堀北さんは諦めない!   作:BM-13

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大変お待たせー。
感想と高評価、本当に助けになっています。
3.5巻くらいになってしまいすいませんー。

それではどうぞー。


4巻編
据え膳食わぬは武士の恥★


 

無事(?)無人島試験を終えたわたし達。一足先に船に戻っていたわたしは、みんなが戻ってくるのを出迎えた。

車椅子に病衣で点滴までしたわたしの姿に、驚きや悲鳴が上がったけれど、普通に立って桔梗にハグをして「お疲れ様」と言ったら涙ぐむ女子もいた。

…あ、もちろん須藤くんにも約束のハグをしてあげたけれど、彼の腕が背中に回ることはなく、半ばで「む、無理するなよ!」と肩を押されて車椅子へと戻されてしまったわ。

 

「堀北、大丈夫なのか?」

「ええ、こんなもの見た目だけよ。…ポイントを払ってでも、夜までには外してみせるから」

「いや、少しは安静にしておけよ」

「嫌よ。せっかくの夏休みなんだから。…わたしだって少しは羽目を外してもバチは当たらないでしょう?」

 

そんな「いや、お前割と…」とか呆れた顔の綾小路くんと顔を赤くして「無茶しちゃダメだよ?(堀北殺す…)」と満面の笑みを浮かべる桔梗。

わたしはその後も頑張ってくれた層にお礼を伝えて、ひとまずしっかりと休んでから話はしましょうと伝えておく。他にも、行くところがたくさんあるのだから。

 

車椅子でその集団へと向かうと、自然と道が割れるようになり目的の相手が私の前に現れる。

 

「おめでとう、葛城くん。…流石は、Aクラスといったところかしら?」

「堀北か。ありがたく、受け取ろう。…体調は大丈夫なのか?」

「こんなもの、見た目だけよ。体調管理が甘かっただけ」

「君の活躍を知る生徒ならば、そんな浅い言葉を吐くことはないだろう。…Dクラスも、誇るべき成績を残した。素直に見直した」

「ふふっ、そうでしょう?もっと見直しなさい」

 

和やかな言葉と共に、お互いの健闘を讃える。疲れている相手を長々と拘束するつもりはない。また時間を作ってもらう約束だけして、その場を離れた。…今回も黄色い歓声が上がったけれど、別段なにもなかったわよね?…??神室さんがため息をついていたのが、妙に印象に残ったわ。

 

そして最後。…ひとり寂しく、最後に乗船した男をわたしは出迎える。

 

「……鈴音か」

「お疲れ様、龍園くん」

 

無精髭に汗や垢、ボロボロのジャージに汚れたシャツ。匂いも野性的で、とても現代高校生が出すことのない有様。それでも彼の目はギラギラと火を宿し、この敗北を彼なりに噛み砕いて身にしようという執念が見え隠れしていた。

 

「ククク、出迎えとはご苦労なことだな。薄情な俺の部下たちにも見習わせたいぜ」

「元気そうでなによりよ。…あと、あなたが思うよりCクラスの人たちは薄情じゃなかったわよ。むしろ、気に病んでいたわ」

「あ?」

「自分たちも何かできなかったのか、なんて漏らす人もいた。気に病むことはないわ」

「…はっ、結果を出すのが王の仕事だ。お前の慰めなんかいらねえんだよ」

 

そういって、わたしの横を通り過ぎる龍園くん。…やはり良い。これでこそ龍園翔だ。わたしは彼の背中に約束を投げかける。彼は一歩だけ止まり、ひらひらと手を振って、今度こそ止まらずに船内へと消えていった。

 

◇

 

「ふぁぁ…」

「お疲れ様ね、帆波」

「んん…お疲れ様〜、気持ちいい〜」

 

そういって、二人で入っても余裕のある湯船に浸かるのはBクラスのリーダー、一之瀬帆波その人。ただ今は豊満な体を温かいお湯で癒やし、後ろからはわたしが肩を揉んでその疲れを癒やしてあげている。

クラスメイトの視線から解放された彼女は、二人きりになった途端にわたしへとろけるくらいに甘えてきた。「頭を撫でて」「髪を洗って」「抱きしめて」などなど。…ちょっとエッチなのは夜まで我慢させましょう。

それに全て応えて、身体中をボディソープで綺麗にしてあげて今は寛ぎ中。試験で大変だったことをポツポツと話してくれるたびに相槌を打ち、優しく頭を撫でて上げる。落ち込むようなことを言うたびに、そっとその唇をふさぐ。

 

「それでね、神崎くんが鈴音のことを…」

「仕方ないわ。別のクラスなのだし」

「でも、ほかの子も…千尋ちゃんまで……んっ」

「ん……。大丈夫、帆波がわたしを大切に思っているなら、それで十分よ」

「鈴音…!うんっ、…うん!私も、大切に思ってる!」

 

ばしゃ、と水しぶきが舞う勢いで抱きしめられる。お互いの胸が当たり、ドキドキと心音が伝わり合う。蛇口からポタポタと水滴の落ちる音だけが聞こえる静寂。

もう離さないと、そう思えるほどの強い抱擁。わたしはそんなどこか怯えるような心を誤魔化す帆波を抱き返そうとして、パシ、とその手首を掴まれた。

 

「帆波?」

「これ…どうしたの?」

「…ちょっと切っただけ「嘘」……」

「爪、だよね。握ったみたいな跡。…誰?」

 

…ちょっと油断したわね。お湯に浸かったからか、傷が少し滲んでしまっていたみたい。それを見咎められた。いや、実際は怪我をさせようと首を絞めたのはハイになっていたわたしだから澪は悪くないっていうか…。どう言い訳をしたものかと考えていたわたしの手首を、何を思ったのか帆波が舌で舐め取っていた。

 

「っん…ちょっと、帆波?」

「消毒しないと…ん、ちゅ…」

 

まずい、目がトリップしてる。慌てて主導権を取り返しにかかったわたしにどこか「計画通り…」みたいな笑みを一之瀬さんが浮かべていたから、他のことなんて考えられないように湯船で可愛がって上げた。

出る頃にはお互いの端末には連絡が山と来ていたけれど、一之瀬さんが満足してくれたなら良しとしましょう。…次はわたしの番と言われたけれど、断腸の思いで彼女をクラスメイトの元へ送り出す。

 

…この後は、予定があるのだから。

 

温まった体を、潮風が撫でていく。豪華客船の上部、屋外の劇場。夕闇の間で、ひとりの男子生徒と女性教諭の話す声が聞こえる。

 

感心した。

 

イカロスの翼。

 

退学の件。

 

―――父親について。

わたしは黙って手袋を着用する。じくじくと痛いはずの手首だけが、今のわたしの身体に熱を教えてくれる。シャワーを浴びたハズの身体は、どこか冷たくて。

 

「―――」

 

客席の裏。物陰から音もなく背後を取る。紫煙と共にその話を終えて、満足そうに立ち去る茶柱佐枝の後頭部を目掛けて――ブラックジャック*1を振り抜く。

 

「がっ…!」

 

靴下に無人島の砂を詰めただけの簡易的なもの。荷物の中に紛れていてもおかしくない品々で作れた武器。予想通りの結果を生んだようで、崩れ落ちる体を抱き留めればその意識は上手く途切れているようだ。

散らばったライターや煙草の箱を上着に戻しておく。あとは適当に服をはだけさせ、タイツを裂き、下着を降ろして油性ペンで色々と落書きも忘れない。

最後に食堂でこっそり拝借したパンの白い部分を溶かした水を顔と胸、足の付け根に集中的にかければお(・)楽(・)し(・)み(・)の後のように見えないこともない。

 

「ぅ…」

「―――」

 

その様子を、茶柱先生の端末でパシャリ。証拠は残さない。持っててよかったポータブルプリンター、ありがとう店員さん*2。ネットの海に流したらおもちゃとおかずにされるようなショットを何枚も撮影してタイツや下着の間に挟んであげた。これで良し。

 

茶柱先生が目を覚ましても、綾小路くんの名前は出せない。なんでそんな場所で男子生徒と会っていたのか、なんて説明できるわけがないのだから。

……あの担任も、多少はこれで、警戒してくれれば儲けものね。

 

この周(せかい)で、わたしだけが知っている。茶柱佐枝という教師は、過去に囚われ、生徒の成長を目の当たりにしてそこから共に歩むことを選べるひとだと。

だから、この世界でも。そういつも期待して、――まあ、大体は裏切られるのだけれど。ダメだったわ。この周も。可能性はあると思ってた。無人島で体を張ったのも、そう。

テスト範囲や無人島での試験であれだけわたしが矢面に立てば…なんて。XXX(いつも)のことだけれど。

 

◇

 

日の入りが遅い夏とはいえ、空に星が見える時間になれば生徒たちは船内で思い思いに過ごそうとする。別に試験が終わった当日だし、Cクラス以外は疲れて直ぐに寝入ってしまった様子。教師は別件で大忙し。…だからこそ、今だけは邪魔が入らない。

 

「本当に体は大丈夫なのか?」

「ええ。見ての通りよ」

 

制服姿で杖もなく歩く姿を見せる。どこか訝しげな表情も、歩きながらクルクルと回る様子を見せれば差し支えない。

 

静まりかえった船内でわたしは――綾小路くんを連れて自分の個室に居た。ポイントで借りた部屋は複数人で使う客室と同じ大きさで、ベッドがクイーンズサイズ*3。偶然を装って誘ったけれど、生徒たちの個室ではない区画へ足を運べば表情がやや強張っているように感じた。…なにかを察しているようにも。

 

「それで…堀北、何の用だ?」

「………少し、聞きたいことがあったの」

 

そういって、向き合った彼はいつもの様子で、わたしの目を見ている。…見てくれている。でもその目が無機質に見えて、それが茶柱先生――ひいては、綾小路くんの父親の干渉が理由だとわたしは知っている。

知りたいのは、彼の今(・)の(・)状(・)態(・)だ。彼がまだ、取り返しがつくなら良し。振り切っているなら、それも仕方ない。捨て回と割り切って好き勝手するのも視野にいれましょう。

期待と恐怖、緊張と興奮。万感の思いを込めて(もちろん、綾小路くんには伝わらないように意識をして)彼を見やる。そうして、

 

「――なにが、あったの?」

「………」

 

決定的な一言を、口にした。彼にとってわたし、堀北鈴音というキャラクターはそこまで勘の良い存在ではない。そんな相手に心配をされる。誤魔化すのか、それとも口止めをするのか。カチ、コチ、なんて部屋の時計の音が何度か鳴るなか、彼の口からは――「なんのことだ?」という一言。

 

「…元気が、ないように見えたのよ」

「それは気のせいだ。俺は元気だぞ」

 

嘘。……でも良かった。彼の中で、まだわたしは利用価値のある存在みたいだった。一気に肩の力が抜ける。ぽすん、とベッドへ腰かけて、そのとなりを手でポンポン叩いてあげればおそるおそると座ってくれた。

 

「はぁ…」

「本当にどうしたんだ…?まだ、疲れが残ってるんじゃないのか?」

「平気よ。…ほら、手首ももう平気でしょ?」

「包帯越しだと痛々しいんだが…」

 

するすると包帯をほどいて、赤い跡だけになった手首を見せれば、視線は少し和らいだ。ギリギリ肩が触れそうで触れない距離。それを、肩が触れる距離にする。畳みかけるように、口を開く。試験での普段と違う態度のこと。あなたは人前に立つことをどこか厭(いと)わしく思っていると感じていたこと。前の試験ではわたしの不調のせいで、あなたにソレを求めてしまったのかと――まあ傷心な美少女的立ち回り。

 

「本当にごめんなさい…」

「いや、あれは俺の意志でやったことだ。堀北が気にすることはない」

「傲慢に思うかもしれないけれど、聞いて。…4月から見ていたあなたと、あの島でのあなた。行動のブレが大きすぎるわ」

「………特別試験だったから、俺も頑張っただけだぞ?」

「誤魔化さないで。…っわたしは、友達のあなたに無理をしてほしくないの…!」

「堀北…?」

 

ぎゅっ…と、寄り添った彼の手に、わたしの手を重ねて力を込める。薄暗い蛍光の個室、ベッドの上。年頃の男女が二人。落ち込んで涙を浮かべる女性。シチュエーションは整った。後はチェックをかけるまで、彼を追い詰めていくだけ。

 

「わたしがあなたの負担になっているのなら、っ…」

「お、おい…」

 

肩を震わせて、ポタポタと落ちる雫がシミを作っていく。わたしより背の高い彼から見えない角度で俯き、いかに堀北鈴音(わたし)がこころを痛めているか、弱っているかをまざまざと見せつけていく。

このために、彼の前では一度もメンタル的に弱っている姿を見せずに温存しておいたのよ。自信家で、身内や教師にも毅然とした態度で抗うクラスメイトが、友人の自分へは涙をみせてショックを受けている。どうしたら良いか、なにをすべきか。

その気持ちを酌んでくれたのか、おろおろとしていた(もちろん、表情には出ていないわ)綾小路くんが口を開く。

 

「何度も言うが、俺はお前に負担なんてかけられていない」

「嘘。…あなたは、無理をしていたわ」

「普段と違う立ち回りをしたのは認めるが、あれは俺からしたらなんてことはなかった。本当だ」

「あなたが優しいのは、わたしは良く知っている。こんな時に、泣き落としなんてする相手を気遣えるくらいに、とても強いことも」

 

ベタ褒め&追及。わたしはあなたのことを知っていると言う女性ほど、実際に本性を知ると驚くものだけれどわたしの場合は(大体)違うわ。彼がクラスを裏切ったことも、わたしを裏切ったときのことも知っている。誰が最も相性が良いのか、クラスの内外を問わず恋のキューピット役をした苦行を乗り越えたわたしに隙はない。

 

さて、ここからが最も大切な瞬間よ。

 

「………」

「………」

 

慎重に、言葉を選ばなくてはいけないわ。固く心を閉ざしてしまう可能性も、逆に全ても打ち明けてしまう可能性も半々といったところ。ぶっちゃけるとここで全部聞く必要はないといえば無いのだ。

綾小路くんの父親が来るのは冬休み前あたりだし、それまでにゆっくりと自分が味方であることを伝えれば十分間に合う。今聞いたところで、その時までできることは得にはない。

 

そんなこと()より今、わたしは彼とヤりたいのよ。

 

…直球すぎたかしら?でも彼も悪いと思う。普通の一般男子生徒ならここは相手を慰めてキスからひと夏の思い出に行っても許される。なのに手に触れるだけで、涙を拭ったりも、胸を貸すこともしない。

わたしじゃなかったら傷ついても仕方ないわよ?なんて。だからわたしも遠慮しない。一対一になった時点で、このわたしに勝てる相手なんてほとんど(強いて言えば椎名さんと森下さんくらいかしら?)居ないわ。この場の空気を壊さず、彼の彼をやる気にさせる。わたしなら出来る。他の誰にもできなくても、このわたしなら。

 

「……茶柱先生と……その、…寝た*4の?」

「…なに?」

「夏休みの前に、茶柱先生に呼ばれたあなたを見た。さっきも、船の劇場で会っていたでしょう?…二人きりで」

「…………??」

 

綾小路くんからすれば、全く意味が分からない質問でしょう。なぜこの隣人のクラスメイトは「脅してきた相手と自分がセックスをしたのか」と思ったのか。

それも俯いて、チラチラと涙目で、顔を赤らめてまで二人きりのこの場で口にしたのか。…きっと宇宙でも背負って真顔で考え込んでいることでしょう。

もう少し情緒が育っていれば、これが嫉妬や心配からの質問だと気が付けるはず。…でも、この頃の彼ならきっと否定する。そうすれば、もうチェックメイトだ。

 

「……なんのことだ?」

「っ………!」

 

ぐっと唇を噛んで、喉の奥からこみ上げる歓喜を捻じ伏せる。興奮から震える全身を堪えて、ショックを受けた…いいえ、覚悟を決めたような美少女像をインストールする。

女は何歳からでも女優。なら、XXX周も繰り返したわたしに出来ない演技はない。あとはこの純白少年を少しだけ大人にしてあげましょう。…ええ、仕方ないわ。だって堀北鈴音(わたし)にとって、彼は茶柱佐枝という大人の女性によって弄ばれている大切な友人なのだから。救って上げなくては、なんてね?

 

「そう……。言えないなら、構わないわ」

「お、おい……」

 

そう言って、私は彼の正面で服に手をかけ、脱ぎ捨てる。文字通り一糸纏わぬ姿で立ち尽くすと、彼は顔を真っ赤にして視線を逸らそうとした。……残念だけれど、逃がすつもりはないわ。私は今日、ここでキメに来ているのだから。

 

先日のストーカーの件で投げ捨てるつもりだった純潔(ハジメテ)。今さらそんなものに頓着はないし、なにより最近の私の欲求不満の元凶でもある。お為ごかしにも程があるけれど、責任は取ってもらいましょう。

 

「目を逸らさないで」

「……っ」

「見て……」

 

彼の視線を一身に受け止める。赤く上気した頬も、胸元の朱も、手入れされた黒も。何一つ隠さず、すべてを彼の前に曝け出す。

息を呑んだ彼にゆっくりと近づき、そっと胸を押す。重力に従ってベッドへ倒れ込む彼に覆いかぶさり、至近距離で見つめ合った。

私は覚悟――という名の、情欲にまみれた決意――を瞳に宿し、彼の観察と無感情、そして微かな動揺が混ざり合う瞳を射抜く。

手を彼の服に滑らせ、ゆっくりと捲り上げる。心臓の上に手を当てると、ドクン、ドクンと激しい脈動と熱が伝わってきた。

 

「なんの……つもりだ、堀北」

「生憎だけれど、男性を満足させる方法なんて詳しくは知らないの」

「……だが」

「黙って」

 

キッと視線を強める。彼の足の間に差し込んだ私の膝には、すでに硬い熱量が押し当たっていた。かなり興奮しているのは分かっているけれど、まだこの雰囲気(シリアス)を壊したくはない。

彼の中に、私という存在を強く刻み込みたいのだ。

ごくりと生唾を呑み込み、緊張を殺しながら――もちろん内心は、この周で初めてとなる行為に大興奮なのだけれど――彼のベルトへ手をかけた。

 

「う……」

「っ…あ……」

 

顔を出したソレに、息を呑む。相変わらず、規格外の大きさ。緊張からか、まだ最大の七割程度に見えるけれど……。恐る恐る指先で撫で、握りしめる。

少しずつ要領を掴むように速度を上げ、ついに――ふふっ、これ以上はお預けね。

 

少なくとも3回…、いえ、4回かしら?最後までしっかりと付き合って、彼を無事に慰めてあげたわ。

ベッドシーツに微かな朱の痕が残ったとき、彼は罪悪感を顔に浮かべていたけれど、「……もう終わりかしら?」なんて少し煽ってあげたら、途端に顔つきが変わって激しく打ち据えてきた。押し倒していたはずなのに、気がつけば私が天井を見上げて翻弄されていたのは、少々予定外だったけれど。

 

荒い吐息混じりに「熱っ……」「出しすぎよっ……」「っ大き、すぎ……っ!」なんて声が漏れるたび、彼はムクムクと戦意を回復させ、追加で三度ほど楽にしてあげた。

 

部屋には荒い息を吐く二人の男(・)女(・)の姿だけが残される。

締め切られた室内に満ちる、汗と甘い蜜の混ざり合った不道徳な匂い。最後には髪にまで汗や痕跡が飛び散り、散々な有様になってしまったわ。彼が私の中に残した熱量が、歩くたびに太ももを伝って垂れてくるのを感じながら、私はシャワールームへと足を向けた。

 

「……悪い」

「全く。……シャワー、浴びてくるわ」

「ああ…、…………」

 

熱いシャワーを浴び、上気した顔を冷ます。彼が求めてくれた場所を中心に熱湯を当て、行為の残滓を丁寧に洗い流していく。

 

「ふぅ……ん」

 

少しはしたないと思いながら、未だ熱の残る体を抱きしめた。いつだって「初めて」の行為は、特有の痺れるような痛みと喪失感、そして甘やかな充足感が下腹部を駆け抜け、気を抜けば膝がガクガクと震えてしまいそうになる。

鏡を見れば、目の中にハートマークでも浮かんでいるのではないかと思うほど、今の私は欲求不満から解放されて絶好調だ。……ただ、それを彼に伝えるには時期尚早だし、初体験直後にがっついて淫乱だと思われるのもシャクだから、まだお預けにしておきましょう。

 

待たせすぎるのも良くないと思い、ボディソープを手に取る。少し赤くなった肌に泡を纏わせていると、不意に扉が開く音がした。

 

「え……っ?」

「堀北」

「……もう少し待ってくれるかしら? すぐに出るから」

「いや」

「……?」

 

私と同じく一糸纏わぬ姿の綾小路くんが、シャワールームへと足を踏み入れてきた。

え? ちょ、ちょっと……? 以前の周では、こんなに積極的じゃなかったわよね? あれ……!? い、今ってまだ一年生よね? 二年生じゃ……ええ!?

動揺して固まる私を壁際へと追い詰め、胸を隠していた手首を壁に押し付けられる。あ、あの……綾小路くん、なんでもう元気になって……えぇ!?

 

「ち、ちょっと……待ちなさい。落ち着きなさい、一度……」

「堀北」

「あ……う……」

 

見下ろしてくる彼の視線は、今度は迷いなく私の身体を捉えている。シャワーで熱いはずの身体に氷を突きつけられたような、恐怖か、あるいは異常な興奮なのか……背筋をゾクゾクと熱い震えが駆け抜ける。

 

……いえ、落ち着きなさい、わたし。

正直、大歓迎よ。たぶん私の方も、名前を呼ばれた瞬間に準備はできているわ。……大歓迎なのだけれど、理性を失った彼と、この規(・)格(・)外(・)の相手をもう一度なんて、絶対に一回や二回じゃ終わらないわよね!?

明日は朝から一之瀬さんとの約束もあるし、桔梗や他の用事も……。

 

「満足させてくれるんじゃないのか?」

「っあ…!」

 

耳元で落とされた低い声は、全身に電流が流れたように感じた。満足したはずの下腹部が震えるのが分かった。抵抗をしていたはずの腕から力が抜けた。

もう体は、完全に出来上がっていた。目の前の彼も引く気はなく、ただ「いただきます」と行儀よく挨拶をして、怯えるわたしからの「どうぞ召し上がれ」という返事を待っているのだ。…濡れた。

 

「いいか?」

「……す、」

「……」

「……好きに、しなっ……んっ……!」

 

それを皮切りに、シャワールームで、立てなくなったら再びベッドへ運ばれ、最後はまた立ったまま腕を掴まれて、乱暴に、まるで所有物のように貪られた。

本音を言えば髪を掴んだり、ベッドでのしかかるように抱きすくめてくれても良かったのだけれど、おおむね満足だったわ。集団でされたり無理やりされるのは状況で興奮するのだけれど、彼とだけは肉体的な満足感が最も強い。相性もあるのかもしれないけれど、きっと彼が上手なのもある。相手の反応から、弱いところを読み取ってガンガン攻め続けてくるから危なかったけれど、今回はわたしの勝ちね。

 

満足して賢者タイムに入った彼の前で着替えを済ませ、先に部屋を出たのだから、誰がなんと言おうと私の勝ち。そういうことにしておきましょう。

 

「…堀北、その」

「良いわ。何も言わないで」

「………」

 

ピロートークのような甘い会話は何もなかった。けれど、こういった友情や愛情、そして性のストレス解消は、一時的であっても彼のモチベーションや心の支えになるのは間違いないわ。当然、マンネリ化を防ぐためにシチュエーションを変えたり、別の人を充てがったり、複数で相手をしたりすることも必要になるでしょうけれど。

 

「また、いつでも呼びなさい。予定を空けるわ」

「お、おう…。………実は」

 

彼の言葉を聞く前に、部屋を去る。このくらいの距離がちょうどいい。その後、約束のあった人たちには電話で謝罪することになったけれど……まあ、大満足よ。

やっぱり綾小路くんはモノが違うわね。……ちょっと本気で腰が危険域に入っているけれど、気合で誤魔化すことにしましょう。

 

……もう、本当にとんでもないケダモノなんだから。

 

◇

 

一夜明けた次の日。わたしは夏を存分に満喫していた。…当然、ひとりなんかじゃない。夏には出会いと癒しが不可欠ですものね。

ちらりとサングラスをずらして見せれば、わたしの赤と、彼女の橙の瞳と交錯する。そらさずに見据えれば、先に視線を逸らされる。…勝ったわ。

 

「…ね、ねえ…堀北さん」

「なにかしら、長谷部さん?」

「いや…私は良いんだけど、ちょっとーその、ほら…周りの目が…ね?」

「あら、見たい人には見せつけてあげればいいのよ」

「うう…愛理…早く来てぇ」

「そうしたら2人に甘えられるのかしら。楽しみにしているわ」

「む、無敵すぎない?…そんなキャラだっけ?堀北さん」

「そんな日もあるわ」

 

船上プールのパラソルの下。ビーチチェアに横になり、長谷部さんの膝枕で癒やされているのはDクラスのリーダーこと、堀北鈴音その人である。…まあわたしよ。

強い日差しを遮る傘と、大きく成ったふたつの…ちょっと下品だったわ。まあ学年屈指の大きさである、長谷部さんの胸のことよ。白と赤のストライプカラーのビキニを身に纏う彼女は、文字通り視界の暴力。

普段はストレートに流している髪もすこし夏っぽさを出してあげれば完成。恥じらいをチラチラと表情に浮かべているのも加点ね。海に行けば120%ナンパされて海の家、シャワー室、プライベートテント、あとは車とか岩陰でにゃんにゃん()するのが確定するほど魅力的だった。

 

「ほ、堀北さん…?」

「本当に、綺麗よ。…その髪型も似合っているわ」

「あ…ありがとう…。なんか照れるな」

「今だけは、わたしが独り占めね」

「…なんか、口説いてるみたいだよ?」

 

鋭いわね。…誤魔化すように、わたしは手を伸ばす。耳からうなじ、鎖骨と流れる髪を一房やさしく指で弄んで、すう、と香りを嗜むように。…仮にやったのが異性ならイケメンにしか許されないコレも、同性なら少しだけドキドキさせるコミュニケーションになる。

 

「ちょ、ちょっと…!?」

「いたっ。膝を上げたらダメじゃない。…ルール違反よ」

「だって急に…、ちょ、ちょっとっ、にじり寄らないで…?怖いよ!?」

「一回は一回よ。…ふふっ」

「ごめん波瑠加ちゃん、お待たせ…!「あ、愛理ー!待ってたよー!助けてー!」わわっ…」

 

少しくらいなら…なんて、そんなちょうどいいタイミングで佐倉さんが着替えてやってきた。その姿に気を取られている内に、長谷部さんがするりと猫のような俊敏さで逃げて、佐倉さんに抱き着いた。

 

「え?えーっと?どうしたの?」

「堀北さんが「長谷部さんが佐倉さんと2人掛かりでわたしにえっちなことをしてくれるって」言ってない、言ってないから!」

「冗談よ。…佐倉さん、似合っているわね。わたしが男なら絶対に放って置かないわ」

「あはは…。ありがとう、堀北さん」

 

女だから放っておくとは言っていないけれど。そう言って隠さず、むしろ強調するように腕を背中に回したのはわたしとの特訓の成果が出たようね。青と桃色、ワンポイントで白のフリルがついた水着は彼女の魅力を120%発揮して、鼻の下を伸ばしていた男子の何人かが早足でこの場を去るくらいの破壊力を発揮している。

思わずぎゅっと抱きしめて、耳元で何人に声をかけられたのか?なんて聞いたら5人も。…同じ数だけ、わたしと長谷部さんを待たせた恨みをその胸に晴らしてもらったわ。

 

その後、3人でプールの中でビーチボールを投げ合ったり、水を掛け合ったり。…やっぱり揺れるほどあるのって、羨ましいわね。ないものねだりかしら?

しばらく過ごして満足したのか、休憩のために冷たいドリンクを注文した。チラチラと視線を向けてきた長谷部さんの腰へ腕を回し、可愛い悲鳴を上げた彼女をからかうと頬を膨らませながらもそのまま好きにさせてくれた。佐倉さんもその様子にクスクスと笑いながら、わたしの肩を揉んでくれる。

…極楽ね。ちょっと昨日の今日で心身の心(・)とついでに色の欲は満たされたけれど、身の方は今一つ万全ではない。次の試験が頭を使うタイプのもので助かるわね。

タイマーが鳴る。時間だ。また数時間したら、次の予定もある。でも「延長しますかー?」なんて聞いてくれた長谷部さんが悪いのよ。

延長するわ。お金(ポイント)なら、あるの…。

 

「いや金って…まあ良いけど、なんかほんとに疲れてる感じ?」

「堀北さん、大丈夫?」

「ごめんなさい、もうちょっとだけ。…あとちょっと元気もらったら…ごめんなさい…」

「仕方ないなぁ…。良いよ…、ほら、サービスでぎゅってしてあげちゃう」

 

そういって腕を広げてくれた彼女に、体を預ける。後ろからは佐倉さんも恐る恐る、という風にぎゅっと。三人じゃ狭いビーチチェア、周囲の視線なんて気にならない天国で、わたしはもう少しだけ体を癒していった。

あ、ちゃんと写真の件でのお礼は二人に支払ったわ。多すぎるって言われたから、この場を設けて貰った。…次もお願いするとしましょう。

 

◇

 

夜。明後日には次の試験が始まる。そんなことを知らずに夏を謳歌するクラスメイトをよそに、わたしは船でレンタルした黒のオフショルダードレスを身に纏って船内のプライベートサロンへと向かっていた。

海岸線が望めた大きな窓も、カーテンを閉めれば途端に密室感を感じる。わたした(・)ち(・)が最後だったのか、中央の丸いテーブルにはすでに3人の姿があった。

 

「あら、待たせてしまったから?ごめんなさい」

「ごめんなさいっ、わたしが準備に時間がかかったからだよね?」

 

そういってペコリと頭を下げるのは、明るい色のカクテルドレスを身に纏った桔梗。わたしのパートナー、相棒、主要人物、幹部…なんでもいい。クラスの主要人物としての顔見せと言えば、言葉では嫌がっていても内心は自尊心がどばどばと満たされただろう。その為に、クラスの生徒たちと遊んでいる最中に声をかけたのだ。

…ちなみに遅れた理由は最初に来た白いドレスの谷間が攻めすぎていたから、体で分からせてあげたせいね。ドレス代は安くはなかったけれど、惜しくはない。赤い跡が見えないようにイリュージョンネックで胸元から首筋には花柄の刺繍が走っている。ほう、と思わず口からため息がつく声がいくつか聞こえる。…流石ね。

 

「まだ予定の時間まで間がある。気にする必要はない」

「………」

 

最初に口を開いてくれたのは、Aクラスのリーダーである葛城くん。制服をきっちりと着こんでいる彼の姿は、この場でも浮くことはなく腕組みをして椅子に腰かける様子には貫禄が感じられた。その背後には少し距離を空けて、壁の花になっている神室さんの姿がある。髪色よりも淡い紫色のスレンダードレス。マーメイド調になびく裾から、彼女の足が綺麗に伸びている。チラリと目が合った後、また逸らされた。…照れているのかしら。

彼女が来た理由は、きっと坂柳さんの代貸*5ってところかしら?

 

「にゃはは…とっても似合ってるよ、鈴音っ!あ、もちろん櫛田さんもね!」

「ありがとう、一之瀬さんっ。神崎くんもごめんね…?」

「あ、ああ…」

 

次に褒めてくれたのは、Bクラスの一之瀬さん。桃色のオフショルダードレス…わたしの色違いのようだけれど、彼女のスタイルを見ればより胸に視線を集めること間違いない。神崎くんが賢明に視線を虚空に向け彼女を見ないでいるのも仕方ないわね。角度的に、上から座った彼女を見ると…ふふっ。

 

「龍園くんも、来てくれてありがとう。伊吹さんも、とっても似合っているわ」

「ククッ…俺は優しいからなぁ。いい女の誘いは断らねえ主義だ」

「…どーも」

 

この場にいる男子の中で、唯一制服ではない彼は無精ひげなども綺麗に剃ったいつものスタイル。ワインレッドのワイシャツと黒のスラックスを着こなしている。胸元にチラリとみえるシルバーも下品でなく、アクセサリーとして彼の野性的な魅力を引き出している。

濃紺のホルターネックドレスを着たのは澪。思わず抱きしめたくなるほど、彼女の健康的なうなじや肩が映えている。スタイルを気にしていたのか、胸を覆うようなデザインを希望したのかもしれないけれど隠した分、ぴっちりと体のラインが分かることから抱きすくめたらきっと――っと、危ない。訝し気な顔で見られている。自重しましょう。

 

こうして1年の各クラスのリーダーが揃った。…まあ、集めたのはわたしなのだけれど。

この場での会合の理由は、言うならクラス単位での反省会みたいなもの。学校のシステムとして、学年を跨ぐごとに殺伐としていくわけだけれどそれまでは切磋琢磨していく関係だし、初めての試験の総評。まあ、どういう行動をしたのか云々をそれぞれ発表していこうと思って声をかけたわ。…さて、建前はこのくらいにして話を勧めましょう。

わたしは部屋の備え付けの電話から、お願いしてあった飲み物を用意してもらう。もちろん、席に座る4人以外にもくつろげるように数人掛け用のソファや立食用のテーブルもいくつかこの部屋にはある。付き人みたいになったリーダー以外の4人は、自分の意志で後ろに立っているだけよ。

 

その後、懇親会は和やか?な雰囲気で進行していった。トラブルはちょっとだけ露骨なお誘い(やんわり表現)をした龍園くんに神崎くんが噛みついたり、届いた飲み物を口にしてわたしと龍園くん、神室さん以外が噎せたり(そんなに強いのを頼んだかしら?)したくらいかしら?

何故か顔が少し赤くなった面々は、自然と緊張もほぐれたのか口が少しだけ饒舌になっていく。Bクラスの試験へのアプローチ、Aクラスのスポットを回る為のクラスメイトの運用術。ニヤニヤ聞いていただけの龍園くんは、口を開けば嫌味や悪口を言っていたので賭けのことをみんなにバラシて黙らせてあげたわ。

案の定、慌てた様子の一之瀬さんや何とも言えない視線を向けてくる神室さんと澪に応えるように、桔梗へ頼んでわたしは紙とペンを龍園くんへと届けてもらった。

 

「さて、それじゃあ賭けの答え合わせをしましょう。龍園くん?」

「チッ…。えらく自信があるようだな、鈴音」

「もちろん。もしあなたが勝ったら、このままお部屋までエスコートをして貰おうかしら?」

「…ほらよ」

 

そう言って渡された紙には、Cクラスが指名したリーダーの名前がある。わたしも自分の分を書いて、それを一之瀬さんと葛城くんに回す。

 

「なるほどな…」

「…うぅ…やっぱり、かあ…」

「龍園くんが指名したのは、Aクラス戸塚君。Bクラス白波さん。Dクラスがわたしね」

 

対するこちらはAクラスなし、Bクラス白波さん、Cクラス龍園くん。リーダーたちの答え合わせにより、正解が明かされた。

結果はこちらが2名分を的中させての勝利。指名をしたのはわたしでなく島に残った平田くんだったらしいけど、その点について難癖をつけてきた龍園くんは葛城くんが援護射撃。

「誰が指名するかのルールは決められていたのか?」「勝負ごとに『知らなかった』は通らないぞ」とどこか聞いたようなセリフをチラリ。…ちょっと自信に満ちていて面白かったわ。

 

「チッ…お前ら、組んでいたのか?」

「なに…!?」

 

察しの良い龍園くんと、察しの悪い神崎くん。…まったく、葛城くんを見習いなさい。なんのことだ?みたいに腕を組んで沈黙を保っている。沈黙は金、それを表すように…あ、ちょっと口元がニヤッてしたわ。前言撤回よ。

 

「というか…せっかくだから良いかしら、神崎くん?」

「…なんだ堀北」

「その、…なんでCクラスの生徒を引き入れたのに、手を打たなかったのかしら?」

 

わたしの質問への反応は3種類。興味、動揺、きょとん。…あ、最後のは一之瀬さんよ?

視線だけこちらにくれた澪にウィンクを返すと、プイって逸らされた。かわいい。さて、「それは…」とかレスバなら誘い受け以外は赤点の回答をした神崎くんへと矛先を戻す。

 

「クク、金田のことも把握済みか。…いつからだ?」

「伊吹さんを見た瞬間よ。あとあなた、無線機をあんなに人目に触れるところに置くのはどうかと思うわよ?」

「…Dクラスにもスパイがいたのか」

 

…なにを勘違いしたのかはわからないけれど、え?澪のことよね?わたし達がCクラスの…ってこと?まあ面白いから良いけれど。そんなことより、なんでリーダーの一之瀬さんが全体指揮をとっていたのに神崎くんは金田くんをマークしていなかったのかを聞きたいのだけれど。

結局、明確な理由はなし。まあこの頃の彼ならこの程度だったかしら?他のクラスの冷笑を視線で受けて、不甲斐なさに震えるといいわ。

 

「ねえ、鈴音はどうやってBクラスのリーダーが千尋ちゃんだって気がついたの?」

「何度か偵察しに行ったときに一度も目が合わなかったから当たりをつけて、複数人で行っていたスポットの更新の時に必ず参加していて、その上でリーダーを引き受けそうな人だったからよ」

 

「うーん、流石だなぁ…」とか言っているけれど、普通にあなたが教えてくれたわよね?自然にわたしが見抜いたことを周囲に教えたけれど、流石にヒントなしだと厳しいわ。

 

「…なんでスパイの私をDクラスの拠点に置き続けたんだ?」

「あなたがかわいかったから…は、本当だけれど。きちんと別の理由があったわ」

「別?」

「リーダー指名を誤認させるためだ。…そうだろう?」

「正解よ」

 

口入してきたのは葛城くん。端的に答えを返す彼に、頷いてCクラスの2人を見据える。

 

「龍園くんが試験用のポイントを大量に使ったのはわかった。クラスから離反者と言う形でリーダーを探って当てにいくのもわかった」

 

ならあとは、彼の敷いたレールからは外れないように上手く澪をコントロールすれば良い。クラスに馴染ませ、事件を許容し、限界を迎えたようにしてそっ…と彼女の手にプレゼントを与えれば完成だ。       

 

「チッ…テメェがもっと早くリーダーを見抜けてりゃあな…」

「うるさい。…アイツがずっと警戒してて、私の前で隙を見せなかったんだ」

「あ?バカが。寝ているときにで「あら?わたしは試験中、ほとんど眠らなかったわよ?」…あ?」

「は?」「うわ…」

 

今度は澪と神室さんとね。茫然とするCクラスへも葛城くんがため息交じりに「事実だ」と認めてくれた。

わたしがフラフラだったことを聞いて、舌打ちをした龍園くんとは違って一之瀬さんは心配そうにしてくれた。

 

「えーっと、鈴音?6日目にすごく眠そうにしてたのって…」

「ああ、あれはやられたわね。ギリギリ暴力行為にならない範囲での拘束。わたしのクラスメイトも抱き込んで、すやすやと目が覚めたら貴重な貴重な数時間を使わされたわ」

「うう…あんまり無理しないでよ?心配だよ…」

「無茶だ…!」

「それくらいしないとダメってことよ。おわかり?」

 

若干目が暗くなった一之瀬さんと、閉口した神崎くん。あとはまあ、適当に試験の取り組み方を話して会の目的は果たした。…わたしの本命はここからだけれど、ね。

締めを引き受けてくれた葛城くんに感謝をして、席を立ったあたりで生徒会組の2人にあと少しだけこの場にいてほしいと頼む。 2人が残るならその付き人も。なんだ?という視線を受けつつわたしは龍園くんの元へ。

 

「さて、賭けはわたしの勝ちね?」

「…今回は、な。次は俺が勝つ」

「いい気迫ね。なら、賭けの報酬をもらいたいのだけれど?」

「……言ってみろ」

 

そう、この賭けの権利をなにに使うかは最初から決めていた。わたしは彼の耳元へ「これからわたしがすることを、追認すること」とだけ囁く。何のことかと憮然とした彼の前で、わたしは腕を組む澪の前に立つ。

 

「伊吹さん、いいかしら?」

「…なに?」

「試験を通して、あなたをずっと見ていた。きっと慣れないことなのに、あなたは懸命にクラスのために働いていたわ」

「い、今言うことなの…?」

「わたしが無理をしていた試験の終盤でも、あなたは手を緩めずに自分のクラスのために手を尽くしていた。…思い上がりじゃなければ、わたしの身を案じてくれていた」

「あ、あれは…「ありがとう」……し、知らないわよ」

 

カードキーと引き換えに入っていた水と果物。自分もお腹が空いていただろう。水を頼むのも肩身が狭かっただろう。そんな中で、敵のクラスのリーダーにそれを送るくらいには、彼女は堀北鈴音という相手を意識してくれていた。…まあそう立ち回ったのだけれど。

思わぬ褒め殺しに赤面する彼女の手を取り、体を寄せる。不意打ち気味なこの状況、ここが、最も成功率が高い瞬間。

葛城くんは私寄り、公私を分けられる稀有な存在だ。

一之瀬さんは私に依存してくれている。断ることはない。

龍園くんも賭けの対価という理由…落とし所を用意した。メリットが分からない彼ではないけれど、無報酬では警戒される。なら、このくらい露骨な方が受け入れやすいだろう。

 

そう、彼女を…伊吹澪をわたしの近くに置くためなら、すべてが安く済む。最低でも心を。出来れば、体も…ね?

 

「伊吹さん。…いいえ、澪」

「なに…というか名前「生徒会に、興味はないかしら?」……は?」

 

ぽかんとした澪の表情。それを微笑ましく思う。いじらしくも思う。そして何より、愛おしく思ってしまう。

 

ーーー『待ちなさい!私、まだアンタに勝ってないっ…!!』

 

いつかの周の後悔。…なんて、ね。私情が混ざるのは認める。でも彼女の存在は、3年生となれば非常に重いポジションとなる。

それこそ退学がかかった試験で、彼女がいればと何度嘆いたか分からない。

そんな万感の思いを眼差しに込めて、わたしは彼女へと手を差し伸べる。…さあ、もう一度。いいえ、何度でも勝負しましょう?

*1:
布や革の袋に砂・小石を詰めて重くしたもの

*2:
5話、汝、敵ともハイタッチせよ。

*3:
大人二人で一緒に寝ても余裕がある大きさ

*4:
性行為の比喩表現

*5:
本来は任侠組織のナンバーツーの意。代紋を預かることから




読了ありがとうございましたー。
初体験回でした、アンケートありがとうございましたー。
長くなってしまい申し訳…。青髪ヒロインが…彼女たちが悪いんじゃ…。

【挿絵表示】

次には試験編。
お楽しみに―。
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