旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす   作:しゃふ

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9話 目撃

 

「……ん、もう、朝か」

 

 宿屋のベッドにて目を覚ます。

 

 昨日は色々あったせいか、すぐに寝てしまった。

 娼館の方でも一時間近く寝てたのに。

 ……なんも食べてないからお腹空いたな。

 

 そんなことを考えながら、僕はベッドから降りて一階へと向かおうとする。

 

 が、そのとき。

 

 僕の視界の中にあるモノが目に入った。

 

「……アレ、どうしよう」

 

 視線の先にあるのは、リーナに手渡された例の物。

 店員からは一人になったら使えと言われた魔道具である。

 

 それを見た瞬間、昨日の記憶が鮮明に蘇る。

 水着に、膝枕。

 それに、何といってもお風呂場で倒れる直前に見た、あの光景。

 

 ……リーナの身体は、ずっと僕の頭に残って離れない。

 

 身体の下の方が重い。

 最近は、リーナのことばかりを考えているせいか、朝はいつもこうだ。

 生理現象とはいえ、少し罪悪めいた感情も覚えてしまう。

 

「……リーナ」

 

 身体が、勝手に動く。

 いつの間にか、僕の手には魔道具が握られていた。

 

 穴に、指を入れる。

 狭い。

 絡みつく肉感に、ぬるぬるとした感触。

 一度抜こうとしても、ぜんぜん、離してくれない。

 

 きゅっ。

 

「……え」

 

 ——なんか、今、急に締まった?

 

 ……いや、気のせい、だよね。

 

 僕は、魔道具を手にしたまま、ベッドに戻る。

 使い方は、分かっている。

 大きさは、ちょっと厳しいかもだけど。

 

 ……これは、その、仕方ないことである。

 

 あんなことされたら、僕だって、限界がある。

 それに、リーナの首輪の件だって、あるし、その。

 ちょっとくらい、練習をしても、いいだろう。

 

 言い訳めいた言葉で頭をいっぱいにしながら、僕は手を下へと持っていき、

 

 ——ズボンへと、手を伸ばす。

 

 

 そのときだった。

 

「おい、アルス一緒に飯でも……」

 

 部屋のドアが開いた。

 

 

「——あ」

「あ」

 

 そこにいたのは、目を点にして、こちらを見つめているダグラス。

 彼の視線の先は、一点に固定されている。

 

 ……ズボンを失った僕の下半身に。

 

 

 ——言い訳をする前に、扉は閉じられた。

 

 

 

 数分後。

 

「すまん、ノックはすべきだったな。

 ……ま、大丈夫大丈夫、お前も年頃の男なんだ。

 マスの一つくらいかくのは普通だ——」

「ぶん殴りますよ、ほんとに」

 

 一階に下りた僕はダグラスと話していた。

 ……いや、別に話したくはなかったけど、でも何が何でも口止めだけはしないといけない。

 

「……鍵をかけてなかった僕も悪かったです。

 だから、みんなに黙ってるならそれでいいです。

 わかりましたか」

「おう、任せとけ。

 俺は口の軽さには自信があるからな」

「駄目じゃないですか」

 

 笑いながら宣言したダグラスに僕は呆れかえりながら、言葉をぶつける。

 

 ……見られたのがダグラスだったのは、果たして良かったのだろうか。

 女性陣にバレるよりはマシな気はするけど、でもこのままだと一週間はからかわれそうだ。

 頭とか殴ったら記憶消えないかな。

 

 そう思ってため息をついたとき、ふと後ろから声が聞こえた。

 

「——あれ、なんの話してるんですか?

 お二人とも」

「お、ジェルナーじゃねえか。

 珍しいな、お前が宿に来てるなんて」

 

 振り向くと、ジェルナーさんがいた。

 珍しい。

 いつもはこの時間は近所の森に出かけてるというのに。

 

「たまには休息も必要ですから。

 ——それよりアルスくんがどうかしたんすか?

 さっき、なんか暴言吐いてましたけど」

 

 てか、話聞いてたのか。

 ……内容はよく分かってないようだけど。

 

 僕はダグラスを睨みつける。

 大丈夫、流石の彼でも、女の人であるジェルナーさんにさっきのことを伝えたりはするわけないだろう。

 

「あー、なんでもねえよ。

 ただ、ちょっとな……」

 

 よし、その感じで上手いことを話を逸らしてもらって——

 

「さっき、こいつを飯に誘おうとしたら部屋でシコ——うぉおっ!? 

 け、剣抜きやがったぞこいつ!? 竿だけじゃなくっ」

 

 殺す。

 

「ははーん、そういうことですか。

 まったく、アルスくんのえっちぃ。

 ま、こんなスーパーウルトラ美少女ジェルナーちゃんと一緒の宿にいるんです、仕方ないですかなー」

 

 剣を抜いた僕に対して、ジェルナーさんはベタベタと肩を寄せてきた。

 

 ……この人もまあまあな歳というのに、よく美少女とか言えるな。てか、ほんとにノンデリしかいないんだけど、このパーティ。

 なんなの、もう。

 

「……はぁ」

 

 再度、ため息。

 最近はいつもこれだ。

 頭の中がいっぱいいっぱいで、つい、息をついてしまう。

 

 そんなときだった。

 

「ま、冗談はこの辺にしとくか」

「あ、冗談だったんです?

 えー、せっかくアルスくんの可愛い話が聞けたと思ったのに」

 

 僕の様子を見たダグラスが話を切り上げ、前へと歩いてくる。

 ……なんだ?

 またからかいでもするのだろうか、そんな風に身構える僕に対して、ダグラスはひどく冷静な顔している。

 

 そして、突然。

 

「——で、お前娼館で何があったんだ?」

「……え」

 

 ダグラスが、そんなことを言い放つ。

 その言葉は、いつにもなく真面目な声色であった。

 

「はっ、お前とは何年一緒にいると思ってんだ。

 そうやってウジウジしてるのは、もうとっくにこちとら見飽きてるわけだ」

 

 ドンと、ダグラスに肩を叩かれる。

 重い手だ。

 僕たちパーティのリーダーということもあって、彼はこういうことへと洞察力は高い。

 

 ……気づかれてたのか。

 

 そう思ったとき、隣からも声が聞こえた。

 

「——もしかして、リーナちゃんです?」

 

 リーナ、その名前が放たれて、僕は思わずピンと背中を伸ばす。

 

 声を放ったのは、ジェルナーさんだ。

 ……彼女はリーナと一度会っている。

 娼館という言葉を聞いて、ピンと来たのだろう。

 

「リーナ……例の幼馴染の女の子か?

 そいつが、一体どうだって言うんだ」

「……それは」

 

 一瞬、僕はリーナのことを話していいか、迷う。

 

 でも。

 

 ……二人は僕が村を出た事情だって知っている。

 それに、僕よりずっと、生きている時間だって長い。

 いつもふざけてばかりだけど、人生の先輩であることには違いないのだ。

 

「話してみろ、アルス。

 言っておくが、俺は女関係には強いぞ。

 今まで三十回は殴られたことがある」

「殴り甲斐ありそうですもんね」

 

 そして、なにより。

 

 僕の仲間たちは、真剣に話す人間は馬鹿にしたりはしない。そのくらいのこと、とっくに知っている。

 

 ……一人で抱え込むのは、仲間である彼らに失礼か。

 

 そして、僕は二人に向かって話を始めた。

 

 

「——はぁ。

 例の幼馴染が、娼館に、ねぇ」

「これまたびっくりですね。

 ……そっかぁ、あの子がアルスくんの好きな子だったんだ」

 

 話を終えると同時、二人は口々に言葉を溢しだす。

 二人とも、驚きは隠せていないが、それ以上に難しい顔をしている。

 当然だ。

 ずっと好きな子が娼館で働いているなんて事情、普通なら考えて重たすぎる。

 

 ……まぁとはいえ、二人ともわりとさっぱりしているタイプの人間だ。

 ある程度時間が経てば、飲み込むことは容易だった。

 

「で、結局お前はどうしたいんだ。

 それだろ、結局一番大事なのは」

 

 ダグラスに問われた言葉。

 その答えは、自然と僕の口から出ていた。

 

「——リーナと、一緒になりたいです」

 

 今更、恥ずかしがる意味はない。

 二人には故郷に好きな人を残してきたって話は何回もしてるし、僕自身、この気持ちは変わることは死ぬまでないだろう。

 

 だけど、問題は。

 

「……でも、伝える勇気が出ないんです。

 怖いから、もし、それを伝えて、リーナがいなくなったりするのが」

 

 僕が、それをリーナに伝えることが出来ないことだ。

 

「——ま、お前はそういう奴だしな。

 昔から気も弱いし、いざってときにビビる。

 

 ダグラスが言う。

 間違ってないので、反論はしない。

 いや、出来ないというのが正しいだろう。

 

「そんなお前へ俺からのアドバイスは一つだ。

 ……あのな、自分の力だけでなんとかしようとするな」

 

「どういうことです?

 二人がなんか協力してくれるんですか。

 ぜったい、ろくでもないことしかしないでしょう」

 

 僕は彼のアドバイスとやらに疑問を抱く。

 自分だけの力だけという言葉を否定はしないが、だからといって二人の力を借りるのは違う。

 

 ……これは、僕の問題なのだ。

 

「違えよ。

 俺が頼れって言ってんのは、人じゃねえ、物だ」

「もの?」

 

 そう言うと、ダグラスは近くの机に置いてあったグラスへと手を伸ばす。

 昨晩、部屋に戻る途中にも見たソレにはまだ少しだけ液体が残っていた。

 

「——酒だ、酒。

 人間、酔っぱらってればビビることもなくなる」

 

 グイッとグラスを飲み干しながら、ダグラスが言い放つ。

 

 

 ……お酒。

 それは、考えたことなかったな。

 

 ちょうど良いと言えば、ちょうど良い話である。

 後数日もすれば、一緒にご飯にも行くし、その場合二人で飲むということもできるだろう。

 

 とはいえ。

 

「僕、あんまり飲めませんよ?

 すぐ酔っちゃいますし」

「それで良いんだよ。

 酒の席って言うのは本音を語るには一番だ。

 酔いやすいのは、むしろ得なくらいだ」

 

 一理あるといえば、ある。

 アイデアとしては悪くないだろう。

 ……確か、リーナも前に少しだけなら飲むと言っていた気がするし。

 

「……美味しいお酒のある店、知ってます?」

「お、乗ってきたか」

 

 僕はダグラスに尋ねる。

 こういうことは彼が一番詳しいだろう。

 最近は仕事もせず、しょっちゅう飲みに行ってるしな。

 

「ただ、教えるのには一つ条件がある」

「条件? なんですか?」

 

 お金でも取るのだろうか。

 まぁ、紹介料くらいなら別に払ってもいいけど。

 

「この件が終わったら、俺たちにも付き合えよ。

 全員を誘って、パーっと飲もう。

 ま、代金はお前持ちだがな」

 

 ん、そうきたか。

 

「お、いいですねー。

 ただで飲めるお酒ほど美味しいものはこの世にないですから」

 

 彼の言葉に、ジェルナーさんも乗っかってくる。

 あんまりお酒を飲むイメージはないが、ただとなれば別なのだろう。

 

 ……もう、仕方ないな。

 

「……はいはい、わかりましたよ。

 終わったら盛大にはしゃぎましょう。

 あ、リーナも誘いますからね」

 

 そう言って、僕は二人に笑いかけた。

 

 ——まったく、今度の楽しみが一つ増えてしまったな。

 

 

 

 月曜日。

 僕はダグラスに教えてもらった、とあるレストランを訪れていた。

 

「へー、すごい。

 こんなとこあったんだ」

 

 隣にはリーナがいる。

 彼女は息を弾ませながら店の前をぴょんぴょんしていた。

 

「ふーん、ここお酒が有名なんだ。

 知ってたの? アルス」

「うん。

 僕たちも大人になったし、今日くらいはいいかなって」

 

 こうして、二人きりの飲み会がスタートした。

 




アルスが起きたのと同じ朝、娼館ではやけにしっぽりとした姿のリーナちゃんが目撃されていたそうです。


作品の匿名設定を解除しました。
十万字前後で完結目指してこれからも投稿していきます。
あとそろそろ毎日投稿がきつくなってきたので投稿できない日がでるかも?です。
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