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墓守のウェザエモンは正直に言ってバケモンだ。
何がバケモンって、戦闘開始と同時に自分以外の存在のレベルを強制的に50にまで下げてくる上に最初から即死級の技をぶっぱしてくるって所。
普通有り得んだろ? 初っ端から即死級打ってくるのはまだ分かるよ? そりゃユニークモンスターだもの、七つの最強種の一体だもの。そんくらいの理不尽は理解出来るさ。
けどさぁ…レベル差150はやり過ぎだろぉ………キモイよ? ぶっちゃけ。
こっちLv.50でウェザエモンはLv.200だよ? 巫山戯てんじゃねぇよクソが。シャンフロの運営はユニークモンスターのユニークをあからさまに履き違え過ぎてるんだよね! そういう意味でのユニークなんか? ゲーム的にクリアさせる気あるんか???
セっちゃんに感情移入してて、尚且つウェザエモンがセっちゃんの旦那さんって設定が無ければ俺余裕でブチ切れて罵詈雑言かましてた所だよ?
PvP以前に、そもそもが死にゲーであるスヴァブラでもあんな理不尽は中々無かった。初見殺しはそりゃ沢山あったし、見てきたし経験してきたけれど、レベル差を作り出すなんてボスはウェザエモンが初めてだぞ俺は。
他のユニークモンスターもあんな感じなのかなぁ……確か今ん所名前が判明してるのは、確かリュカオーン、クターニッド、オルケストラ、ジークヴルムだけなんだよな。
ウェザエモンを知ってるのは俺と千ちゃん、そしてペンちゃんと阿修羅会の面子だけ。シャンフロ屈指の考察クラン【ライブラリ】ですら把握出来てないってのも、まぁ場所が場所だけに納得ではあるけど。
はぁ……憂鬱な気分になりそうだ。決して諦めはしないが、他のユニークモンスターもウェザエモンみたいな理不尽性能てんこ盛りなら流石にうへぇとなっちまう。
そんな時はどうするか……ふっ、聞くまでもなかろう?
うん———PvPだよねっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
やっぱPvPよ、PvP! こういうバカみたいに気が落ちた様なテンションをぶち上げてモチベをマックスまで高めるのならば、やはり俺にはPvPが欠かせないというもんさ!
仙ちゃんが居る手前、流石にシャンフロでは派手なPvP……もといPKKは出来ないからな。襲われた時は別として。
ユニークシナリオEXを受注してからは、一緒にレベリングも頑張ってあとちょっとで50まで行くという所まで来てる。頑張れ仙ちゃん、ここがマジで重要だからね!
とは言え、生憎と仙ちゃんは今日はお忙しい様で……シャンフロはログイン出来なそうだねぇ。
何かしら手伝えたら良かったんだけど……流石に斎賀家のお仕事となると、俺が勝手に手を出す訳にもいかないんだ。
仙ちゃんもそこは理解してくれて、
『一さんは、ウェザエモンとの戦いに備えておいてください』
と背中を押してくれた。ありがてぇ……嫁さんに自分の事を理解してもらえるのがこんなにも嬉しいとは。俺は涙が出そうだぜ……
俺のモチベーションアップの為、そしてウェザエモンとの戦いの為に、俺は何がなんでもPvPをやらねばならん!
とくれば、だ———神代最強の英雄様と剣で語り合うならば、やはり此方も剣で語らねばなるまいて。それに打って付けの相手は、このゲームに腐る程居るからね!
「宿屋で起床! 気配察知からの床就き襖越し三段突き天誅ぅ!!!!!」
「ぐぼぁ!? なぜバレた…!?」
「気配ダダ漏れだってんだよ! 忍者になって出直してこいやボケェ!」
幕府側と維新側に別れた二陣営によるバトルロワイヤル。コンセプトは至って単純、『斬れば斬る程にハイスコア』だ。ここまであからさまにPvPが推し進められているゲームも中々無い。
正直に言おう、これは全年齢向けではない。いやゲーム的には全年齢向けなんだよ? けどね、ゲーム内における空気がね、子供をウェルカムしてねぇんだわ。
エリートぼっち専用ゲームとかまで言われた怪作。人の善意とやらをぐちゃみそに踏み躙った上でそこらの土にでもぽいぽいと肥料の如くに放り投げる世紀末……いや、
なんせ初心者は既プレイヤーからのリンチを喰らうのがお約束。なんからリスキルまでされるし、イベント開催中なら余裕で粘着される。一般的な視点から見るとマジで民度が終わってんだよね幕末。
そんな幕末世界で生き残る方法があるのかって? そんなん単純明快よ———相手に
先手必勝と執念、それこそPvPの必須技能! この二つがあれば誰だってPvP強者になれる事間違いなしよ!
スヴァブラでは唯一の勝利数5桁を記録して1年間ログインしてないにも関わらず1位キープして、幕末で過去に総合ランキング3位に入り、鯖癌ではϞᚦ隊に初の全滅を経験させ、ネフホロでは最高で2位までランクインしたこの俺が言うんだから間違いないぜ!
「おっ! 如何にも斬りやすい二の腕を曝け出している君は『銭鳴』のハルちゃんじゃないか! 久しぶりにその腕斬り落としていいかなっ!?」
「げぇ『初日天下』!?」
「『初日天下』!? 過去イベで『唯一剣』メタルマシュマロを下して総合3位まで捻れ込めたは良いもののレイドボスさんと俺達の勇者のタッグに目を付けられて初日で圏外まで下落したあの『初日天下』か!?」
「レイドボスさんとタイマンして片腕持って行ったっていう『初日天下』だって!?」
「うーん解説してくれてる様でお前ら単純に『え? お前初日で1桁ランクから下落したん!? ざまぁ!!!』って嘲笑ってるなぁ!? よっしゃ来いや浪人共がソロ式袋叩き天誅お見舞いしたるわボケカスがァァァ!!!!!!」
はいまず『銭鳴』! おらさっさと指パッチンしてみろや! その頃には既にくたばってるだろうがね!!!!
「はい腕突き出したな! 指鳴らす前に抜刀天誅!」
「なんでこれでランカー入りしてない訳!?」
PvPガチ勢に片腕自分から差し出すとか舐めてんのかおどれはよォ!
おら野良プレイヤー共掛かってこいや! こちとら鯖癌でもスヴァブラでも100人抜き経験済みなんだよ! 多対一ぐらいで遅れ取って堪るかい!!!!
「上等! ウェルカム天誅ならぬウェルカムバック天誅!」
「コイツ何気に初期からやってる古参プレイヤーだからな! 初期イベ報酬持ってるぞー!」
「レア物寄越せや対人狂!!!」
「流石は幕末プレイヤー、清々しいまでの集団リンチ! しかーし! そこまでされたら俄然生き残りたくなるのが対人狂ってもんだよねー!!!!」
幕末には団子天誅というテクニックがある。
まず一人目を大上段に斬り捨てます。
「ぐぼぁ!?」
次にすかさず刀を逆手持ちにしてからそのまま引き抜く様に腕を抜き放って二人目を斬ります。
「南無三!」
そこから動きを止めない様に一回転して三人目を回転斬りでぶち殺します。
「辞世の句読めねぇ!!」
まだ終わりません。ここで回転斬りし終えた瞬間に無理やり回転を止め、右手で逆手持ちした刀を支える様に柄尻に左手を添えて押し込んで四人目を貫きます。
「来世はみたらし団子になりたい!」
その勢いを利用して五人目の胴体にも刃を突き立てます。
「ざっけんな 前がみえんわ ドブカスが」
はい、これにて肉塊団子の完成ですね☆ 幕末では基礎テクだからね、覚えておくように。
え? 人の心無いのかって? いやいやありまくりだよ。てか俺悪くないから。これ天からのお告げだから。だって天誅だぞ? 天がやれって言ったんだから俺悪くありませーん。
「やっぱランカーじゃないと練習にならんな。ウェザエモンはマジで理不尽の塊だからな……となると理不尽が相手じゃないとな。うーん……」
よし———ユラくんちゃんに喧嘩売りますか♪
◇
待ち人来たれり、とはこういう事を言うのだろう。
幕末の世界は箱庭型だ。決して狭いという訳ではないが、かと言ってシャンフロの如くに広大という訳でもない、バランスの良い広さの世界だ。
下町長屋に城下町、武家屋敷に港、さらには無縁仏や竹林など、日本史におけ江戸時代末期を代表———するかはちょっと微妙だけど———とする建造物が盛りだくさん。
とは言え、そんなのお構い無しに斬った張った穿った殴ったの殺し合いを繰り広げるのが幕末民。下町で経験値稼ぎの為に小娘を遠慮なく両断するし、質屋に爆弾投げ込むのだって別に珍しくも何ともないのが本当に幕末してる。一応アンタらが住んでる国ですからね?
まぁそれはそれとして、場所は無縁仏。石造りの墓と饅頭、花が幾つも墓の前に添えられたそのエリアで、両者は対峙した。
「来てくれた」
「おう、(斬り)
「会えないと思ってた」
「俺が幕末から消える訳ないだろ?」
言葉だけ聞けばなんか逢瀬のそれに見えなくもないが、流石に絵面がヤバい。
見た目と中身の乖離が激しいVRゲーム界隈において、声も立ち振る舞いも完全に見た目と完全一致したベビーフェイスの和装男の娘と釣り上がった口元と鋭い三白眼に笠被りというあからさまな辻斬りファッションの男は世間的にどうか。
というかこの辻斬りファッション野郎は既婚者である。年下、しかも男に手を出すのは流石に罪深いぞ。打首された後で死なずに切腹しろ馬鹿野郎。
「やろ?」
「勿論。その為に来たんだよ———今日こそその首斬り落としてやるよキューティーフェイス!!!!」
「———天誅」
風切音がするよりも前に、剣筋がハジメの頬の真横を斬り裂いた。
見窄らしい錆び切った刀身を持つ刀———『
それを振るうは維新の羽織に袖を通した、少女と見紛う美少年。
幕末に魂を打って人間性を喪失した末路、歩く暴力装置とさえ揶揄されるランカー達ですら、しかして幕末民の数の暴力には敵わない。
故に彼らのランキングは基本的に『大体〇位』という風に呼ばれるのだが———そんな中で、このユラというプレイヤーだけは例外だった。
不動の1位———ユラ。誰が呼んだか『レイドボス』。幕末を初めてから今日に至るまで、一度だって1位の座から落ちた事がない幕末最強の剣士その人。
PvPガチ勢、対人狂として知られるハジメですら、今の今まで一度だって勝ち越した事がない格上のプレイヤーとの久方振りの対峙に嫌な汗が頬を伝い、されど口元は獲物を前にした獣の様に釣り上がる。
「っぶねぇ!!! けど足元がお留守だぜ最強!」
文字通り紙一重で躱した斬撃。しかし残念な事に休憩なんてものは存在しない。相手はランカートップ、幕末のありとあらゆるバグを味方に付けて戦場を蹂躙する怪物なのだ。そんな余裕は与えられない。
故に取れる手段は速攻のみ。思考を巡らす猶予すら捨て去って、もはや直感に従ってひたすらに攻撃を叩き込むのみ!
一瞬の脱力によって溶けるように下降。ユラの視界に僅かな残像を残す程のそれに、殺戮スイッチの入った彼の首筋へとビリッとした感覚が迸った。
「…!」
「っしゃ引っ掛かった! 宣言通り狙いは足元だってんだ!」
長きに渡るPvPによって鍛えられた瞬速のウィンドウ操作によって顕現したそれが炸裂する。
幕末初期のハロウィンイベントにおいて実装された、幕府側が唯一使用する事の出来る銃火器———打刀が着剣された小銃「春火銃刀」の凶弾が、ユラの足首へと放たれた。
「っ」
「あっぶ!?」
返す刃は鉄火をも斬り捨て、股下から脳天までを振り抜いて空振りを遂げる。
見た目こそ華奢だが、その内部ステータスは見た目に反した怪物具合だ。レイドボスなんて二つ名が現実味を帯びる良い理由である。
惚れ惚れするウィンドウ操作から繰り出される三つの短刀を、ハジメは同じ様に団子の串を繰り出して迎撃する。
「上手いね」
「はっ! PvPで相手の
距離を離さず、喰らいつく。
ハジメにしても、ユラは理不尽の塊だ。幕末はシャンフロとは異なり、決して完璧という訳ではない。多少なりともバグは発生するし、そして運営もそれを放置しているのが現状。
だが、だけれど決して酷い訳ではない。少なくともパッケージ版のベルセルク・オンライン・パッション———略して便P———に比べれば圧倒的に少ない。
そもそもゲームの前提がPvP。人と人の戦いにおいて、バグを戦闘に利用出来る者は限られる。とは言っても、このレイドボスはその全てのバグを戦闘に利用してくる訳だが。
しかしそれ故に———対処法だってある。
(どれだけバグがあろうが刀は刀! クロスレンジなら兎も角として、
錆光は確かに恐ろしい。
そもそもが幕末のエンジン下に完全適応した天才、それがバグを利用すれば、本来なら確率に左右されて砕けるだけのゴミか全てを斬り裂く刃の極端な方にしか傾かないそれを、正解を選び続ける事が出来る。
だが———そもそもが刀。腕をある程度伸ばして、振るって、突く武器。であれば、それが出来ない至近距離で銃殺か撲殺か刺殺か絞殺に縛るのみ。
「ダンスはお嫌いか? いっちょ派手に足踏み合おうぜ!」
「犬みたい。いいね」
「どっちかと言うと狼の方が嬉しいかな!」
とは言え、それが出来れば苦労は無い。
見窄らしい錆び刃の斬撃は、止むことを一切知らないと見える。至近距離になろうが、それは先手が取れた上で自分が攻めである事が前提の戦法。
相手が手を緩めず、ひたすらに攻め続けられたら瓦解する。儚き夢の様な戦法であった。
「だー無理無理!!!! チクショウめが! やっぱ銃なんて使い慣れないもん振るうのはいかん!」
「お手本、あげる」
「そらおありがたいこっぶねぇ!?」
「ばんばん」
楽しそうな声色とは裏腹に、リボルバーの二丁拳銃から繰り出される凶弾を着剣した打刀で弾き返す。
クソが、と毒を吐く。自分で距離を詰めたのが仇となった。
幕府軍と維新軍は、それぞれの陣営に応じた特殊な補正が得られる。幕末軍は刀剣系のスキルに補正が掛かり、維新軍はスキルへの補正が無い代わりに銃を使用する事が出来る。
ユラは維新軍。つまりは刀と銃の二つを自在に使い分けるオールラウンダーである。
対してハジメは幕府軍。銃は「春火銃刀」以外には所持しておらず、この至近距離では寧ろ邪魔ですらある。
そもそも小銃に着剣するのが打刀とは何ぞや? 扱い難い事この上なし!
「初期イベ装備だから愛着あったが、戦略的投擲ぃ!」
「惜しい、ね」
「布石だよ!」
目には目を、歯には歯を、錆には錆を。
ランカーにこそなっていないが、これでも幕末リリース時から遊びまくっているプレイヤーだ。故にバグだって心得ている!
「錆光二刀流だ! リボルバーだろうがライフルだろうがホームランを叩き込んでやるよ!!!!」
銃弾なんか関係無い。横幅何センチだろうがクリティカルくらい何度でも叩き出してやる。
「リロード」
「させるか! 喰らえ錆光ブーメラン!」
「わ」
ぶん投げている? 当たればどうということはない、これでも当たり所によってはクリティカルが出るのだから幕末の運営は相変わらず狂っている。
ほんの僅かな硬直は胴斬り絶好の隙。それを見逃す訳も無いし———あのレイドボスが、それを歓迎しない訳も無い。
「楽しい———ね」
「絶対
ぬるり、と。虚空から剣が零れた。
斬馬刀よりもさらに長い得物と、刃長の異なる大小二振りの得物。
正月イベントの1位報酬と2位報酬———「
幕末のイベント報酬の刀には、固有の能力が付与されている。と言っても、それは超能力的なものではなく、装備者の身体能力などを補助する様なものだ。
斬星竿の効果は『空気抵抗軽減』。
本来その長さ故に大きな隙を晒す筈の立ち回りを、ユラの技能により極めて危険な災害へと変貌させるその大太刀に対抗するは、これまたシンプル———『思考加速』である。
五輪の真髄、即ち空。無我の境地、天元に帰すは虚ろ也。
(……あれ? 俺ウェザエモン戦の練習に来てた筈なのに、普通に幕末楽しんでないか????)
……まぁいっか! 楽しいもんは仕方ない! いざや天誅ー!!!!!!
・大体…何位だコイツ?『初日天下』:ブレイダー・ハジメ
幕末におけるハジメのPN。無礼だ・ハジメ。
幕末リリース時からやり込んでいる古参であり、ランカー達と互角に渡り合えるし何なら天誅決められるのに、結婚してからVRゲーム自体のログイン数が減ったのでランキング入り出来ない名誉ランカー。
過去イベで瞬間最大風速とは言え総合ランキング3位になったり、ユラくんと当千さんの二人を相手にして1時間粘ったり、1回だけユラくんの片腕斬り落として一矢報いたり、とにかくスヴァブラのPvP経験と感覚頼りのバグのみで結構活躍してる。