旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす 作:とせがり
今回はアルスくん視点です。
「……大丈夫? リーナ」
「う、うん、へいき、だよ?」
扉を開けて部屋に入るや否や、リーナの様子がおかしい。
さっきからモジモジしては「あ、あのね、あるす、わたしね」みたいなことを耳元で囁いてくるし、距離も近くて、顔も赤い。
……それに、いつもより少し、大人っぽさがある。
雰囲気というか、その、色気というのだろうか。
ツルツルとした白い肌が目に入る度、僕はぐっと、息を呑んだ。
「アルス、そっち行ってもいい?」
「え、あ、うん。
もちろん、だいじょうぶだけど」
言った途端、リーナは僕のすぐ隣に座りだす。
可愛い。あり得ないほどに、可愛い。
今すぐ抱きしめて、いつまでもくっついていたい。
ほんと、いつもそう思う。
……けど、流石にいきなりは駄目だ。
前も驚かせちゃったし、するとしてもリーナの許可を得てからである。
そんなことを考えていたとき。
不意に、リーナの細い指が僕の腕に触れた。
「太くなったね、腕」
リーナの吐息が、僕の腕にかかる。
同時、彼女はペタッと、僕の手に自らの頬をくっつけた。
「こんなに傷だらけ。
昔は、ちょっと転んだだけで泣いてたのに。
……頑張ったんだね、アルス」
彼女の言葉が耳に入るたび、心臓の奥が、ずしんと揺れる。
昔からそうだ。
リーナの声は、どこか不思議で、聞いているだけで嬉しくなって身体中がポカポカとあったまった。
——でも、だけど。
リーナはときどき、いつもと違う声色で話すときがある。
「……私も、一緒に行ってれば、こうなれたのかな」
今にも消え入りそうな、小さな声。
ボソッと呟いたその言葉は、きっと、意図して出てきたものではないのだろう。
けど、だからこそ。
その言葉が彼女の本音であることは疑いようがなかった。
そのとき。
「……どーんっ」
僕のお腹へと、リーナが倒れてくる。
頭から崩れた彼女の身体を、僕は慌てて抱きしめた。
まるで、子どものいたずらだ。
僕は少し口角をあげて、リーナの頭に手を伸ばす。
でも、そのとき。
「ねぇ、アルス」
彼女の顔がぴょこんとお腹から姿を現した瞬間。
リーナが、僕に向かって、声を放った。
「——久しぶりに、お風呂、一緒に入ろ?」
……分からない。
なんで、こうなったんだろう。
カーテン越しに布擦れの音を響かせながら、リーナが動いている。
「開けちゃダメだよ?」なんて言った、赤らめた顔はくっきりと頭に残って、離れない。
心臓がバクバク揺れている。
当然だ、だって、リーナと、お風呂だよ。
子どものときですら、恥ずかしくて死にそうだったのに、今はもっと無理だ。
……と、というか。リーナはなんで急にあんなことを言い出したのだ。
流れで来てしまったが、彼女とて娼館でお風呂に入る意味を知らないわけじゃないだろう。
……もしかして、リーナは、未だに僕を子ども扱いしているのだろうか。
それなら、大きな誤解だ。
だって、今の僕じゃ、あのときにみたいな純粋な気持ちじゃいられない。きっと、また、教会で別れた後みたいに——
いや、だめ、だめだ。
あんな醜態、リーナに見られるわけにはいかない。
「意識するな、意識するな。
そう、僕は、ただの友達。
決して、彼女は僕のことを、そういう——」
「アルス? 入るよ?」
「へ、はいっ!?」
突然開かれたカーテン。
風の音が、僕の隣を通り去る。
反射的に、僕は目を瞑った。
——はやすぎるっ、まだ、なんの心の準備もできていないのにっ。
目の前に、リーナがいる。
当然、服を脱ぎ終え、完全に生まれたままの姿の彼女が、いるのだ。
……覚悟を決める。
ここまで来たら、もう、後には引けない。
ゆっくりと、僕は自らの目を開けようと力を込めた。
——次の瞬間、僕の目に入ったのは。
「じゃじゃーん、可愛いでしょ、これ」
紺色の水着で身を包んだ、彼女の姿であった。
……あれ、水着、着てる?
「美少女のスク水だぞー? ちゃんと目に焼き付けとけよー? ふふっ、せっかく店長に作らせたんだから、一回着てみたかったんだよね」
「あ、あぁ、うん、そうなんだ」
「……あれ、なんかガッカリしてる?」
「し、してないよ!?
いや、でも、ちょっと、驚いたというか、その」
ピチっと密着した水着は、彼女の肉体をこれでもかと言うほど強調し、白い肌を際立たせる。
……裸では、なかったけど、でもこれはこれでまずい。
サイズのせいか、リーナな身体のラインがくっきりと出てて、肌もかなり見えている。
浮き出た肋骨に、棒のように細い足。
ダグラス辺りが見たら、間違いなく貧相な身体だと笑い飛ばすんだろうけど、でも。
——さっきから、ずっと、身体の奥が熱くなっている。
「このスク水は私の提案で作ったんだよね。
ふふ、凄いでしょう。色んなプレイのためにこういう服ならいっぱい置いてあるんだっ。
しかも、嬢ごとに特注サイズだから私でも着れるし」
何やら色々説明しているようだが、正直に言って、ほとんど頭に入ってこない。彼女が身振り手振りをするたび、白い肌が目に入って、心が揺れる。
水着で隠されているからこそ、余計にだ。
これなら、まだ、子どものときに見たことのある裸の方が冷静でいられたかもしれない。
「……水着、着るんだ」
動揺からか、考えていたことが勝手に口から出てしまう。
「へっ!? え、えと、それは」
……まずい。
そんなこと言ったら、まるで、僕が裸で入るのを望んでいるみたいじゃないか。
「——あ、アルスが、どうしてもって言うなら、なしでもイイケド?」
明らかに恥ずかしがっているリーナ。
それを見て、僕は自分の脳を激しく叱責した。
……平常心、平常心である。
彼女を辱めるようなことを言ってはダメだ。
「着たままで、大丈夫。
というか、それが普通だよ、うん」
「そ、そうだよね。
うん、うんうん。
ま、まぁー? 私はそんなに気にしないけど、ね。
アルスが着ないなら、べつにそれは……」
「いや、僕も着るよ。
この服、水で濡れない特別な奴だから」
昔、ダンジョンのトラップ対策にと職人さんに作ってもらったやつだが、こんな風に役に立つとは。
普段着にしてるのを笑われてきた甲斐があった。
「……あそ」
あれ、なんかガッカリしてない? リーナ。
……いや、気のせいか、うん。
トーンを落とした彼女の声にそんなことを思いつつ、僕は浴槽へと足を踏み入れた。
湯の入った浴槽の中、僕らは向かい合う。
「こうやって、一緒に入ってると、昔を思い出すね」
「……うん、そうだね」
目の前のリーナにそんなことを言われた。
が、残念なことに、今の僕の頭には昔の光景なんて一つも思い浮かんでいない。
なぜなら。
「……んっ、ごめんね、アルス。
身体、当たっちゃう」
狭い、狭すぎる。
いや、僕が大きいっていうのもあるけど、でも、それでも狭い。
向かい合って浸かっているというのに、彼女と僕の身体は、ほとんど触れ合っているといっても過言ではなかった。今も、ずっと、当たってるし。
さっきから僕はリーナの顔しか見ていない。
いや、正確には、他のとこを見れないのだ。
リーナの白い肌、細い腰、浮き出た鎖骨。
どれも、今の僕には刺激が強すぎる。
——それに、なにより。
こんな狭い空間じゃ、万が一のときに、間違いなく、バレてしまう。
だから、決して反応するわけにはいかないのだ。
そう思いながら、悶々と、歯を食いしばったときである。
「アルス」
不意に、放たれたリーナの声。
「——あのね、大事な話があるんだ」
それは、先ほどまでとは違う、はっきりとした落ち着いた声だった。
そのまま、彼女が自らの首へ、手を当てる。
——そこにはあるのは、冷徹な金属で作られた黒い輪。彼女をこの娼館に縛り付けている元凶だ。
「この首輪の外し方をね、さっき店長から聞いたんだ」
……え?
「ほ、ほんとにっ!?」
「うん。
とはいえ、ちょっと……人の協力が必要なんだけどね」
言葉を聞いて、僕はギュッと拳を握りしめた。
首輪がなくなれば、もうリーナがこんなところで働く必要はない。
この娼館の店長が素直に彼女を解放するかは怪しいが……そうなったときは、僕がなんとかすれば良いだけだ。
二人で街を抜ければ、もう大丈夫。
変なしがらみにまとわりつかれることもなく、僕たちは、二人、ずっと、一緒に……
——いや、待て。
まだ、首輪の外し方とやらを聞いていないのだ。
喜ぶのは、詳しく話を聞いてからのほうがいいだろう。
「外し方って、どうやるの?
……僕に協力できることなら、なんでもするよ。
リーナのためなら、どんなことでも」
「——へっ。
え、えへへ、そ、そっかぁ。
ど、どんなことでもかぁ」
僕の言葉を聞いて、リーナは急に頬を緩めた。
彼女はまるで、照れているかのように頭を掻く。
……? なんだこの反応。
「じゃ、じゃあ、教えるね。
でも、一回しか言わないから、ちゃんと聞いててね?」
いや、いい。
例え彼女の言う言葉がどんな困難であろうとも、僕は彼女を救ってみせる。そのために、僕は強くなったのだ。
……さぁ、なんでも来い。
大丈夫、今の僕なら、きっとどんなことだって——
「え、えっちなことをしたらね、この首輪、早く外れるらしいんだ!」
へ?
「う、嘘じゃないからね!
そういう契約らしくて、ほ、本当なの。
……あ、でも、その。
べつにそういうことだけじゃなくてもいいらしくて」
完全に固まった僕の顔を見たリーナが、慌てながらも説明を続けた。
「ハグとか、チューとか。
たぶん、今のお風呂だって、カウントされてると思う」
——えっちなことをすれば、首輪が外れる。
えっちなこと、エッチなこと、エッチな、こと。
言葉としては理解できても、感情としては理解が追いつかない。
確かに、確かにだ。
娼館での契約となれば、そういう契約であってもおかしくない。
彼女の言葉から嘘はまったく感じないし、筋だって、通っている。
「だから、ね。
アルスに、ちょっとだけ、手伝ってほしいの」
手伝う。
……手伝う?
リーナにえっちなことをするのを、僕が手伝う?
……まずい。
想像したら、身体が、熱く。
「い、嫌なら、いいんだよ?
アルスが、嫌なら、その、ぜんぜん、いいから」
嫌なわけがない。
彼女とそういうことをしたいかどうか。
僕の答えは、とっくに決まっている。
……だが、本当にいいのか?
そういうことは、もっと、ムードがある場所というか。
こんな、お金を払った娼館でなんて——
「……やっぱ、嫌だよね」
「い、嫌なんかじゃないよ!
でも、えっと……」
言葉を放ちながらも、僕は悩み続ける。
……だが、そのとき、僕の頭にとあることがよぎった。
——ここで僕が拒んだら、リーナはどうする?
僕が、協力できないとなったら、リーナは……
『……そっか。
なら、アルス以外の人に頼むね。
じゃ、バイバイ』
だめ、だめだっ!
「ひゃっ!? な、なに?」
嫌な想像がよぎった瞬間、僕の身体は動いていた。
「僕にできることなら、なんでもする。
さっき、言ったでしょ」
「ほ、ほんとに?
ほんとに、いいの?
私みたいなのと、ほんとに」
「——リーナだから、いいんだ」
リーナの身体を抱きしめる。
小さな身体を覆うものは、今や布切れ一枚しか存在しない。
直に伝わる感触に、体温。
混ざり合った感情が、僕の脳を激しく揺らす。
そして、そのまま。
「……じゃ、じゃあ、良いかな、アルス」
リーナが、自ら胸元へと手を伸ばした。
「は、恥ずかしいから、その、ちょっとだけだけど。こ、子どものときに、見たことあるし、大丈夫、だよね?」
体格差から、見下ろす形になっている彼女の胸部。
『りーな』と大きく書かれた名札が貼り付けられている、胸の真ん中。
その場所に、彼女の手が迫る。
そして、次の瞬間。
——グイっと、水着の胸元が、引っ張られた。
「——あ」
見えた。
彼女の、肌。
それも、胸の、色が、違う突起——
瞬間。
僕の頭は、馬鹿みたいに沸騰して、身体中の体温が脳へと集まりだす。
——それが招く結果は、一つ。
「あ、アルスっ!? ひゃっ、熱っ!?
の、のぼせちゃったのっ!?」
浴槽の外にぶっ倒れた僕が最後に見たのは、未だぎっしりと魔力が詰められている、彼女の首輪だった。