敵の敗因は、この機体を知らなかった事だ。
ミサイルを機銃で迎撃した後、唯一撃破の憂き目に遭った《サンバ1》を確認した。
エンジンは機関部の破損で停止。武装のローンチ部は機体が被弾で歪んだせいか、各部が開いたままになっている。しかし見た限り、被弾箇所は最低限になっていた。
そんな数少ない被弾箇所ではあるが、強力な40mm弾の直撃をもろに喰らい、分離した部品やら、機体を構成していた薄っぺらい装甲やらで作られた銀色の血飛沫が静かに舞っている。
予想以上に効率的な撃墜に、俺はほくそ笑む。
因みに、俺の事をご存知であったらしいその他護衛機は既に戦闘領域から退避している…素直な奴らめ。
「捕虜は獲れるかな?」
目を凝らして、機体の破砕部分を更に注視する。数発はコックピットに到達しているらしいが、運が良ければ生きているだろう。
『
次いで、護衛を失くし、宇宙に孤立した輸送艦に呼び掛ける。馬鹿め、護衛代をケチるから簡単に制圧されるんだ。
…補足として言っておくが、この要求法は軍人崩れが多い商業宙賊においてルールとして定められているだけで、好きでこんな硬い話し方をしているのではない。
『……此方、シルバーシガー型輸送艦、呼び出し符号《七星》。本艦は貴機の要望に応える用意が出来ている。支援内容を伝達されたし』
『本機は固形燃料百型を100Kg、輸送先の担当企業についてのデータ、そして電子貨幣7000万円相当を希望する。電子貨幣については、物理機器へ移行しての引き渡しをお願いしたい』
『…了解した』
輸送船はその後、5分もしない内に船体の下部から物資の詰まったコンテナを射出した。
そしてセンサーによりスキャンを掛け、内容の確認をしてから輸送船を解放する。船は予備動作もせずにワープホールに跳んだので、余程逃げたかったんだろうと踏んだ。
俺はコンテナの射出地点の座標をメモし、回線を秘匿のものにしてからレシーバーを取る。
『本社へ、此方はトレボー。目標からの救援物資を取得。これより伝える座標まで回収を頼む』
俺はコックピットに増設した通信装置を操作し、射出地点のデータを転送する。
『確認した。__支援について感謝する。返礼については本星系第二十三惑星にて要相談されたし』
『了解、交信を終了する』
俺はレシーバーを乱暴に機器のもとへ掛けた。
溜息を吐き、座席の背もたれに腰を沈める。
それにしても、今回は相当に楽な仕事だった。護衛どもが俺の事を知っていた(若干一名は知らなかったようだ)のに加え、その数も少なかった。それにレーザー兵器でこの機体に攻撃して来るなんて、殺してくださいと言っているようなものだ。
この機体は、歳を取っているのを強力なシールド装置と武装で誤魔化しているのもあって防御能力が非常に高いので、並のレーザー兵器では突破出来ない。まあそれでも力押しで突破されるような代物ではあるのだが、どうにか良いように終息してくれた。
俺は使われすぎてグリップ部分のゴムが劣化している操縦桿を握り、にかりと微笑む。
宙賊業を始めて早6年、随分俺もこの世界に染まったらしい。
「それにしても、会敵した瞬間逃げられるのは不味いな。もう少し引き留めることが出来るようにならねえとなあ…」
そこが少しの後悔点であったが、まあ、あんなちんまい戦闘機を撃墜してもパイロットを自由に出来る事ぐらいしか利益が出ない。まあ俺は身柄を委託した上で金に換えているので、弾薬代とプラマイゼロと言ったところだろうか。
更に言えば他の宙賊なら鹵獲機の部品を自機の修理に使ったりと違ったのだろうが、ウチの機体は少し特殊であるから、あんまし最新のパーツを必要としないのもある上、本社からの回収費が報酬から引かれる分、実は撃ち落とし損だっりする。
「まあ、金を受け取ってから考えっか」
そう、この世界ではそこまで先々を考えなくてもやっていける。俺たちは宙賊でありかつ、この広大な、宇宙という海を駆け巡る自由人であるのだから。
…操縦桿をを前方に倒し、数百年の間変わらないまま受け継がれた液晶ディスプレイを確認して長距離座標跳躍を行う。
瞬間に世界は縦横に犇き駆け巡る線のみのものとなり、幾何学的美学の極致のような空間が展開される。この景色を何度も観測すること十九年、少しだけ今の世界のことが理解できたような気がした。
十秒も眺めた後、美しき世界は余韻も残さず消え去り、一つの惑星を目の前とする。
碧い星、水と大地の織りなす生命の息吹を惑星外へと惜しげも無く晒し、此処が如何に恵まれているかを示している。
俺は回想する。同じく碧い星、数百年前に存在し、俺がその恩恵を受けていた場所を。
かの星は《地球》
そして此処は数百年越しにその姿が再現された人工の楽園、
《第二十三惑星》、又は《第二地球》と言う。
Tips:商業宙賊
輸送船からの略奪や、時折起こる紛争へ傭兵として参加することで生計を立てる者たち。暴虐の限りを尽くす破落戸とは違い軍人上がりの者が多く、総じて戦闘力が高い。中には会敵した時点で死は逃れられないとも言われる人物がぽつぽつ居る。