猿猴が月に愛を為す【短篇・幕間集】   作:ユズキあむ

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おまけの幕間 『—— “あぴーより”』

 

 

 

 

雲の上の家路を歩く静かな夜。

 

アピーと共に、雲の丘へと戻りかけていた

ロダストは、ふと思いついたように足を止めて

声をかけた。

 

「なぁ、アピー。あいつ……アマゾンは、いつも

俺たちに優しく接してくれるけどよ……お前に

とって、なんか特別な思いでもあるのか?」

 

ロダストは首を傾げた。この1ヶ月くらい、

空島で過ごす中で見かけたアマゾンは、誰にでも

分け隔てなく接する心の優しい女性だ。

 

だが、アピーがアマゾンのために作っていた

ネックレスは、明らかに他の二人への品以上に時間をかけ、慈しむように研磨されていた。

 

ロダストの問いかけに、アピーはふわりと微笑み

愛おしそうに、光を揺らした。

 

過去の出来事を言葉にしてロダストへ

伝えることはせず、アピーはただ自分の胸の奥深くに、あの温かい記憶をそっと仕舞い込んだ。

ロダストには、言葉にならない愛おしさと深い感謝の気配だけが心地よく伝わってくる。

 

「そうか。よく分かんねぇけど……お前にとって、

めちゃくちゃ大事な奴なんだな」

 

ロダストはニシシッと笑い、優しく頭を撫でて

言った。

 

 

家へと向かう夜道を歩きながら、アピーは先ほど

アマゾンの部屋に忍び込んだ瞬間のことを

思い返していた。

 

衣装棚のすき間にネックレスを隠し置いたあと、

ベッドですやすやと眠るアマゾンの傍らへ

そっと寄り添い、現世に触れる透き通った小さな

霊手で、その頬へと優しく触れた時のこと。

 

 

 

——まだワタシが赤ん坊だった頃、微かに覚えている記憶。

 

眠っている傍らで耳元から優しく聴こえてきた唄と、その唄と同じリズムで身体をポンポンと

あやしてくれたあの手。

 

大きくなって姿は見えずとも、独りきりだった

夜の暗闇に、眠るアピーの元には、温かい料理が

置いてある夜に限って決まってあの唄が

聴こえてきていた。

 

 

あの日、あの頃と変わらない声と人肌の温もりの

余韻。

 

 

すやすやと眠る大好きな人を起こさないように、

手に込めたぬくもりでそっと触れた時間が愛おしくて、アピーは夜風に揺れながら、とびきりの笑顔を

浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

------------------------

 

 

1週間後・アマゾンの部屋

 

 

ロダストとアピーのふたりが、青海を目指して

雲の彼方へと去ってから一週間が過ぎた頃。

 

アマゾンは部屋の片付けの途中、滅多に開けない古い衣装棚の奥に、ふと異質な「輝き」が揺れていることに気づいた。黄金が放つ光と、どこか懐かしく温かい霊光が、今も微かに残滓となって留まっている。

 

「あら……? こんなところに、何かしら」

 

不思議に思いながら手を伸ばした瞬間——指先が

その残滓へと触れた。

 

 

 

その刹那、残された微かな霊的な温もりが波紋のように弾け、アピーの溢れんばかりの感情と記憶が、

直接アマゾンの心へと流れ込んできた。

 

泣き出しそうなほどの深い感謝。旅立つ前の夜、

眠る自分の頬に優しく添えられた透き通った手の

感触。

 

そして衣装棚の中から現れたのは、丁寧に

研磨された綺麗な石と黄金、そして木の実と花を

あしらったネックレス。そこに添えられた木片には、不器用ながら力強い文字で『あぴーより』と

書かれていた。

 

指先に宿る不思議な温もりと『あぴーより』の

文字が重なったとき——

 

 

アマゾンは昔を思い出していた。

遠くから見ることしかできなかった、

あの十年間を。

 

 

 

 

赤ん坊の頃は、その小さな体を

抱きしめ、世話をすることができた。けれど、

立ち上がれるようになった途端、村の決定によって

誰とも接触させず、顔すら見せてはならないと

隔離されてしまった幼いアピー。

神隊や村人の付き添いのもと、生き延びるためだけの最小限の物しか与えられない掟。

 

それでもアマゾンは、神隊や村の目を盗んでは

忍び込み、「お腹いっぱい食べてほしい」と願って

料理や果物をこっそり置き続けていた。

 

その密かな優しさが見咎められたことで、自分が

次の生贄として指名されてしまったこと。

そして、怯える自分を救うためにアピーが自ら

身代わりの生贄となって去っていった、

 

ほんの3週間前の、あの悲劇の日。

 

 

 

(ああ……だから…、あの日あなたが

私の身代わりになってしまった……そして今も、

こんなにも愛おしそうに私を撫でてくれた……)

 

 

「ずっと……気づいて、覚えていてくれたのね。

私の方こそ、あの日あなたを救えなかったのに……」

 

アマゾンはネックレスを優しく胸に抱きしめ、

頬を伝う涙を静かにこぼした。

 

ゆうべ夢の中で触れられたような気がした頬に

そっと手を当て、窓を開ける。どこまでも続く

青い空と雲海から温かな風が吹き抜け、まるで青海へ旅立ったアピーが「ありがとう」と微笑みかけて

くれているようだった。

 

 

 

 

 

 







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幕間をお読みいただきありがとうございました! 

▼本編の続き(第35話)を読む
https://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_yoyaku_edit&nid=425184&yid=1431142


※月曜日の更新時間になると開くようになります。
ロダストたちの冒険の続きもどうぞお楽しみに!

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