君はウラナミ・アスカ・ラングレーを知っているか? 作:一途一
「佐藤さん?もう鹿島市らしいですよ」
「ん?ああ…」
目が覚めると、自分が電車の席に座っていたことを思い出す。居眠りと言うのは前後の記憶を曖昧にさせるもので、起きた直後に『あれ、ここって家だっけ?』と思うことをよく引き起こす。
『次は鹿島、鹿島。…Следующая остановка-Кашима, Кашима』
「佐賀県って、日本語圏でしたっけ?」
「うん、そうだな。ロシア語圏ならロシア語のアナウンスが先に来る筈だし」
横にぴったりと身を付けたまま、ウラナミちゃんが聞いて来る。
歴史が深まったこの第二地球において言語圏の違いは方言の違いみたいなノリになりつつある。しかし悲しいことに、未だ1言語しか喋れない人間(俺のような)も存在するので、そう言ったマイノリティの為の配慮として、これは存在するのだ。
彼女の髪の毛が時折こちらを撫で、心地よいくすぐったさを感じる。しかし気分が下がる考えをするものだから、視界の明暗がないまぜになってしまった。
俺は会話を繋げようとしたが何とも言えず、ただ、頭を掻く。暫く経ってふと思いつき、適当に今日の話でもしようと口を開いた。
「今日の夕飯、どうする?」
本日は10月21日。護衛任務を行う日である。
◆◇◆◇
場所は変わって日露二十三ホテル。このホテルは所謂ラグジュアリーホテルと言う奴で、やんごとなき身分のの方々がよく利用する。俺のような人間も行けはするが、どうにも高級な雰囲気が落ち着かず、結局はこの人生で訪れる事は、今の今まで無かった。
本日の依頼内容を説明すると、こうだ。
2日前よりこのホテルの近郊にある産業展示館で、日々進化する機械産業の技術をお披露目し、各企業の更なる発展の為に情報交換をする催し《日露機械産業会議2814》が行われている。俺たちはそこで《大日本重工》の御令嬢、霧島マナの護衛をすると言う訳だ。彼女は今まで別の人間から警護を受けていたらしいがどうにも“抑え切れず”、人員交代の要請が下ったらしい。聞いてみれば知らぬ間にどこかに行ってるなど担当警護を引っ掛けて適当に放り、自分は勝手に遊びに行くだの…相当だそうだ。
ここだけ聞けば猛獣の保護にしか聞こえない。
追加で頭を悩ませる問題は、彼女が純日本血統と言うことである。『純日本血統』とは読んで名の如し、この混血化が進んだ第二地球において、未だに純粋な日本人としての血を保っている、と言うことだ。勿論べらぼうに価値がある。
彼女を傷つければ事だ。首が飛ぶとまでは行かなくても、確実に何らかの制裁が下されるだろう。
俺は昨日ウラナミちゃんに護衛の詳細を伝える際、口酸っぱく、『霧島マナを抑える事が最優先だ』と伝えた。余程のことが無ければ、失敗しないに違いない。
それでエントランスに入ると、今のところは警護関係の人間が多いのか、談笑したり連絡を取っている大多数が、俺たちと同じように防弾ベストを着ていた。中には有名な社章を付けた者もおり、随分力が入っているように見える。そしてそんな者たちの中に、俺にとっては見慣れた凶顔、斎藤ブルーの姿が見える。
「お、来たか。装備はあるよな?」
「ええ、もう万全っす」
「なら良い。今回の銃は何を使うんだ?」
「アスカちゃんはMPP、俺はPPShっすね」
「本当、お前は旧いのが好きなんだな」
「木の温もりって奴が好きなんですよ」
「それは家だけにしとけ」
軽い会話をした後、斎藤は俺たちに配置に就くように言った。交代時間は今から10分後で、203号室でのお迎えらしい。
「アスカちゃん、203号室だ。気張って行こうぜ」
「はい!」
◆◇◆◇
改めて俺たちは装備を整え、それぞれの銃器を肩から提げて向かった。
階段で2階まで行った後、やけに豪華なガラス細工が施された照明が連なり、更には歩くたびに軽く足が沈む赤いカーペットの敷かれた廊下を歩いた後、203号室に着いた。
「お転婆なんでしたっけ?」
「まあ、そうだな。だが、アスカちゃんに掛かれば何ともないだろう…多分」
「多分は余計ですよ」
そう言い、ウラナミちゃんはキッカリ4回、扉をノックした。
「どうぞ」
声は随分と、落ち着いている。俺たちは扉を開け、軽く分たれるように部屋へ入り込んだ。少し通路を歩いた所で景色が開け、対象の姿が見えた。俺たちは姿勢を正し、横並びになった。
「おはようございます。警護の交代に参りました、佐藤太朗です」
「ウラナミ・アスカです。本日から3日間、宜しくお願いします」
「どうも、宜しくお願いしますね」
当人は鏡台近くの椅子に座っている。本でも読んでいたようで、手に文庫本のような物を持っていた。
目の前に居る彼女は随分落ち着いた雰囲気のある少女である。如何にも御令嬢と言った感じで、紺に白色のチェック柄が付いたスカートを穿き、黒色ベースのセーラー襟が付いた、シルクの服を着用している。茶髪は少し絡まったショートヘアーで、照明を反射して飴色に輝いていた。次いで言えば、その黒に青みが掛かった目は、随分俺たちを捉えて離さない雰囲気さえも湛えているように思う。
ウラナミちゃんは素っ気ない顔をしているが、俺は内心鼻を伸ばしていた。出来るだけ取り繕って話を進める。
「ええ、今日はですね。まずは12時頃から会食があるとのことですので、それまでこの部屋で警備をさせて頂きます。室内ではこちらのウラナミが。扉前では私が待機しておりますので、何かあればウラナミにお願いします」
俺の言葉と共に、ウラナミも再び姿勢を正した。
そんな俺たちの社交儀礼を知ってか知らずしてか、彼女ははにかんで応える。
「まあ、ご丁寧にありがとう。でも、そう言った堅苦しいのは、余り好かないわ。佐藤さんでしたっけ?貴方も私が可愛ければ、いつでもそう言ってくれて構わないのよ?」
ん?流れ変わったな。
「私、一目で分かったわ。…貴方の事、好きなの」
Tips:シューティングスター
大日本重工によって設計され、日本-ロシア連合国内で生産されている戦闘機。形状は平べったく少し細長い菱形で、大気圏突入は可能。地上でも活動が可能なようになっている。武装はミサイルに機関砲で、物理弾かレーザー弾のどちらか一方に切り替えて使う。シールド性能は40mm機関砲に数十発耐えれる程度で、《暈》程では無い。基本色は白。