旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす   作:しゃふ

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17話 大好きな人

 

「……だれ、おっさん。

 近寄んな、きもいんだよ」

「それは心外だ。

 私はずっと、君のこと追い求めていたというのに」

 

 肥えた身体に、ニタニタとした笑み。

 貴族。

 そのイメージにピッタリ収まるようなその醜悪な姿に、思わず目を尖らせた。

 

 私は、この男を知っている。

 

「——リーズレット。

 覚えてる、貴方のこと」

「あぁ、そうかい。

 私も同じさ、リーナ。

 奴隷の名前を覚えたなんて、君が初めてだよ」

 

 リーズレット。

 思い出した、この男がなんなのか。

 私はずっと前に、こいつと会っている。

 

「昔、買い逃した奴隷とまさかこんなところで会えるとは。

 娼館の近くで待って正解だった。

 あの店長。やはり私に隠していたか」

 

 ——こいつは、私を買う予定だった貴族だ。

 

「アレを持ってこい」

 

 リーズレットが声を上げる。

 その声の方向にいるのは、一人の少女。

 私の迎えに来ていた、あの小さな娼婦だ。

 

「……はい、リーズレット様」

 

 ……グルだったのか、この子も。

 やり場のない感情を頭の中に閉じ込めながら、私は、辺りを見渡した。

 

 リーズレットだけじゃない。

 そこには何人もの男が立っている。

 どれも、身なりが杜撰で、傷だらけの顔。

 異臭が鼻について、ゲホゲホと息を吐いた。

 

「だして、ここから、だしてよ」

「すると思うか?

 なんのために、わたしがここまでしたと思っている」

 

 相変わらずのニヤつきを隠そうともしないその態度。

 彼の視線は、先ほどからずっと変わらず、私の身体に向いていた。

 ……きもちわるい。

 

「さて、これを飲めばどんな女の子でもあっという間にイチコロさ。

 おい、やれ」

「はい」

 

 ニタニタと汚い笑みを浮かべながら、リーズレットが部下の男に命令する。

 即答する男。

 言葉と同時、男は私の口へと手を伸ばした。

 

 ……真っ白な小さな錠剤を手にしながら。

 

 男の手が、私の口に侵入しようとする。

 汚い手が、アルス以外の手が、わたし、の、口に。

 

 反射的に、私の身体が動いた。

 

「いてっ!

 っ、このクソガキ。

 なにしやがる——」

 

 男の指にできる限りの力を込めて、歯を立てる。

 だが、力は弱い。

 それでも、私は床に落ちた薬をなんとか、震える片足を使って突き飛ばした。

 

「ガキがっ! 調子に乗りやがって!」

 

 私の行動に男が激高する。

 振り上げられる拳、目を瞑って、衝撃に耐えようとした。

 

「よせ」

 

 しかし、その拳はリーズレットの一声で下ろされることになる。

 

「いきなり痛めつけるのは興が乗らん。

 薬はいい、一度下がれ」

 

 一瞬、安堵する私。

 

 でも、すぐに理解した。

 

「——おい、馬車を止めろ。

 ここまで離れれば、もういい」

 

 彼の言葉、それは、決して優しさから来るものではない。

 いやむしろ、私の態度を見て、この男はさらに醜悪な笑みを強くしていた。

 

「たまには、薬を使わないのも面白い。

 無理やり犯すのも嫌いではないからな」

 

 そう言って、リーズレットが私に近づいてくる。

 

 嫌。

 私は必死に身体を動かそうとするけど、恐怖か、それともあの子に嗅がされたもののせいか、まるで、動いてくれない。

 

 顔を恐怖に強張らせる私、それを見て、男たちが口々に声をこぼした。

 

「あとで俺たちにも取り分くださいよぉ?

 その女を娼館に送り込めたのは、俺たちのおかげなんですから」

「そうそう。

 あの店長はガキには甘いからな。

 傷だらけにして店の前に捨てとけば拾ってもらえる」

 

 男たちの言葉を聞いて、私は少女へと視線を送る。

 

「……ごめん、なさい」

 

 ぼそっと、男たちには聞こえないような声で、そんな言葉が聞こえた。

 

 

 

「さて、リーナ。

 少し、私の趣味に付き合ってもらおうか」

 

 リーズレットの手が、私の顎に触れる。

 唾を吐き捨てようとする私だが、でも。

 ギラギラと光る金属質な刃が、視界に映って、言葉が詰まった。

 

「正直に答えろよ。

 手足の一本くらいなら落としても困らんからな」

 

 男たちの下卑な笑みを受けて、私の身体は、急激に強張りだす。

 

 そして。

 

「経験人数は?」

 

 リーズレットの言葉。

 私は彼の顔を見ずに、答える。

 

「……したこと、ない」

 

 本当の、ことを。

 

「あは、あははっ! そうか、あのときからずっとか。

 よほど、娼館では上手くやっていたのだな」

 

 まるで狂ったように歓喜する男に、私は恐怖した。

 怖い。

 こわい、こわい、こわい。

 

「賢い女は嫌いではないぞ。

 無理やり犯したときに、よく鳴くからな」

 

 この男は、本当に、女を壊すことで快感を得ている。

 そのことが、わかる、わかってしまう。

 

「あぁ、待ちきれん。

 もういい、他の質問は後回しだ。

 だが、最後にこれだけは聞いておこう」

 

 

「——想い人はいるか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の頭は激しく揺れた。

 思い浮かぶ人は、一人だけ。

 ずっと、大好きな、男の子。

 

 ——やっと、好きって伝えられたのに。

 

「……聞いて、なんになるの」

「言っただろう、趣味さ。

 それに、質問に答える以外に口を開く許可をした覚えはないぞ」

 

 男たちの刃が私の腕に触れる。

 アルスのためにだけある、私の手。

 それを傷つけられるのが、嫌で、怖くて、私は、声を漏らす。

 

「いる」

「そうか、そうかっ!

 いるのか!」

 

 リーズレットは、その言葉を聞いて満足したかのように、男たちを後ろに下がらせた。

 

「では、私が直々に剥いでやろう。

 子種を注ぎ、孕ませた暁には、貴様の想い人とやらの元へ連れてってやる。

 従順になった貴様を見せてやりたいからな」

 

 リーズレットが、迫る。

 部下の男たちも、私を見ている。

 逃げようにも、身体が全然動いてくれない。

 

 そのとき。

 

「あ、あの、ご主人さま、ここでは、まだ。

 追手、が」

 

 少女が、声を出した。

 ずっと黙っていた、あの、女の子が。

 

「……あぁ? 貴様、誰に向かって口をきいている。

 黙っていろ。

 今はこいつだけだ、貴様に用はない」

 

 でも、その言葉は一瞬の時間稼ぎにしかならない。

 酷く低い声でリーズレットが吐き捨てると、少女は男たちに蹴り飛ばされて、ずっと遠くで、倒れた。

 

「……さてと、邪魔者も消えたことだ。

 もう、いいだろう」

 

 リーズレットが迫る。

 脂肪に包まれた大きな身体が、私の前に現れて、今にも覆いかかろうと、手が、広がる。

 

 ……あぁ、ほんと。

 

 私は馬鹿だなぁ。

 いつも肝心なところでヘマをする。

 昔からずっと、変わっていない。

 十年前も、そう、私がちゃんと、気持ちを伝えてれば、こんな風にはならなかったのに。

 

 手が伸びる。

 アルス以外の手が、私の、身体、に。

 

「いやっ!

 やだ、やだっ! 触れないで、触んないで、いやいやっ!

 アルス以外の人は、やだ、きらい、きらい、きらいっ!!

 きもちわるい、きもちわるい、やだぁ」

 

「——っ、暴れるな、ガキが」

 

 本能的な抵抗。

 でも、それは何の意味もなさない。

 わかっていても、身体は勝手に、動く。

 

「ひっ、やめ」

 

 だけど、どんなに暴れても体格差というものは残酷で、私が彼らに敵うことはない。

 掴まれた腕が地面に押し倒され、私は最後の抵抗とばかりに腕を振るった。

 

「——アルス、ごめん、ね」

 

 振るった腕は、リーズレットには届かない。

 よだれを垂らす彼の顔を、見たくなくて、わたしは、もう、目を閉じようって、瞼を——

 

 

 下そうとした。

 その、とき。

 

 私の瞳に、腕に引っ張られ、揺れるものが目についた。

 それは、アルスが、私にくれた大切なもの。

 子ども向けだって、言われたときは頬を膨らませたけど、でも、その日の夜にはすっごく気に入って、いつまでも、付けていようって誓ったもの。

 

 ——ブレスレット。

 それは、ただの装飾品ではない。

 

 もう、考える暇はない。

 私はただ、ひたすら、どうすれば、またアルスに会えるのか、そのことだけを考えて、そして。

 

 ブレスレットに、魔力を、込めた。

 

 

「——そこだっ! ダグラスっ!!」

「おうよっ! 特大の一発をかますぞ!」

 

 その、瞬間だった。

 

 大きな声と激しい爆風。

 馬車が揺れて、その場にいる全員が驚愕で目を見開いた。

 

「な、なんだっ、これは!」

 

 怯えて立ち上がるリーズレット。

 今しかない。

 私は思いっきり、足を張り上げて、彼の股間を蹴り上げる。

 

「ぐはっ、く、くそ」

 

 悶える声が聞こえると同時、私は必死に、爆風の起こった方向へと目をやった。

 視線の先は、私の背中側。

 さっきまで、何人もの男たちが立っていたその場所には、もう立ち上がることができる者はいない。

 

「——あ、ぁ」

 

 そして、私は見た。

 馬車の裏に空いている大きな穴。

 そこから現れた、二人の人物の姿を。

 

「よお、リーズレット。

 テメエみたいなクソはさっさと地獄に行くべきだぜ?」

「そうね。

 汚物は殺菌よ」

 

 ダグラスさんとジェルナーさん。

 なんで、ここに。

 

 混乱。

 わからない、なんで、二人が、いるんだ。

 

 状況が理解できない。

 でも。

 だけど。

 

 今、私の頭を支配しているのは、彼らのことじゃない。

 その後ろに立っている、一人の影。

 

 ……まさか。

 そんなわけが、ない。

 こんなの、まるでおとぎ話じゃないか。

 彼が、助けにきてくれるなんて、そんな、こと。

 

 そう、思いつつも、私は視線を向けたまま、動けなかった。

 

 そして、姿を現した男の子。

 あのときとは違う、大きな身体を携えた、影の正体は。

 

「——リーナに、手を出すな」

 

 アルス。

 彼の顔を見た瞬間、私の心臓はもう、どうしようもなく膨れ上がった。

 

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