物語上不明な点があればおそらく私の説明不足なので、ご連絡下さい。
我々が乗るシーソーの向かい側には、誰も乗っていない。
地球資源の枯渇と言う最悪の危機にして最高の機会を前にして、人類は分岐した。
逃避する者と、そうでない者。前者が我々日露であり、後者が地球の者達であった。地球を捨て去った我々は第二十三惑星と言う新天地にて地球の過去を省みた、全く別の巣を作り始めた。そして多くの繁栄を手にしたが、数百年の時を経て統一された民族と徹底的に管理された政治体制は人種や宗教、文化の違いと言った諍いの火種を踏み躙ってしまう。
皮肉な事に今の首脳は文明の火を絶やすまいと、自主的に地域間の不和を助長している。群馬県と佐賀県が良い例だ。
今回の地球調査だってそうだ。どうせ、あわよくば1つや2つの“事業”でも興して来いと思っているに違いない。我々が向こうの事を忘れているからって、相手が同じとは限らんと言うのに…
菱形陣形の後方、戦艦の艦橋にてそう考える。
「司令。間も無く太陽系に突入します」
「相分かった。全艦に次ぐ!陣形はそのまま、各艦の整備班はレーダー・通信設備の点検にワープアウト直後から取り組め。武器類はその次、機関部は最後にしておけ。戦闘員はいつでも配置につけるように待機し、命令を待て。作戦開始はその後だ。ああ、研究班の奴等には余計な事をしないように、釘を刺しておけよ」
「了解。ワープアウトは5分後になります」
なんだ、そんな奇人でも見るような目をしやがって。そんなに険しい顔をするのが不思議か。こんな異常空間で澄ました顔をする方が罰当たりだと、いつか思い知らせてやる。
お前は中佐だろう。ただでさえこの艦隊は新兵が多いのに、上官までもが能天気とは恐れ入るな!
「ちくしょう…」
自然と数回、指先を椅子の肘掛けに打ちつけてしまう。これで何とか苛立ちを抑えているのだから、大したものだろう。
軍の衰退は著しい。今や軍事力として力を付けているのは、非正規の筈である宙賊だ。さも正当だと言う顔をして悠々と宇宙を漂う奴等には、虫唾が走る!元の出自は破落戸と何ら変わらない筈なのに、組織に退役軍人が流れ込んだお陰で力を付け、無視出来ない所まで助長させてしまった。
軍も宙賊や破落戸の排除に力を入れていない訳では無いが、奴等のゲリラ戦術と軍の組織的戦闘は全く種別が違う。獲物を手に入れれば奴等は逃げるだけで良いから、軍とまともな戦闘をしない。結果、俺達は経験を積めず、徒に艦隊を損耗させてしまう。その酷さは、まだ資源惑星で紛争してる陸軍の奴等が宇宙に来た方が、戦力になるだろうと言える具合である。
俺達が最後に経験した実戦はもう30年前にもなる。今の奴等が全く、戦いと言うものを感覚的に知らないのは、首脳も理解している筈だ。
だからこそ、今回の調査を肩慣らしとし、最新鋭の戦艦と空母まで引っ張って来て新兵の心持を強めるつもりなのだろうが、些か読みが間違っている。
「ワープアウト5秒前…3、2、1____アウト。各艦、点検が終わり次第伝えよ」
この任務は、新兵に臨ませるには、非現実的に過ぎる。
「司令。地球が見えますよ」
「ああ、そうだな」
整備班から伝達を受けた連絡員が、声を張り上げる。
「本艦、機器に異常無し!しかし第二地球との連絡が途絶しました」
『___2番艦、機器に異常なし。されど、第二地球との連絡途絶』
『3番艦、機器に異常なし。されど、第二地球との連絡途絶』
『4番艦、異常なし。されど、第二地球との連絡途絶』
「ここまでは、想定通りか」
目の前には、碧き惑星がその姿を見せている。ユーラシア大陸からアフリカ大陸、アメリカ大陸まで、その姿は大きく変わっていない。記録で見た通りであった。艦橋前方では、1人の下士官がカメラを地球へ向けていた。
「地球の画像は撮れたか?」
「はい」
「よし、ビデオカメラも回しておけよ。研究班が文句を言うからな」
「了解しております」
そう言うと、そそくさと別の位置へと回って行く。地球以外を記録しているようだ。
「しかし、ユーラシア大陸にはやけに湖が多いな…しかも大きい。ここまでの数があったか?中佐、分かるかね」
「いえ、詳しくは覚えていませんが…少なくとも、2200年当時では、大陸どころか地球全体で目視できるレベルの湖は、数える程しか無かったと思われます」
「そうだよな…何かあったか?」
俺達は2人して前のめりになり、目を凝らし、顔を見合わせ、顰めっ面をした。能天気中佐も流石に、勘付いたらしい。
「相手が有無を言わさず突撃して来るかも分からんし、念の為だ。全艦へ通達!総員種別配置。繰り返す、総員種別配置。警戒方向は全方位である。各艦の艦橋窓は全て閉鎖し、全方位センサーに切り替えよ!」
「了解!」
『2番艦、了解』
『3番艦、了解』
『4番艦、了解』
警戒態勢へと移行した事を知らせるけたたましいアラーム音が鳴り響き、一気に艦橋が騒がしくなる。同時に艦橋全体をぐるりと囲んでいた窓の上部から装甲板が下り、区域内を密閉し始めた。自分で判断した事であるから覚悟しているのは勿論だが、それでもじりじりとした危機感が腹の底を焼いている。
「被弾警報!」
刹那、閉じかけの装甲板の隙間から、光が漏れた。
一瞬胸が圧迫された様になり息が止まるが、実際の被弾を知らせるものは鳴っていない。全方位ディスプレイに切り替わり、視界が戻った事で正気となった俺は声を荒げた。
「何番だ!」
「3番艦です。無線、応答無し!艦首に被弾痕有り。垂形シールドの先端部を莫大なエネルギーで突破され、船体を貫通した模様!内部に生命反応は残っておりません。戦艦《もみじ》、轟沈であります…」
「他は大丈夫か?」
「はい、3番を除く全艦は応戦を開始しました。大きかったのは3番への一撃のみの様で、現在の攻撃はシールド及び装甲で十分に耐えれています」
「良し、敵影の把握はどうだ?」
「全く判別が付いていません。レーダーには数十の反応が有りますが、常に不規則な移動をしています。それに高速故にセンサーで姿を捉えられず、機影が未だに見えません」
「…奇襲の際のデータから、何か分からんか」
「エネルギー反応のみで、実体を確認できていません」
「……出撃に出た機体からは、何か有るか」
「たった今、有りました。S帯へ出撃した《ネズミ1》より、『人がレーザー砲を打ってきている』と」
「訳が分からん。魔法使いにでも出くわしたか?他の報告は…」
「…いえ、追加でどの機体からも、同様の無線が入っています。現在3機、いえ、3人程撃墜している様ですが、大分こちらの損耗が激しい状況で有ります」
それなら、人があの戦艦級とも言えるレーザー砲を、しかも生身で撃っているとでも言うのか!
「いや、人が宇宙を飛び回り、レーザー砲を打って来るのなら、驚異的な機動力を持っているのも、機影が見えんのも、頷けるか…」
馬鹿げている。阿呆みたいだ。
だが、舐めておれん。
「砲戦用意。目標はベルリンとし、弾種は実体、榴弾を装填。大気圏突破処理を施せ」
「それは…いや、分かりました。一番砲塔、用意___」
奴等がもし俺達の戦艦がどの様なものかを知っているのならば、これは有効な手だろう。地球の奴で戦いを挑んで来るのだから、どうせドイツ人だ。しかと現代の技術を見せてやる。
「電算室より座標修正。方位合わせろ」
「一番砲塔、装填完了」
「目標方位固定。射撃用意、良し」
「了解。射撃用意、良し」
「レーダーは、どうだ」
俺は立ち上がり、観測員の方へ向く。そいつは唇の片端を引き攣らせ、血管が浮き出る程の力でレーダーの制御盤を握っていた。
「す、全ての目標が、本艦に向かって来ています。その数は50、速度は、マッハ、5」
「…他の2隻に撤退命令を出せ。我々は、このまま突っ切るぞ。最大戦速!」
「________了解…」
艦橋は、どいつもこいつも動きが止まってやがる。ここで死ぬ準備、いや、命を賭ける用意が出来ていないのだろう。実際には数人動いてはいるが、その内の幾つが状況を理解しているのか…
「…こちら1番艦。2番艦、4番艦に司令より撤退命令が下された。太陽系を離れ、未知エネルギーの充満する範囲から退避されたい」
『2番艦、了解』
『3番艦、了解。幸運のあらん事を』
命令を発していた中佐の顔が歪む。
ち、幸運だなんて言葉を出せば、俺達が死地に向かう事を意識してしまうじゃないか。
文句が口に浮かびそうになり、しかし反転し始めている空母2隻を見て、言う事は憚られた。奴等の船も装甲板が剥がれ、所々から僅かに火も噴いている。戦闘機は撃墜されたか、独自に戦線から離脱したのだろう。着艦している者は居なかった。
艦橋に接近警報が鳴り響く。
前方からは、奇抜と言うか、兎に角、この場の雰囲気に合っていないかの様な色取り取りの戦衣装を身に付けた者達が、整然と隊列を成して突っ込んで来ている。
「諸君、何も考えるな。ただ、前に出るんだ」
確かに人型である。
ああ、それに、総じて美人か美少女である。
彼女達は、
ただじつと、
おれたちを觀て_____
『Wir werden uns auf eure Wippe setzen』