砂利が金属に擦れ、不協和音を奏でながらシャッターが開く。何時もおかしいと思うのだが、何故発着施設は海のすぐそこに造られるのだろうか?現代の技術では内陸部に作っても問題は無いはずなのに、甚だ疑問の尽きない限りである。
照明が人の姿を感知し、順々に点いて行く。そして、大凡コンビニほどの敷地に駐機されている、一機の戦闘機が姿を現した。
と言っても、見えているのは機体後部、エンジンやハッチのある部分である。
「これが、あなたの愛機…ですか」
「そうだな、機名は《
ウラナミはその機体をまじまじと見つめる。通常の宇宙船とはだいぶ毛色の違う物なので、特異性に気が付いたのかもしれない。
「随分、レトロな感じがするんですね」
「レトロって言うか、骨董品と言うか…これが初めて飛んだの、2280年なんだよね」
「534年前!?」
「もう当時の部品なんかは残っちゃいないさ。装甲やら継ぎ足したり、エンジンを置き換えているうちに、当時の代物はディスプレイだけになっちまった。まあそれも液晶を新品に変えてたりするがな」
「テセウスの船ですね」
「おお、よく知ってるなあ」
やはり彼女は奴隷にしては知識が多い。これが2000年代なら「常識でしょ(笑)」と一蹴されたかもしれないが、この第二地球では長年の開拓時代の影響か、過去の知識が散逸している点が多々ある。こう言った有名パラドックスを知るのにも、手間暇がかかるのだ。
「ハッチから、中に入ってみるか。ちょっと待ってろよ」
俺は宇宙船のハッチによじ登る。この機体は全長15m、全幅は6、7m程であったと思う。武装は40mm機銃のみで、機体内部に強力なシールド装置を積んでいる(これが無ければ今日まで生き残れていない)。更に言えばレーダー対するジャマーなどは勿論積んでいないので、居場所は常にダダ漏れである。対処法は超強力な電磁波下の環境に身を置くしか無いし、実際それは十八番の戦術となってしまった。
ハッチは基地接続用の円形の物と、地上活動用のスライド式の物が重なっているのだが、その鍵はパスワード認証式である。元々は軍用機でなかったせいで、最初期は中央に位置しているツマミを捻るだけで開いたのだが、後年、流石にセキュリティが甘すぎると言う事で鍵が追加されたらしい。因む所、パスワードは『2014』だった。こんなに簡単で良かったのか?
パスワードを入力すると、鈍い駆動音と共にハッチが下降していく。中には、気圧低下防止用のエアロックが見える。機体に入ってそこも開けると、漸く機内の全貌が見えた。
まずすぐに機材や冬眠装置などが設置可能であるスペースが顔を見せる。その場所は少しばかり開けているのだが、中央に設置された半球型のシールド発生装置のお陰で、どうにも圧迫されている感が否めない。
右側には武器庫や脱出ポッドが設置されている。こちらの脱出ポッドは後部のハッチが使用不可能になった時や、機体が限界を迎えた際に使用する。本来は操縦席が脱出機構を備えていたのだが、席自体が長年の使用により劣化。最新の物に置き換えたのはイイものの、脱出機構を備えていない物であったので、新しく新設することになったのだ。収容人数は1人で、一度切りの代物だ。
左側には機銃の給弾装置と、冬眠装置が備えられている。冬眠装置は10数年前に置き換えられた物ではあるが、信頼性は怪しい。給弾装置は今まで問題なく動いているが、改修がおざなりだったのか、駆動音が馬鹿ほどうるさい。雰囲気としては、永遠に電車の通過音を聞いている感じだ。
そして操縦席。本来は4シートだったが、戦闘機に改修した際に2シートとなった。操縦桿はスティック式で、武装の操作もそれで出来る。
席の前方にディスプレイがあり、更に上部へ目を向けると、機体の操縦に使用される機械類が全て備えられている。ここの問題点としては、機銃の発砲時に、座席に直で振動が伝わって来る所だろうか。尻が叩かれているようで、何時も不安が拭えなくなる。
ここまで説明すると、俺は彼女の方へ振り返った。彼女は割と話半分に聞いていたようで、適当に相槌をしていた。体はこちらの方向を向いているのだが、今はシールド発生装置を観察しているようで、しゃがんでいる。
彼女は俺が話を終えたのを察知したようで、こちらの方を向く。勿論しゃがんだままで。
「結構窓は視界が悪いみたいですけど、どうやって戦闘するんです?」
「良くぞ聞いてくれた!」
俺はポケットを弄り、1つのイヤホンを取り出す。
「イヤホンですか?」
「まあそうだが。これには、この機内で最も金が掛かったと言っても過言じゃ無い機能を発揮できるようにしてあるんだ」
「無線傍受とかですか?」
「敵の手を知る、と言う点では合っているね。…実はこれ、レーダーの機能を備えているんだ!…と言っても、これ自体がレーダーと言う訳では無いけどね」
このイヤホンは、音を立体的に聴くことが出来る。敵が何体居て、どの距離に位置して居て、どういった行動を取っているのか。その“全て”を音で感知し、全周囲の警戒を取ることが可能である。
これは視界の多くが遮られている機体だからこその装備であった。普段の依頼は1〜3対1の場合が多く、使用しないが、多対一の場合にはこいつに遺憾無く性能を発揮して貰っている。
「唯一つ、問題がある。これは文字通り全ての機体の動向を把握するから、脳への負担が凄まじいんだ。それに、敵か味方に判別も出来ん。今の時点では、俺しかまともに使えない」
何故かは知らないが、俺はこの装備を十全に使用できる。通常の人間がコレを使用すると、途轍もない頭痛に襲われ、最悪耳が使い物にならなくなるし、目や鼻、口からも色々な液体が漏れ出して来る。マニュアルにも相当な脳のキャパシティーが無いと使えないと書いてあったが、俺は実の所、相当に地頭が良かったのだろう。
転生して、知らない土地で何とか生きて行けているのもそうだし、適応能力が高いのだろう。きっとそうに違いない。俺はそのようなことを(転生云々は隠している)、鼻を高らかにして垂れ流した。
彼女は如何にも無心と言った様子で、次のように宣った。
「これ、私でも使えますかね?」
「…マジ?」
俺は耳を疑った。体が大変なことになると言っているのに、彼女は何の変哲もない物に触れるかのような、さらりとした流れで差し込んで来たのだ。
「え、耳使えなくなっちゃうかも知れないんだぞ?目とか、鼻とかから変なの垂らしちゃうこととかもあるし、いやね、まあ挑戦をするって言うのは悪いことじゃあ、ないんあだがね。ウラナミちゃん___」
俺はウジウジとした返答をしながら彼女を見る。
やはり、迷いの無い目である。更に言えば、きらら、と言う風にでも、輝いている幻視すらもした。自信を隠しもしない彼女の風格に、俺は心の中で骨を折る。
「____ううん、まあ、やってみるかあ?」
Tips:音響による空間把握技術
宇宙開発と共に盛んになった全方位レーダーを感覚的に理解しようと言う試みである。様々な技術投資が行われた結果、遂には開発を完了したが、空間把握音が使用者の身体を害する事例が多発。程なくして、ごく僅かな人間しか適正を得られない事が判明する。関連機器の発売は行われたものの、販売数は非常に少ない。