嗚呼、素晴らしき隣人を我が世界へ
■ ■
「そういえばこんな状況で言うのもアレなんだけど、俺ゴールインしたんだよね」
「えっっっっ」
「うそだろマジで???」
ぶっちゃけて言えば、この空間はそういう報告をする様な場所などでは断じてなかった。だからまぁ、自分がマジでどれだけ馬鹿みたいな報告してるのか、そういう自覚はある。
周りに居るのは燻りが残った騎士様だったり、落ち武者なりかけの黒備え姿の侍だったり……アレだな、改めて口にすると本当に何言ってんだコイツみたいになるな?
まぁ、かく言う俺も頭にツボ被った白備えの侍なんですけどね!
そんな傍から見たら『なんだこの変人共』と言われても仕方ない様な面子は、まるでそれが当たり前であるかの様に
「お前はっ……お前だけは
「リア充通り越して夫婦か貴様っ!? 段階端折り過ぎてんじゃないの!? 普通こういうのって『彼女できた☆』→『おういっぺん死ねや』の流れじゃねぇの!? おめでたいけど取り敢えず死ねやリア充野郎!!!!」
「はっははははァ!!!!! 悲しき非リア共の絶望でモチベが上がるぜェ! それはそれとしてありがとう! お礼に打首にしてやるよボケゴラァ!!!!」
さて———こうなってくると、まずは昨今のゲーム情勢から語る事になるか。
現代において、デジタルゲームはレトロと呼ばれている。テレビの画面とゲーム機本体、そしてゲームディスクという三つによって成り立っていたそれが、レトロ扱いだ。
時代の流行りはVRゲーム。小さなヘッドギアはその見た目に反して膨大なデータを詰め込んで尚も余裕を保つ最新技術の塊であり、プレイヤーはその空想の世界へと自らの身を置く事がもはや当たり前となった。
プレイアブルキャラを使うものもあれは、キャラメイクで自分だけのアバターを作っては冒険をしたり対戦をしたりと、その幅は大きく広がっている。
———さて。俺がやっているのは、そのVRゲームの一つな訳である。
その会社は、レトロゲームを制作していた会社の中でも一際有名だった。他のレトロゲーム制作会社がVRゲーム会社によって呑み込まれていく中で、その会社だけは違った。
『VRゲームが主流だってんならこっちがそれを乗りこなすしかねぇだろ歴史あるゲーム会社舐めてんじゃねぇぞ
と叫びながら、死に物狂いで時代に追い付いて今も生き残っている会社が作ったVRゲームを、俺はリリース初期からやり込んでいる。あ、ちなみにこれマジで社長さんが言った言葉です。すごいよね、マジ尊敬してる。
ジャンルはアクション? まぁ、現代的にはVRMMORPGと表記した方がジャンルが確立されてると言えるのだろうか?
その会社が作っていたMMORPGは、ある一つのジャンルを確立させた。それはナンバリング化され、そのシリーズが終了しても尚、別作品でも受け継がれていった程だ。
そのジャンルの名は———
チュートリアルからクソ理不尽な雑魚共に囲まれて袋叩きにされてはいお終いなんて当たり前。大群押し切ってなんとか開けた場所に出たぞ! と思えばまさかのボス戦突入ではいまた終わり。
ディレイモーションはあるわ攻撃力は高いわ硬ぇわ動き多いわ……これクリアさせる気あんの? とコントローラーをぶん投げて机を叩き割りたくなる様な高難易度。
しかし、死にゲーはまさにそれこそが醍醐味だ。理不尽過ぎんだろと叫んでいたそれも、死を積み重ねて相手の動きを把握していけば、『このタイミングなら攻撃できるんじゃね?』という瞬間が自ずと見えてくる。
途中から顔伏せてそのまま眠りたくなる様なチュートリアルボスをクリアした時には、それはもう……どっぷりと、死にゲーの沼にハマっているというものさ。
『
ダークチックなファンタジーの世界観は色褪せる事なく受け継がれ、比較的戦いやすいボスからパターン自体がゴミカスなクソボスまでよりどりみどり。それでいて武器や防具、魔法の種類も実に多彩で、様々なビルドで最強理論が展開されていた。
それでいてオンライン機能もあり、1v1から3v3までのPVPも出来たこのゲームだが、ぶっちゃけて言うと今の俺は完全に対人ガチ勢で、もう本編殆ど触ってないんですよね。
まぁ、過去作を見てみたりしたけどそっちでもバリバリの対人ガチ勢は沢山居たらしいから別に変なことはないよね!
ちなみに騎士の方は「ペンドラゴン」、武士の方は「∞りみてっど」と言う。俺と長い付き合いのある友人である。
「くっ! やっぱランキング上位は二段階RSくらい普通に対応してくるよ面倒くせぇ!!!! お前ら変態極め過ぎだろ!?」
他のゲームに限らず、スヴァブラには幾つかテクニックがある。その中でも、対人戦で特に使われているのはこの二段階RSだ。
スヴァブラの武器には『
この業火はスヴァブラの世界を冒険していれば、アイテムとして落ちていたり、ダンジョンのボスを倒すと手に入ったりなど、遊び尽くしていれば全てを集め切る事だって出来る。
その上で、鍛冶師のNPCに頼めば業火を変えてもらう事が出来る。
その業火の中に、『脱兎の跳ね脚』と呼ばれるものがある。簡単に言えば無敵時間が長く距離もそれなりの高速ステップなのだが……これ、実はある方法で効果が実質二倍化する。
右手の武器と左手の武器にそれぞれ『脱兎の跳ね脚』を装着。左右どちらかの武器の方の『脱兎の跳ね脚』を発動した瞬間———具体的には、この業火特有の巻き煙の様なエフェクトが出た瞬間にもう片方を発動すると、最初に発動した方に後から発動した分の加速が上乗せされるのだ。
本来、業火はその武器一つのやつしか発動出来ず、右手の方を使えばそれが終わるまで左手の方は使えない。だが、発生タイミングに直後にはそれが設定されていないらしい。
これがすげえ速い速い。ぶっちゃけこれやってる相手に当てるのは難しいだろう。
まぁ、だったら移動先予測して武器振り回すか魔法撃つかすれば良いんですけどね。対人ガチ勢なら出来て当然のテクニックです。これ、テストに出ます。
「いや幕末のランカーよりマシだろ。アイツらだけネフホロやってんのか?って機動してくるよ?」
「お前スヴァブラだけに飽き足らず幕末まで始めやがったの!? どこまで対人に飢えてんだよ!」
「お前も
「それは素直に行きたい」
「イカれてんのどっちだよ馬鹿共が」
一応これでもランキング上位に入ってるんだけどなぁ……コイツら普通に着いてくるんだよね。というか俺とばっか戦ってるから、ほぼ俺専門になりつつあるんだよな。怖いよね普通に。
俺の愛刀である「三月の刃」の居合抜きも、シルバースターは大剣使いの癖に自分の腕前で当然の如くパリィしてくる。なんなら、∞りみてっどの方はカウンターまで狙ってくる始末だ。
一人のプレイヤー相手に対してやる戦法じゃないだろこれ。どんだけ俺のこと殺したい訳?
「ちなみに聞かせろ、奥さんはどんな人だ」
「完璧超人文武両道高嶺の花敬語系巨乳和風美人」
「しにさらせェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「盛り過ぎだろバカじゃないんですかねぇ!? お前みたいな対人キチ野郎がなんでそんな6V個体も顔真っ青な人と結婚してんだよぶち殺すぞおぉん!?」
「いやーリアルでマトモに生きててよかったー!!!! 勝手にお見合い決められた時は親父ぶち殺そうかなとか思ってたけど今となっちゃ感謝感激晴れ時々斬馬刀の気分だぜヒャッハー!!!!!!!!!!!!!!!!」
対人狂だろうが幸せになれる事だってあるんですよねー! やっぱマトモに生きてみるもんだな人生ってのはよぉ!
◆
「……おぉ、なんたる眼福」
目を覚まして最初に見るのが美人の寝顔と若干着崩れた和服から覗き見れる谷間とか誰得ですか? 俺得ですね、ありがとうございます。
てか珍しいな、俺が起きるというのは。普段は
まぁしかし、その仙ちゃんが寝てるという事は、まだ夜明けには早いという事だろう。つまり真夜中のお目覚めという事だ、こりゃ困ったもんだ。
「……マジで顔良過ぎだろ。国宝か?」
いつ見ても仙ちゃんは良いわぁ。こんな美人さんと結婚出来たのマジで人生一の幸せじゃなかろうか?
親父が勝手にお見合いの場設けたとか言い出した時はマジでぶち殺しそうになったが、いざ行ってみるとこの人が出て来たもんだからびっくりしたよね。
———
まぁ、実際に顔合わせた時は綺麗とか美人とかよりも、その氷みたいな雰囲気に心折れそうではあったんだけれども。緊張上回って恐怖で普通に鳥肌が立ちそうだったよ。
「どうすっかな……変にテンションの上がる思い出が夢になって出て来た所為で、眠れるか怪しいぞ……」
「———はじめ、さん……?」
「あ」
いかん、起こしてしまった。
薄らと開かれた瞳が、ばっちり俺を捉える。あちゃー……声デカかったかな? それとも斎賀流護身術を修めてる影響で気配に敏感になってたり?
起こす気無かったんだけどな。こんな時間に起こしてしまうとは……申し訳ない。
「ごめんね、仙ちゃん。声大きかった?」
「いえ……視線を感じたものですから」
「まさかの視線かぁ……」
「眠れないのですか?」
「いやー、ちょっと楽しい夢見ちゃって、それで起きちゃったんだよね」
「楽しい……と言うと、あの……ぶい、あーる?という機械の?」
「相変わらず横文字慣れないの可愛いね」
「かひゅ」
あ、オーバーフローした。こういう所も可愛いんだよね仙ちゃん。
聞く所によると、斎賀家の女性達は皆揃いも揃って恋愛力が没収されているらしい。お
最初はびっくりしたよね。氷の擬人化ですか?ってぐらいには雰囲気ガチガチだったのが、まさか緊張してたからなんて誰が思います?
そんでもって同棲してみたら完璧超人の隙間から可愛らしい所が幾つも出るわ出るわ。そんなギャップ見せ付けられたら惚れてまうやろ。
「も、もうっ……からかわないでください」
「本気なんだけどなぁ。まぁ、仙ちゃんの言う通りなんだけどさ。ぶっちゃけ、お見合い設けられたのだって、俺がVRゲームに夢中だったのを親父が心配したからだし」
「そうなのですか? 少なくとも、私はそれをやっている所は見た事がありませんが……」
「そりゃ、仙ちゃんと結婚したからね。夫になったからには、朝も昼も夕方もゲームしっぱなしなんて出来ないでしょ? しっかり仕事するし、仙ちゃんの事も手伝うよ」
「……ズルい人ですね」
「あぁもうマジで可愛い。ちゅーしていいですか?」
「だ、ダメですっ! こんな時間に、接吻なんてダメです! 破廉恥です!」
そんなご無体で殺生な!? こんなにも可愛いのに手を出すなというのか!?
ちくしょうこういう時だけ自分の理性が恨めしいっ! 男は猛獣なんじゃなかったのかよ!?
ふぅ……落ち着け、落ち着くんだ
「そういえば、仙ちゃんも興味持ち始めてるって言ってたよね?」
「え、えぇ……玲と百も、どうやらそれに夢中になっている様ですし。それに、一さんと出会えた切っ掛けでもあるのなら、私も触れてみようかな、と」
「仙ちゃんと一緒にゲームできるのかぁ……俄然楽しみになってきたな」
何が良いかな……スヴァブラはちょっと初心者にはハードだし、かと言って幕末は仙ちゃんには合わないだろうし……あ、そうだ。
「じゃあ今度の休みに買いに行こっか。オススメ紹介するよ」
「そうですね…たまには、そういうお出掛けも良いですね。……心構えをしっかりしておかないと」
「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。俺が基本とか教えるからさ」
「(そういう意味ではないのですが……)ありがとうございます。…ふふ、すっかり話し込んでしまいましたね。そろそろ寝ましょうか」
「そうだねぇ……うん、仙ちゃんのお陰で眠れそうだ。ありがと、仙ちゃん。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
最初にやるゲームは、やっぱり楽しいものじゃないとハマってもらえないからな。
神ゲー……『シャングリラ・フロンティア』。これなら、仙ちゃんも楽しめる筈だ。まぁ、玲ちゃんと百ちゃんにはちょっと申し訳ないけれども。ごめん、2人共。でも俺は嫁さんと一緒にゲームできる楽しみを優先します!
・
斎賀家長女の婿であり斎賀家のお義兄様。お見合いで仙と知り合い、一緒に会話したり生活を過ごしていく中で凛々しさの内にある初心な可愛らしさにギャップを感じ、僅か1週間という斎賀家最短の時間でゴールインを記録した。
完璧超人で家長として厳しい仙を赤面沸騰させてバグらせる事の出来る唯一の存在であり、それでいて大人としても完璧なので、百や玲達にとっても頼れる義兄となっている。なんならヒロインちゃんに至っては男側としての意見を遠慮なく提供してくれるので、ナチュラルに
元の姓は
VRゲームにおいて数少ない死にゲーの一つにして代表作『Svartr Blood』、通称『スヴァブラ』の対人ガチ勢であり、そのPVPランキングの上位に位置している実力者。シャンフロや幕末もやり込んでおり、いずれも対人狂として有名である。
・Svartr Blood
通称はスヴァブラ。フルダイブ型VRゲームで数少ないジャンルの一つである『死にゲー』の代表作。要はダクソとブラボとエルデンの集合体。一時期フルダイブ批判派に文句を言われたが、会見で制作会社の社長が『実際にやりもしないでただ文句垂れるだけの口だったらさっさと噤んで失せろやダボ共が』と言い放ち、ネットで多くの賛同を呼んで会見の連中を社会的に黙らせた伝説がある作品。
制作会社の正式名称は有限会社パレスアップ。パレス(『宮』殿)、アップ(上がる→高い)。後は分かるね?