青海への旅立ちを、いよいよ明日に控えた静かな夜。
荷物の整理を終え、雲の丘で夜風に当たっていた
ロダストの胸の奥から、アピーが「すっ」とまばゆい霊体を滑り出させた。
その手には、大事そうに抱えられた「いくつもの
小さな包み」があった。
「うおっ!? アピー、お前それ……いつの間に
そんなもん持ってたんだ?」(え? どうやって……? ん?)
ロダストが目を丸くすると、アピーは誇らしげに
胸を張り、言葉の代わりにピューっと隠れ、胸の奥で
照れくさそうに笑った。
(えへへ……ロダストと一緒に青海に降りるって
決めた日。からね、夜にロダストが、寝てるあいだとか、空いた時間に、こっそり作ってたの)
アピーが広げた包みの中には、思いの詰まった三つの「おくりもの」が並んでいた。
一つ目は、空島の固い木片を削って作られた木彫りのレリーフ。
アピーが霊手での繊細な力を指先に集め、
一生懸命に時間をかけて彫ったものだ。そこには、
不格好でつたないけれど、とびきりの笑顔を浮かべたロダストとアピー、そしてふたりを優しく見守る
ように囲む友達の大蛇ノラの姿が刻まれていた。
「ニシシッ……すげぇな。ノラも、俺も、
めちゃくちゃそっくりじゃねぇか」
ロダストが感心して呟くと、アピーは嬉しそうに
光を揺らした。
二つ目は、小さな木の実や色鮮やかな空島の貝殻を
並べて紐で編み上げた、可愛らしい手作りの飾り物。いつも自分たちの体調を気遣い、宴の肉や料理を運んでくれた村の少年への感謝を込めたものだ。
そして三つ目は、研磨した綺麗な石と、ノラのお腹で見つけた小さな黄金の欠片、それに木の実や花を
繋ぎ合わせた綺麗なネックレス。
大切な女性・アマゾンへの、心からの贈り物だった。
「……アピー。お前、こんな良いもんを一人で
準備してくれてたんだな。……よし、ちょっと
貸してくれ」
ロダストは小さく切った木片を取り出すと、
慣れない手つきで力強く文字を刻んだ。そこには、
一目で誰からか分かるように『あぴーより』と
温かい文字が書かれていた。ロダストはその木札を、それぞれの贈り物にしっかりと括り付ける。
「よし! これなら誰からの贈り物か一発で
分かるだろ。明日の朝じゃバタバタしちまうし、
今から届けに行こうぜ!」
『うん!』
ふたりは月明かりを頼りに、まずはノラの祠へと
向かった。
静まり返る祠の前に木彫りを置くと、気配を察した
のか、奥からぬっとノラが巨体を表した。
ノラは地面に置かれた木彫りに顔を近づけると、
自分の姿とふたりの笑顔が刻まれた木片を、愛おしそうに鼻先でそっと擦り寄せた。
黄金の瞳が、月光に優しく揺れている。
「ノラ、今までありがとな!これ、アピーが
彫ったんだ。…明日旅立つよ、ノラ。また会おうな」
別れを惜しむ様に、ジュラ〜……と低く鳴声を上げるノラに背を向け、ふたりは静かに祠を後にした。
続いて静まり返る村へと戻った。
実体を持たないアピーは、壁や扉をすーっと
すり抜けて静かに家の中へと侵入する。外でロダストが見守る中、アピーはアマゾンの家の奥へ忍び込み、普段はめったに開けない古い衣装箱のすき間に、
ロダストの木札が結ばれた綺麗なネックレスをそっと滑り込ませた。
さらに、いつも世話をしてくれた少年の家へ向かうと、同じように壁を通り抜けて家の中へ。彼が予備の道具を仕舞い込んでいる納屋の棚の奥深くへ、
手作りの飾りを優しく忍ばせた。
ふたりが旅立ち、数日からニ週間ほどが過ぎた頃——ふとした作業の途中でそれらを見つけ、遠い青海へ
想いを馳せる彼らの顔を思い浮かべながら。
「よし、これで心置きなく旅立てるな!」
白い雲の丘に戻ってきたロダストが夜空を
見上げると、アピーもロダストの胸の奥へとふわりと戻り、ポカポカとした温もりを伝えてきた。
密やかな贈り物を残し、ふたりはいよいよ明日
迎える青海への大冒険へ向け、深く静かな眠りに
つくのだった。