旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす   作:とせがり

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アルスくん視点です


2話 馬鹿みたいに抱き潰された

 

「——虐めんな、こいつは俺の親友だ」

 

 初めて彼女に助けてもらったとき、素直にかっこいいと思った。

 僕じゃ敵わない大きな身体のいじめっ子相手に、少しも怯まず、立ち向かう姿。

 彼女はずっと、僕の憧れだった。

 

「な、なんだお前っ、女のくせに、生意気だぞ」

「お、おい、こいつ確か村長の孫じゃねーか?

 揉めたらまずいって」

「な、なにっ!?」

 

「きょ、今日のところはこれで許してやる。

 おい、帰るぞ、お前ら!」

 

 弱虫で、泣き虫で、何にもできない僕を、彼女は助けてくれた。

 「俺たちは友達だ」って、言ってくれた。

 その言葉だけで、僕はもう胸が張り裂けてしまうくらい、嬉しかった。

 

 リーナは、僕の太陽だった。

 

 

「ほら、もう大丈夫。

 アイツらはいなくなったよ。

 ほんと、どこに行ってもああいう輩はいるんだな」

「ぐすっ、ありがと、う。

 守ってくれて、ありがとう」

「こんなに泥もかけられて……あの悪ガキども。

 今度あったら絶対ぶん殴ってや——あ、おい」

 

 彼女の顔を見て、必死に堪えていた涙が溢れ出した。

 いじめっ子たちに囲まれていたときは、なんとか耐えられてたのに。

 リーナが来て、僕の頭に触れた瞬間、押さえつけられたものが全部、出てしまった。

 

「……仕方ないなぁ」

 

 涙と鼻水で、もう目の前はぐしゃぐしゃだ。

 でも、リーナがいることは分かる。

 ずっと、背中を抱いてくれているから、分かる。

 

「俺が側にいてやる。

 だから、泣くな。

 せっかくのかっこいい顔が台無しだろ?」

 

 そう言って、涙を拭ってくれた彼女の顔は、本当に綺麗だった。

 

 

 それから、僕らずっと一緒だった。

 毎日、朝から晩まで彼女に引っ張られて、色んなところに行った。

 大抵は僕がバテて倒れちゃってたけど、リーナは僕を見捨てなかった。

「仕方ないなぁ」なんて言って、僕の息が落ち着くまで、抱きしめてくれた。

 

「……リーナは、なんで僕と一緒に居てくれるの?

 どうして、こんな弱い、僕の」

「あ? そんなの決まってんだろ。

 ——お前が好きだからだよ。

 親友のお前がいるから、こんな小さな村でも楽しく生きてられるんだ」

 

 好き。

 その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓は激しく跳ねた。

 きっと、本気で言ってるわけじゃないとは分かってたけど、でも、飛び跳ねずにはいられなかった。

 

 いつのまにか。

 僕の憧れは、彼女を慕う気持ちは、変わっていた。

 

 ——僕は、リーナが好きだった。

 

 それ気づいてから、僕は自分が嫌になった。

 弱虫な自分が、リーナを好きになっているということが許せなかった。

 

 だから、リーナに釣り合うくらい、強い男になってやるって、決心して隠れて身体を鍛え始めた。

 ……かっこいいって思って欲しかったのも、あるけど。

 

 そんな矢先のことだった。

 ——大嵐がやってきて、村中の畑が滅茶苦茶になったのは。

 

 

 うちの家は貧乏だった。

 ご飯を一日一回しかなかったし、服もボロボロなのが一着、住むところも、雨漏りが酷くて、まともに寝れたのはリーナの家に泊めてもらったときだけだ。いじめられるのも、仕方ないだろう。

 

 それでも、僕らは必死に生きていた。

 嵐で村中の雰囲気が悪くなって、ご飯を求めて彷徨うことが増えても、必死に耐えていた。

 

 けど、そんなとき。

 

 深夜、ウチに村長がやってきた。

 

「——嵐が明けたら、アルスを外に送りなさい。

 これはもう、決まったことです」

「……それはあんまりです! 村長。

 いくら、村に食料がないからって、子どもを切り捨てるような真似、できません」

「これは我々のご先祖様から続く通過儀礼だ。

 八歳になった子どもを、十年間、村の外に放つ。

 お前も知っているだろう?」

「——そんなの、そんなの、もう何年もやってないじゃないですか。

 前の大寒波のときもそうだ! あのときは今以上に食料が取れなかったけど、そんなことはしなかった。

 ……なんで、アルスのときだけなんですっ! 村長!」

 

「……孫に近寄りおって。

 家ごと潰されたくなかったら、命令を聞け」

 

 

「……なんてことだ、アルスに、外の世界なんて、無茶だ」

 

 僕はその会話を全て聞いていた。

 雨漏のせいで、眠れないこと。お父さんには黙っていたから、起きていたって気づけなかったようだ。

 

 ——次の日の朝、僕は冒険者になって外の世界を冒険したいと両親に告げた。

 

 

 

「あは、あははっ、アルスっ、お前まじかよ!?

 冒険者って、本気かっ!?」

「……うん。

 パパとママも、アルスならできるよって、応援してくれてるみたい」

 

 嵐が止んだから、僕らはまた、一緒に遊んでいた。

 冒険者のことをリーナに伝えると、彼女は大笑いしながら、僕の顔を見つめてきた。

 

 そして、僕は告げられた。

 

「仕方ない、俺も付いてってやるよ。

 お前がまた、誰かに泣かされたら困るからな」

 

 まるで、当然のことを伝えるかのように、笑いながら。

 

「まったく、こんな可愛い女の子が隣にいるなんて幸せものだぞお? おっぱいも……うん、まあこれから成長するし、たぶん」

 

 その言葉を聞いたとき、僕はどれだけ嬉しかったことか。

 

 八歳の誕生日を迎えて、彼女を異性として意識することが増えた僕だけど、でも、このときだけは我慢することができなかった。

 

「——わ」

 

 気づいたときには、勝手に身体が動いていた。

 不安もあった、けど、リーナを抱きしめた途端、そんな感情は一切、頭から出ていった。

 

「……特別だぞ?」

 

 そう言って、リーナも背中に手を回してくれる。

 

「明日、お父さんたちに話してくるから、アルスもついてきてくれ。……大丈夫、言えば分かってくれるさ」

 

 ……彼女にしては珍しく、服を強く、手で掴みながら。

 

 

 

「なんでだよっ!!

 こんなのただの口減しだろっ!

 なんで、アルスだけなんだよ。おかしいだろ」

「お前はうちの長女だ。

 村からでることは許さん、

 ……分かったら、アルスとはもう会うな」

 

「……っ、お父さんのばか」

 

 目の前のリーナが、父親に向かって言葉を吐き捨てる。

 こんな感情的になっている彼女は、初めてみた。

 

 なんで、こうなったんだろうか。

 悪かったのは一体、誰なんだろうか。

 分からない。

 けど、僕がやらないといけないことは一つだ。

 

「リーナ」

 

 目の前で、リーナが泣いている。

 なら、僕が助けないといけない。強くなるって決めた、僕が。

 ……リーナがしてくれた、ように。

 

 そうやって、手を差し出した瞬間。

 

「え」

 

 彼女の手によって引っ張られた僕の身体は走り出した。

 リーナと一緒に、どこまでも、遠く、遠くへと。

 

 

「ど、どこに行ってるの、リーナ。

 そっちは、村の外だよ」

 

「……わかってる」

 

 ようやく止まったリーナの身体。

 村の外へと続く花畑の中で、僕らは立っていた。

 

「どうするんだ、アルス。

 俺の爺ちゃん。

 ……村長は、お前を村から追い出すつもりだぞ、くそ」

 

 リーナは酷く焦燥した様子で、顔色も悪い。

 さっきからずっと心臓を抑えてるし、唇は、血が滲み出るほどに強く噛まれていた。

 

 なんで彼女がこんなに憤っているか、それは分かる。

 ……僕を心配してるからだ。

 お父さんと同じで、弱虫な僕が村の外で生きていけるわけないから、優しいリーナはずっと、心配してるんだ。

 

 そう、思ったときだった。

 

「——リーナ」

 

 見ると、リーナが僕に手を差し出していた。

 

 震えながらも、僕の目をじっと見ている。

 まるで、何かを訴えかけるように、強く、重く。

 

 僕には、その目の意味が分からなかった。

 

 彼女の手を取る。

 

「……アル——」

 

「十年後っ!!」

 

 瞬間、僕は叫んだ。

 今まで生きてきた中で、間違いなく、最も大きな声で。

 

 リーナに、お別れを伝えるために。

 

「十年後、絶対僕が君を迎えに行くから。

 君を守ってあげられるくらい、強くなって、戻ってくるから」

 

 リーナは、大丈夫。

 僕がいなくても、生きていける。

 彼女は強いから、僕よりも、ずっと強いから。

 

 結局悪いのは、弱い僕だ。

 心配させてばかりの、弱虫の僕。

 僕がもっと強かったら、村長さんを納得させられるくらい強かったら、こんなことにはならなかったんだ。

 

 今の僕が、リーナの隣に立つことなんて、許されない。

 

 だから、伝えた。

 

「それまで、待っててね。

 ……僕の、親友」

 

 リーナの顔は見れない。

 見たらきっと、弱虫の僕に戻ってしまうから。

 僕は俯いたまま、彼女に言葉をぶつけた。

 

 

「——そっか」

 

 

「……ははっ、うん、そうだよな、それしかないよな。

 ——よ、し、がんばれ! がんばれよっ!!

 十年後、とか、一瞬だよな、俺たちにとって、は」

 

 

「……俺は、いらない、よね」

 

 

 次の日、僕は村を出発した。

 決心が揺らがないよう、誰にも言わず、一人で。

 ……もちろん、リーナにも、だ。

 

 それから十年間、僕は彼女に会っていない。

 

 あの花畑でのことは、今でもよく、夢に見る。

 だけど、夢の中でも、リーナの顔は見れていない。

 ……それはきっと、僕が後悔してるからだ。

 

 リーナは言って欲しかったんじゃないか。

 差し出された手の意味を、僕は、勘違いしていたんじゃないか。

 

 あのときの僕は、いつもリーナに引っ張られてた弱い僕だったから分からなかったけど、もしかしたら、リーナは……

 

 そんなことを、僕は、今でも、夢に見——

 

 

 

「……夢、か」

 

 目を覚ましたのは、宿屋の中だった。

 

「また、あの夢。

 まったく、何年同じ夢を見てるんだよ、僕は」

 

 寝ぼける頭を揺らしながら、僕は階段を下りて、食堂の方へと向かった。

 

「よお、昼からよく寝ててたな。

 そんなに長旅が疲れたのか?」

 

 そこには先客がいた。

 パーティメンバーの戦士、ダグラスだ。

 

「他のみんなは?

「女どもは教会、男どもは森に魔物狩りだ。

 ……はぁ、せっかくのルーリナにやってきたなら、もうちょっと楽しい遊びもあると思うんだが」

 

 現在は深夜。

 こんな時間に出歩くのはあまり関心しないが……まぁ、何かに襲われたりしても、余裕で返り討ちにできるだろうし、いいか。

 

 そんなことを思っていると、不意にダグラスに肩を叩かれる。

 

「——にしても、俺らパーティも後三十日で解散か。

 ほんと、随分と長く続いたな。

 十年だぜ? 十年」

「……解散とは違うよ。

 ただ、僕が抜けるだけ、みんなはそのまま冒険を続けるんだろ」

「よく言うぜ、お前が抜けたら俺たちは大打撃だよ。

 S級試験に合格したのも、全部、お前の力があったからだ。

 ……ほんと、ガキだったお前がまさか、こんな大物になるとはな」

 

 感慨深そうに見つめられて、少し照れる。

 酒でも入ってるのか、今日のダグラスはやけに素直だ。いつもふざけてばっかだから、気づかなかったが、意外と考えてるんだな。

 まぁ、僕よりずっと大人だし、当然と言えば当然か。

 

 ……たまにはご飯にでも、誘おうかな。

 そんなことを悩んでいると、ダグラスが声を放つ。

 

「あ、そうそう。

 アルス、お前確かスラムの方の依頼取ってただろ?

 あれ、確か今日までだぜ?」

 

 ……あー、そういやそうだっけ。

 

 街に入ったときに、いくつかギルドで依頼を取ったのを思い出す。

 確か、ラット系の魔物が下水道に溜まってるとか、そんなのだった気がする。

 

 となれば、ご飯は次にお預けだな。

 

「なら行ってくるよ。

 遅れちゃってギルドの職員さんに怒られるのも嫌だしね」

「そうか。

 ——なら、ちょうど良かったな」

 

 ん、ちょうど良いってなんだ。

 僕はダグラスの顔へ視線を送る。

 さっきからずっと、ニヤニヤが止まらないその顔に。

 

「依頼のついでだ。

 お前の名前で娼館予約しておいたから、後で行ってこい」

 

「——は?」

 

 ……前言撤回、どこが大人なのだ、この男の。

 

「お前も男だ。

 それにせっかくルーリナに来たんだぜ?

 娼館の一つくらい行っとかないと、冒険者として箔が付かないぞ」

「そんな箔なんかいらないし」

 

 確かに、ここルーリナのスラム街は夜の店で有名だけど、でも僕には関係ない。

 そういう行為は、する気もないし、したこともない。

 当然だ、だって。

 

 村で、リーナが待ってるんだから。

 

「いつも、言ってるだろ。

 故郷に、待たせてる子がいるって」

「……十年も前のことじゃねえか。

 どうせ、そいつも結婚して子どもをこさえてるに決まってるだろうに」

「リーナが子どもぉ?

 ない、ない、ないよ、そんなこと。

 あいつは男である僕よりもよっぽど男らしい奴だったし、そういうことに興味がある奴じゃない」

 

 

 一緒にお風呂に入ったときも、リーナは何も隠したりしなかったし、むしろ僕の方が隠していたくらいだ。

 それに、可愛い服を褒めたときも、全然喜んでくれなかったし。リボンをプレゼントしたときの微妙な反応は今でも覚えている。

 ……でも、ちゃんとつけててくれたんだよね、ずっと。

 

「はやく迎えに行きたいなー。

 リーナ、どんな美人さんになってるんだろう。

 ……ちゃんと、僕のこと覚えてくれてるかなぁ」

「はぁ、相変わらずだな、お前も」

 

 呆れるようにダグラスが息を漏らす。

 

「ま、行くだけ行ってこい。もうキャンセルもできないしな。

 それに、その女の子だって、お前が一人の経験もないチェリーボーイだったら、きっとガッカリするぜ?」

 

 リーナはそんなことしない……いや、からかうくらいはしてくるかもだけど、ガッカリはしないだろう。

 ……しないよね?

 しない、うん、しないはず。

 

「スラムに入って、すぐを右だ。

 デカい看板があるから、受付を済まして、嬢の部屋に行ってこい」

 

 ドンと背中を叩かれて、僕は宿屋の出口へと追い出された。

 

 去り際、机の上に一つの紙ぺらが置かれていることに気づいた。

 それは、ピンク色をした一枚のチラシ。

 

 ——娼館リユニオン。

 お友達紹介キャンペーン実施中!!

 

 ……あとでパーティのみんなに言いつけてやる。

 そう強く心に決めた僕は、仕方なく、スラム街へと急ぐのだった。

 

 

「……はぁ、なんで僕がこんなことを」

 

 娼館で受け付けを済ませた僕は、頭を抱えたまま、歩いていた。

 「三号室へどうぞ」という店長らしき男の野太い声が今でも脳に響いている。

 

 で、その三号室のドアの前についたんだけど。

 

「……っ、ぁあ、い」

 

 さっきからずっと、変な声が響いてる。

 

「……これ、そういうことだよね」

 

 言葉にはしないが、娼館で聞く変な声というのは、一つしか存在しないだろう。女の人の声だし、間違いない。

 ……てか、僕が来る前なのに声が聞こえるってことは、この人。一人で、してるってことか?

 

 こ、こわ————あれ。

 

 

 なんかこの声、聞いたこと、あるような。

 

 ……いや、気のせいか。

 

「あの、すいません」

「ひゃいっ!!?」

 

 そうしてドアをノックした後、僕は部屋の中にいる少女へと説明をした。

 

 無理やり予約されたこと。

 そういうことはしたくないということ。

 好きな人が、いるということ。

 

 幸い、彼女は優しい人だったようで、僕には手を出さないと約束してくれた。

 

「一応中には入ってよ。

 見回りも来るかもだしさ。

 もちろん、何もしないのは約束するから」

 

 ただ、部屋には入らないといけないようだ。

 ……ちょっと、怖いな。

 

 そんな風にドアを開けるのを、戸惑っていると。

 

 不意に、扉が開いた。

 

 ……え?

 

 そこにいたのは、一人の、少女。

 十年間会っていない、僕の大好きな人。

 この街を出たら、迎えに行こうと思っていた、最愛の人。

 

「は、はっ、はーあっ!!?

 お、おま、うっそだろ、お前ぇっ!!?

 デッッッカ!!? え、まじでぇ!?」

 

 ——こうして、僕はリーナと再会した。

 

 目の前の彼女は、痩せていた。

 スラムでは、同じような人を何人か見たけど、ここまでではなかった。

 病気にでもかかっているのかってくらい、彼女の腕は、腰は、細い。

 

「……え、あ、アルス、だよね?

 ほんとに、そうなんだよ、ね?」

 

 喋り方も、変わっている。

 表情も、声も、十年前とは何もかも変わっている。

 

 でも、分かる。

 彼女が、リーナってことは。

 

 ——僕の身体は、勝手に動いていた。

 

「うへっ!???

 お、おい、いきなり抱きしめんなぁ!!

 ……ち、ちから、つよぉ」

「会いたかった、会いたかったよ、リーナ」

 

 彼女の事情とか、見た目のことは今は全部、どうでもいい。

 とにかく、その小さな身体を抱きしめてあげたかった。

 

「……もう、仕方ないやつなんだから」

 

 囁かれた声は、十年前と変わらない、優しい声だ。




回想終わり、次回からイチャイチャが増えマッスル
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