貴方も聖少女サイコーと言いなさい。
ピピピピピピピピ。オラクルベルから電子音が鳴った。
「アイアンメイデンジャンヌ」
そこに記されている名こそがシャーマンファイト予選での静香の対戦相手。
ああ始まった。
戦いが始まった。
竜使い。遊馬静香の戦いが始まったのだ。
深夜。丑三つ時に外に出歩く不良が一人いた。
「静かな場所だ」
指定された戦場は名前の無い砂浜だった。
ゴミの類は一切無く、未だ人に犯されること無く自然本来の美しさを維持できている場者だった。
その分、そこに至るまでの道のりは本当に日本にある場所なのかと言いたくなる程に過酷な道を歩かされたが、暗にその程度は軽くこなせという意図なのだろう。
そして、そんな静かな自然の中に明らか異物がぽつり、と言うには余りにもふてぶてしくそこにある鉄の塊。
「三十分前行動だった筈なんだけどね。待たせたかな」
「そんなことはありませんよ。遊馬静香」
その声を聞いて、静香は眉を顰める。
─子供の声だ
「あんたが俺の対戦相手のアイアンメイデンジャンヌで間違い無いのか?」
「ええ、そうです」
─くそだな
シャーマンファイトは敵を殺す事も認められているという。そんな残虐な戦いに子供が参戦しているのだ。
シャーマンの能力に年齢なぉ関係は無いが、真っ当な感性を持つ人間ならばその事を嘆くべきだろう。
「どうする? もう二人ともいるのだから初めてしまうか?」
「いえ、その時刻に始まるべしという時間が定められているのだからその時間に始めるべきです」
それだと後三十分はこのまま待つことになってしまう。
砂浜に鉄の塊が一つの青年が一人。このシュールな絵面を何もせずに三十分も続けなければならないことに少しばかりうんざりする。
「ここまではどうやって来たんだ?」
最初は唯立ち尽くしていただけだった静香だがなんとも思わない言えない空気に耐えられなく、直ぐ後に戦う相手に話しかけたしまう。
「私の仲間であるXlowsが運んでくれました」
アイアンメイデンは連れて来てもらったとは言わなかった。運んでくれたと言った。
それはあの鉄の塊の中に入っているのは一時的にでは無く常にあの中に入っているという事だ。
─何故?
態々こんな物騒な物に入っているのだからそれ相応の理由がある筈だ。
─あーくっそ。戦う相手が子供だって分かっちまったから色々気になっちまう
そういう当たり障りの無い世間話を数回アイアンメイデンに投げ掛けるが以外ならことに反応は返って来た。
鉄の塊に包まれていようと心までカチンコチンな訳では無いらしい。
何もしていないととても長く感じる三十分も、何か始めると直ぐに終わるもの。
二人のオラクルベルが鳴った。
「時間です。始めましょう」
アイアンメイデンのその言葉と共に、鉄の塊が開帳した。
「なっ!」
顕になった姿に思わず声を上げる。
子供であることは想定していた。しかし鉄の塊の中身については何も考えていなかった。
鉄の塊の中には鋭い棘が敷き詰められており、その中に白い髪の幼い少女が佇んでいる。
一糸纏わずのそこ姿は拝むことになった者に情欲よりも先に神聖さを見出させる。
白い肌の上には夥しい己が血による化粧。まだ子供の柔らかい肌が鉄の棘により貫かれ、切り裂かれ、破けていた。
アイアンメイデン。
これは彼女の名でもあり、彼女を包んでいた鉄の塊の名でもある。
鉄の乙女と名付けられたそれは中世に用いられていた拷問器具だ。中に無数の棘が敷き詰められた鉄の像の中に人を入れて苦しめる為の物。
アイアンメイデンジャンヌは常にその中に入り傷つき、生死の境を彷徨うことで巫力を底上げしているのだ。
その甲斐もあって今の彼女の巫力は五十六万。巫力三十万の静香のほぼ倍を誇る。
「シャマシュ」
そしてオーバーソウル。
アイアンメイデンの持霊はメソポタミア神話の神、シャマシュ。人類の初めて法を授けた神である。
シャマシュの治癒の力によってアイアンメイデンによる傷を回復。更にオーバーソウルをすることによって巫力によって戦闘衣が作られていく。
オーバーソウルの媒介である鉄乙女の顔を組み込んだ帽子。両腕を縛る枷。己の進道は茨の道だと示す棘靴。鍵穴の付いた貞操帯。
アイアンメイデンジャンヌの戦闘準備は整った。
「遊馬静香、私は貴方のことを知っていました」
「何十億という命を殺そうとした男であることを私は知っていました」
幼い少女の声で改めて突きつけられる己の罪。そらと同時にそのことを知っている彼女はやはり幼き身でありながら戦いの世界に足を踏み入れてしまっていることも分かった。
「シャマシュ、判決を」
アイアンメイデンの声に応じ、シャマシュが動いた。ついさっきまでアイアンメイデンよりも小さい姿で、まるで魔法少女の側にいるシャマシュは今や怪獣サイズに早替わりした。
そしていつの間にか斧に変わった腕を振り上げて言うのだ。
「死刑」
無慈悲に神は刑を執行する。己の定めたハンムラビ法典に従い、彼の手によって散った者達の代行者として力を振るう。
しかし静香とて歴戦の戦士。神の一撃とは言え大振りなそれを避けられぬ筈も無かった──何も無ければ。
─動けねえ! 指一つさえ、動かせない!
斧とならなかった方の腕で目に見えない檻を作り、静香の動きを封じてしまっているのだ。
「おおおおっ!」
「罪を償いなさい」
斧は振り下ろされた。
斧は静香の肉を裂き、骨を砕き、臓物を潰す。丸でかつて静香が犯した罪が重さとなる様に。シャマシュが振り下ろすそれは静香の罪に大して絶対的な特攻を持つ。
「何故っ⁉︎」
しかし斧はついぞ静香の身を破壊することは無かった。
「悪いな罪の償い方は、もう決められているんだ」
『静香君はこれからアンパンマンになりなさい! 折角パンを焼くの上手いんだからばんばん作って、見ず知らずのお腹を空かせてる人にパンを配る変態になりなさい!』
『イヤイヤ、変態って』
『まあ、星殺しよりはマシかもしれませんわね』
思い出すのはそんな馬鹿げた会話。そんな友の言葉が静香にとって、気合の動力源となった。
静香は自分と圧倒的な質量差を誇るシャマシュの斧に気合一つで耐えてたのだ。
「悪いな、アイアンメイデン。俺は、アンパンマンにならなきゃならねーんだ」
日本の子供達のヒーローの事などフランス人であるアイアンメイデンが知る筈も無くいが、そんなことは静香には関係が無かった。
これは己への言葉なのだから。
「オーバーソウル。ダイナアックス!」
顕現する紅き大斧。
鮮血の如き色を纏うそれで、神聖な銀の斧を払う。
一見力任せに見えるが、そこには最小限の動き、最小限の力のみを用いて得物を操る確かな経験からくる技術があった。
「実戦は俺の方がこなしてるみたいだなっ!」
「それならばっ!」
確かにアイアンメイデンは殆ど実戦を経験していなく、実戦の中で強くなっていった静香とは正反対に訓練だけでこの強さまで辿り着いた才能の塊の様な少女だ。
シャマシュによる断罪が弾かれたのは初めての経験だ。
しかしそれだけで終わる程にアイアンメイデンは弱くは無い。
「オーバーソウル腕粉砕器!」
遊びも浪漫も無い名前の通りのオーバーソウル。いつの間にか静香のダイナアックスを握る方の腕には彼の腕を粉砕する為の拷問器具が取り付けられていた。
これこそがアイアンメイデンの恐ろしいところだ。普通シャーマンなどの霊能力者は己に取り憑く系の攻撃に抵抗すらことができる。
普通の人がそういったモノに抵抗力が無いのは一重に見ることができなく、触れることができないからだ。
見えているのだから、触れることができるのだからみすみすと己の身体で好き勝手させる訳が無い。
アイアンメイデンのオーバーソウルはある意味取り憑かせ系の攻撃だ。だが攻撃である筈なのにそれには敵意、害意という様なものが何一つ込められていないので、相手はそれを攻撃と認識できないので抵抗もできないのだ。
折角オーバーソウルを出したは良いものの、それを振るえないのでは意味が無い。それどころか、腕自体が破壊されようとしていた。
「このままでは直ぐに貴方のオーバーソウルは解け、腕は使い物にならなくなってしまうでしょう。降参しなさい」
アイアンメイデンにとって戦いは過程に過ぎない。現実という重く大きくのしかかる壁を相手に必要だからすることに過ぎず、殺生など最も悪のすることだ。
しかし必要ならば正義の刃を突き立てることを厭わない。しかし、罪を償う気概がある者を殺すのは違うだろうという考えから降参を進める。
「いや、降参はしない」
確かに普通のシャーマンならばこの状況をどうすることもできないだろう。
しかし静香は世界破壊未遂の過去にヤンチャしてた系高校生。
右腕が使えない? だからなんだ。その程度で戦えなくなるくらいなら世界相手に戦おうとなどしていない。
「右手が無理なら左手を使えば良い話だ! アンケロ!」
「くーららっ!」
そう呼ばれて出てきたのはアンキロサウルスの霊であるアンケロ。
そう。この遊馬静香という男の持霊はスペッシだけでは無いのだ。呼び出した二体目の持霊はアンキロサウルスのアンケロ。
「オーバーソウル。ダイナハンマー!」
そしてすかさず左手でオーバーソウルをし、アンキロサウルスの尻尾の先端の形を模した巨大なハンマーを顕現させる。
「おぉっ!!」
静香は顕現させたダイナハンマーで右腕を捉えていたアイアンメイデンの腕粉砕器を破壊した。
「なんと!」
静香の巫力は三十万。アイアンメイデンには劣るがそれでも規格外の総量を誇り、二桁万代の巫力を持っていることが神レベルの霊を十全に扱える最低条件。
その最低条件を満たす静香ならばオーバーソウルの並行利用など余裕も余裕。
「さぁ、第二セットを始めよう」
「分かりました。貴方を倒すには生半可な術ではいけない」
どんと膨れ上がるアイアンメイデンの巫力。神すら従わせるその力は大地を震わせ天を割る。
「オーバーソウル剣の峠」
一瞬、瞬きの間に周りの空間全てが剣で埋まる。
「はぁっ⁉︎」
呆気に取られつつも戦いというものを染み込ませた身体は反射で足元の剣を破壊し、何とか身体を貫かれるまでには至らなかった。
だがアイアンメイデンが巫力の供給を止めない限り、この剣達は壊れた端から創造されるし、破壊されなくても生産され続ける。
「はぁぁぁぁぁぁあ!」
幼い聖少女が限界を振り絞って竜を討つ為の聖なる剣を生み出す。
「骸竜咆裂‼︎」
ダイナアックスによる斬撃を剣を切り裂く。
「骸竜破槌‼︎」
ダイナハンマーによる打撃で剣を叩き落とす。
その繰り返しだった。
─何回技を打った?
お互い規格外の巫力を持つ者同士、並のシャーマンの様な巫力の出し惜しみなどしない。
巫力の総量に分があるのはアイアンメイデンだが、戦闘経験があり巫力の効率的な扱い方を弁えているのは静香の方。
総じて巫力の消費はお互いトントン。気持ちが下がった方が先に負けとなる。ヒヨッた方の首を敗北の女神は虎視眈々と狙っている。
─ここで攻める
相手に攻撃のターンを取られっぱなしの静香では無い。元来静香が守りに回るのは守る相手がいる時だ。
戦闘狂であるスペッシと相棒でいられる程度には静香も戦闘脳を携えている。攻撃こそが最大の防御なのだ。
剣の峠の中に見える白き乙女。最短最速のルートはそこへ向かう。阻む剣はぶち壊す。最低限以外は無視して進む。
肉が裂けた。だが武器を振るうことはできるので問題は無い。
「骸竜──」
「デュランダル!」
遂にアイアンメイデンの目の前まで辿り着き、大技を放とうとする静香だが、彼女もそれは予想済み。
巫力を込めておいたとっておきの一振りにて応戦する。
「──槌烈」
折れずの聖剣に合わせて放たれるのはダイナアックスとダイナハンマーをクロスして放たれる斬撃と打撃の属性を併せ持った一撃。
強大な二つの力がぶつかり合い、白と紅の光が交差する。
「おおおおおおおおっ!」
「はああああのああっ!」
泣いても笑ってもこれが最後の一撃。少しでも引いた方が負け、己を押し倒した方が勝つ。
さて、聖少女と竜使いの決闘の結果は───
土煙が晴れ、そこには一人の少女と一人の青年が倒れていた。
お互い巫女力を底まで使い果たし、立ち上がる気力すら湧かない。できることと言えば静香とアイアンメイデンの攻撃によって雲が吹き飛んだことで現れ星空を眺めるくらい。
少女と青年が二人で星見と言えば浪漫チックな絵を思い浮かべてしまうが実態は殺し合いの後だ。
そんな二人だが、心を満たしているのはどこかスッキリとした気持ちだった。殺し合った後だというのに相手に対する殺意なんて一欠片も残っていない。
「俺、予選くらい軽く勝てるとおもってた」
「……余り良いことではありませんが、意味としては私も貴方と同じことを考えていました」
二人程の強者にとって五百年に一度のシャーマンファイトとはいえ予選など本来なら流れ作業であった筈なのだ。
しかしここまで高レベルな二人が予選の、それも第一回戦で出会ってしまった。
今回は巫力が尽きるタイミングが同時だった為に引き分け扱いとなり二回戦にはどちらみ進出できるが、もしかしたらこんな序盤で優勝候補が脱落していた可能性もあったのだ。
少しは忖度しろよアパッチ族という話だ。
「お前はさ、自分の正義に迷いは無いのか?」
静香はアイアンメイデンに語りかける。戦闘前の繋ぎの為の会話とは違い、戦いによりどこか不思議な繋がりを得た故に自然と聞くことができた。
それはかつて己の正義により、全人類を滅ぼそうとしていた男が出すからこそ、地球と同じ大きさの重さを持つ質問だった。
「……無いと言えば嘘になります。ですが、私は止まる訳にはいかない」
アイアンメイデンにも静香と同じ気持ちを共有していた。だからXlowsの誰にも明かさないほんの少しの弱さとそれでも進むという強さを溢せた。
「お腹が減ったら、俺がパンを持って行ってやるよ」
「そうですか……じゃあ甘いのが良いです」
「そうか。じゃあとびっきりのアンパンを持って行ってやるよ。勿論何でもなくてもな」
シャーマンファイト第一試合。
遊馬静香対アイアンメイデンジャンヌ。
勝敗、引き分け。
ハイ、静香の二体目の持霊が明かされましたねー
しかし初っ端からアイアンメイデン。次の相手のハードルが高くしちゃいましたね。
こんな感じで今作では原作では使われていないオリジナルの技もバリバリ出すことに挑戦していこうと思います。折角の二次創作ですからね。
因みにアイアンメイデンも静香もこの戦いで巫力は使い果たしましたが最高火力は両方出していません。
ハオじゃ無いのでちゃんと周囲の環境に配慮できるタイプのシャーマンだからです。
感想クレメンス。