旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす 作:とせがり
アルスと再会した次の日。
感傷に浸りたい気持ちも山々だっただが、残念ながらうちの店は週休0日制である。労基? そんなのこの世界ないよ。
ということで私は起床と同時に、娼館の経理に精を出していた。
どっかの親友がとんでもないことをしでかしてくれたおかげで、今月の収益が馬鹿にみたいなことになってるからね。
「今度来たとき、ちゃんと断らないとなぁ」
……ふふ、もう、ばかなんだからぁ」
「おい、リーナ。
何をにやついてる。
さっさと働け」
「ひゃ!?
……って、なんだ店長か。
怖い顔してるからまた強盗かと思いましたよ」
「……そんな顔はしていない。
それより、もう夕方だ」
店長に肩を叩かれた私は一度作業を止め、彼の方を向いた。うん、相変わらずの悪人面である。
「そろそろハニイの奴を迎えに行ってやれ。
場所はいつものとこでいい」
「え、まだ早くないですか?
オープンまでまだまだ時間ありますよ?」
「さっき今日は早めに来てくれと連絡があった。
経理はこっちでやるから、お前は急いで行ってこい。
護身は忘れるなよ」
「はいはい。
それじゃあ、さくっと行ってきますね。
あ、帰ってきたら晩ご飯用意しといてください。
店長手作りのオムライスが希望です。あれ美味しいので」
「……気が向いたらな」
ボソッと呟く店長を背に、私は娼館を出発した。
街に着いた私は近くの宿屋へと足を踏み入れる。
スラムの入り口付近にあるこの宿屋は娼館から近いこともあって、多くの娼婦が利用していた。
中に入ってすぐ、私は目的の顔に声をかけられる。
「ありがとねー、リーナちゃん。
いつも大変でしょ、送り迎え。
嫌なら全然変わってもらってもいいのよ?」
「いえいえ、むしろハニイさんみたいな美人さんと歩けて幸せですよ。
彼女、ハニイはうちで働いている娼婦の一人だ。
整った顔立ちに加えて、ハーフエルフには珍しい巨大なおっぱいもあり、店では一番人気の嬢と言っても良い。
また、さらに。
「あら、口がお上手ね。
ふふ、しょうがない、途中でお菓子でも買ってあげるわ」
「ほんとですか!
えへへ、久しぶりに甘い物が食べられます」
この手の嬢にしては珍しく、彼女は非常に優しい性格をしている。
よくスラムの子どもにご飯を分けてるのも見るし、私も送迎係になってからはよく施しをもらっている。
ハニイさんまじ天使、いや聖母。
「ハニイさんの送迎係になって良かったです。
……娼館での唯一の楽しみですから」
「あら、嬉しい。
でも、あんまり無茶をしたら駄目よ? 最近は変な人も増えてるし」
娼婦は性質上、トラブルに巻き込まれることも多い。
特にスラムに住む人間というのは短絡的な奴ばかりで、契約の首輪がついてると見るや、物陰に連れて行こうする輩も存在する。
だからこそ、娼婦を守るため、送迎係という名の護衛は必須なのだ。
……私の場合は、いざとなったときの身代わりにもなれるしね。
「一応私冒険者上がりですからね。
ここら辺のご飯も食べてないチンピラくらいならひっくり返せますよ」
そんなことを話しながら、宿屋を出発しようと振り返ったときだ。
不意に、ハニイさんに肩を掴まれた。
「それにしても店長から聞いたわよ。
——リーナちゃん、昨日お客さん取ったの?」
聞かれた瞬間、身体がびくりと震えた。
「え、あー、そう、ですね。
一応、はい」
口籠りながらも、私はなんとか返答する。
……昨日のアルスのことは話せない。
こっちの事情にアルスが巻き込まれるのは絶対に嫌だ。店長にも、みんなにも、アルスの素性を教える気はなかった。
ただ。
「……頑張ったのね。
偉いわ、ほんとに」
そのせいで、何か変な勘違いされちゃったな。
「ひゃ」
ハニイさんに抱きしめられる。
彼女の豊満な身体が、顔を埋めて、暖かい感触が全身を包み込んだ。
ふ、ふええぇぇ、女の人のおっぱいに埋まってるよぉぉぉ。
思わず幼児化してしまった私にお構いなく、ハニイさんは手を上へと持ってくる。
瞬間、撫でまわされる頭。
なんともいえない感情が脳みそを駆け巡り、徐々に目の前の女性が私の真のママであることを証明しようとする。
間違いない、ハニイさんは私のママになる存在である。
そんなことを考えながら、私はしばらく彼女へと身を預けた。
「ありがとうございます、ハニイさん。
それで、お代の方はいくらですかね?」
「もう、お金なんか取らないわよ」
「まじですかっ!?
うへへ、これは店のみんなに羨まれちゃいますね」
なんか、憑き物が取れたようなそんな気がする。
さすが、希代の赤ちゃんプレイの名手ハニイさんだ。
掃除の度に部屋から男の泣き声が聞こえてたのはこういうことだったのだろう。
うん、今度プライベートでもお願いしようかな。
「ところで、リーナちゃん。
あなた、教会にはもう行ったの?」
「え? なんのことです」
唐突なハニイさんの発言に、私は思わずハテナを浮かべる。
「避妊魔法よ。
その様子なら、まだ受けてないようね」
「……あ、そういやありましたね、そんなの」
避妊魔法。
教会の神父が使うことができる、強烈な妊娠防止の魔法だ。
行為前はもちろん、行為後の妊娠だって防止できるこの魔法は、我々娼婦の最大のおともである。
とはいえ、かけてもらうには大量の寄付金が必要だそうで、毎月店長が嘆いているのを目撃している。
ま、私らには関係ないけど。
「一緒に教会まで行きましょ、初めてだと分かんないこともあるし」
……いやまぁ、アルスと会うだけならそんなの必要ないけどね。
こんな貧相な身体、相手してくれるわけないし、そもそも、アイツは村に好きな人がいるんだ。予約されているとはいえ、そういう行為に及ぶわけがない。
ない、けど。
「一応、受けとかないとですよね」
念には、念を入れておくべきだろう。
うん、それがいい。
「でも、ハニイさんはいいんですか?
せっかく、貴重な待機時間なのに、私なんかのために使って」
「ふふ、だから早めにお迎えを頼んだのよ。
それにね、リーナちゃんとデートできるのよ?
こんなに嬉しいことはないわ」
彼女にまた頭を撫でられる。
暖かい手だ。
やっぱり、こういう仕事をしてるだけあって、この人は人の心を掴むのが上手いなぁ、まったく私が客だったら絶対ガチ恋してるよ。
「終わったら一緒にご飯も食べに行きましょう。
もちろん、私の奢りよ」
「ほんとですかっ!!
外食なんて、何日ぶりだろう。
うぅ、ハニイさんマジ大好き、天使、聖母」
よくよく考えたら仕事中に抜け出すのちょいアレな気もするけど、細かいことは気にしない。これも送迎の一環である。
私はニコニコが止まらない笑みをそのままに、彼女とともに教会へと向かった。
教会に入ると、そこには大勢の人がいた。
どうやら、今はお祈りの時間のようだ。
「すぐ終わるみたいだから待ってましょう。
魔法のお願いは私が奥でしてくるわ。
ちょっと待っててね」
「はい、わかりました」
教会の奥へ向かうハニイさんを目で追いながら、私はボーッと頭を動かす。
……にしても、結構人いるな。
教会には様々な人が足を踏み入れる。
敬虔な市民に、怪我をした冒険者、それにスラムの子どもだっている。
ここではみんな平等だ。
私たちのような後ろめたい職業の人にだって、神父さんたちは優しく接してくれる。
……ま、お金を貰ってるからってのもあるかもだけど。
そのままお祈りの列を見ていた私だが、ふと、ある人物が目に入った。
……なんか一人すげえガタイの奴いるな。
冒険者、か?
絶対教会でお祈りするタイプじゃないでしょ……いや、べつに信仰は自由だけど。
というか隣の女の子うるさいし……あれ、ほっとくと摘みだされないか? お、デカいのが注意してる。もしかしたら彼女とかなのかな、デカい同士お似合いだ。
勝手に実況を始めた私、少し彼が気になって、目をこらす。
やっぱ背はデカい。
そういやアルスもあんくらい大きくなってたなぁ。
同じくらいの身長だし、恰好も似てる……顔は、えーと。
私は、お祈りしていた列に紛れ込み、横からデカい方の顔を伺う。
そして、気づいた。
「……え?」
——アルスじゃん、あれ。
「ねえねえ、アルスくん。
お祈り中ってなんで目開けたらダメなの?
あの神父さんが唐突にナイフを抜いてきたらどうするの?
「お祈り中は喋っちゃ駄目です。
……あと、あんまくっつかないでください。
今日は付き添いに来たんですから」
アルスがいる。
その事実にも、もちろん驚いたが、でも。
私の脳を揺らしたのは、もっと、別のことだった。
「シャイだなー。
ダグラスの奴だったら喜んで鼻の下伸ばしてるのに」
あの隣の女、アルスに話しかけてる。
しかも、明らかに親しそうに、肩を寄せながら、そして。
「……はぁ、ほんと、ジェルナーさんには手を焼きますね」
「ほんとは嬉しいくせに。
ほれ、ほれほれ、気持ちよかろう」
腕に、おっぱいを押し付けてるじゃないか。
しかもアルスも、ぜんぜん気にしてないし。
……ずるい。
「帰ったわ、リーナちゃん。
お祈りが終わったら魔法をかけてくれ……え?」
隣からなにやら声が聞こえるが、私は既に歩き出していた。
「どこに行ってるの?
まだお祈りの時間は終わってないわよ?
り、リーナちゃん?」
流石に近すぎでしょ、あの女。
アルスは好きな人がいるって言うのに、あんな顔でくっついて。そりゃあ、アルスはかっこいいから、気持ちは分からないことはないけど。というか、なんでアルスの方も平然としてんの、もっとちゃんとやめてって言わないとダメでしょ。なにやってんの。
「やっぱダグラスに頼むべきだったな。
……はぁ、こんなとこ、もしリーナに見られたりしたら、絶対勘——」
「——見られたりしたら、なんなの?」
「へ?
り、りーな?」
既に、アルスの背後には立っている。
驚く女、戸惑いながらも「アルスくん、だれ?」とさらに身体を密着させる。
……二回目。
それを見た私はもう止まらない。
口が開く。
「アルスのばか、へんたい、えっち。
昨日私を買ったのに、もう別の女の子に手出したんだ」
「ちがうっ!! 違うからぁっ!!
ただのパーティメンバーだからぁ!」
必死のアルスの叫び声。
こうして、私たちは三人揃って、騒音にキレた神父さんに追い出されることになったのだ。
店長「……あいつら、中々帰ってこないな。ち、オムライスが冷めちまうじゃねえか」