堀北さんは諦めない!   作:BM-13

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お待たせー。ちょっと詰め込み難産。

冒頭の神室さんの籠絡パートはやりすぎて3200文字超えたので、泣く泣くダイジェストに。
(でもなんかまた増えたごめんなさい)

今度こそ2巻パートなので、またいずれー。
それではどうぞー。

9/25 挿絵追加。最後のところー。
夕日の金髪変装堀北さんのとこ。


汝、敵ともハイタッチせよ。★

放課後の特別棟。その空き教室なんて、本来なら用事もなければ来るはずもない。

そんな一室に淫らな水音や嬌声が微かに聞こえるなんて、誰が想像するのかしら。

 

「あ……ぅ…」

「…やりすぎた…かしら…?」

「………んぅ…」

 

目の前には涙の跡が残り、胸を揉んでも微かな声を漏らすだけとなった神室さんの変わり果てた姿がある。…まあ下手人はわたしなのだけれど。

元々、万引きなんかにスリルを求める性分の乙女だった(過去形)少女だ。インモラルな攻めや執拗な快楽には格段に弱かった。

着ている制服は出来るだけ気を付けたけど皺だらけ、胸から首にかけては赤い鬱血痕が無数に点在しており、下については…まあ、彼女の名誉の為に口を噤みましょう。

 

いえ、彼女も悪いのよ?私も悪かったとは思うけれど…。でも、足音が聞こえたらあんなに震えて目を潤ませたり、教壇の裏に隠れて見つかりそうになった時は、キッと反抗的な目をしたり。

最後は果てた後、一息ついた私に自分からあんな…。

 

『…もう……しないの?』

 

なんて。もう、そんな挑発するようなこと言われたら、期待に答えてあげたくなっちゃうじゃない。

案の定、強がりだったのか前言撤回は早かった。「ダメ」「やめて」なんて口は塞いで上げて、言った分だけ指を早めてあげた。

安い挑発の対価は十分過ぎるほど払わせたし、なんなら終わりの方には彼女が上になって動いてくれたし…。う、ウィンウィンよね…?

こんなになる前には、きちんと軌道修整もした。坂柳さんからの電話にあえて出させて、『アンタのせいで私、っああっ…!』なんて渾身の演技をこなしてくれた。(ちゃんとその後に鳴かせてもあげたわ)その時の坂柳さんの動揺具合はゾクゾクするほど緊張感があって、記念に撮っておきたかったわ。

まあ手が塞がってそれができない分、不満は神室さんの身体に払ってもらったからいいけれど。

もう「切って…切りっなさいっ…ダメ…だか、らぁ…!」とか、あえて聞かせてるフシまであった。相手の正体を知りたい坂柳さんが通話を切らない。そこまで理解しての、罪悪感と背徳感を高める非常に高度な立ち回り。私それに応えるように何度も彼女を満たして、荒い息のまま「切って…お願い……っ、やっ…また…!」なんて素敵すぎる。流石Aクラス(褒めてるわよ?)

 

今までフラストレーションが溜まっていたのもプラスに働いた。彼女、私の言うことには嫌そうにするのに「命令」と言われれば嫌々、仕方ないような顔で、その…シてくれるの。…本当に、何でもよ?机の上で足を開かせたり、窓へ立たせて外から見えちゃう状況での「命令」も…とても、興奮してくれたわ。

 

きちんと釘刺しも忘れない。荒い息を零す彼女に私が抱きついて、耳元で「坂柳さんのことだから…」と囁いて切り捨てられる未来を嘯けば、息を呑むように私の言うとおりにしてくれた。

心が揺れている神室さんを思い通りにするのは心苦しかった(本当よ?)けれど、仕方ない。彼女にはこれからも私と坂柳さんをつなぐ鎖になってもらわないと。

 

「こ…こう?」

「ええ。…もう少しだけ、手を下げてくれる?」

「み、見えちゃうでしょ…!?」

「平気よ。…ほら、どうかしら?」

「………攻めすぎじゃない?」

 

それが良いのだと笑顔で答え、彼女の端末でパシャリ。嫌そうに、悔しそうに。…でも、見る人が見ればきっと、違う表情に見えるはずだ。

それを返すと、ジッと視線を向けられた。「アンタもその…撮っていい?」なんて。可愛らしい要求に、サービスで学生手帳の自分の名前まで出してポーズを取ってあげた。

二人のことはーー特に身体についてはーーそれこそ本人たちよりも詳しい自信がある。

神室さんの心は、もう半分くらいは私に靡いている。もし正気に戻っても、身体は全部わたしのものだ。いくらでも心変わりさせてあげられる。

 

坂柳さんとの接触も少し早いとはいえ、致命的ではない。今のうちから私を強く意識させて、Aクラス掌握以外にも頭を使わせてみせる。……たまには、初対面で血を見ない平穏な対面になることを祈っておくわ。

薄暗くなった特別棟。せめてもの情として、膝に頭を預ける神室さんが満足するまで、わたしは彼女の頭を優しく撫で続けるのだった。

 

◇

 

神室さんの尾行の一件から、数日。

神室さんを介しての脅迫(おはなし)の結果、初対面と交渉は持ち越しに。だって今はそれよりも、大切なことがあるのよ。そう、待ちに待った(?)Cクラスからの謀略。

――名実ともに、全裸待機していたわたしはいそいそと服を着こんで、デジカメを持つ佐倉さん――いいえ、今は雫――と特別棟にいる。

 

「良く撮れたかしら?」

「すごく、可愛く撮れたよ。…夕日と影の境界に立って、堀北さんの黒髪と白いセーラー服が対比になっているのがすごく、あぁ…このデジカメも、本当に良かったの?高かったんじゃ…」

「構わないわ。気にするなら、もっと使っていい写真を私に見せて頂戴」

「うん…!ありがとう、楽しみにしてね!」

 

趣味の話には、自分を出せている雫。彼女に制服姿で放課後の校舎を撮影したいと相談を受けたわたしは、セーラー服やブレザー、他にも諸々撮影に使うセットを用意してきた。

雫も髪型を変えたり、メイクの準備もしたりと完璧。それに空き教室のカーテンを閉め切ったとはいえ、誰が来るかわからないところで着替えるなんて。彼女も、随分と大胆に成長したものだ。

 

「次は何を着ようか。…思い切って、少し着崩しなんかしちゃおうかな…なんて」

「良いと思うわ。せっかくだし、私もこれを…」

 

時間は予定通り。私は金(・)色(・)の(・)ウ(・)ィ(・)ッ(・)グ(・)を被って、借りた雫の伊達メガネをかける。首をかしげる彼女へ気分転換だと伝えると、少し離れた場所で男子の会話が聞こえる。私は雫へ目で合図をすると、デジカメを起動状態にして任せる。不安げな――それでも佐倉さんの時よりは強い――まなざしを向けて、ひとつ頷くと、私は廊下を出来るだけ静かに、でも速足で駆け出した。

 

「――だったんだよ、須藤!」

「そうだ!調子に乗ってんじゃねえぞっ!」

「チッ、付き合ってらんねえよ。…これから予習なんだ。帰るぜ」

「っ!…待てよ、臆病もんがっ!」

 

ちょうど良いタイミング…かしら?Cクラスが挑発して、当社比で冷静な須藤くんがそれに乗らず背中を向けている。このままでは不味いと思ったのか、Cクラスのバスケ部じゃない――応援の石崎くん――が後ろから殴りかかった。流石にこれには前へたたらを踏む。いかに体格で勝る須藤くんも、姿勢を崩さざるをえない。

 

「ッ!痛えな…何しやがる!」

「へ…!見掛け倒しかよ。てめえ実は喧嘩なんてしたことねえんじゃないのか!」

「なんだよ!そうだったのか!なら…ぜんぜん怖くねえぞ!」

「そんな奴がレギュラーなんかなれるかよ!とっとと先輩に言って辞退しろや!雑魚が!!」

「テメエら、この…!」

 

…この頃の須藤くんにしては、我慢した方ね。でも、このままでは殴り合い(一方的)になる。それじゃあ困るのよ。絶対に間に合わせる、その為にわたしは、こんな場所で待っていたのだから。

 

「…へっ、来いよ!落ちこぼれの、っぶあ゛っ!!?」

「へ…?」

「な……」

 

挑発を続けた石崎くんの無防備なボディ目掛けて、飛び膝蹴りをお見舞いする。バタリと倒れるも、すぐに上半身を起こして私を見上げてくる。…うん、ちょうどいいくらいに調整できたみたいね。

 

はらりとなびく金色の髪、揺れるスカートと、着地に合わせてチラリと覗く黒。…うん、完璧ね。

突然の第三者の乱入に、固まるCクラスの3人。…と、Dクラスの1人も追加ね。

 

「な…ん…は?」

「加勢するわ、須藤くん!」

 

意識して違う声色。疑問符を浮かべた彼にそう言って眼鏡をチラリとズラせば、驚いた表情の中にも理解が浮かぶ。…まあそれ止まりで、普通になんで眼鏡にカツラなんてつけているのかは理由わからないわよね。

「ほ、堀…」なんて呼ばれかけたから、「あなたは左!」と声を張って二の句を継がせない。「お、おう!」と口にし身構える彼とともに、未だ立っている2人に向き直る。

 

「だ、誰だ!?」

「知らねえよ!っち…「ふっ…!」あぶねっ!」

「オラァ!」

「ぎゃっ…!」

 

見え見えのテレフォンパンチ。当然、避けられるけどコレでいい。所詮、駒である彼らには乱入者への対処なんてイレギュラー、龍園くんの命令にない。どうすればいいのか分からないのか、必然2人の動きは鈍る。当てる気のない私の拳とは違い、須藤くんのは本気だ。

 

「や、やめっ…うお…!」

「く、くそ…誰だよ、お前っ…!」

「通りすがりの一般()女子よ」

「ふざけんなっ!…チッ…」

 

私を無視して「須藤を止めろ!」と言って立ち上がった石崎くんの声に、私の前の近藤くんも機敏な動きを発揮する。わたしはそれを見送ると、立ち上がろうとする石崎くんを抑えるように膝でお腹に体重をかけて両肩に手を置く。

 

「させない…!」

「このっ…いい加減に…!」

 

両腕を使い、組み合う体勢に。その後は予定通りにいきなり力を抜いて――あっさりと、押し負ける。

尻もちを着くように、そしてその衝撃で上半身も勢いよく床へ。

 

「やらせないわ…んっ……きゃあっ…!「うおっ!?」……っ!」

「っ!てめぇ!」

 

ぐらりと体勢を崩したように彼の腕を引けば、テコの原理でわたしは押し倒される。後は石崎くんが手を着く位置と、私に覆い被さるように微調整をして、怯えた表情を彼に向ければ……、

 

「え……」

「あ…嫌っ………!」

「ち、違っ!……悪い!こんなつもりじゃ…!」

「…くそが、おい小宮!どけっ!」

 

怯える女子と、押し倒す男子。それはもう、完璧な婦女暴行の現場の完成だ。

 

今の私は雫との撮影で、制服のボタンもチラホラ外れかけている。地味な伊達眼鏡もちょうどいい具合に転がって、不審な乱入者の正体が究極の美少女だとCクラスの不良たちにも明らかになる。

そんな相手が涙目で見上げる様は、男子生徒(一部女子も)は目に毒だろう。きっとしばらく彼らの夜のオトモは…おっと、下品だったわね。

 

「ひゃんっ…!」

「うおっ…!」

 

今さら気がついたようだけれど、私を押し倒す石崎くんの右手は私の胸の位置。はっと手を放すけれど、残念ながら今日は変装のためにパットを重ね着けしている。初心な彼はそれにも気付かず、更に顔を赤らめる。布越しとはいえ、直接触れず運がなかったわね。ふふっ…。

 

その後はキレた須藤くんが3人を薙ぎ払って、Cクラスの生徒はピクリともしなくなった。少し着崩したわたしに頬を赤くしながらも、抱き抱えて送ろうとしてくれる。…やっぱり成長、早いわよね?どうしてかしら?前の週より多少、手にかけるようにはしているけれど…。

 

「ごめんなさい、腰が抜けてしまって…」

「お、おう…その……助かったけどよ、なんでお前がここにいるんだ?」

「話はあとで。今はちょっと…「ほ、堀……えっと、大丈夫っ!?」…来てくれたみたいね」

「佐倉…か?その恰好…」

「あ………」

 

そうこうしている内に、雫仕様の佐倉が駆け寄ってくる。あわあわしながら、この場に私たちがいた事情を説明してくれた。

…彼女には別口で、持ち込んだ服や道具の回収をお願いしておく。一緒にいるところを、誰にも見られたくはないのだ。

でもこれで、予定していた暴力事件の計画条件はほぼ達成した。私は紳士的な須藤くんのかけてくれた上着をありがたく受け取り、まるでなにかあったかのように俯くのだった。

 

「須藤くん、このまま向かってほしいところがあるの」

「お、おう…なんだ…!?どこでも言ってくれ」

「人気のない場所…そうね、保健室がいいかしら」

「ひ、人気のない…!?…わ、わかったぜ…」

「…?あと、あまり人目につかないように向かってほしいの」

「ま、任せろ!」

 

そうして私は須藤くんとともに、放課後の保健室で2人きりになる。…別に何もなかったわよ?彼には、少しだけ難しいお願いをした。

 

きっと今の彼なら出来る、少しだけ難しいお願いを、だ。

 

◇

 

案の定、次のポイント支給日の7月1日。このタイミングで須藤くんがいる際にほぼ発生する、ポイントの支給の遅延がHRで発表される。本来ならそれを不満を口にする連中もいるけれど、今回もDクラスはポイントゼロ。見えないマイナスがあるのかはともかく、6月中に別途増えるようなイベントがなかった以上、必然の結果でしょう。

茶柱先生からも「このクラスは関係ないが~」なんて、チクりと刺すような一言が添えられていた。

 

「須藤、この後すこし職員室へ来るように。顧問の先生には私から連絡を入れる」

「…分かった」

「…?ついて来い」

 

そしてその日の帰りに須藤くんが呼び出される。文句なく席を立つ須藤くんに、どこか訝し気な先生。彼が職員室で聞くことになる内容はCクラスからの暴力被害の訴えに間違いはない。ただ一つ違うことがあるとすればそれは…。

 

「―――という訳で、Cクラスから須藤に暴力を振るわれたという訴えがあった」

「………」

「学校側はこの件について審議を行う。予定は来週の火曜。その結果によってクラスポイントの変動が考えられるため、1年全体のポイント支給を遅延している状況だ」

 

ざわつくDクラス。「どうして」や「マジかよ…」と言った驚きの声に交じって、「やっぱり須藤くんって…」「ねぇ…?」という嘲笑の色が宿る声もある。

その空気を払うように、平田くんが挙手をしてから質問をした。

 

「先生、その…審議まで時間があるのはなぜでしょうか?」

「双方の言い分に食い違いがあるからだ」

「つまり、須藤くんは殴っていないのに、相手が嘘を言っているということですか?」

 

Dクラスの仲間を信じるように、当然の疑問を口にする平田くん。

クラスもまた思案するように先生の言葉の続きを待った。…でも、そこから出る言葉は予想とは異なり、

 

「逆(・)だ(・)。須藤は、自分ひとりでCクラスの三人に暴力を振るったと証言している」

「………え…?」

「早い話、須藤はすでに罪を認めていることになる」

 

「な…なんだって?…おい須藤、どういうことだ!?」

「………」

「何とか言えよ!」

 

そう責め立てるクラスメイトにも、須藤くんはむっつりと口を閉じ、目を閉じている。

普段とはまるで違うその態度に、ざわつくクラスメイトの声も、少しずつ鎮火していく。

チラチラと視線を受けて、仕方ないようにわたしが聞くも、

「…話の通りだ。俺が3人を殴った。そんだけだ」と冷たく返される。

 

櫛田さん(表の姿)や王さんが悲しそうな表情を浮かべ、幸村くんは苛ついているのか貧乏ゆすり。高円寺くんは…珍しく、見定めるような眼差しを彼に向けている。

そのざわめきが途切れるのを待って、追求が収まったと思ったのか茶柱先生が口を開いた。

 

「この中に、事件当日に須藤が誰かと居るのを見た者はいないか?」

「誰かが…一緒にいた…?」

「そうだ。相手のCクラスからは、須藤ともう一人があの場には居たと証言している」

「どういうことだ?」「それがなんなの…?」

 

はい、わたしです。…なんてね?言わないわよ?

チラッとこちらを見るしず…佐倉さんを視線で差し止める。ネタ晴らしまでは、もう少しだけ早い。

 

その後にHRが終わり、クラスの視線が集まっても無言を貫く須藤くん。彼の友達だった(過去形)ふたりは事情を聞くこともせず、遠巻きに見ているだけ。

このままではダメだと思った平田くんや桔梗が心配そうに聞くも、その返事は非常にそっけない。

 

「須藤くん、どういうことだい?」

「………知らねえ。連中の勘違いだろ。俺一人にやられたなんて、恥ずかしくて適当言ってるだけだ」

「そんな…」

「審議だかなんだか知らねえが、俺が謝って終わりだろ。…ダメなら、その時は、その時だ」

「っダメだよ、須藤くん。自棄になっちゃダメだ!」

 

退学。言葉にはしないけれど、それを匂わせるような言葉に平田くんは必死に説得をする。

それでも須藤くんは頑なに口を噤む。痛い沈黙。…それを壊すのは、いつだって空気の読めない一言だ。

 

「いやー、やっちまったなー、健。いくら何でも殴ったらヤバいってわかるだろー普通」

「山内くんっ!」

「な、なんだよ、…俺だけじゃないぜ!?池も…みんなだって、そう思ってんだろ!?」

「お、俺は何も…」

 

へらへらと、肩すら叩いて馴れ濡れしく、慰めるようで貶す。同じか、どこか見下していたのに先を行く友人。その失敗が、挫折が、「やっぱりダメじゃん」という空気が楽しくて仕方ない。厳しい目を向けるもの、悲しむもの、顔を逸らすもの。

そして、それに同ずるもの。――他人の不幸は蜜の味、なんて。結局どの周でも連中はそ(・)う(・)なのだ。

 

「結局、授業をまともに受けててもこれじゃ意味ねーじゃん!無駄なんだって!!」

「これ以上ポイントが減ったらどうするんだよ!責任取れんのかよ!」

「…Dクラスは元々、ポイントが0。あまり関係あるとは思えないけれど?」

「い、いや…ぜ、ゼロより下になってたらどうするんだよ!」

 

あら、意外と鋭いわね。実際のところ、ポイントはペナルティ系ならゼロ以下のマイナスまで下がる。特別試験で明記されることだけれど、今回の件なら確かにマイナスまで行くでしょう。…このままならの話だけれど。

 

本来なら放課後にでも須藤くんの無罪を証明するべく行動したり、独自で調査に繰り出したBクラスと協力する。…ただし、それは前の周の話。放課後に須藤くんが自発的に平田くんへ「余計なことはすんな」と言って、教室を出ていく。

それ見たことかと嘲笑する元友人たちや一部の女子。また平田くんのグループでも苦言がチラホラ聞こえる。…でも、平田くんの「僕は須藤くんを信じたい」という発言にクラスは纏まる。反抗するのは、やはりというべきか、予想通りの面々。

同意するように周囲へ声をかける櫛田さんに「今月は他のクラスを習って、審議が終わるまでポイントは配らなくていいわ。…振り分けについても、後で知らせる」と周囲に聞こえるように宣言。

不満は出なかった。もとより、私のプライベートなポイントだ。もらえるだけありがたい、機嫌を損ねたらもらえなくなると思う程度の頭はあるようでなによりね。

 

「…それで、どうするんだ?」

「珍しく、そして具体性にかける質問ね、ワトソン*1くん」

「………そういうお前はどちらかと言えば、教授*2じゃないか?…痛てっ」

「そういうことを言う口は、お仕置きよ」

 

小さなチョコレートを親指で弾いて、彼の額に当てる。避けられたろうに目で追い、素直に当たり、それでいて手でキャッチをするのは隣の席の名探偵(シャーロック・ホームズ)。それでいて、その指摘は今回は正しい。

その通り、私はこの事件の黒幕(モリアーティ)で、その計画はすでに動き出している。…無意識かもしれないけれど、仲の良くなった須藤くんを心配してくれているのかしら?そうなら、とても良い変化ね。

 

「………」

「大丈夫、私に任せなさい」

 

わたしは4月より、少しだけ疎遠になった綾小路くんに手を振って、意味深に笑いかけるのだった。

 

◇

 

須藤くんの件の調査がない放課後。ある程度の自由な時間に、私は最近の日課であるケヤキモールにある家電量販店へと足を運ぶ。

目的はカメラコーナー、それもあえてキョロキョロと、品物や誰かを探すような誘い受けムーブすればすぐに声がかかった。

 

「い、いらっしゃい。また、来たんだね」

「店員さん…!良かった、今日も居てくださったんですねっ」

「ぐ、偶然だよ…。今日は、どうかしたのかい?また、カメラのことかな?」

 

わたしと親し気に話すこの人は、……なんといったかしら?まあ、店員さんで良いわね。彼はグラビアアイドルの雫の粘着ストーカーで、佐倉さんモードの彼女にも一目で気が付く雫ガチ勢。佐倉さんと仲良くなった周で知ることになったのだけれど、大体は綾小路くんが佐倉さんを助ける際に退場するかわいそうな人よ。

 

「(まあ数少ない周では思いを添い遂げて佐倉さんを寿退学させるほどだし、邪魔がなければ成功するくらいには能力はあるのよね…)」

 

別に好きなアイドルへ粘着するのも写真を愛でるのも好きにしていいと思うけれど、触ったらダメなのよ。…まあ、それはそれとして。なぜわたしが彼と親しいかと言えば、ちゃんと目的がある。

 

彼はこの学校では本当に珍しい、退場しても困らないポジション筆頭の大人なのだ。他の学校関係者…先生たちは、正直いくらでも退職に追い込むことは出来る。でも2年生の時に月城理事長代理が赴任すると、そこに彼の手の教師がねじ込まれてしまうのだ。綾小路くんの退学を阻止したい関係上、教師には手が出せない。

なら他のお店の従業員はどうか?…別にできないことはないけれど、正直なところ意味がない。冤罪を吹っ掛けることは出来るけれど、政府が厳しい審査をして採用した職員たち。あまり露骨なことをすると、自分にまで非が及ぶ。

 

「実は、そうなんです。おススメされたとおりに撮影していたら、データがいっぱいになってしまったようで…」

「そ、そうなんだ…。ちょっと、見ても良いかい?」

「はい、お願いします」

 

その点、この店員は一味違う。生徒を性的な目で見たり、隠し撮りした写真や動画を保存して自家発電をしたりと欲望にやたら忠実なのだ。今もわたしをジロジロと無遠慮に見て、カメラを渡す際もじっとりとした手がこちらに触れた。気に病む素振りも見せず、私はカメラのデータを開こうとする彼にジッと視線を向け続ける。

 

「…これはっ!?」

「どうかしましたか?」

「い…いや!何でもないよ。…やっぱり、で、データがいっぱいになってしまったみたいだね」

「そうでしたか…。どうしたら良いでしょうか?」

 

そう、首を傾げれば彼は誤魔化すように早口で「データをSDカードに保存すれば」だの、「サービスでプレゼントするから待っててほしい」だのを口にする。私は無邪気に感謝を伝え、カメラを見ていて良いかと聞けば二つ返事で作業に入ってくれた。

…彼に渡したデジカメには、わたしの自撮りはもちろんクラスメイトである佐倉愛理…雫(・)の写真も数多く収められている。きっと彼はそれを内緒で、私用のPCか予備のSDカードに保存するのだろう。それがどんな結果を生むか、少なくとも今はわたししか知らないけれど、ね。

 

その後に返ってきた彼は、わたしにデータの入ったSDカードを渡してくれる。それを丁寧な礼と笑顔で感謝すれば、ニヤニヤと色と欲の籠った視線が全身を走るのを感じる。

これだけ分かりやすいと、相手が楽で助かる。その後も店員さんのカメラの取り方講座を手取り足取り、たまに腰まで伸びる手に無警戒で指導を受けて、ポツリと友達が元気がないことを零す。

 

「そ……そう、なんだね…し、心配だね…」

「はい。誰か相談ができる相手が居ればいいんですが、この学校は、その…少しだけ他とは違いますから」

「……相談する……相手が…居ない……」

「ええ。クラスの人たちもちょっと子供っぽいっていうか…店員さんみたいに優しい方だったらよかったんですけれど」

 

儚く笑顔を向ける。強めのリップサービスも、推定素人童貞の店員さんには効果的だったみたい。もう、「この娘(こ)、俺に惚れてるんじゃ…いや、俺には雫が…」みたいな真面目そうにニヤつく様子は王さんあたりが見たら泣いてしまうかもしれない。

 

「あ、ごめんなさい。…こんなこと、言われても困っちゃいますよね?」

「い、いやいや。平気だよ…!ぼ、僕は大人だからねっ」

「ありがとうございます。…クラスの男子たちなんてほんと子供で、あの子に告白された…なんて、嘘までついてて。きっと迷惑してるんです。優しい子だから、口にはしないんですけどね」

「っ…!」

 

はた、と表情を変える彼に気が付かないふりをして「好きな写真を撮って、あの子を元気づけたいんです」と言えば、これまたドロドロとした目で応援までしてくれた。

 

「今日もありがとうございました。…また、困ったら相談に乗ってくれますか?その…お仕事の迷惑になっていないか心配で…」

「ま、またいっぱいになったらいつでも持ってきていいよ!」

「ふふっ、私、機械にほんと疎くて…助かります」

 

感激したように手を取ってお礼を言えば、まんざらでもない表情になる。…これが雫ガチ勢のファンの姿…?本当に?

 

そうしてここ数週間のルーティンを終え、私は帰路に就く。予定通り。すべては計画通りに。

 

部屋に戻って、軽い夕食を食べてシャワーを浴びる。一之瀬さんからのメールに返事をして、桔梗『嘘つき』からの連絡(ぐち)を聞いて、幸村くんや王さんからの連絡に目を通して、平田くんへは直接連絡せずに周囲の子たちに気をつけて貰う。

あとは床について、明日も頑張っていくだけ。ちょっと疲れたし、明日は一之瀬さんと少しだけ遊んでも良いかもしれない。あ、白波さんの告白の件も『死ね』解決してあげなきゃ。綾小路くんとの関係もちょっと気を回さないと夏休みまでに『許さない』………。はぁ。

 

「………」

 

部屋には当然、誰もいない。入口のカギはもちろん、チェーンまで閉まっている。誰かが私に言葉を伝えるなら、インターフォンを押すか電話をかけなければならない。でも、その相手が近くに居るとしたら?その近くというのが、私の頭の中だとしたら?

 

…だとしたら、ドアもチェーンも意味はない。すでに手遅れ、終わりというのが答えになるのでしょう。

 

「…今日は3時間くらい、寝たいものね」

 

そう言って私は目を閉じる。残念ながら、目を覚ましたのは2時間12分後。

割とよく眠れた方だった。…ちょっと、ムラムラしてきた。もうそろそろ、良いわよね?

 

わたしは端末から、雫のHPへとアクセス。順調に拗らせつつある男のコメントを見て、そ(・)の(・)日(・)までを計算する。…何の日か?決まっている。この周の、わたしの初(・)体(・)験(・)の、よ。

 

じっとりと熱を持つ大事なところへ手を伸ばしながら、私はその日を心待ちにするのだった。

*1:
ジョン・H・ワトスン。シャーロックホームズの相棒。

*2:
ジェームス・モリアーティ。黒幕。表向きは数学の元大学『教授』から





【挿絵表示】

9/25 石崎くんラッキースケベシーン。

読了感謝ーありがとうー。
感想、全部返すちょう嬉しいー。
高評価も嬉しすぎるありがとうー。

この堀北さん、なんかエッチなことしかしてないかな?
(今更)
ちゃんと次回は暗躍解説パートなので、も少しお待ちくださいー。
あと2〜3話で2巻も終えて島にいきたいなー。それよか船でもちょっといいイベント思いついたのでー、お楽しみにー。
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