サンラクの心中の台詞を一部訂正
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「NPCは死んだらリスポーンしない、か……」
ユナイト・ラウンズでの話し合いを終えた翌日。
シャンフロをやりっ放しで鈍った身体を動かすべく、朝からエナドリやらカロリーメイトやら、健康的ではないそれの為に走ってコンビニまで行って帰ってきたサンラクは、そのシャンフロの中でぽつりと呟く。
シャングリラ・フロンティアの精度は凄まじいものだという事は、サンラクとて知っていた事だ。物理演算にNPCのAIも、そこらのゲームとは比較する事すら烏滸がましい程の完成度を誇る。
それでいて世界観も設定に忠実で、もはや狂気とでも言うべき程のそれであるならば、寧ろその法則には納得以外の言葉は出てこない。
NPCは、死ねば生き返らない。二度と蘇生されない。リスポーンしない。そこで終わりだ。
もしも、このウェザエモンとの決戦にサンラクのNPC———もとい、ヴォーパルバニーの「エムル」を連れて行けば、彼女は間違いなく死ぬだろう。
それで終わりだ。先は無い。その時点で、エムルという名のヴォーパルバニーは屍と成り果てる———改めて、その現実を突き付けられた。
「事前に話しておいた方が良いよなぁ……」
「どうかしたですわ、サンラクサン?」
「なぁエムル。実は二週間後にウェザエモンに喧嘩売る事になってな。だからちょこっとパーティ解散する事になるかもしれん」
「びょごっ!?」
声になりそうもない何かを無理やり言語化した様なそれの後、エムルはフリーズした。さながら獲物に睨まれた本物の兎の如く。
「おーい、エムル?」
「うぇ、うぇぇぇ、ウェザエモンですわァァァァァァァァ!?!?!?」
「お、おう」
「お、おとうちゃんに知らせてきますわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「おわっ!?」
脱兎のごとく……と言うか、文字通りの意味で、エムルは部屋を抜け出した。別に取って食われる訳でもないというのに、その形相は明らかに焦燥と驚愕に染まっていた。
何やらとんでもないイベントフラグを踏み抜いてしまったか?
「んー、ペンシルゴンとカッツォとハジメ氏は兎も角として、ハジメ氏の嫁さんまで来るとなると遅刻はマズイからなぁ……ちょっとハジメ氏にメールしておくか」
サンラク:すんませんハジメ氏。こっちのユニーク関連でフラグ踏んじゃった
ハジメ:マぁジ? タイミングぅ……まぁいいや、どんくらい掛かるかとか分かる?
サンラク:いやぁ、それがさっぱり……ユニークのフラグなんで、多分結構掛かる
ハジメ:おけー。ペンちゃん達には伝えとくから、終わったらメールしろよー
サンラク:あざす。お詫びは幕末で
ハジメ:よしきた
ありがてぇ……サンラクは心からハジメが対人狂で良かったと感謝した。この人は基本的にPvPの約束さえすれば大抵の事は帳消しにしてくれるからありがたい、と。
「直感だが、これは見逃す訳にはいかないイベントな気がするんだ。アイツらには悪いが、こっちを優先させてもらうとしますか」
「サンラクサン、おとーちゃんが呼んでますわ!」
「あいよ」
パニック状態さながらのエムルに連れられ、兎御殿の最奥———ヴォーパルバニーの国ラビッツの頭を張るNPC、ヴァイスアッシュが居る場所へと足を運べば、そこにはいつになく険しい顔のヴァッシュが座っていた。
(マジかよ……なんか地雷踏んじまっか? いやでも悪いのはペンシルゴンだからな、俺悪くない)
「エムルから話はぁ聞いたがよう……お
死に損ない、という単語にウェザエモンの事を想起させつつ、サンラクは下手を出さない様に神妙な面持ちで———ハシビロコウの頭を着けてるので顔は見えない———答えた。
「はい。厳密に言えば、俺の友人達に手を貸すという形にはなりますが」
「お前さんも分かってんだろう?
「そうっすね…」
なんせまだレベル31。最低基準の50台にすら達してない木っ端も良い所の強さだ。相手の強さ、理不尽さを既に伝え聞いているからこそ、それはよく分かっている。
期限は二週間。それまでの間に己を鍛え上げ、ウェザエモンと戦う為の基準の最低限まで到達しなければならない———その条件こそ、このロールプレイの答えに繋がるピース。
舐めるな、とサンラクは心中で息衝く。伊達にクソゲーをやりまくっていない、あのフェアクソだってクリア出来た己のロールプレイ能力をとくとご覧あれ!
クソゲーで出来た事が神ゲーで出来ない道理はない。答えはある、見付けろヴォーパル魂! その意味こそがヴァッシュの問答に対する正答の鍵なのだ!
「兄貴……俺は別に、勝てるという確信があって挑む訳じゃねぇんです」
「……ほう?」
「さっきも言った通り、俺はあくまでもサブ……補助で、主幹となるのは俺の知り合いです」
己の立場を明確に明かし、あくまでも己は友人の助太刀に参じるという事を確かなものにする。
「兄貴は今、ウェザエモンがどの様な状態なのか、知ってますか?」
「いや? 奴に会ったのは随分前の事だからなぁ」
「ウェザエモンは今、PK……いや、殺人集団を鍛え上げる為の道具として、いいように扱われてます」
流石に言葉選びが物騒か。ならず者にでもしておけば良かった、と反省しつつ、サンラクはめげずにロールプレイを続行する。
「今回の作戦の提案者は、そのならず者と賛同者ですが……その二人は本気でウェザエモンを倒そうとしています。その為に、あらゆる手を尽くしています」
ペンシルゴンは勿論、あのハジメですらも綿密な計画を立てて動いている。
だからこそ、サンラクとカッツォタタキ……シャンフロにおけるPN「オイカッツォ」は、ユニークモンスターの討伐という作戦に乗ったのだ。
「手を尽くして、勝率は五割…いや、良くて四割かそこらでしょう」
「そりゃあ無謀ってもんだ。俺ぁ死にに行く事をヴォーパル魂と呼んだ覚えはぁねぇぜ?」
「ご尤もです。しかし友も、俺も、負けるつもりは欠片もありません」
さぁ、正念場だ。
気を込めろ。感情を高めろ。静かにされども熱く燃やしていけ。
「俺も、もう一人も———そいつに勝ちたいって心意気に手を貸すんでさ。死んでも戻れるからとかじゃない。勝っても負けても、泣いても笑ってもコレが最後。そう言ってのけたアイツの心意気に応えてやるのが、仁義ってもんだと、俺は思うんです」
「成程なぁ……仁義を出されちゃあ俺も弱い」
よっしゃキター!!!! サンラクは心の中で盛大なガッツポーズを決める。
「だが、お前さんが弱い事に変わりはねぇ。そこはどうする?」
「二週間。それがウェザエモンに挑むまでの猶予———俺も、もう一人の協力者も未だ木っ端の未熟者ではありやすが……間に合わせます。未熟者の不遜な蛮勇を、挑戦者の強者への度胸になるまで。
「…………なんだと?」
ふと、空気が変わった。
先程までの険しい表情が解けて、ヴァッシュらしからぬ驚愕が、そこにはあったのだ。
もしかして選択肢ミスったか!? と一瞬焦ったサンラクだったが、ヴァッシュの反応を見るにそれは違うのだと即座に理解した。
思いもよらぬ単語に、ヴァッシュは動揺に近い感情をさらけ出していた。
「お前さん、今ぁ……剣の鬼、つったか」
「は、はい。ならず者の賛同者で、【剣鬼】と呼ばれてます」
「———そいつぁ、どんな奴だ」
「ど、どんな奴って……ええと、
「その太刀の
「たしか……
(なんだなんだ!? やたらとハジメ氏について聞いてくるぞ!? いや……これ『剣鬼』についてか? そういえばハジメ氏も『剣鬼』とウェザエモンには何らかの関連性があるとか何とか言ってたけど…というか、なんでヴァッシュがここまで剣鬼に聞いてくるんだ? あー訳が分からん…何者だよ【大剣者】)
この時のサンラク、そしてハジメは知る由もないが、【大剣者】という存在は神代の主要人物達にとって決して欠かせない男であった。
ジュリウス・シャングリラにとっては頼れる友であり。
ウェザエモン・アマツキにとっては自分に匹敵する剣者であり。
セツナ・アマツキにとっては夫を任せられる友人であり。
エドワード・オールドクリングにとっては数少ない友人であり。
アンドリュー・ジッタードールにとっては大切なオタ友———本人無自覚———であり。
ジーク・リンドヴルムにとっては希望を見いだせた英雄であり。
そして———アリス・フロンティアにとっては、ペット以外で心を開いた人間であった。
それは彼女のペット達ですら例外ではなく、アリス・フロンティアのペット達———即ち、この時代におけるユニークモンスター達の半分が、【大剣者】と呼ばれた男と深い関わりがあったのだ。
それはヴァッシュ———ユニークモンスター【不滅のヴァイスアッシュ】もまた、同じ事。
「………………そうかい。
「おとーちゃん…? もしかして、
(おいおいおい……ハジメ氏、こりゃまだまだ長くなりそうだよ…)
◆
「本当に申し訳ございませんでしたハジメ氏、千氏」
サードレマの路地に構えた人通りの少ない店『蛇の林檎』に入店早々、サンラクはずさぁぁぁっ!!!!と、勢いのついた土下座をかました。
おー、こりゃ絶景。あのサンラクが見た事ないくらいの焦燥で土下座してやがるぞ。幕末でもこんな綺麗な土下座した事ないぞコイツ。
サンラクにも遅刻して良心が痛む程の人間性が残ってたんだなぁ……俺は嬉しいぜ。クソゲーで人間性全部擦り切れてなくて良かった良かった。
「あっれー???? おかしいなぁ、あと二名の名前が入ってないんだけどぉ????」
「3時間待たせてこっちにだけ謝罪無しですかー? 差別ですかーサンラクくぅん????」
「遅れてすまん。一応謝意が無くも無い」
「大変元気な御方ですね、ハジメさん」
「でしょ? 超愉快な奴なんだ、コイツ」
いやー事前に説明しといて良かった。後コイツが俺にメールを寄越してたのも。これが無ければ多分この場の空気が絶対零度になっていた事は間違いない。
我が嫁は生真面目だからねぇ……諸々のゲーム的雰囲気を説明したとはいえ、ぶっちゃけこの三人揃いも揃って外道だからな。適応出来るかどうか……まぁ別に無理に適応する必要は無いんだけどもさ。
いざとなれば斬れば良い話だからね!
「なんだろう、今すっごい身近な人から切っ先向けられた気がする」
「嫁さんの前で争うのは抑えようか……ハジメ君なら本気で首斬り飛ばしかねないよ」
「かねないというか確定だろ」
「千ちゃんが居る手前、そんな物騒な事はせんさ。はい、雑談はそこらでお終い。サンラク、ユニーク進めてきたんだろ? 収集は?」
「攻略の足しになりそうなもんがチラホラありやしたぜ」
「よろしい、吐けば不問とする」
お、許しが出た。ペンちゃんにしては中々珍しいじゃないか。
そうしてサンラクが情報をポロポロ零す中で、気になるのが一つあった。
「……とまぁ、直接攻略の役に立ちそうなもんはなかった訳だが、何かと『死に損ない』って表現してたんだ。なんで、生きているけど死んでいる状態……つまりアンデッド系のモンスターなんじゃないかな、と」
「なるほど……有り得るかも。確かに動き出しは身体が硬かったし…肉体をサイボーグ化したロボ系かと思ってたけど、アンデッドなら辻褄が合う部分が……」
あー……アンデッドか。なるほど、言われてみれば確かに。その可能性は十分に有り得たもんだな、ミスった。
神代技術が超絶テクノロジーを地で行ってると仮定するなら、肉体の時間停止ぐらい余裕でやってそうだもんな。けど長い年月を経て意識は摩耗、遂には喪失。肉体は鎧みたいな装甲によって時間停止してるけど、物質的には死んでいる……みたいな?
最初の動きが硬かったり、言葉が途切れ途切れなのはつまりそういう事か。
となると、あの状態のウェザエモンには意識が無いって事になるのかね? そうくれば、あの訳分からん即死範囲攻撃の後のウェーブで意識を取り戻す……ってのは、ゲーム的にかなりセオリーだな。有り得そうだ。
「ちょっと用事が出来たから、夜まで別行動ね」
「別行動って、じゃあその間どうするのさ」
「取り敢えずこれ渡しとくから、夜まで神代の鐡遺跡でレベリングしてて。ハジメ君と千さんは見張りお願い」
「あいよー」
「承りました」
「侍と女武者に見張りされるってもはや島流しだろ」
「え、なになに打首ご所望?」
「結論出すのが早いんだよ。どんな脳内構造してたら流刑が処刑に秒変換される訳?」
死にゲーやりまくってる奴に言う事じゃないぜカッツォきゅん。何度も言ってるだろ? 先手必勝と執念だって。頭の中がそれで覆い尽くされてぐちゃぐちゃになったら立派な対人狂の完成なのさ、スヴァブラにはわんさか居るぞ。
スヴァブラにハマっている人間でまともな奴は居ない、断言出来る。中にはゲームの雰囲気に当てられてそこらのカルト宗教がマシに思えてくる様な発狂事案をゲーム内で発生させた人間だって居るくらいだ。
スヴァブラにハマった奴の末路は大きく分けて二つ。本編ストーリーの奥深さと考察に沼って黒き血に呑まれたか、対人戦に沼ってひたすら殺し合ってるかの二択だ。言うまでもなく俺は後者。
しかも運営はそれをニコニコしながら放置してやがる。全く良い性格してるぜパレスアップ。新作はよ。スヴァブラ2待ってるぞ俺達は。
「取り敢えず行けば分かるから! それじゃレベリング頑張ってねー! また夜に集合するからよろしくー!」
「行っちゃったな」
「なんとなく行先が分かったなー俺」
対アンデッド特攻となれば、あのNPCの元に行く気だろう。このシャンフロのアイドル様だからなー、会えるのかね? まぁ会うのが難しいのはそのNPCにガチ恋みたいな事やってるクランの所為でもあるんだけど。
【聖女ちゃん親衛隊】だっけかな。【ティーアスちゃんを着せ替え隊】と何ら変わらんぞ。主に守護してるか襲いかかってるかの二択だ、後者に関しては普通に気持ち悪い。
ちなみにその着せ替え隊のリーダーとは知り合いだ。PN「サバイバアル」———元阿修羅会の幹部であり、かつて鯖癌で「Φの野人」と呼ばれた蛮族です。
鯖癌終了してから何してんのかなーと思ったら、まさか非実在性幼女趣味に目覚めていたとは……人間何が起こるか分からんよね。こわやこわや。
「取り敢えず行くか。ぱぱっとレベリングせにゃ」
「レベリングって言ったって、釣りって……何なのこれ」
「アイテムテキスト見た感じ、普通の釣竿だよこれ」
「お魚は赤いのよりも白い方が美味しいって、お……じゃなくて、カシラが言ってたですわ!」
「そういやサーモンって白身魚らしいぞ」
「うせやんあの見た目で? 見た目詐欺だろ、めっちゃ赤いじゃん鮭」
「赤身か白身かの基準は身の色ではなく、色素タンパク質の量で決まるのですよ」
「へー、今度チームの皆にも教えとこう」
さっすが千ちゃん、料理知識も豊富だぜ! まぁ多分お祖父様が話すんだろうなぁ、あの人釣り好きだし。
「ん? ちょっと待って、さっき喋ったの誰?」
「エムルー、チキチキ☆いつバレるかマフラー擬態グランプリ止めていいぞー」
「なんですわその変なイベント!? これはれっきとした擬態術なんですわ!」
「うわマフラーが喋ったっ!? え、うさぎ!?」
「か、可愛い…!」
「兎に心ときめかせてる千ちゃんぐうかわ過ぎんだろ」
「ひゃっ!?」
あ、バグっちゃった。色々タイミングが重なってしまったらしい。
……おい、そんな目で見るな。仕方ないだろ可愛いんだから。嫁さんの可愛い所はいつだって口に出す、これ夫としての常識です。
ウェザエモンが実力を認めた神代唯一の剣客であり、ユニークモンスターの実質生みの親的存在のアリスが心を開いた人間であり、そのユニークモンスター達と戯れて五体満足無傷で生き残り、最終的に外付けの封臓無しでマナ粒子を完全制御して不死を保ったけど亡霊と化してしまっただけの無銘の剣士、それが大剣者です。
なんてことはない一般剣士です、通してください。