
うーん、魔法の才能が二重丸だったのは良かったけど、謎は深まるばかりだ。
取り敢えず月属性のことは隠しておこう。
バレたら絶対面倒なことになる。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
やべ、バレる。
どうせ授業の続きだろう、さっさと行こう。
「淑女として無礼のない振る舞いをしてくださいね」
ん? 父親に会いに行くだけなのになんか仰々しいな。
言われた通りに当主の部屋へ向かえば、何やら知らない男の子が父親の隣に立っていた。
「来たか」
父親、ヴァルター・ハインツ・フルーネフェルトから声をかけられる。
果たして隣の人物は一体誰だろうか。
特徴的な黒い髪に、鋭さのある銀の瞳が第一印象の少年。
あれ? そういえば昨日婚約者がどうのこうのとか言ってたような。
こっち来てすぐの事だから何も聞いてなかった。
「こうして顔を会わせるのは初めてになるな」
黒い髪、銀の瞳、四大貴族、婚約者。
脳内で欠けていたピースが繋がり、隣の人物の正体に思い至る。
「……初めまして」
夜の暗闇を落とし込んだような漆黒の黒髪。
鋭利な刃を想起させる、見つめられるだけで斬り裂かれそうな銀の眼。
「ラグナ・ヴァン・アーデンベルクと申します」
ラグナ・ヴァン・アーデンベルク。
四大貴族のひとりにして、原作主人公のライバルとして常に立ちはだかり、作中で何度も対決する事になる少年。そして、『英雄たちの
俺の婚約者は、破滅予定の悪役貴族でした。
息抜きの見切りスタートで始めましたが、反響あれば続き書こうかと思います。