旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす   作:しゃふ

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6話 仕方ない、よね

 

 アルスと別れた後、ハニイさんとご飯を食べた。

 パンの上にいっぱいの蜂蜜が乗っている映えーって感じの奴である。

 うむ、流石ハニイさんだ。センスがいい。

 

「ふぅ、お腹いっぱいです。

 ほんと、何から何までありがとうございます、ハニイさん」

「ふふっ、こういうお店は若い子じゃないと入りにくいでしょ? 私も助かったわ」

 

 あっという間の完食の後、店を出て、帰路に着く。

 

 帰る場所はもちろん娼館だ。

 そう、私たちの夜はここからが本番である。

 

 若干憂鬱になりながらも、私はハニイさんとともに歩いた。スラムに近づくにつれて、徐々に人は少なくなり、街の匂いが薄くなる。

 ……相変わらず、ここら辺は空気が悪いな。

 

 そんなことを考えながら、一息ついたときである。

 

 ……?

 なんだ?

 

 

 一瞬、背中に視線を感じた。

 鋭い視線。

 今日教会で浴びたものと似てるけど、でも、少し違う。なにか、舐め回すような、気持ち悪さすら感じた。

 

 ……嫌な寒気が、私の胸を揺らす。

 

「リーナちゃん?

 どうかしたの?」

「……いえ、何でもないです。

 それより急ぎましょう。

 早く帰らないと店長にどやされますから」

 

 早く帰ったほうがいいか、これは。

 警戒は緩めずに、私たちはそのまま娼館へと走って帰宅した。

 

 

 

 そして、あっという間に六日が経った。

 ……今日は、アルスが店に来る日だ。

 

「ふっふーん。

 ふんっふふっふーん」

 

 店裏の待機室で、私はピョコピョコと足を揺らす。

 目の前には鏡。

 昔は見るのが嫌だったけど、今日は違う。

 

「アルス、気に入ってくれるかなぁ」

 

 私は頬を手で触れながら小さく呟く。

 ツルツルとした肌は、若々しさだけではなく、少しの色気すら感じられる、そんな気がした。

 

「お化粧、意外と嫌いじゃないかも」

 

 このお化粧は、ハニイさんがしてくれたものである。

 それも、とびっきり可愛いやつをだ。

 貴重な休憩時間だと言うのに、彼女は嬉しそうに頬を緩ませながら引き受けてくれた。

 ママ、ありがとう。

 

 あと一時間もすれば、アルスが来る。

 

 受付の雑務はまだ残っているというのに、なんかさっきから心がふわふわして全然仕事が手につかない。

 ……ま、仕事とかいっか。

 今はアルスのことが大事である。

 

 私は近くにあるクローゼットへと足を運ぶ。

 

「……んー、こんな格好じゃなかったらもっと可愛い服もあったのになぁ」

 

 私の体型に合う服はほとんどない。

 いや、あるにはあるけど、それはいわゆる幼児服に近いモノであり、女の子が着るものとしては論外である。

 一部の変態受けはいいんだけどね。

 

「そう、例えば店長みたいな鬼畜さんには……」

「おい」

 

「うわっ!? 目の前に変態がっ!」

 

 突如背中に現れた巨漢男、店長。

 今日も相変わらずの悪人顔である。

 

「……仕事をサボってる奴の言うセリフか、それは」

 

 ド正論でどやされ、さすがの私も縮こまる。

 ……あ、あはは、軽いジョークじゃないですか。

 ごめんなさい。

 

「まあいい。

 それよりも、お前に大切な話がある」

「へ?」

 

 お説教の始まりかと思ったが、なんだ? 急に。

 やけに神妙な面持ちだし、辺りには誰もいない。

 完全に、私と店長二人きりである。

 

 ……ということは。

 

「ま、まさか告白っ!?

 そ、そんな、だめです、店長。

 店長の外見じゃ、結果は既に見えちゃってますよっ」

「……お前は相変わらずだな」

 

 私の言葉に対して、何故か店長は半笑いで返してきた。

 下手くそな笑顔だ。

 これじゃあ完全に中学の頃の卒アルである。

 

 そんなことを考えていたときだ。

 店長が一拍置いて、話し出す。

 

「その首輪、外したいか」

 

 ……ん、なんだ、急に

 

「そりゃ、もちろん外したいですよ。

 わんこみたいだし、服着るときに引っかかるし、可愛くないし」

「そうか、それは災難だな」

 

 いやアンタがつけたんでしょうが。

 そんなことを突っ込む気もなれず、私は彼の話を黙って聞き続ける。

 

「お前につけた首輪は、契約の首輪だ。

 特殊な魔力が込められたその首輪は、契約が終わるまで外れることはない」

「……はぁ、なんか、前も同じような話は聞きましたけど」

「違う。

 俺が話したいのは、その契約の部分だ」

 

 首を横に振りながら、店長が言葉を放つ。

 

「俺がお前にした契約は一つ。

 首輪の魔力がなくなるまで、嬢として客を満足させ続けることだ」

 

 そうなのか。

 まぁ、魔道具であることは分かってたし、何となく仕組み自体は理解できる。

 

「……まぁ、簡単に言えばな。

 その首輪はエロいことをすればするほど、内部の魔力が減っていく。

 時間経過でも減りはするが、このペースだといくらかかるか分からん」

 

 とはいえ詳しい話は初めて聞いたな。

 ……てか、そんなエロ漫画的な契約なの?

 やっぱドスケベじゃんこの店長。

 

 ジトっとした視線を浴びせながら、私は一つの疑問を声に出した。

 

「エロいことって、例えば、どういうことです?」

「全部だ。

 手だろうが、口だろうが、なんでも良い。

 効果は薄いだろうが、単なるハグや握手でも減りはするはずだ」

 

 ……エッチだけじゃないのか。

 となれば、私の首輪の魔力も少しは減ってるのか?

 アルスとは、何回か抱き合ったりしたし。

 

 若干の羞恥心が、私の耳を赤くする。

 耐え切れず、私は店長へと話しかけた。

 

「……で、結局何の話なんです?

 もっと客を取れって話ですか? 嫌ですよ、そんなの」

「違う。

 俺が言いたいのはそういうことじゃない」

 

 じゃあどういうことなのだ。

 私はじっとハナテを浮かべながら、店長の顔へと訴えかける。

 

 そして、その返答は。

 

「——短期間でここを出たいならな、あのアルスという男と、何度も性行為をし続けろ」

「……は?」

 

 実に生々しく、私にとって、ありえない言葉だった。

 

 え、いま、なんて?

 せ、せ、せいこう、い?

 そ、それも、アルス、と?

 

「な、なな、なに言ってんですっ!!

 へ、へんたいっ! 店長のばかっ!」

「馬鹿じゃない。

 首輪の魔力は、直接的な行為をすればするほど、減少量が多くなる。

 今のペースじゃ、お前は当分ここから出れん。

 アイツの力を借りる他ないだろう」

「……そ、それはそうでも。

 なんで、急にそんなこと言いだしたんです。

 店長は、私がここにずっといる方が、都合が良いでしょう」

 

 当然だ。

 いくらでも使いつぶすことができる雑用係なんて、簡単に手に入るものじゃない。店長なら、私が出られないと分かっていながら、そのまま酷使するはずである。

 

 私の疑問に店長は答える。

 

「俺は恋愛というものをしたことがない。

 だからこそ、お前の事情はわからん。

 ハニイの奴も、教えてくれなかったしな」

 

「は、はぁ?

 急に、なんの話?」

 

 脈絡のない話に、私は素で困惑する。

 

「俺から言うことは一つだ。

 ——契約を全うしろ。

 ……そうすれば、もう何も言わん。

 ここの従業員になるのも、それともどこかに消えるのもお前次第だ」

 

 分からない。

 店長が何を思って、私にこんなことを言うのかは分からない。

 どこまで知っていて、何をしたいのか、分からない。

 

 けど。

 

「分かったか、リーナ」

「……は、はぁ」

 

 言葉を告げ終わった後の店長の顔は、なんとなく、寂しそうに見えた。

 ……そんな気がした。

 

 

 店長が去った後、私は一人、考えていた。

 

 アルスと、性行為。

 結びつくはずのない二つの言葉が、私の頭をガンガンと刺激する。

 当たり前だ。

 私とアルスは、ただの親友で、アイツには好きな人が存在してる。

 エッチなんて、ぜったい、駄目だろう。

 

「……だけ、ど」

 

 行為を避け続ける限り、店を出ることはできない。

 このままずっと、雑用係として店に残るだけだ。

 仕事が嫌なわけではない、でも、そうなれば。

 

 きっといつか。

 

 ——アルスが来なくなる日が、やってくる。

 

「いや、いやだ。

 そんなの、いやだよ」

 

 ぐちゃぐちゃだ。

 心の中の、色んな感情が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになっている。

 店長の奴め、これからアルスと会うというのに、なんてことを教えてくれたのだ。

 

 だ、第一、性行為なんて、できるはずないだろう。

 アルスと私とじゃ、その、サイズが違う。

 子どものときに見たやつは可愛い感じだったけど、今は違う。きっとあの巨体に似合う怪物が潜んでいることだろう。

 

 断言する。

 私が逝く。

 色んな意味で。

 

 ……でも、でもだ。

 例えば、それ以外のことなら、どうだろう。

 

 キスは、子どものときにふざけて一回ほっぺにしたし、裸だって、お風呂で何度も見せたことがある。

 

 そ、それに、手だけ、とか、口だけ、とかなら。

 私だって、彼を満足させることは、できるかもしれない。そういう経験は、全くないから、下手くそだけど。

 

「……あるす」

 

 私たちは、親友である。

 困ったときは、互いに助け合うものだ。

 アルスだって、きっとそう思ってくれている。

 なら。

 

 ……あくまで、助けてもらうだけなら、仕方ない、のか?

 

 いやでも、いきなりは全部は無理だ。

 な、なら、何回かに分けてやるのはどうだろうか。

 「今日はここまで、続きは来週また来てね」って感じで。

 

 うん、それがいい。

 やるとしたら、順序を立てて、一つずつ進めていくべきである。

 

 ——か、完全に、する方法で話進めちゃってるな、私。

 

 そう思って、全身がぶるっと震え上がったとき。

 

「——リーナちゃーん!

 お客様がもう来るわ! 三号室に行きなさい!」

「あっ、ご、ごめんなさいっ!」

 

 店の方から大きな声が聞こえた。

 まずい、もう時間が来ていたようだ。

 

 私は真っ赤になっている顔はそのままに三号室へと駆けた。

 

 

 ……そして。

 

「——リーナ、大丈夫?

 なんか、顔が赤いけど」

「だ、だいじょうぶ、れふ」

「ほんと?

 ……んー、熱はないかな」

 

 沸騰した頭はそのままに、アルスとの時間が始まった。

 

 

 




ちなみに店長は普通に童貞らしいです。
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