Vtuberになった妹がうざい   作:Takeru_matsutake

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俺は妹が嫌いだ

六月一七日。

 

時刻は深夜二時を回った所。

 

顔も声も知らぬプレイヤーネーム『暗黒丸TNP狂乱』が三乙目をかましたところで、コントローラーをベッドに放り投げた。画面に映るクエスト失敗の文字。

……ふぅ、アンガーマネジメント。たかがゲームでイラつくわけがないだろ。それに、このPNからして相手は明らか中学生男子だ。高校二年生の俺が、たかだか中学生の三乙程度で。

 

『雑魚TNP、付き合ってられん。乙』

 

チャットを送信すると同時に、ホームボタンを押してゲームをやめた。これ以上は精神衛生上良くない。というか、明日も学校あるし。ホーム画面にメッセージの通知が出るが、アイコンが三乙TNPのものなので無視して電源を落としヘッドホンを外す。

 

「寝るかぁ」

 

ベッドに横になると、すぐにいい感じの眠気が襲ってくる。布団の中で微睡んでいるのを感じながら、意識が持っていかれる瞬間を待っていると

 

「ちょっ!無理無理無理!生理的に無理なんだけど!!」

 

一気に現実へ引き戻された。

 

傍迷惑な隣人、というか妹。

 

妹と直接言葉を交わすことがなくなって久しいが、母さんの話では最近インターネット上での配信活動を始めたらしい。父さんと母さんは冷戦状態の俺と妹の関係を、思春期特有の一過性のものだと捉えているらしく、きいてもいないのに俺に妹の話をよくしてくる。無視するわけにもいかないので空返事だけは返しているが、このお節介を妹にもしていると考えると……恐ろしいな。俺はとてもじゃないがそんなことできないが、あの妹のことだ、舌打ちの一つで済めばいい方だろう。

 

そんなことを考えている間も、先ほどの絶叫ほどではないがぶつぶつと何やら話し声が隣から響いてくる。

 

壁ドンの一つでもしてやりたいところだが、そんなことをすれば妹はワイヤレスのイヤホンマイクをつけたまま俺の部屋へやってくるのだ。そして

 

「何?」

 

文句があるなら何か言い返してみろと言わんばかりの態度でこちらを睨みつけてくる。

 

妹の配信活動とやらに一体どれだけの人数が集まっているのかは知らないが、俺は不特定多数の前で兄弟喧嘩などという醜態を晒す気はないし、妹の配信をわざわざ見にくる人間を物好きだとは思うが、それが楽しいと感じている人をわざわざ邪魔したいとも思わない。

 

くそ、妹より俺の方がよほど妹の視聴者のことを考えてるじゃないか。

 

俺はヘッドホンのノイズキャンセリングをオンにして、静かな音楽をかけ目を瞑った。

 

人生というのはままならない。

 

特に家族のこととなると自分ではどうにもできない。それは、何兆分の一の奇跡とも言われるが、俺からしてみれば因果的な何かによる呪いだ。

 

決っして切ることの出来ない、精神的なつながり。俺と妹、二人を繋ぎ止める強固で、重い鎖。物理的な何かは一切なくとも、俺があれを妹だと認識した瞬間から、あれが俺を兄だと認識した瞬間から、それは生まれて、きっと死ぬまで消えない。

 

家族仲良く、それは理想だ。

本音をぶつけ合って、一切の遠慮のいらない関係、それは理想か?

妥協と、打算と、達観と、諦めにまみれた関係を理想としてはいけないか?

 

そこまで考えて、自分がよくない思考の連鎖に陥っていることを自覚する。

 

ああ、さっさと眠りたい。

 

日中はこんな無駄なこと考えないのに。夜中に眠れないとこんなことばかり頭の中でぐるぐると浮かんでくる。

 

くそ、

 

あそこで寝られてれば。

 

結局、答えのない問い、無意味な自問自答は、俺の脳が疲労でシャットダウンするまで続いた。その間もずっと、ヘッドホンから流れる音楽の隙間には、妹の声が聞こえ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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