堀北さんは諦めない! 作:BM-13
最新刊も読みました〜、もう次が楽しみ〜。
ちょっといそがしく、次は週後半にはなるかもーごめんなさいー。
それでは4.5巻パート、スタートです。
…あ、最初ちょっとアレなシーンがあるかもです。ぼかしてはあるのでご不快に思いましたら申し訳ございませんー。
それでどうぞー。
ガラリと強く開いた扉。夏休み、それも生徒も用事がなければ訪れない場所から出てきたのは星之宮先生だった。
扉の近くにいた私に驚いて、トン、と体がぶつかり思わず抱き留める。
「あら」
「きゃっ」
ふわりと漂うのは、濃厚な香水の香りと、隠しきれない女の甘い匂い。その装いは、普段着の延長と言い張るにはあまりに攻めすぎていた。表情や仕草、立ち振る舞いひとつでこうも扇情的に映るものかと呆れるほどだ。
夏用の白いブラウスは薄手の生地で、汗でほのかに肌へ吸い付き、背後からの光を受けて下着のレースをくっきりと浮かび上がらせている。はち切れんばかりの胸元はボタンがいくつか外され、隠しきれない豊満な谷間が覗いていた。膝上のタイトスカートから伸びる太ももは黒ストッキングに包まれ、同性ですら息を呑むような生々しい肉感を強調している。
「……へえ」
じっと観察すれば、日頃のナチュラルな装いとは異なる、明らかに男を意識した気合の入った濃いめのメイク。口紅は少しだけ滲み、どこか脂の浮いた肌が教員室では絶対に見せない生々しさを物語っていた。
総じて今日の星之宮先生は、
「…随分と、今日は気合が入っているんですね?」
「っ…皮肉のつもり?」
「いいえ。本心です。…とても、艶やかです」
キッとわたしを見る表情すら色っぽい。…こんな男子生徒の欲望を煽るような先生が相手なら、
出てきた部屋の奥に視線を向ければ、ちょうど人影が立ち上がったところだった。「盛り上がったようですね?」なんて下世話な問いを投げれば、返事は目の前の星之宮先生から飛んできた。
「聞いていたの…!?」
「どうでしょう?…それより、お疲れ様でした。
「鈴音か」
学校に来るために制服を着ているとはいえ、夏服。ノーネクタイでラフな様子の生徒会副会長。二年生をまとめ上げ、生徒会長への就任も秒読みという2年生の雄。なんなら、個人的にその実績は歴代最高とやらの堀北会長を超えるものとわたしは確信しているけれど、そんな彼もどこか浮ついた雰囲気のまま、保健室を出てくる。今日の用事のため、ご足労とお手間をかけた次第。多分イケるとは思ったけれど、この様子ならおそらく…。
「どうでした?」
「…まあ、悪くはなかったな」
「それは重畳。なら?」
「ああ。…生徒会から正式に、学校側に提議を上げてやるよ」
この場に星之宮先生が居たこと。そして、保健室という彼女の聖域ともいえる場所から出てきた女子教諭と男子生徒。…邪推?まさかまさか、教師と生徒よ?あり得る訳、ないじゃない。
「よかったです。…ね?星之宮先生も、
「っ……もう、帰るわ」
「お気をつけて」
乱れた髪を掻き揚げ、拭いきれていない口元を覆いながら、星之宮先生が足早に廊下を去る。彼女がナニをしていたのかは明白だけれど、わざわざ口にはしない。
それを見送った南雲先輩も、まだどこか夢心地のような微かな興奮を顔に残したまま、ひと言、ふた言のやりとりをしてから逆方向へと進んでいく。わたしは…そのどちらへも向かわず、目の前の一室…保健室へと目を向ける。普段はどんな教室も使われない時は施錠されている。それがない数少ない一室へと、私は足を踏み入れた。
「……あらあら」
中にはまだ熱の残ったカーテン奥のベッドと、乱れたシーツ、湿ったナニかを拭った紙が丸まってゴミ箱に捨てられている。枕元には何本かの中ほどの長さの髪。女性のモノかしら?なんて、妙な探偵気分はここまで。わたしはそっと仕切りのカーテンに隠れた机にある花瓶、その中をひっくり返して小さなマイクを回収する。音声は受信してクラウド保存済み。証拠を残さないためだけに、こうしてお邪魔した次第だった訳で。
――これは、わたしなりのケジメのつもりだった。この周でも、他の周でも。星之宮知恵という教師は様々な面を見せてきた。教師としての顔。大人としての顔。学生だった頃の顔。…そして、女としての顔。彼女の手引きでなんど綱渡りに失敗したBクラスの事故に巻き込まれただろう。何度、適当な嫌疑でDクラスの足元を脅かしわたしを絶望させただろう。
今なら付け入るスキを見せたほうが悪いと納得は出来ているものの、その時の恨みまで忘れた訳じゃない。案の定、この周でも彼女は変わっていなかった。なら、その教師が見せてはいけない顔を存分に生かして貰おうとしただけの話。
幸い、先の船の上での保障の件で坂柳理事長から言質*1を得ている。そう、「自分で仲裁させれば、保障については約束する」――と。保障とは何のことだったかしら?私個人への慰謝料的なもの?試験中断における各クラスや生徒たちへのモノ?それとも、やらかした教師への安全と権利についての一切?
明確に区切られた訳じゃない。現に夏休み中の不祥事ということで、Bクラス…失礼?現Cクラスからは説明なしの減点100クラスポイントが差し引かれるのが内定している。その上で担任の交代なんてしたら、Cクラスの屋台骨はガタガタになってしまい復帰は絶望的なものとなってしまうだろう。
それはわたしも望むところではない。待ったをかけて、彼女にはわたしの考える学校のシステムへの変革の一助を担って貰うことにした。
「
「…詳しく聞かせて貰えるか?」
「もちろんよ」
わたしは手始めに、1年生の生徒会入りを果たしている一之瀬さんと葛城くんへ話を通しておいた。
現在、学校は生徒間でのポイントの譲渡や交渉を自由に認めている。教師が立ち会ったり、不備があれば生徒会が関わったりと「なんにでも使える」「なんでも買える」の謳い文句に一切の嘘はない。
ただ誰かの身体がその本人がつける「時価」だったり、教師の
そして普通の学校における内申点…まあ社会貢献かしら?ソレの稼ぎ方だって、本来は公開してしかるべきなのになんとポイントで購入することすら可能。何が社会貢献だ。…まったく、もう。なら最初から値札でも下げていて欲しいくらいよ。
…さて、話を戻しましょう。
ここまでの建前を踏まえてわたしが何をしたいかと言えば、それは生徒会を介した生徒間の契約や依頼、時には学校が介入する手続きの制度化よ。これはクラスごとの仕切りが高いこの学校において大きな防波堤になる。社会人的な経験値として話すなら、いついかなる時もライバル会社の相手とも一緒に仕事をする可能性はあるんだから、その研修的なものとして、ね?
首を傾げる二人。…もう少し分かりやすくするわね?
例えば、DクラスのわたしがAクラスの葛城くんへ「勉強会を開催してほしい」と依頼をする。報酬にポイントも先払いした。
葛城くんは頷いて、信用できる生徒の戸塚くんを勉強会に送った。報酬は自分の分も含めてすべて戸塚くんに渡した。しかし戸塚くんはDクラスの生徒の粗暴な人と喧嘩をしてしまい、勉強会は不真面目な態度を取って失敗してしまった。
…これは、誰のせいになるかしら?報酬を最初に受け取った葛城くん?それとも仕事が出来なかった戸塚くん?依頼をしたわたし?喧嘩をしたその生徒?意見はたくさん出ると思う。…その理由も。
きっと現行のルール通りなら、それが問題化してやっと生徒会が介入する。そうして長々とした審議をもって、被害者や慰謝料を決めるのでしょうね?貴重な、試験前の時間を使うのかしら。
「だが、結果は本人の「赤点が出てたとしても?」…む」
「あ…」
「はっきりいって、ナンセンスよ。赤点で退学した責任なんて、どうやって取れって言うのかしら」
教えた本人だって、多少は気にするでしょう。それだけクラスが異なる生徒間での契約というのは利害が深く絡みつく。その被害や補填は、とてもじゃないけれど採算が合うことばかりじゃない。だから、その後ろ盾に生徒会がなってあげようと言うのだ。
生徒からの依頼を生徒会が責任を持って適任者へと回し、円満な解決や達成を目指す。無償でやるには膨大なものとなる危惧がある。専用の役職や手数料のことも相談が必要になるでしょう。
けれど、この学校に入学した当初の手探りのような迷走や理不尽な搾取からは生徒を守ることができるはず。
そこまで伝えた辺りで、わたしは目の前のふたりに視線を戻す。内容はしっかりと伝わったみたいで、協力的な返事を貰うことができた。ふたりには生徒会長になったら自分の手柄にして良いと伝えるとえらく驚かれたけれど、信任投票とかでは一之瀬さんが圧倒的人気で圧勝しそうね。
さて、これで建前と根回しは完了した。本命へと話を持っていきましょう。
訪れたのは密談に向いている個室のある喫茶店。指定の場所には余裕を持って着いたけれど、席には先に南雲先輩の姿がある。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「いや、俺が先に来ただけだ。気にしなくていいぞ」
そういって、注文を促されてコーヒーを頼む。届く間も葛城くんや一之瀬さんのことを褒められたり、学校生活…主に特別試験について驚くポーズを取られたり、年下にしてはやるじゃないか、と褒められたり…まあマウントを取りつつ可愛がってくれた。
誤解があるかもしれないけれど、わたしは個人的には南雲雅という先輩について特にネガティブな印象は一切ない。実力は間違いなく学年屈指だし、女性関係も別に眉をひそめるほどでもない。自分にできること、やれることを感覚で掴んで結果を手繰り寄せられる稀有な才能。そんな才能を持つ生徒をAクラスで入学させなかった学校運営にはきっと素人童貞の採用担当の私情が多分に…おっと、閑話休題。
届いたコーヒーを一口。舌を湿らせて先日ふたりに相談したBOAの相談企画書について意見を貰う。パラパラとそれを流し見た南雲先輩は、興味3と意地悪い笑み…嘲笑に近いものかしら?未熟な年下へ向けるソレ7の感情。
割と最後まで目を通してくれる。ちなみに歴代最高の生徒会長殿なら5秒で切ってくる。内容云々ではなく、南雲副会長への警戒からわたしの台頭を望まない…なんて、完全に公私混同よね?考えていたら読み終わったのか、ぱさりとそれを机に落とす。
さて、ボールは渡した。そこからは南雲先輩のダメ出しタイムだ。人的余裕のなさ、学校との折衝の手間、そしてなにより得られる手数料の少なさ。これではいざという時に生徒会が補填するには心許ないし裏をかかれて詐欺のような形でハメられれば生徒会の能力を疑われたり運営に支障が出ることへの指摘。
「…こんなとこだな。まあ面白い考えとは思うが、机上の空論だ」
「そうですか…。たしかに契約すべてに生徒会が介入するのは現実的じゃないですね。やるとしても、段階的に…」
「ああ。そのBOAとやらが目に見える形で結果を出して、学校側から評価を得ないと難しいだろうな。それに教師が認めるとは思えん」
「…では、依頼について生徒会が窓口になる方はどうでしょう?」
「ん?…まあ悪くないとは思うが、やはり採算が「大丈夫です」…なに?」
あえて、口を挟む形での介入。ピクリと眉をひそめる南雲先輩を前に、席を立ち、彼の横へと腰掛ける。身体を寄せるように、まるで恋人のような距離でもう一度「大丈夫です」と口にする。
訝しげな視線が、わたしの顔や胸元、足の付け根に向いてから逸らされる。下級生の無謀な誘惑とでも思ったのかしら?鼻で笑いながらも「具体的には?」と答えを求められた。
「南雲先輩は、間違いなく同級生はもちろんほかの学年の異性からもモテますよね?」
「…まあな」
「ですが、クラスメイトの方々にはそうでもない人も一定数いらっしゃいませんか?」
「そりゃ、俺と比べれば居るだろうな」
「流石です。今の3学年全て並べても、南雲先輩よりモテる方をわたしは知りません」
「………」
何が言いたい?というような表情の南雲先輩の耳元へ顔を寄せる。彼にだけ聞こえるように小さく、聞き間違えるくらい小さく、そっとささやく。
「星之宮先生って、美人ですよね?」と。
ピクリと、一瞬だけ漏れた動揺。今日一番の感情の揺らぎを精神力で押さえつけた。先ほどまでの先輩から後輩へ、なんて温かくはない声色で「どういうことだ?」と刺す視線つきで返された。
「夏休みの特別試験」
「………、…中止になったアレか。教師の介入があって、それが星之宮教諭のやらかしだと?」
「御名答」
流石、未来の生徒会長。たったひと言のヒントで答えにほぼ近いところまでたどり着いた。
疑り深い先輩のために、わたし手ずから疑念の棘を抜いてあげる。星之宮先生の今の状態について、彼女の持つ保険医という役職の裁量や権限。そして、最後のは男性からすれば言わずもながら、かしら?
「………」
「………]
無言で交わる視線。意図は、間違いなく伝わっている。その証拠に、バレないように視線を下に向ければ、ほんの少しだけ自己主張を始めている彼のモノが確認できた。後は五分五分まで信用を稼ぎ、嘘だった時の補償にわたしの身体を差し出せばノーリスクで話は纏まった。
結果はご覧の通り。星之宮先生には相手のことをなにも言わなかったけれど、来た南雲先輩を見て理解は早かったことでしょう。 別に醜男を差し向けた訳じゃない。男の落とし方について一家言ある美人保険医だ。少しばかり経験豊富なくらいの年下なら、保健室のベッドで上手く転がせることでしょう。
南雲先輩のシたい事に合わせて、あんあん喘いで次も、また次も…なんて足繁く通わせてくれると最高だけれど。
星之宮先生が彼を骨抜きにしても、南雲先輩が先生に飽きて配下の同級生に払い下げても、なんなら自分の所有物の女を卸しても構わない。生徒会が後ろ盾となったこの合法のカウンセリングは、新たな生徒会とその制度のための資金源となるでしょう。
わたしは得られた結果に満足して、保健室に立ち去る。扉を閉めたはずなのに、どこか纏わりつく事後の匂いに鼻腔を侵されながら。
◇
炎天の空の下、虫たちの鳴く声に交じる小さな、チャリ、チャリと金属の揺れる音。歩くごとに「ん…」「くっ…」という声も漏れ聞こえた。それを誤魔化すために、コツン、カツンと強く杖をつく音もワンセット。
心配するクラスメイト達になんでもないと言いながらも、見る人が見れば無理をしていると分かるほど赤く、今も汗がツーっと首筋を伝う。
「大丈夫かしら?坂柳さん」
「………っ…!」
「無理ならわたしが「平気っ…です…!」…良かった」
そう言って気持ち早足…常人の歩行くらいのスピードで歩き出す彼女の背中を追う。どうしてか胸を庇うように歩く様は、以前の船内での神室さんと同じなのにどこか妖艶に、それでいて庇護欲を誘う様で蠱惑的だった。
今日は約束の買い物の日。
色とりどりの私服を着ている友人、知人を誘っての夏〜秋用の服を見に来ている。Aクラスからは坂柳さんと神室さん。Bクラスは一之瀬さんが生徒会業務で不参加、休もうとしたことにはお土産を約束して我慢してもらう。…わたし?実はまだ生徒会に入っていないのよね。入るなら、澪と同じ頃に、ね?
後はCクラスも不参加。別の日に映画に行く予定だし、今日はパス。あとは我らがDクラス。わたしと桔梗、佐倉さんとまさかの軽井沢さん、そして綾小路くん。お付きの人たちはいいのかと思ったけれど、いいみたい。随分と手懐けて居るわね、彼。
両手いっぱいの紙袋には、さまざまな店での戦利品がぎっしり詰まっている。ほぼ全て、わたしのポケットマネーから出してあげている。こんなことでもないと使わないし、着たい服を着た女の子ほど魅力的に見えるものなのよ。
もちろん、綾小路くんには男性目線での評価を依頼した。一部の子たちは恥ずかしがって賛成してくれなかったので、彼の感想が一番控えめな最下位にはペナルティを与えることとする。
拒否権?ないわよ、わたしのポイントですもの。当然でしょう?
「髪の色と合っていて、魅力的だな。見ていてこちらもドキドキしている」
「夏らしくて開放的だな、アクセサリーも意識して変えたのか?可愛いな」
「攻めた感じでとても大人っぽいな。こっちの色も似合うんじゃないか?」
男子力が高くなった綾小路くんの怒涛の褒め言葉に、女子としても悪い気はしないでしょう。神室さんも小声で「ありがと」と言っていた程だし、いい感じに盛り上がったわね。緊張から控えめのチョイスをした坂柳さんが無事に最下位なんてオチもちゃんとついたことだし。
さて、ペナルティは今後の美意識への成長を期待しての、下着ファッションショーよ。審査員は当然、綾小路くんに努めてもらったわ。
「…とても似合っている。まるで、妖精みたいだ」
「あ…ありがとう、ございます…」
顔を真っ赤にしているのは坂柳さん。その格好は、純白の白い下着姿。杖も取り上げた上、手で隠すのもNGを出したので本当に薄布だけを身に着けての偽物の天才にして、一方的に知る相手への初めての下着チャレンジだ。プルプルと震える様子も、見ないでほしいと思っているのか内心も理解できるわたしとしては愉悦を感じざるを得ない。
違う意味で震えてきた彼女へと杖を渡す際に、「今夜はこの格好で…」と囁やけば泣きそうな顔でフルフルと首を左右させた。心配した綾小路くんに、遠慮なく「同じタイプの今度は黒を持ってきて?」「ああ、私の分も。サイズはDの…」と続けてカーテンを閉める。
「やっ…バレてしまいます…っ彼…んっ!男の方には、許してくださいっ…!」
「いいじゃない、バレたって。そうしたら3人で楽しめるわね?」
「っあぁ…!」
ピン、と彼女にあげたアクセサリーを指で弾けば、可愛らしい悲鳴をあげてわたしに身体を預けてくる。思わず続けたくなったけれど流石に店内ではしない。
わたしも、そして彼女も全ての服を脱いで彼を待つと、カーテンの外から声がしたのでスッと顔と腕を外へ出してお礼を言う。
「ありがとう、綾小路くん」
「…見えてるぞ「エッチ。有罪ね」…そもそもランジェリーショップに連れてきた時点で有罪じゃないか?」
「なら有罪でも構わないくらいの思い出にしてあげるから、楽しみにしていなさい?」
「………っ!」
「…坂柳を巻き込むなよ」
身長差から、彼が視線を下ろせばわたしの体が視界に入る。当然、計算済みよ。慌てた坂柳さんがわたしの背中にピッタリと抱きつくけれど、その細い肩やガーターに守られていた素足もきっと目に焼き付けてくれたことでしょう。
その後、わたしは坂柳さんとお揃いの黒の下着をふたりで綾小路くんに見せつけたり、喫茶店で時間を潰したりした。
本当に意外だったのは、軽井沢さんが昔の傷跡のことを周囲にオープンにしていたことよ。心配を向ける桔梗に「昔の事故で…」「でも、治せるみたいだから、平気」とか憑き物が晴れたかような表情をしていたこと。
絶対になにかした相手に「ポイント
「…強いな、坂柳」
「ふふ。…綾小路くんも、やりますね。…やはり」
今は目の前で、数年越しの対戦に胸を躍らせている坂柳さんVSそんなこととはつゆも知らず、私からの「勝ったらご褒美」「負けたらお仕置き」のメールに既読をつけた無表情ムッツリロボの対決。
情勢は6:4で坂柳さん有利。このままでは彼女が勝って満足してしまう。お仕置きをしたくない訳ではないけれど、せっかくなら今日買った服も有効活躍の場を設けてあげなくては嘘だ。仕方ないから手を貸してあげましょう。
「そういえば、坂柳さんに勝ってあげたイヤリングだけれど…」
「っ…!」
「…イヤリング?」
ビクリと、駒を持つ手が固まる。狙い通りに首を傾げる綾小路くんに、神室さんの耳へと手を伸ばせば、チラリと銀色の輝きが耳元に。少し気恥ずかしそうなのは御愛嬌。「ほう…」と口から驚きを漏らしつつ、似合っていることを本人に伝える。お揃いで買いそろえて上げたけれど、一緒に着けてくれないことを不満顔で漏らす。
「ちょっと…その、わたしには派手で…」
「あら、今日選んだ勝負下着と一緒に「堀北さんっ!?」…本気よ?似合っていたわよね?綾小路くん」
「……」
「……」
「…なんて言っても、傷を負いそうだが、その…とても似合っていた。お世辞じゃない」
「あ……う……」
周囲の女子たちの視線、万座の前で褒められた坂柳さんに大ダメージ。よし、脳内がフリーズしたわね。再起動時間くらいは稼げたかしら?追加でオンライン注文の確定画面、その直前の商品データのスクリーンショットを綾小路くんに送ってあげる。所詮、パーティグッズのたぐいだ。
普段とは違う衣装やシチュエーションは、マンネリ防止に繋がる…ってほど、まだ関係は深くないけれど、純粋にわたしが着たり、着せたりしたいのもある。ジッと端末を凝視するところをみるに、彼もまんざらでもないみたいね。
結果的に、勝負は引き分け。怒涛の追い上げを見せた綾小路くんに対して、ギリギリ千日手に持って行った坂柳さんの粘り
また次戦への約束を取り付けて、ホクホク顔だったのはちょっとスン…ってなったわ。お礼に購入した際どい水着はプレゼントしてあげましょう。…遠慮しないで?画像を綾小路くんに見せようとしたら、顔を真っ赤にして喜んでくれたわ。良き。
こういう集まりを習慣化したいものね。葛城くんには、男子同士でも交流の場を設けて貰おうかしら?
そんな青写真を脳内に浮かべて、わたしは机の下で坂柳さんの太ももに手を伸ばす。…流石のポーカーフェイスね。好きな人の前、彼女も優秀な女優に間違いなかった。
◇
さて、夏休みの最中も守備力の下がった夏服でテーブルゲーム部を蹂躙したり、改めて葛城くんから妹さんの誕生日の贈り物の件で感謝されたりとそこそこ多忙に過ごしている中、わたしが何をしているかといえば、
「綾小路くん、帆波を抱きなさい」
「……あう」
「待ってくれ、堀北」
綾小路くんの部屋で、彼に迫っていた。…あ、一之瀬さんも一緒によ?というより、今回は彼女が主役とも言えるわね。
数か月ぶり、XXX回目の綾小路くんの「待ってくれ」を聞いて、わたしは問答無用…には、流石にしない。わたしは説明と意思疎通をなによりも大切にするコンパス使い…じゃないわ。まあ冗談はここまでにして、わたしは彼との距離を詰めて、抱きつくような形で彼の胸元へと飛び込む。
「っと…」
「わ…大胆…」
驚くふたりをスルーして、鼻。すんすんと鳴らすと気がついた綾小路くんはわたしを引き剥がそうと肩を押し返してきた。でも、遅いわ。
「…軽井沢さんの香水の香りがする」
「気のせいじゃないか?」
「反応が早いわね。出てきた言葉も用意していた風に感じたわ」
「…偶然じゃないか?」
「今度のは良い感じに間を置いたわね。首を傾げるのは加点。視線をわたしから外すのは減点ね」
総じて50点。まあわたしにはバレる程度の誤魔化し方ね。…じゃなくて、これで状況証拠は集まった。ため息と共に船の個室を借りた件についてお礼を言われる。そこから軽井沢さんの話を始めようとした綾小路くんに、はっとした一之瀬さんが頭を下げた。
「綾小路くん、ごめんなさい!実は…あの時、わたしも部屋にいたの」
「…誰かの視線を感じたと思ったんだが」
「本当にごめんね?…だ、誰にも言わないから!…そのえっと、そのう…」
「落ち着いてくれ。責めるつもりはなし。それに、俺もあの時は周りに気が回らなくて…」
ふたりでペコペコと頭を下げ合うのをみていると、この周では多分みれないだろう佐倉さんとの掛け合いに近いものを感じてしまう。…ただ、今日は3人で和気藹々としたい訳じゃないのよ。
わたしはスッと立ち上がり、一之瀬さんの背後に回る。そのまま無抵抗な彼女に普段よりも控えめに手をつけていく。耳に息を吹きかけ、可愛い声を上げても逃げようとしない。背中から撫でて、ビクリと震える肩を掴み、ゆっくりと手を胸に近づけても「あっ…」と声を漏らすだけでただ食べられるのを期待しているような…なんて。
「鈴音…っダメ…」
「少しくらいは抵抗しないのかしら?」
「だって…私が良くないことをしたんだから」
「………」
「はぁ。…綾小路くん、わかったかしら?」
無言でこちらを見ている綾小路くんへと視線を向ける。一之瀬さんも少しはだけた制服姿のまま、熱っぽい視線を彼へ。
無表情で先を促す彼に、わたしから先日の試験中の出来事を伝える。彼女に無理やり関係を迫られ、その動画を収められて脅されかけたこと。
その一連の出来事に、教師である星之宮先生と龍園くんの暗躍があったこと。
襲われたと言っても眉一つ動かさない彼も、わたしから見れば目の奥にチリリと燻る揺らめきを与えたことに内心安堵する。
社交辞令というか、条件反射のように「大丈夫だったのか?」と心配を口にするも本心ではないのでしょうね。
それに軽く返して、話を一之瀬さんに戻す。一見無事に見える彼女が、その実メンタルに傷を負っていることや罰を求めて苦しんでいること。
「話は分かったが、他のクラスの事情に俺たちが関わるべきじゃないんじゃないか?」
「っ…」
「そうかもしれない。…でも、わたしの大切な人の危機なのよ」
「鈴音…」
「力になりたいの」
「…」
彼の目には、落ち目のクラスリーダーと繋がる自分たちのクラスリーダーがどう見えている?彼女を使えば、わたしをコントロール出来る?それとも、最後には綾小路くんを頼ろうとする弱い女?
彼の中の堀北鈴音というキャラクターに、どんな新たな付箋を貼ってくれるのかしら?いずれ聞いてみたいものだけれど、彼からの詰め息交じりの「それで」という言葉に視線を上げる。
「どうしてその、力になりたいの答えが俺に一之瀬を抱かせることに繋がるんだ?」
「よくぞ聞いてくれたわ」
「ひゃうっ!」
すぐさま、隣の一之瀬さんの胸を後ろから揉みしだく。可愛い悲鳴を上げながら、顔を隠そうと手をパタパタする彼女を満喫しつつ、彼から「言い訳」という盾を一枚ずつ剥がしていく。
曰く、わたしとの関係を誰にも漏らさなかった口の硬さ。曰く、軽井沢さんとの関係を(船の上でのやりとりで見抜いたと伝えると少し驚いていたわね)あの短い期間で一緒に買い物に誘えるほど構築した異性としての魅力。
そして最後に、最も大切なことを伝える。わたしを船の上での何回も悦ばせたその男性力。実際気持ちよかったし、なんなら彼の誘いならどこでも応じるも吝かではない。…本気よ?
隣では真っ赤な顔で何回戦までしたか聞いたら「なな、かい…なな、なな…」と目をグルグルさせている一之瀬さん。正面にはどこか…こそばゆい?表情で頭をかく綾小路くん。
「…だが、複数の女性と関係を持つのは一般的に見て最低な男じゃないか?」
「なら複数の女性にちょっかいをかけるわたしも最低な女かしら?」
「…いや、それは違わないか?」
「違わないわ。…はあ、もう焦れったいわね。帆波」
「は、はい!」
びくりと震えた彼女のシャツのボタンを外す。「あっ…!」と顔を赤くするけれど、抵抗は弱い。気にせず全て外し終わると、チラチラと彼女の黒い…黒?随分と大人っぽい…いえ、内心あなた…。
「は、はわわ…」
「どうかしら?綾小路くん」
「…なにがだ」
「わたしの帆波はかわいいでしょう?」
「にゃっ!?」
「それは………そうだな」
コレ以上ないくらいに顔を赤くするけれど、逃さない。両手を後ろから押さえれば、あとは布一枚しか視線を遮るものはない。豊満な胸も、かわいいおへそも、キュッとしたくびれも無制限だ。
思わず頷いた綾小路くんに、以前の夜を思い出して最後の言い訳を用意してあげる。
「難しく考えないで。…男子の部屋へ、こんなに夜遅く、女子生徒が無防備でいる。これはもう、
「…そうなのか」
「そうに決まっているわ。…ねえ、帆波?」
「………っ」
こんなエッチな下着をつけてきて、期待していなかったと言うの?そう耳元で囁けば、はっきり、コクリと頷く一之瀬さん。
この場に至っても無表情の彼に、部屋を電気を消すことで最後の逃げ道も奪う。閉め切ったカーテンのすき間から刺す月明かりを頼りに、彼の元へ。
以前のように、彼の服を一枚ずつ脱がせようとして…ギュッとその手を掴まれた。まだ決心がつかないのかと非難の視線を向けようとすると、唐突に彼との距離がゼロになる。
「………」
「んっ…!」
唇を奪われた。…まあ、舌が入ってこないから許すとしましょう。この周では、男性相手は初めてね。普段なら口より先に色々とファーストキスを投げ捨てている分、ちょっと感傷的になっているのかも。ゆっくりと唇を離す彼は、もう受け身ではなくわたしの着ている服へと手を伸ばしてくれた。
深紅の下着姿を褒め、髪を撫でて愛で、うなじをくすぐって反応を楽しむ。洗礼されつつある女性の扱い方に少し不満げに「
あっという間に上下をわからせる手管に震えていると、目の前の一之瀬さんも爛々と光る目でわたしの体へと手を伸ばし…って、ちょっと?
「っ帆波、やめなさい…今はっ…、あっ…」
「鈴音、こんな顔…初めて……っ……」
その後は、ふたりしてわたしをまるでおもちゃか楽器みたいに弄んできたわ。
「どちらの方が気持ちよかったか?」…そんなの、決められない。これが正解よ。どちらかと答えて、選ばれなかった方にガンガン責められるのもいいけれど、せっかくだしふたりに競うように求められるのが最高に昂ぶって良い。
その後、しっかりと気を失うまでーー2回ほど、起きた後も求められたけれどーー満足させられた。
あ、本題だった一之瀬さんの初体験もしっかりと果たせたようね。彼のベッドに赤い染みがあったし、起きたときに膝枕をしてくれた彼女の表情が一皮剥けた…少し下品かしら?大人の顔をしていたから、もう大丈夫そう。
それはそれとして、シャワーを浴びている時も朝ごはんを作っている時もわたしに悪戯するのは嬉しい誤算だったわね。
一之瀬さん、なんか性格変わっていない?わたしが綾小路くんとキスをした後に、彼女も彼としていたけど目がちょっと冷たかった。その後のわたしには舌まで入れて透明な橋が出来るくらい濃厚な…「上書き?」…なんのことかしら?
まあ、これで禊は終わったのと考えましょう。みんなの一之瀬さんとして、二学期からもクラスを導いてほしいものね。
しばらくは脱依存で頑張るんでしょうけれど、どうせ元に戻る。地金はそうそう変わらない。わたし達のDクラスの民度が悪いのと同じで、彼女のクラスもいずれは同じになる。私は詳しいのよ。
わたしはふたりにつまみ食い()されながら、朝ごはん作りに精を出すのだった。…どっちの?もちろん、両方よ。
読了ありがとうございましたー!
アンケートもありがとーございますー。
今回もしっかり濡れ場を用意できて何よりでしたー。
星之宮先生の下りはわかりにくかったら申し訳ございませんー。
びみょいところあったら感想で教えてくれると超嬉しいですー。
では後半もお楽しみにー。
夏休み編で登場してほしい女性キャラ(一部除く)は?ここに居ないキャラクターは登場予定がすでにあります
-
D:軽井沢 恵
-
D:松下 千秋
-
C:椎名 ひより
-
B:姫野 ユキ
-
A:白石 飛鳥
-
A:西川 亮子
-
A:山村 美紀
-
A:森下 藍
-
EX:上級生
-
EX:教職員