猿猴が月に愛を為す【短篇・幕間集】   作:ユズキあむ

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おまけの幕間 お腹の中の小さな冒険

 

 

 

 

木漏れ日が心地よく差し込むアッパーヤードの

森の中。

 

巨躯を横たえて気持ちよさそうにお昼寝をしている

ノラの傍らで、アピーはふと思いついたように、

嬉しそうな思念の波長を弾けさせた。

 

自分の体は、ふわりと壁でも何でもすり抜けられる

霊体だ。

 

目の前に横たわるノラという、山のように巨大な

身体の中だって自由に入っていける。

 

(ノラのなか、どうなってる、かな……?)

 

好奇心に駆られたアピーは、そっとノラの巨大な

胴体へと潜り込んでいった。

ノラの身体の中は、驚くほど広大で神秘的な空間が

広がっていた。

 

暗がりの中をすいすいと進んでいくと、

かつてノラが呑み込んだのであろう古い樹木や

巨大な岩肌、そして長い年月の中で沈んだ古めかしい遺跡の破片がごろごろと転がっている。

 

(わぁ……! いせきがいっぱいだなぁ……!)

 

まるで探検でもしているかのような広がりに

目を輝かせていたアピーだったが、ふと奥の方で、

暗闇を押し返すようにキラキラと輝く不思議な光を

見つけた。

 

吸い寄せられるように近づいていくアピー。

 

(……あ! きんいろにひかるもの……!)

 

そこにあったのは、山のように積み重なった眩しい「黄金」だった。

 

さらにその周りには、ノラに丸ごと呑み込まれて

木っ端微塵に砕けた、むかしの大きな青海船の残骸が転がっている。船の形は留めていないものの、

そこに積まれていた財宝や飾りが、時を経ても

なお変わらぬ眩い輝きを放っていたのだ。

 

アピーはすーっとノラの身体を抜け出し、地上で

待っていたロダストの元へ勢いよく飛んで戻った。

 

『ロダスト! ロダスト!! すごいよ!!』

 

興奮でビシバシと弾ける見聞色の波長に、ロダストは目を丸くした。

 

「うわっ、どうしたアピー! 急にそんなに

はしゃいで……ノラのお腹の中に潜ってたのか?」

 

『うん、だいはっけん! すごくきれいな、

キラキラしたものを見つけたの! いっぱいあるよ!』

 

「キラキラしたもの……? 何だそれ、ちょっと見に

行ってみるか」

 

アピーの興奮ぶりに興味を惹かれたロダストは、

ぐっすり眠っているノラの大きな口をそーっと覗き

込み、開いた隙間からそのままノラのお腹の中へと

潜り込んでいった。

 

「うわ……広っ! 外から見るよりずっと巨大だな…

…」

 

暗がりの中、アピーの案内で奥へと進んでいく

ロダスト。やがて、その視界に飛び込んできたのは

 

——薄暗い空間に所狭しと埋もれる、眩いばかりの

金銀財宝と黄金の山だった。

 

 

 

「……っ!? 黄金だーーーっ!?!!!」

 

あまりのスケールに、ロダストは思わず大声を上げて飛び上がりそうになった。

 

「マジかよ……! 黄金がこんなに、ノラのお腹の

中にゴロゴロ転がってるのか!?」

 

『えへへ、すごいでしょ!』

 

アピーが誇らしげに胸を張り、霊体の体で

ロダストの頭の上を嬉しそうにくるくると飛び回る。

それにつられるように、ロダストも目を輝かせて

破顔した。

 

「ニシシッ! こりゃ、すごいなぁ!!」

 

思いがけない大発見に、二人はまるで宝探しを

成功させた子供のように顔を見合わせて笑い合った。

 

薄暗いお腹の中が一瞬で明るくなったかのように、

弾んだ笑い声と思念の波長が楽しげに響き渡る。

 

「あ……見てみろアピー、舟が木っ端微塵に

なってる。昔、青海から流れてきた船をノラが

そのまま呑み込んじまったんだな……」

 

壊れた船の残骸を見つめながら、ロダストは

苦笑交じりに自分の頭をかいた。

 

「あ、そういや……俺が乗ってきた小舟も、こっちに来る時に木っ端微塵になったんだったな……」

 

青海から空島へと辿り着く過酷な道のりで、

自分の足であった舟を失っていたことを思い出す

ロダスト。

 

「……なあアピー、ノラが起きたら聞いてみても

いいか?」

 

『ノラに? なんて?』

 

「『お前のお腹の中にあるそれ、少し貰っても

いいか?』ってさ。ノラにとっちゃ、お腹の中に固い金属がゴロゴロ入ってるのも邪魔かもしれないしな。

 

俺たちも次の海へ行くには、舟を買うための元手が

必要だし……貰えるなら貰っておきたいところだ」

 

ロダストがそう言うと、アピーも嬉しそうに思念を

響かせた。

 

『うん! ノラが起きたら、きいてみようね!』

 

 

 

雲の上の広大な歴史と、大蛇の知られざるお腹の中の秘密。

 

そしてこれから始まる旅の準備へと思いを

馳せながら、二人はノラのお腹の中から脱出し、

大蛇が目を覚ますのをワクワクした心地で待つの

だった。

 

 

 

 

 

 

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