君はウラナミ・アスカ・ラングレーを知っているか? 作:一途一
マナ嬢たちの集団からテーブル4つ分ほど離れた位置において、俺たちは憮然と立っていた。余りに暇なので最早両手をズボンのポッケに入れてしまい、大欠伸をしながら視線を動かす。勿論見るのはマナ嬢の動向である。
今は祐二の方で勤めている警備がマナ嬢の警護も兼ねているが、俺たちは決して休憩時間に入ったと言う訳ではない。
彼女に万が一があれば責任を取らされるのは俺たちだ。迂闊に目を離して、彼女に傷でも付けば、祐二の方の護衛は勿論、俺の首までも一緒に飛んでしまう。よって、今の俺たちは退屈と不安が入り混じった空気の中、不審な人物が居ないか目配りしているのだ。
マナ嬢たちは集団を渡り歩き、その度に祐二は長ったらしい話をする。彼女自身どうもフラストレーションが溜まっているようで、ある時点から笑みが引き攣り始めた。余り、こう言う場所には慣れていないのだろうか?箱入り娘だし。
「お腹空きました」
ウラナミちゃんはというとさっきからテーブルの上へ置かれた飯に目が固定されている。
昼食はこの食事会の後に取るつもりであったのだが、マナ嬢が予想以上に引き回されている所為で遅れているのだ。
「まあまあ…もう少しの辛抱だろ」
「目の前にローストビーフがあるのに」
「肉ぐらい終わったら食べれるさ。それに、気をしっかり保っておけば直ぐ終わるよ…多分」
「肉…」
彼女の口が半開きになる中、マナ嬢が祐二と何かしら話しているのが見える。
「丁度終わったようだな。さっさと行こう」
「肉肉…」
マナ嬢は粗暴さを欠片も感じさせない歩みでこちらの方まで歩いて来た。
「さあ、佐藤、アスカ。外に出ましょう」
「了解」
彼女は足音の1つも出さず、静かに会場を後にする。まるで王族の式典を見ているかのような荘厳ささえも感じるが、これも令嬢の成せる技なのだろうか。
彼女は祐二からどんな言い付けをされて育ってきたのだろう。お偉いさんたちと会話している時の彼女は落ち着き払っているが、ホテルでの振る舞いとは随分違う…堪え性はないようだが。
親が権力者であるからこその孤独とその強い自我。彼女の背中は随分と重い物を背負っているのだろう。発散するところを間違えないのであれば助力したいものである。
「アスカ。好きな食べ物は何かしら」
「そうですね、やっぱお肉でしょうか?」
「シンプルね。けど、嫌いじゃないわ」
元来た道を戻り、フロントで預けた銃を受け取り、車に彼女らを乗せるために駐車場まで向かう。今までの宮殿風建築が今度は冷たいコンクリ建築に戻る姿は、世界の幻想が解けたかのような気分にして来る。
「焼肉はタレ派かしら、もしくは塩?」
「あたし、タレのほうが好きですね。間違いが無いって言うか」
「そうよね、安定してるわよね…まあ私は塩派なのだけれど」
「塩はお肉が引き締まる感じがしますよね」
「そう!それが良いのよ」
それで車を停めてある駐車場までやって来ると、一周回って沁み入るよな感情にもなるのだから、人間とは不思議なものだなあ…
「あ。アスカ、ちょっと先乗っててくれるかしら?」
「でも、護衛対象を先に乗せないと…」
「ちょっと佐藤さんに相談したい事があるの、申し訳ないけど、アスカには話し辛くて…」
「?…分かりました」
ん?一体、何なのだろうか。そんな重大なことがあったのか?もしかして祐二を心の中で呼び捨てにしてるのがバレたとか。それで文句を言うようなことも無いと思うのは確かであるけど。
「アスカってお金、持ってる?」
「ええ、まあ。それなりに持たせていますけど…」
「ふぅん…」
彼女は至極愉快そうに目を細めた。ウラナミちゃんがその後ろで俺たちが気になるのか、車窓を隔ててチラチラと視線を向けて来ている。
「この…オートマかしら。それとも、マニュアル?」
「?…マニュアルですが」
話題を遠回りにして、何か聞きたいことでもあるのか?_____少し不審に思えてきた。
「まあ、特に問題はないわね…焼肉は好き?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、申し訳ないことをするわッ!」
「おグッゥ…!?」
世界が反転した。比喩抜きで。実際は掌底を顎にまともに喰らったことによる衝撃のせいだが、突然のことに思考が追いつかない。
「ちょっと、借りてくわ。焼肉しにね」
「おぉぉお…」
声が頭の中で、何回もエコー掛かって聞こえる。辛うじて、いつの間にやらスりとった車の鍵を片手に乗り込むマナ嬢の姿が見えた。エンジンを掛けるんじゃない!
「ちゃんと佐藤の分も食べて来るから安心して?」
俺の思いも虚しく、さしたる障害も無いまま、彼女は車を走らせて駐車場から走り去っていく。俺はそれをただ眺めるだけだ。ウラナミちゃんが何やら目を丸くしていたが、何とかして貰うしかない。
「だーッ、頭が痛い!」
じんじん痛む顎と頭をなんとか抑え、トランシーバを取る。
「えー、こちら佐藤。依頼人から突然掌底を喰らい、その隙に車をジャックされました。至急、追跡頼みます。尚、当該車両にはウラナミが乗り合わせておりますので、自体の収束を試みているかと思われます」
『えー、こちら斉藤。既に車両は補足済みである。ティーンエージャーに掌底を喰らう佐藤は早急に行動されたし』
「……了解」
…何でこんな事に___
Tips:霧島マナ
純日本血統の少女。数世代に渡る遺伝子操作により、通常の人間よりも高い知力、生命力、破壊力を備える。抑圧された家庭環境(主に父親)と霧島家の人間としての重圧から、遺伝でもある感情の機敏への乏しさに加え、かなり高圧的な性格となっている。本人は今か今かと現在の状況から抜け出すキッカケを模索しており、ウラナミと友達になった事で、1人でにとある決心をした。キャラクターイメージはまんま『鋼鉄のガールフレンド』に出演する彼女なので、当作品を参照して頂けるとイメージが湧くと思われる。