君はウラナミ・アスカ・ラングレーを知っているか? 作:一途一
模擬戦の後、ウラナミちゃんはショウゴとアイカに預けて、俺と斎藤は2人セットに残っていた。未だにペイント塗れの頭のまま、斎藤が口を開く。
「ありゃ、多目的奴隷とかの範疇に留められん。バケモンだ」
「恐ろしかったですもんね」
「いやお前、軽く言うなよ。そんな生半可なもんじゃ無いぞ。嬢ちゃんと戦ってる時、常に見られてる感じ…一歩動けば発狂するって言う気持ち悪い感じだ。比喩とかそんなんじゃないぞ。あの子は敵にしていい人種じゃねえって、肌で感じちまった」
「俺は気迫こそ感じましたけど、そんな変なのは感じなかったっす」
「それはお前が馬鹿だからだな。戦闘機狂いめ」
「言っていいことと悪いことがあるんですよ!?」
斎藤が目を細め、馬鹿にするかのように薄ら笑いをした。なんだその『どうせお前には分からないさ』みたいな顔は!
「まあ良い。嬢ちゃんは十分以上…いや、確実に稼ぎ頭になり得る金の鶏だ」
「卵じゃないんすね」
「ありゃもう、孵ってるも同然だろ」
斎藤は頭を振って溜息を吐く。
「ただ、見た限りと言うか、それ以外は怖いぐらい、年齢通りだったな」
「それはまあ、分かります」
「本当か?嬢ちゃん、16歳の時のお前とはえらい違いだったぞ。お前は気味が悪いぐらい目が据わってたが、嬢ちゃんは文字通り輝いてるぜ」
「俺、マセてたんで」
「じゃあ今もマセてるな」
俺は昔と変わりが無いと言うことなのだろうか?俺は疑惑の目を向けたが、既に斎藤は端末を弄り出している。ただただ、嫌味な気分になっただけだ。
「まあ、お前が大人らしいとかどうとか飯にならない話は止めて、仕事の話…しようや」
「なんです、これ?」
手渡された端末に映し出されているのは如何にも行政が作りそうな淡白な作りのページで、『日露機械産業会議2814』と書かれていた。
「見たまんまの意味だぞ」
「大企業が集まって技術を披露するって言う、アレですか?」
「そう、そこに参加する《大日本重工》のな、御令嬢の護衛をして欲しいって事だ」
「俺が受けたのはもっと軽い奴のはずだった筈なんすけど。歌手のライブでアリーナ警備だとか」
「嬢ちゃんが見た目通りの能力ならそれで良かったがな、予想より何倍も強すぎた。諦めるんだな…何、そんなにハードじゃあない。適当に御令嬢と話でもしてりゃ、終わるさ」
「それでもっすよ…その御令嬢、大企業のって言ったら多分純血でしょ?俺たちみたいなのが当たったら何と言うか…」
「お前、いつにも増して女々しいな!」
「分かりました、分かりましたって。折角楽な仕事が出来ると思ったのに…」
「良し、それで良い。軽く内容を教えといてやる。護衛期間は3日で、元々お前が組んでた日程が少し伸びるだけだ。」
「明後日からっすね」
「護衛対象の名前は霧島マナ、14歳。嬢ちゃんの見た目と近いな、良いじゃねえか。____そんで、純日本血統の霧島一族の集大成。相当な有能らしいが、それを補って有り余る程のお転婆らしいぞ。気を付けるんだな」
マナって言うと、魔力だろうか?それとも恵み的な?こんな若い世代でも下の名前に英語か…
「____て言うか、それ最初に言ってくれません?」
「ん?何の事だ?」
「お転婆って言う奴っすよ」
「大した問題じゃ無いさ、気にしない気にしない…それで基本的に期間中は、終日付きっ切りになるからな。目を離すなよ」
「…集合場所はどこです?」
「佐賀県の鹿島市にある、日露二十三ホテルだな。…細かい事は後で連絡してやる。ほら、そこ」
斎藤が後ろを指差すので見てみると、ウラナミちゃん達3人がやって来ていた。装備を返却して来たらしく、元の服装に戻っている。いつの間にか社員登録もしていたようで、『ウラナミ・アスカ』と書かれた社員証を手に持っていた。
…唾を付けられてるな。まさかそこまでするとは思わなかったが、あの無双っぷりなら仕方ない。
「佐藤さん、これ見てくださいよ!あたし就職しちゃいました!」
「おお、良かったな。それ、一応仮戸籍よりも価値があるから。大切にするんだぞ」
「勿論!」
確かに目を輝かせている。彼女は随分、職を持つのが嬉しいらしい。俺でも正式な社員証を取ったのは4年前だと言うのに、随分と早い出世だろうと考える。
「アスカちゃん。今依頼も受けたし、そろそろ帰るか」
「そうですね。今日は久しぶりに体も動かせて、満足しました!」
「じゃ、行こう…斎藤さん、今日はどうもありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「良いさ良いさ、明後日頼んだぞ」
「分かってるっすよ」
ついでにショウゴとアイカにも適当に挨拶し、踵を返す。彼女が先んじて前を歩く中、七面倒くさい依頼内容をどうしようかと考えるが、取り敢えずは詳細な連絡を待ってからにしようと後回しにした。
「今日は帰ったら、どうしましょうか?まだ15時ぐらいですけど、早めに夕飯作りますか?」
「うぅん。いんや、ゲームでもしようか。仕事の事ばっかも疲れるからね」
「ゲームですか。佐藤さんは何が好きなんですか?」
「人生ゲームかな」
「良いですね、あたし億万長者になります!」
「ふふふ、借金塗れにしてやるぜ…」
外に出れば、入った時と変わらず日が照っていて、不思議と解放された気分になる。地下室に居たからかも分からんが、随分と抑圧されていたらしい。視界が開ける感覚がしていた。
「アスカちゃん、駆けっこしよう」
「良いですよ!駅がゴールで良いですか?」
「うん」
ウラナミちゃんが奴隷だとかどうとかは置いておいて、少なくとも彼女を買ったことで、俺の生活は変容し始めている。
今の俺は少女に釣られて少年になろうとしているのかも、知れない。そんな魔力を、ウラナミちゃんに感じていたのだ。
Tips:迫真研究室、人口増加の裏技
開拓当時、少なかった人口を増やすのにはやはり、自然な生殖では全くの不足であった。しかし、地球から運ばれていた凍結卵子・精子によって人工授精し、擬似子宮で育てる技術がСвет1号で完成。これによって人口は激増した。しかし生まれた子供は親からの愛情が不足し、生育時に精神にある程度の変容を来す事が研究によって判明。人口増加が安定した後、稼働は打ち止めとなった。尚、この技術はゲノム編集研究にもある程度の寄与を示している。