猿猴が月に愛を為す【短篇・幕間集】   作:ユズキあむ

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おまけの幕間 巨大な標的

 

 

 

 

太古の時がそのまま停止したかのような島、

リトルガーデン。

 

ロダストがこの苛烈極まりない大自然の

真っ只中に滞在し始めてから、おおよそ半年という

月日が過ぎようとしていた頃のことである。

 

雲一つない青空が広がる昼下がり、ジャングルの

入り口付近に広がる静かな浜辺へと、見慣れぬ一隻の海賊船が滑り込むようにして錨を下ろした。

 

荒波を越えてやってきたその船から地面へと

降り立った海賊たちは、しかし足を踏み入れた瞬間に一斉にその場に凍りついた。天を突くほどに巨大な

見たこともない樹木群、そしてジャングルの

奥深くから地鳴りのように響いてくる、超巨大な

太古の恐竜たちの遠吠え。

 

異様な光景と圧迫感を目の当たりにした男たちは、

一瞬で顔を蒼白に染め上げ、悲鳴を上げながら

叫び散らした。

 

「ひ、ひえぇぇ〜っ!? な、なんだこの気味の悪い島はっ!? 巨大な怪獣だらけじゃねえか!!」

 

「正気じゃねえ! こんな怪物どもが蠢く島に、ログが溜まるまで一年もいられるか!! 退散だ、退散〜〜っ!!」

 

太古の脅威に完全に恐れをなした海賊たちは、

ログポースに記録が溜まるのを待つ余裕すらなく、

一目散に脱兎のごとく駆け出した。ほうほうの体で

船へと飛び乗り、大慌てで帆を張ると、逃げるように沖合へと船を出航させていく。

 

その頃、浜辺の木の上に腰掛け、狩り取った

恐竜の肉を豪快に咥えながらその一連のドタバタ劇を眺めていたロダストは、首を傾げて呑気に呟いた。

 

「なんだ、もう帰っちゃうのか〜。練習相手に

しようと思ったのに」

 

呆気なく遠ざかっていく海賊船を見送ろうとした、

次の瞬間である。

 

ズオオオォオオッ!!!

 

穏やかだった沖合の海面が、突如として山のように

大きく盛り上がった。

 

次の瞬間、水飛沫を激しく撒き散らしながら

現れたのは、真っ赤な鱗に身を包んだ超巨大な

金魚であった。

 

跳ね上がった海賊船は、逃げる間もなく、

空を覆い尽くすほどの巨大な口によって船ごと丸ごと一口で呑み込まれてしまう。

 

「「「ぎゃあああぁぁぁ〜〜〜っ!!!???」」」

 

海賊たちの絶望に満ちた悲鳴も虚しく、巨魚の

体内へと消えていく船影。絶大な存在感を放つ巨大な影は、そのまま豪快な水しぶきと嵐のような風圧を

残して、海原の底へと姿を消した。

 

浜辺に立つロダストの黒髪が、その激しい余波に

よって大きく揺れ動く。

 

並の人間であれば、そのあまりの絶望的な光景に

腰を抜かし、恐怖で震え上がるところだろう。

 

しかし、肉を喉の奥へと放り込んだロダストは、

一瞬だけ目を丸くして驚いたあと——ニシシと不敵に口元を歪めて笑ってみせた。

 

「うお〜〜〜っ! デカい金魚だな〜〜っ! あんなのが沖に潜んでたのか!」

 

ロダストはギュッと力任せに右拳を握りしめた。

バチバチと鋭い音を立てて紫黒の覇気と雷光が激しく放電し始める。

 

「よし、決めたぞ! あのデカい金魚をぶっ飛ばして

突破できたら……俺の攻撃も、相当強くなってるってことだな!」

 

遥か沖合の海底へと消えた巨大な標的を見つめながら、ロダストの胸はこれから待ち受ける未知の修業と高揚感で、熱く激しく燃え上がるのだった。

 

 

 

 

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