「ただいま戻りました」
屋敷の玄関を潜ると、奥からドタドタと駆けてくる音が聞こえてくる。
「シキさまぁぁぁあ!」
廊下を、猫耳を生やした少女が両手を広げてながら駆けてくる。
「おかえりなさーい!」
むぎゅうっ
「うぉぉあ!?」
助走を付けて胸元に飛び込んできた少女を、咄嗟に受け止めるも、
勢い余ってそのまま後ろに倒れ込んでしまう。
「いっっててて…」
「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、大丈夫。…ただいま、橙」
少女…橙の頭を優しく撫でると、橙は目を細める。
この子の名は橙。
化け猫の妖怪で、パッと見では普通の少女に見えてしまうが、猫の耳と、二つに分かれた尻尾が伸びている。
「おかえりなさい。ちゃんと手を洗ってくるのですよ」
「…はい」
奥の台所の方から、藍様が顔を出す。
このお方は八雲藍様。
12年前、当時7歳だった俺を拾い育ててくれた方だ。
洗面所に向かい汚れた手を洗い、服を脱いで籠に入れると、自室から持ってきた新しい服に着替える。
そうして居間へと向かうと、既に居間のちゃぶ台の前に人影があるのが見えた。
「あら。帰ってたのね、シキ」
「ただいま戻りました、紫様」
このお方は、八雲紫様。
藍様の主人であり、この屋敷の主だ。
幻想郷の賢者であり、幻想郷の平穏の為に日々奔走しておいでだ。
悪い方ではないのだが、胡散臭いだの信用できないだのと、悪い印象を持たれることが多いお方だ。
「シキ様、後で…橙と一緒に遊んでくださいませんか?」
俺の後から居間に入ってきた橙に、上目遣いでそうおねだりされる。
俺は橙のこの目に弱く、このように橙に頼まれては断れない。
「いいよ。お昼ご飯の後は、一緒に遊ぼうか」
「わーい!ありがとうございます!」
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「シキ、少しよろしいですか?」
食事の後、屋敷の庭で橙と手毬で遊んでいると、藍様に声をかけられる。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
橙にそう声をかけてから、藍様の背を追い居間へと向かう、机には湯呑みが置かれている、淹れたばかりなのか、湯気が立ち上っている。
「今朝は、霊夢の様子はどうでしたか?」
対面に座り、お茶を啜っていると、藍様にそのように問われた。
「いつも通りでしたよ、最近少し冷えてきたんで、起きてくるのが少し遅かったですが」
霊夢は、いつも7時頃には起きてくるのだが、今日はいくら声を掛けても布団から出てこず、結局10時ごろに顔を出してきた。
「あの子は…。シキ、そう言う時は遠慮なく叩き起こしていいのですよ?」
額に手を当てて息を吐く。
俺は週に3度ほど、博麗神社に行き霊夢の様子を見に行っており、神社の境内の掃除やらを手伝っている。
ここ最近の、俺の数少ない仕事の一つだ。
「あまりあの子を甘やかしてはなりませんよ?博麗の巫女として、しっかり務めを果たしてもらわなければなりません」
俺自身自覚があることなのだが、昔から、ついついあの子を甘やかしてしまう。幼い頃からあの子を見ているので、どうも、妹に対するような感覚で接してしまうのだ。
「次の異変は、あの子一人でやってもらうつもりです。…余計な手出しはしないように。わかりましたか?」
「もう…ですか?あの子はまだ16ですし、一人での異変解決は早いのでは…」
そう言うと、ジトっとした目付きで藍様がこちらを見やる。
「そうやって甘やかすから、霊夢が真面目に仕事をしないのです。」
「そもそも、霊夢が博麗の巫女になってから導入された『弾幕ごっこ』では、貴方の眼は役に立たないのですから、これからはもう、貴方が妖怪退治に出る必要はありません」
「…そう、ですね」
俺の反応に違和感を感じたのか、藍様は訝しげに首を傾げながらこちらを見やる。
「シキ、どうかいたしましたか?」
「いえ、なんでもありません」
それに対しかぶりを振ってそう告げると、藍様は「そう…ですか?」と未だ違和感を抱いてはいるようだが、それ以上は聞き返してくることはなかった。
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「では、藍様。失礼致します」
居間出て、橙の待つ庭へと歩みを進める。
紫様が制定した、『弾幕ごっこ』とやらのお陰で、不必要に血が流れることは少なくなった。
それは、うん。…それはきっと、とても良いことなのだろう。
俺だって、霊夢が妖怪との戦いで傷つくところなんて、見たくない。
そして、これからは俺が、妖怪と戦う必要がないってことも、頭ではよくわかっている。
でも、それじゃあ。
それじゃあ、僕は…これから、いったい。
なんのために、生きていけば良いのだろうか。
この小説書き始めた理由は、八雲藍(CV夏吉ゆうこ様)の甘々ボイスにやられてしまったからだったりします。皆さんも是非。
本作はほのぼの日常系を目指して書いていきます。
ドラクエの更新があるので、この作品はたまにしか書きませんが、気が向いた時に今後も書いていく方針。
⚫︎次回 紅魔異変(かもしれない
⚫︎ちょっとした登場人物紹介
⚪︎八雲式(シキ)19歳
八雲家で育てられたちょっと特殊な眼を持つ男の子。
霊夢が博麗の巫女を継ぐまでの12年間、幻想郷の治安維持に奔走した。
潜在能力では本家志貴には遠く及ばないが、幼い頃から眼を使い回していた影響か、眼の性能はオリジナルよりもやや上。
最近の悩みは、自分の存在意義がなくなった事。