旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす 作:とせがり
「私はジェルナー。半魔の魔法使いよ。
そこのアルスくんとはパーティメンバーとして仲良くさせてもらってるわ。
変な勘違いをさせちゃったならごめんなさい、リーナちゃん」
「……いえ、私こそごめんなさい。
お祈りを邪魔しちゃって」
隣の女改め、ジェルナーさんに謝られ、私は自分の行動を恥じる。
パーティメンバー。アルスが冒険者ということを考えれば、彼女の正体は容易く想像できたはずだ。
まぁ、女の人なのはちょっと気になるけど、私も冒険者時代は男の子とも組んでたし、仕方ないか。
「……ジェルナーさんが悪いんですからね。
これに懲りたらちゃんと距離感を考えてください」
「はいはい。
まったく、人間ってのはシャイな子ばかりね」
アルスに戒められ、ニヤニヤしているジェルナーさん。そこに感じるのは、確かな信頼だ。
きっと冒険の途中、互いに何度も命を預け合ってきたのだろう。……少し、羨ましく感じるな。
そんなことを思いつつ、私はアルスに問いを投げつける。
「そういや、アルスたちのパーティってなんて名前なの?
昨日、聞きそびれちゃったよね」
昨日から気になっていたことである。
あんだけのお金をすぐ用意できたってことは冒険者としてはかなり上澄みなはずだ。Bランク以上は確定、下手したらAランクと言ったところか。
私の言葉にジェルナーさんが答える。
「——黒狼と番犬。
ふふ、泣く子も黙るS級パーティよ。
ま、実態はアルスくんのワンマンパーティだけどね」
「そんなことないですよ。
僕なんか、剣しか振れない木偶の坊ですから」
謙遜するアルスだが、その言葉は私の耳には入ってこなかった。
そう、ジェルナーさんの言った衝撃の事実によってだ。
「ま、まじでっ!!?
え、おまえ、なに? Sランク冒険者だったのっ!?
はっ!? ガチで言ってるっ!?」
素直に驚く、というか滅茶苦茶驚いている。
S級パーティっていうのは、冒険者ギルドの中でも精鋭中の精鋭だ。
1パーティが小国の軍隊にも相当すると言われるほど、その力は凄まじい。
というか、普通に化け物である。
例として、私が冒険者をやっていたときのランクがCランクである。
……なんか、これでさっき護衛出来ますとか言ってたの恥ずかしくなってきたな。
「あはは、娼婦に落ちぶれた私が情けないよ」
「……あら、そうなの?
まだ若いのに、大変ね」
あ、つい言っちゃったな。
ジェルナーさんが驚いている。
当然の反応だ。むしろ反応が薄いまである。
一瞬空気が固まったが、ジェルナーさんはすぐに表情を戻した。
詮索するのも良くないと思ったのだろう。ありがたいことだ。
「……で、なんでリーナはこんなとこにいるの?
お祈りとか、村ではしてなかったよね?」
「あー、えーと、その」
アルスの質問に私は少し口を止め、ジェルナーさんの方を見る。
……ま、いいか。娼婦ってこと言っちゃったしな。
「避妊魔法ってのを受けないと駄目らしくて。
それで来たんだ」
できるだけ明るく言ってみたが、空気が再度凍った。
「……もしかして、その、子ども、が?」
あ、勘違いしてるな、これ。
「違うからね。
あくまで予防接種みたいなもんだから。
子どもなんてできてないよ」
「……そっか、良かった」
私の身体じゃ、孕んだところで産めないけどね。
普通に出産に身体が耐えられなくて死ぬだろうし。
ま、だからこそ、デキないようにするための避妊魔法は必要とも考えられる。
「だから、ごめん。
あんまり長くは話せないんだ、それに知り合いも待たせてるし」
教会の中でハニイさんが待っている。
お祈りもそろそろ終わる時間だし、戻らないとまずいだろう。
「じゃ、じゃあ、ここで待っててもいい?
もうちょっと、話したいこともあるから」
「え、あぁうん、いいけど。
でも、お仕事もあるから、ほんと長くは居られないよ?」
「うん、それでもいいから、さ」
待たせるのは悪い。
そうは思いつつも、アルスと話したい気持ちがあるのも事実だ。
「分かった、できるだけ早く戻るね」
私はお言葉に甘えて、一度教会に戻ることにした。
「まったく、神父さんを怒らせちゃ駄目よ?
教会に戻ると、ハニイさんに叱られた。
どう考えても悪いのはこちらだ。
私は素直に頭を下げる。
とはいえ、ハニイさんは優しい。
最初はちゃんと怒ろうとしていたようだが、いつの間にか私の頭の上には手が乗っていた。
そのまま小さな頭を撫で回されていると、ハニイさんに話しかけられた。
「——ね、あの子、誰なの?」
……アルスのことか。
間違いなくそうだろう。
ハニイさんからしたら、突然私が謎の男の子と大騒ぎし始めたのだ。
事情を聞きたいのも当たり前である。
だが。
「なんでもないです。
その、知り合いに顔が似てて、声をかけただけですから」
私はアルスのことを話す気はなかった。
少し心は痛むが、仕方ない。
これは私の事情だ、娼館のみんなには関係ない。
「そっか。
なら、聞かないわ」
ハニイさんは察しが良い。
きっと、聞かれたくないことだって分かったのだろう。
アルスの話はそこですぐに終わった。
だけど、その代わりに。
「……こういうお仕事をしてる内はね、恋愛とか、中々できないでしょう?
私も長いから、気持ちは分かるわ。
実際、そういうことで揉めて、居なくなっちゃった子も知ってるしね」
ハニイさんが一人で喋り出す。
私に向けてじゃない。
まるで、どこか知らない場所にいる人物に語りかけているような、そんな感じがした。
「でも、私は違うと思うの。
娼婦だからって、恋しちゃダメなんて誰も言ってないわ。
女の子だもの。自分に素直に生きなきゃ、人生損よ」
自身の体験談か、それとも誰か別の人の話なのか。
分からないが、でも、彼女の言葉に重いものがあるのは事実だ。
「だから、悔いのないようにね、リーナちゃん」
「……なんの話ですか?」
「大人の話よ。
貴方の5倍以上長く生きてる大人からの忠告でもあるわ」
その言葉を最後にハニイさんは黙った。
どうやら、話を終えたらしい。
うむ、なかなか深い話を聞いたような、そんな感じがする。
……でも、それはそれとして、最後なんか気になる発言あったな。
「ハニイさんって90超えてるんですか? まじです?」
「黙りなさい」
「こわっ!?」
ついでに、私も黙らされた。
年齢いじりはNGらしい。ごめんなさい、ハニイさん。
数十分後。
私は教会の出口に立っていた。
避妊魔法は既に神父さんによって処方済みである。
なんちゃらかんたらっていう呪文をあそこに向けてポンで解決である。
ずいぶんと簡単なものだ。
……とはいえ、流石に恥ずかしかったな。
「……うへー、ヒリヒリする。
先輩、これほんとに今日ずっとこのままなんですか?」
「そうよ。
気になるだろうけど我慢しないとね。
それには性病防止の効果もあるんだから」
思いっきり神父のお爺ちゃんにパンツ見られたし。
流石に生じゃなくて安心したが、でも、複雑な気分である。
痩せてるのもめちゃくちゃ心配されたしなぁ。
スラムだとあんま珍しくはないはずなんだけど。
おっと、そんなことよりもアルスとの約束があるんだったな。
「あの、ハニイさん、ちょっと言いですか?」
「ん、どうしたの?
お腹空いちゃった?」
「いや、そうではなくて……」
私は上手いこと抜け出す言い訳を考えるが、思い浮かばずモジモジする。
アルスのいる外は、すぐそこだ。
時間もないし、早く行きたいんだけど……
そんなことを考えながら、モジモジを続けていたときである。
「……そういえば、リーナちゃん。
実は私って熱心な聖教徒なのよ」
「え、なんです急にそのカミングアウト」
……え、急に勧誘でも始まった?
ハニイさんもしかしてソッチ系だったの?
高い水の瓶とか買わされる感じ?
ハニイさんのなら凄い良い匂いしそうだしいいけど。
「だから、ちょっとお祈りしようかなって。
悪いけど、リーナちゃん。
少しだけ、どこかに行ってくれると助かるわ」
……ま、そんな冗談はいいか。
「ただ。できれば鐘が鳴るまでに帰ってきてくれると嬉しいわ。
ほら、ご飯を食べていく時間がなくなっちゃうから」
どうやら、私の考えは見透かされていたらしい。
まったくこの人には敵わないな。
「ありがとうございます、ハニイさん」
深々とした礼をした私を、ハニイさんはいつもの笑みで迎えてくれる。
やっぱ、聖母だこの人。
「待たせたね、アルス」
「あ、リーナ。
うん、ぜんぜん待ってないよ」
なぜか少し照れながら言うアルス。
その笑みに癒されながらも、私は辺りを軽く見渡す。
そして一つのことに気づいた。
そう、あの巨大なおっぱいがどこにもないのだ。
「あれ、ジェルナーさんは?」
「暇だからって帰っちゃった。
はぁ、あの人が付いてこいって言ったのにな」
そうか、帰っちゃったのか。
寂しいようで、なんだか少しホッとするような、そんなよく分からない気分である。
「今度また紹介してよ。
あの人以外にもパーティの人はいるんでしょ?」
「うん。
まぁ、ちょっと変な人たちだけど、みんな悪い人ではないから」
そのまま、私は少しの間アルスと会話を交わす。
とはいえ、ほとんどがたわいのない話である。
駄目だったピーマンが食べれるようになったとか、ドラゴンのお肉が美味しかった話とか、店長は頼んだらオムライスにハートを書いてくれる話とかだ。うん、食べ物の話しかしてない。
さっき話したいとは言っていたが、アルスの方は特に会話のタネは持ってきていなかったのだろう。
——ま、私の方は別だけど。
意を決して、私はアルスに尋ねる。
「……昨日さ、私のこと、予約してくれたんでしょ」
「え、あ、う、うん。
知ってたんだ、リーナ」
「店長が大騒ぎしてたもん。
もう、あんなに無駄遣いしちゃ駄目だよ。
お金は大切にしないと」
予約のことについて、私は何といえばいいのか、悩んでいた。
アルスが私を助けようとしていることは分かる。
だからこそ、朝からそのことを考える度にニヤつきが止まらないし、素直に嬉しいなって、思う。
だけど、私は、アルスの負担にはなりたくない。
冒険者として成功したアルスの重荷にはなりたくないのだ。
「……あれさ、別に私から変えてもいいんだよ。
キャンセルはお金がかかっちゃうけど、嬢を変えるのは三日前までならできるからね」
そんな二つの感情に挟まれた結果、私は逃げとも言えるような言葉を口走りだす。
「私のおすすめはリリスさんかな。
サキュバスとのハーフで、おっぱいもこれまたすごいのよ。しかも夢の中でのプレイも可能だから、何発撃っても限界なし。まー、純エルフのパールさんとかも凄いけどね。でもあっちはお胸の方があんまりだし、最近ちょっとヤバめなスピリチュアルにもハマりつつあるからおすすめしな……」
「リーナ」
「どした? あ、やっぱおっぱいが大きい子の方が好みとかそういう——」
「リーナしか、買わないよ、僕は」
……アルスが、他の女の子を買ったりしないってことは、もうわかってるのにね。
やっぱこういうところ、かっこいいなぁって、思っちゃうな。
……気持ちを伝えるのは、感情の整理がついてからでいい。
それより、今、私が彼に言うべき言葉は一つだ。
「ん、そっか。
ありがとね、アルス」
助けようとしてくれて、ありがとう。
私は素直に自分の気持ちを彼に伝えた。
……そんなときだ。
「——ねえ、見て、あの首輪」
不意に、私たちの後ろから声が聞こえた。
「娼婦よ。
神聖な教会によく入ってこれるわね」
「な。ああいう奴らがいるから、治安が悪化するんだ。
スラムの乞食どももそうだが、神父様は優しすぎる」
耳に入る声は、強烈な拒絶。
振り向くと、汚らしいモノを見るような目つきをした男女が二人。
……たぶん、この教会の信者だろう。
アルスの足が動く。
「いいから。
ああいうこと言われるのは、慣れてるから、大丈夫」
彼の肩を掴みながら、私は声を放つ。
男の方は弓を背負っている。
おそらく冒険者だろう、あまり大事にはしたくない。
そう、思ってたんだけど。
「あ、もう、アルス、ダメだって」
私の静止を無視して、アルスは男たちの方へ向かっていく。
腰に、大きな剣を携えたままだ。
「……け、喧嘩は駄目だよ、あるす」
「しないよ。
ちょっと、注意するだけ」
背を向けてるから、アルスの顔は見えない。
でも、怒っているのは分かる。
昔から、アルスは静かに怒ることが多かった。私とは対照的だ。
「——僕の大切な人を悪く言うのはやめてください。
彼女が傷つきます」
近づいて放たれたアルスの言葉に、少しギョッとした様子の男が返答した。
「……なんだアンタ。
急に話に入ってくんな。
関係ないだろ」
男はあからさまに苛ついていた。
鬱陶しそうに視線を前に向け、アルスのことを無視しようとしている。
対して、アルスは動かない。
……どうやら引くつもりはないようだ。
ど、どうしよう。
揉める前に、人呼んで来た方がいいかな
私があたふたしていると、ついに男がアルスの方へ顔を向けた。
そして、顔をじっと見つめ、何秒も、視線を交わし続ける。
め、メンチ切ってる?
まずい。
そう思った私が二人のもとへ駆け寄ろうとしたときだ。
——突如、男が表情を変えた。
……なんだ、あの顔。
驚いてる、のか?
私が疑問を浮かべた瞬間、男の口が動きだす。
「その顔の傷、まさか。
黒狼のアルスか!?
あの、北方地域の紛争を一人で収めた英雄の!」
興奮した声が教会中に響き渡る。
驚く私。
声を聞いた何人もの人がこちらへと視線を向ける。
「アレはパーティでやったことですから、僕の力ではないです。……それより、さっきみたいなことはもう言わないでください。
僕がいないところでも、そうです」
「あ、あぁ、悪かった。
アンタに言われちゃ、敵わないよ。
……嬢ちゃんも悪かったな」
男は先ほどまでとはまったく違う態度で、私に頭を下げ出す。
「え、あ、はい。
私はぜんぜん気にしてないので」
なんか、解決したっぽい。
まじか、アルスってこんな感じなの?
もしかしてアルスって私が思ってるより有名人?
娼館に閉じ込められてるせいで外の話には詳しくないんだよね。
店長たちも冒険者には興味ないらしいし。
……だとしたら、ほんと、私とは大違いだな。
「ごめん、どうしても無視できなくて」
私は今見た光景に戸惑いながらも、戻ってきたアルスに微笑む。
「あーうん、大丈夫。
ま、慣れてるとはいえ、言われるのは良い気分じゃないしね」
「これからは、なんかあったら僕の名前を出していいから。一応、この辺だと名は通ってるから、効果はある……と思う」
「いやいや、申し訳ないよ。
私みたいなのと仲良くしてるってのが広まったら、アルスにも悪い噂ができちゃうし」
私は本音を伝える。
今の男の反応を見るに、どうやらアルスは英雄という奴で通ってるらしいじゃないか。英雄色を好むとはいえ、こんなちんちくりんを好んでいてはアルスのイメージにはマイナスしかない。英雄が変態に変わるだけだ。
だから、ちゃんと言っておくべきだろう。
私は彼の顔へと視線を合わせる。
「冒険者としての立場もあるだろうし、こんな身体を売るような女と一緒にいたら、さっきみたいに変な目で見られちゃ——」
その言葉を放つと同時だった。
「——ひゃ」
私の身体は、アルスによって包み込まれた。
太い腕と、硬い筋肉。
体格差がありすぎて、私の視界は、完全に塞がれている。
これは、昨日も経験した。
……だ、抱きしめるの、好きすぎでしょ、アルス。
「ど、どうしたの、かなー?
お、おい、私がいくら美少女だからって、そんな、いきなり抱きしめる、なんて」
さっきの一件が会ったから、人が集まっている。
というか、こんな衆人環視の中でなんて、ちょ、ちょっと、大胆すぎるというか……あ、あの、アルスさーん?
「み、みんな見てるよー?
あ、あるす?」
「……こうしたら、僕以外、リーナを見れないよ。
だから、何も変なことは言われない」
アルスの言葉を聞いた瞬間、ビクンと胸が跳ねた。
「……自分を卑下するようなことは言わなくていいから。他の人なんか知らない。
僕にとって、一番大事なのはリーナだよ」
「へ、へっ?」
……なにそれ、そんなの、まるで。
彼の言葉の意味を理解する前に、私はさらに強く、抱きしめられた。
アルスの匂いが、顔中に広がる。
好きな匂いだ、昔から、ずっと。
安心できて、一緒にいるだけで、勝手に笑顔になっちゃう。
わかんない、けど。
でも、アルスなりに、私にできることをしてくれてるのだ。
「……ありがとね、アルス」
私はそのまま、彼の腕の中に包まれながら、しばしの時を過ごした。
時計の鐘が鳴る。
同時、私はハニイさんに言われていたことを思い出した。
「……ご、ごめん、離してもらえる?
もう、お仕事行かないといけないから、ね」
「あ、う、うん。
ごめん、そうだったよね」
名残惜しそうに、アルスは私を解放する。
良かった、ちゃんと離してくれて。あのままだと、一生離してくれなそうだったし。
頭が熱い。
身体が火照っている。
理由はわからないけど、人に見られたのが原因ってのは、あるだろう。
……今度からは、ああいうことは二人っきりのときにしてもらおう。
恥ずかしすぎる。
そんなことを考えつつも、私はアルスへ最後に一声をかけた。
「今度さ、ご飯でも一緒に行こうよ。
昔の話とかも、いっぱいしたいし」
「う、うんっ!
行く! 絶対行くよっ!」
やけに食いついてくるアルス。
なんだ、そんなにご飯を食べたかったのか。
なら、この後一緒に……いや、ハニイさんへの説明ができないし、無理か。
「あ、でも私レストランとかには疎いからなぁ。
悪いけど、アルスが選んでくれない?
……その、できれば二人っきりで食べられるとこがいいかな」
「うん、わかった。
リーナに楽しんでもらえるように頑張るよ」
「もう、大袈裟だなぁ。
……あ、私休みないから、店長にお願いしないと」
休みくれるかなぁ。
せめて休憩中の数時間でいいから、自由行動させてくれたらいいんだけど。
ま、少なくとも今週中は忙しいから無理だな。
……となれば。
「だから、次に会うのは、アルスがお店に来るのが先だね」
「……そ、そっか。
お店で、か」
私の言葉を聞いて、アルスの耳がほんのりと赤くなった。
それを見て、私はとあることを思いついた。
……さっきの仕返しだ。
私は彼の耳元に近づく。
さっきまで、抱きつかれてたから、簡単に近づけた。
それに、しゃがんでくれているのも、僥倖である。
私はその耳に、自らの口元を近づけ、
「——次は、いっぱいサービスしてあげるから、ちゃんと来てね?」
そう小さく、呟いてから、私は彼の元から去った。