旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす 作:しゃふ
金曜日、今日はアルスが娼館に来る日だ。
私は身なりを整えながら、店裏にて彼の到着を待っていた。
「……むむむ」
んー、こっちの赤のリボンの方が……いやでも、ハニイさんが選んでくれたやつの方が似合ってるかなぁ、うー、もどかしい。
悶々とした気持ちをいっぱいにしながら、私は足をぶらつかせる。
すると。
「どうだ、アイツとは最近上手くいってるか」
隣の店長が話しかけてくる。
相変わらずの悪人顔はそのままだ。
「娘との関係に悩むお父さんみたいなことを言わないでください、店長。
反抗期が加速しちゃいますよ」
「……そうか、すまん」
私の言葉に若干シュンとしている気もするが気にしない。
年頃のレディーにそういうことを聞くのは無粋なものである。
……いや、私がレディーかは色々諸説あるけど。
そんなことを考えながら、先ほど冒険して塗ったマニキュアをチラチラと見ていたときである。
「——その首輪」
不意に店長が言葉を放った。
「前にお前が寝ているときに確認したが、随分と魔力が減っていた。
この調子で行けば、出られるのはすぐだろう」
「……え、まじです?」
「あぁ。
魔力の減少量は、行為相手によって上下するように設定してある。互いに想い合っているほど、強くなるようにな。
きっと、それが原因だろう」
「ほむほむ、そうですか。
……へー、そうなんですか、へー、へー」
想いあってる、かぁ。
えへ、えへへ、なんか勝手に頬が緩んでしまう。
ま、まー、当然である。
私たちは、親友なんだし、当然のことだ。
「アイツのこと、大切にしてやれ。
大事な人なんだろう」
む、それくらい、言われなくても分かってるし。
……まったく、さては童貞だなこの店長。そういや、恋愛経験0とか言ってたし、チェリー店長である。
若干の羞恥心と反発心に襲われ、私は店長に向かってべーっと舌をだす。
だが。
「——もちろん、自分のこともな」
頭に置かれた手を見て、自然と舌は引っ込まった。
……しょうがない。
ぶきっちょな父親には素直にその真心を受け取ってやるのが私のポリシーである。
そのまま、数分が経ち。
そろそろ、三号室で待っておこうかと考えだしたときである。
「前に、お前に話したな。
契約が終わったら、正式の店の一員として迎えるのも考えてやると」
急に店長が別の話を始めた。
「ん、そういえばそんな話もありましたね」
随分と突然な話だが、まあ前にも話したことだ。
べつに驚くようなことじゃない。
契約が終わっても娼館で働く。
そのこと自体は私も考えていた。
もちろん、嬢として働くのではない。やるとしたら経営の部分とか、店長のお手伝いとか、今やっている雑務の延長線上の仕事だ。
……正直言って、魅力的な話だとは思う。
娼館のみんなは大好きだし、お金だって、ある程度は貰えるだろう。
それに、こんな世界だ。
もし、店長に何かあったりすれば、この店は継ぐ人がいなくなってしまう。そうなったときのためにも、後継者というのは必要なのだ。
……でも。
「あの、店長。
私には、その——」
「分かっている」
「へ」
私の言葉は店長に遮られた。
「——あれは忘れろ。
契約が終わったら、二度とここには来るな。
娼館に立ち入ることは俺が許さん」
唐突に告げられた強い言葉。
その内容は、一種の絶縁状のようなものであった。
「お前はアイツと二人で生きていくべきだ。
だから、そのためにも、ちゃんと気持ちは伝えろ。
俺が言えることは、それだけだ」
それを最後に店長は店へと戻ろうと、背を向けようとする。
だから、私は。
「——オムライス」
その背中に向かって、声を投げかけた。
「気に入ってるんです、アレ。
だから、たまに食べに来ますよ。
それくらい、別にいいでしょう?」
「……言っとくが、従業員じゃない奴にただで飯は出さんぞ」
「えー、店長のケチー。
せっかくアルスと一緒に毎日食べに来ようと思ってたのに」
その言葉を最後に店長はふんと鼻を鳴らした。
どうやら、この話はここで終わりらしい。
「もう時期アルスが来る。
お前は部屋に向かって、アイツを待て」
「はい、わかりました、店長」
そうして、私は三号室へと向かった。
アルスside
「よっ! アルス。
……なんか、変な感じの挨拶になっちゃった。
ま、いいや、とりあえず入ってよ、アルス」
「うん、ありがとね、リーナ」
いつもの部屋の扉を開けると同時、僕はリーナに手招きされた。
……相変わらず、可愛い。すごく可愛い
「隣、来てよ、アルス」
チラと見たところ、服装に関してはいつも通りらしい。
僕は少し安心したような、とはいえもどかしいような気持ちに襲われつつも、彼女の隣に座った。
すると。
「どーん」
リーナが僕のお腹へと倒れ込み、そのまま、僕の組んでいた膝の上へと、座る。
「えへへ、アルスのここ、好きだから」
膝がポンポンと叩かれ、彼女の甘い匂いが鼻をくすぐった。
小さな身体は、僕の背中と、腕によって完全に包み込まれ、可愛いつむじがちょこんと姿を現していた。
……可愛い、可愛いんだけど、いや、でも、これは。
——お尻が当たっている、その、あそこに。
座る位置に苦労しているのか、リーナはぐりぐりと、お尻を動かす。
そのたびに、身体がビクッと震え、脳が熱くなる。
……だめ、だめ、平常心である。
「お、ここ良いかも」
ようやく適切なポジションを見つけたのか、リーナは背中を僕の方へもたれかけた。
……僕の方のポジションはその、アレだけど、いや、いいか。
反応しなければ、済む話だ。
そんなことを考えながら、僕はリーナへと視線を向けた。
「この前はありがとね。
アルスがお店まで運んでくれたんだよね」
「例には及ばないよ。
それより、あの後は大丈夫だった?
随分と酔っ払っちゃってたけど」
「大丈夫大丈夫。
仕事はほっぽり出しちゃったけど大丈夫。
そんなのより、アルスとの時間の方が大事だから」
言いながら、リーナは身体を左右に揺らす。
ぐらぐら、ゆらゆら、ずりずりと。
……へいじょうしん、である。
唇を噛む僕。
そんな僕に対してリーナが少し、トーンを変えながら、言葉を放った。
「……あのね、アルス。
一つ、お願いがあるんだ」
「——え、あ、なにかな」
真剣そうな彼女の声に、身を引き締める。
引き締める、が……
——お願い。
その言葉を聞くと否でも前来たときのことを思い出してしまう。
……もしかして、早速、首輪の件だろうか。
あのときも、続きって、言ってたし。
僕はソワソワする心から身を背けながら、彼女の言葉を待つ。
「明日の土曜日ね。
私、お店に来ちゃダメって言われてるんだ」
「……え、あぁ、そうなんだ」
ただ、返ってきた言葉は、思っていたものと違うものであった。
……なんか、一人で舞い上がってて恥ずかしいな。
そう思った僕は一息ついて、身体を落ち着かせようとする。
しかし。
「——だからね。
アルスの泊まってる宿に、行ったら駄目かな」
次の言葉を聞いた途端、僕の身体はビクッと震えた。
僕の泊まっている宿に、リーナがくる。
それはつまり、同じ屋根の下で、一夜を共にするということだ。
「に、日曜の朝に帰って来いって言われてるから、二泊だけお願いしたいんだよね。もちろん、アルスが駄目なら、他に当たるけど……で、でも、ほら。パーティメンバーの人に挨拶もしたいしさ、できれば、引き受けてくれれと助かるというか……」
リーナはチラチラと僕の様子を伺いながら、たどたどしく声を漏らす。
途切れ途切れの言葉は、不安が伝わってきて、僕の心へと突き刺さった。
断る理由はない。
「大丈夫だよ、リーナ。
なら、今日は一緒に帰ろうか」
僕はぎゅっと彼女身体を抱きながら、耳元で囁く。
瞬間「……んぁ」という艶かしい声がリーナから漏れて、少し、焦った。
「ありがと、アルス」
そう言って、彼女はまた僕の膝の上で身体を動かしだした。
「ふふふーん、ふふっ、ふふ」
鼻歌をこぼすリーナを微笑ましく眺めながら、僕は考える。
……そうか。リーナと同じ宿か。
いや、それ自体は大して意識することではない。
べつに、同じ部屋で寝るわけでもない。お風呂だって別だろうし、一緒なのはご飯を食べるときだけだろう。
……でもまあ、うん。そうだな。
ダグラスたちには、帰ったら、別の宿を紹介しとこう。
「ん? あれ、アルス?」
紹介くらいはしたいけど……どうせダグラスのことだ。
また変にからかってくるに決まっている。
それならば、先手を打ってさっさと出ていってもらう方が吉だろう。
「……あ、あの、ある、す」
それに、ジェルナーさんもときどき下着で彷徨いてたりするし、変な誤解を生まないためにも、宿は僕ら二人きりの方がいいだろう。
うん、そうに違いない。
「え、えぇ、うそ、あー、その、え。
お、おーい、あるす、くーん」
……ただ、丸々一日空いてるなら、そうだな。
また、一緒にどこか行ってもいいかもしれない。
リーナと出かけられるチャンスはそう多くはないんだ——
「——あるす、ちょっと、話、聞いて」
「……え、あ、なに?」
パンパンと膝を叩くリーナの声によって、僕は急激に意識を戻す。
……ん、なんかあったのか?
疑問に思った僕は、膝の上の彼女へと視線を向けた。
相変わらず小さな彼女の身体、下を向いているその態勢のおかげか、綺麗なうなじがよく見える。
——あれ。
……なんで、リーナは下向いてるんだ?
僕は彼女の視線の先を探る。
組んだ膝の真ん中、真下を覗き込む態勢の彼女の姿からして……それは、ちょうど、リーナの身体の下にあった。
——あ。
僕は、気づく。
自らの身体が、どうなっているか。
ぐりぐり揺れる彼女のお尻の肉感によって、変化してしまったものが、なんなのか。
「——お、おっきくなってる、けど、大丈夫?」