猿猴が月に愛を為す【短篇・幕間集】   作:ユズキあむ

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第四章:『水の都と雲の舟の奇跡』編
おまけの幕間 月の夜の重ね衣(ころも)


 

 

 

 

盛大な宴と戦死者たちの弔いを終え、数日が

過ぎた頃。身体の傷もすっかり癒えたロダストは、

いよいよじっと耐えきれなくなった。

 

「よし! 体も動くし、そろそろ下に降りるぞ!」と

息巻くロダストを、村の人々は焦って引き留めた。

 

「馬鹿言え! まだ傷が治りきってねぇだろ!

それに、まだまだ恩は返しきれていない!

この村じゃ、命を救ってくれた英雄が旅立つ時は、

数日間、村中を巡ってお祝いの酒とメシを

言葉を交わすのが大事な決まりなんだ。

 

この縁起担ぎをやらずに返したら先祖の神々に

怒られちまう! あと一週間位は村に居てくれ!」

 

怪我の静養と村の伝統文化を理由にされ、

「それなら仕方ねぇな」と素直に納得したロダスト。

 

 

だが実は、この縁起担ぎと挨拶回りは口実で、

裏で村の人々が総出で『猿の被り物の仮面』を創り

進めるための「温かな時間稼ぎ」だったのだ。

 

アピーはその温かな空気感と裏での秘密の作業に

気づいていたが、ロダストにはあえて言わず、胸の奥でニヤニヤしながら秘密を楽しんでいた。

 

そうして昼間は挨拶回りや食事を楽しみ、

夜間は養生するという時間を過ごすロダスト。

白い雲の丘に一人腰掛け、暇そうに夜空を

見上げるロダストの胸の奥から、アピーの声が

ひそひそと響いた。

 

(ねぇロダスト……下に帰るの、もう少しあとに

なりそうだね?)

 

(おう。そうだなぁ)

 

ロダストはニシシと笑い、雲の上に豪快に

寝転がった。手持ち無沙汰になったロダストの

体内で、アピーが無邪気に声を弾ませる。

 

『ロダスト、 ワタシもっと力を使う練習をしてみたいの。敵に「憑依」する練習、試してみてもいい?』

 

「ニシシッ、いいぞ! 試してみなきゃ分かんねぇしな。よし、俺に憑依してみろ!」

 

ロダストが胸を張ると、アピーは『うん、行くよ!』と意気込んで、霊体をロダストの身体へ強く

流し込み、意識を奪い取ろうとした。

 

直後——

 

バチィッ……!!

 

「うおっ!?」

 

強い衝撃とともに、アピーの霊体がロダストの

身体からパツンッと弾き飛ばされた。

 

『きゃうっ!? ……た、叩き出されちゃった……!』

 

外に出たアピーが目を丸くする。ロダストも

首を傾げた。

 

「なんだ今の? 俺、何もしてねぇぞ?」

 

『うーんとね……ワタシがロダストの身体を

「乗っ取ろう」としたからだと思う。ロダストの

ハキ?っていうのかな……? とにかく力が強すぎて、ワタシの意識がバチーンって弾かれちゃったみたい』

 

「あー……そういうことか。俺の体が勝手に『敵の

攻撃だ』って弾いちまったんだな」

 

アピーが以前、敵に憑依して身体を乗っ取ることが

できたのは、敵の気が弱く、死に物狂いの

アピーの執念が上回っていたからだ。ロダストの

ように強い力や溢れる『気』を持つ者に対して「憑依(乗っ取り)」を仕掛けようとしても、本能的な

防衛で弾かれてしまうのだ。

 

「なるほどな……じゃあ、精気を吸い取る攻撃も、

強ぇ奴には防がれちまうってことか」

 

『うん、きっとそうだと思う。強い気を纏ってる

相手だと、エネルギーを吸い取るのも弾かれちゃう

かも、こっちがさらに強い力を使えば何とか?』

 

ロダストは顎に手を当て、うーんと唸ったあと、

ふと疑問を口にする。

 

「でも待てよ……アピー、お前いま俺の身体の

『中』に居るじゃねぇか。これは憑依とは

違うのか?」

 

『うん、全然違うの! 今みたいにロダストの中に

「入る」のはね、おうちの中に入らせてもらってる

感じ。ロダストがワタシを信頼してくれてるから、

入れるの。入るのは相手との関係で変わるんだと

思う』

 

「なるほどな……心開いて一緒に居るのと、身体を

自由に動かそうとする『憑依』は別物ってわけか。

乗っ取るのは家を泥棒するようなもんだから

弾かれるんだな」

 

『そう! 乗っ取るのは無理だけど……でも、

ロダストのお家に入るのは、すごく安心するよ』

 

ロダストの胸の奥で、アピーの光が嬉しそうに

ポカポカと温かさを増した。

 

「ニシシッ! なら安心だな! 強い奴には

憑依や生気を吸うみたいな真似は効かねぇかも

しれねぇが、俺の中でパワーを溜めたり、見えない

手でサポートしたりはバッチリできるってことだ!」

 

『うん! ねぇロダスト、相手の身体に憑依する、

乗っ取る方の技に、なにか名前をつけたいな』

 

「おう、いいぞ! カッコいいやつを決めようぜ!」

 

ロダストが投げかけた言葉に、アピーは胸の奥で

じっと考えを巡らせた。少しの静寂が流れたあと、

静かに言葉を紡いだ。

 

 

『うーんとね……ワタシの霊体を、衣装を着る

みたいにふわりと相手の魂へ重ね合わせるから……【黄泉衣重ね(よみぎかさね)】はどうかな?』

 

「【黄泉衣重ね】か! ニシシ、めちゃくちゃ

いいじゃねぇか!」

 

『ほんと?』

 

「ああ!」

 

『やったー』

 

『青海に降りたら、きっとすごい人がいっぱい

なんだろうね…。今はまだ強い力で弾かれちゃうかもしれないけど、もっと練習して、いつか青海の、

強い敵でも一瞬だけでも【黄泉衣重ね】で動きを

止めてみせるからね!』

 

「ニシシッ! そうだな!!一緒にがんばろうぜ!」

 

二人で無邪気に笑い合っていると、村人たちの

温かな時間稼ぎもいよいよ終わりを告げるように、

遠くから村の少年が歩み寄ってきた。

 

「ロダスト! 出発までのこれからの数日間、村の

あちこちで歓迎の『用意』をして待ってるからな!

楽しんでくれよ!」

 

「おう! ありがとうな!」

 

自分たちのために密かに『猿の仮面』が

作られていたことも知らず、ロダストは無邪気に

手を振り返す。

 

 

青海への旅立ちまで、あと数日。胸に抱く期待と

絆を確かめ合いながら、二人は静かな空島の夜に深く頷き合うのだった。

 

 

 

 

 

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