堀北さんは諦めない! 作:BM-13
今回は短め。続きも楽しみにねー。
今月は新巻たのしみー。
では、どーぞ。
上を見れば青い空、白い雲。下を向いても蒼い海に、白い砂浜。
照りつける太陽に目を向けながら、わたしたち1年生の前にその時は訪れる。
「―――ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
ああ、始まった。もうXXX回目、親の顔より、というやつね。真嶋先生の説明を聞き流しながら、夏の日差しが降り注ぐ砂浜で、風が吹くのを待つ。
8月。豪華客船&島で過ごす豪華な夏休み…まあ嘘は言っていないけれど、本当のことも言っていない。この学校あるあるのイベント。
まあ今回は初だからこそ、生徒側の驚きや抵抗も強い。案の定、騒ぎ立てるのはDクラスに多く真嶋先生や茶柱先生がそれを言い含める。…いや、この二人も、話題に出した企業なんか入社したこともないんだろうけれど。閑話休題。
説明が終わり、300の試験用ポイントが残った分だけクラスに入ると聞けば沸くクラス。…本当に単純ね。まあ楽でいい。
わたしは森の中――けもの道を進むようにクラスを先導し、水源のスポットへと到着した。道中は不安そうにしていたけれど、目的地に至れば安堵や歓声がそれを塗りつぶす。…茶柱先生?星之宮先生とじゃれてたから置いてきたわ。
「全員、傾注なさい」
そういって視線を集める。序盤の難所であるこの試験は、勝っても負けてもクラスに大きな影響を与える。
勝って自信につながることも、負けても俯くことも、成功に浮かれることも、失敗に学ぶことも、本当に色々だ。
よって今回のわたしたちDクラスには、多くの経験を学び、無力に嘆き、成功と失敗を噛み締めて貰おう。…まあ勝ち負けについては、決まっているわよね?なにせ、私がいるのだから。
「指示を出すわ。まず初めに、この中にキャンプの経験がある人はいるかしら?」
そう言って、あたりを見回せば自信なさげにひとつの手が上がる。
「お…俺、昔ちょっと家族でキャンプに行ってたり、した…」
「寛治…」
キャンプ経験者にして、1年、2年、なんなら3年でも無人島での活躍()が光る池くんが手を挙げる。須藤くんが少し驚き目を向けると、自信なさげな手がさらに少し下がった。
わたしはそれには触れず、彼の元へ行って試験のマニュアルを手渡す。
「え…これ…マニュアル?」
「この中でキャンプに必要なものを書き出しなさい。予算は50ポイントまで構わないわ」
「は、はぁ…!?」
「ま、待て、堀北!いきなり50も…」
「幸村くんは池くんと一緒に3食分の水と食料を七日…いえ、今日と最終日の分は良いわ。五日分で計算して」
「…お、おい…」
わたしは矢継ぎ早に指示を出し続ける。初日はスピードが命。初めての試験で感じる、混乱、不安、警戒。そのすべてを手早く解消してあげるのが、今のDクラスに必要不可欠なのよ。
無制限にもらえるシートを男子に取りに行かせ、女子にはたき火用の石と薪を集めさせる。中には動きが鈍い連中もいたけれど、周囲がテキパキと動けば嫌でもそれに続く。所詮、一人ぼっちでは反抗すら出来ない烏合の衆。…っと、危ない。チラリと綾小路くんが見ている。眉間に指を当てて、目が疲れていたかのように見せかけておこう。
あとは個別に指示を出す。
クラスを纏められる平田くん、櫛田さん。2人にはサブリーダーとして男女を纏め、時には折衝を担ってもらおう。胃痛ポジションだけれど、好きでやっているんだし良いわよね?
体力があり、責任を持てる須藤くん、そして三宅くん、小野寺さん。彼らは散策や斥候、無人島における実働部隊を指揮してもらう。好きに2~3人ずつ選ばせて、探索班を合計3つ作らせる。
計算や管理を任せられる幸村くん、王さん。2人は基本的にスポットを離れず、メモと睨めっこだ。入手した食料や物資を管理し、食料の必要になるポイントの計算・スポットで得たポイントの管理計算を任せる。地味だけれど、周囲からの干渉や軽視には平田くんバリアーを用意しましょう。
後はオープンにはしないけれど、自由枠として綾小路くん、そして高円寺くんだ。彼へは島を適当に回ってもらい、スポットや重要な場所、他のクラスの拠点などを調べてもらう。自らの自由を何よりも尊ぶ彼へは、やってくれたらうれしいけれどやるかは任せるし、リタイアについても黙認する確約。ただその理由付けとして、島や船での協力を取り付けて、いったん放置とした。…綾小路くんも島を見て回りたいのかうずうずしていたので、今日のところは須藤くんの班を手伝ってもらうように言っておいた。
ほかの生徒は池くんの指示のもと、この水辺のスポットの拠点化を進めてもらう。
大量に用意した袋は踏めば音を出す鳴り子として、木々の間にも木片に糸を繋げただけの簡易罠を乗せて侵入者を警戒できるように設営させる。
そして全員が寝るには小さいテントは、8人用だけど無理をすれば10人は眠れる。その上で点呼が毎日朝の8時と夜の20時にある。その一時間前を境目として、朝番の7時―20時組、夜番の19時―8時組の二つに分ける。日中の組は周囲への探索や行動を中心に行う体力があり、活動的な人物を中心に。逆に夜は拠点の防衛に努めるためそこまで体力がある生徒でなくても構わない。
ここまでの情報をサブリーダーの二人に伝えて、彼らにはその
「池くん、川の水どう?釣りができたり、もしかして水は飲めたりするのかしら?」
「あ、ああっ。両方、その…大丈夫、だと思う…。かなり澄んでるし、それにポイントで水も…」
「…はぁっ!?ちょっと、マジで無理なんだけど!アンタ正気なの!?」
思わず、ため息が出そうになる。こっちが話している中で、突然大きな声を出されるのはいささか不快よ。…それが特に、女性のヒステリックな声だとなおさら。案の定というか女子の篠原さんが池くんに嚙みついた。わたしが横にいるからか、もごもごと池くんの反論が少ないのも篠原さんがヒートアップする原因なのかもしれない。
とりあえず、「みんなはどう思う!?」とか余計なことを言い始めた篠原さんとオハナシしないと。
「篠原さん、ちょっとボリュームを下げてくれるかしら?耳障りよ」
「堀北さん…っ、だって、ソイツが悪いんでしょ!?川の水を飲むなんて、絶対に無理!」
「聞こえなかったかしら?…黙れ。そう、強い言葉で言った方がいいのかしら?」
「し、篠原さん…」「ま、不味いって…!」
そう周囲の女子生徒に抑えられて、少しだけピリついた雰囲気が落ち着く。ただ火種は燻ったままだ。心配そうな桔梗や、平田くんが間に入ろうとするのを手で止めると、硬い表情で視線を向ける彼女の前へ歩み寄る。
「篠原さん、貴女はさっき手を挙げてなかったけれど、キャンプの経験はあるのかしら?」
「あ、あるわけ無いでしょ。…でも、川の水を飲むなんて無理…!何が入ってるかわからないじゃない!汚いかも…ねぇ!?」
「だ、そうだけれど池くん。さっき何か言いかけていたわよね?」
「あ、あぁ。…その、ポイントで大鍋があったんだ。これでお湯にしたら殺菌できるだろうし、ちょっと高いけど水をろ過する機械もあった…だから」
「っ…!」
水を向ければ、キチンと彼は対策まで用意済みの回答をしてくれた。周囲も「それなら…」「安全なら」と不安を解消する。
結果として、篠原さんは完全に勇み足で、不満を口にしていたことになる。もちろん、こんなところで彼女は反省なんかしない。まだまだ不平不満を口にしたいのだろう、目が口以上にものを言っている。
…まあ、とっとと黙らせましょう。わたしは次に計算が終わったのか、こちらに向く視線へと顔を向けた。
「ご苦労。…コレでDクラスは水問題は解決しそうね。…幸村くん」
「ああ。…クラス40人分の食事は水のセットで1食3pt、1日9ptなら、5日なら45ptだ」
「飲料水を抜くとどうなるかしら?」
「それなら2ptだ。全部そうしたら、30ptで済むな」
「そう…ありがとう。なら、幸村くんは王さんと一緒にポイントでの購入品のリスト化をお願いしたいわ。あとで行くから、待っていて頂戴」
そうして池くんに向き合い、「あなたのおかげで10pt近く節約できた」「他のクラスより優位に立てた」ことを大げさに褒める。照れくさそうにする彼に、面白くないのが篠原さんだ。「それでも川の水なんて…」と漏らす彼女へ白い目を向けて、一言。
「あなた、何かしたの?」
「え?何か…って、なんのこと?」
「だから今日、あなたは何かしたの?って聞いているの。これまでのことは捨て置くわ。島に来てから、ほかの子と一緒に薪を集めるでもなく、探索班に加わるでもない。口にするのは指示ではなく、クラスの方針への文句だけ。はっきりいって役に立っていないわ」
「わ、私はクラスの…みんなのために言っているだけよ!」
「余計なお世話よ。…この際だからはっきり言っておくわ」
「…な、なによ…」
周囲が注目する程度の間を空けて、わたしは篠原さんをーーひいては、試験に非協力的な生徒へ向けてーー糾弾する。
「この試験のテーマは自由と言ったけれど、その本質は自己責任よ」
「じ、自己責任…?」「どういうこと?」
「つまり…本当に自由に過ごしたら、ポイントは増えない。だから自己責任と、そういうことかい?」
「50点ね。…本質は違うわ」
あえて強い言葉で、平田くんの答えを否定する。…自己責任とは、非難したり失敗を負担する際に使われがちだけれど、正の側面もある。自分の成果に対する
今回の試験で、わたしはクラスを治めるものとして指示を出し、自分の責任と選択を持って利益を得るために行動をしている。それに従う生徒も、自分で納得したうえでそれに貢献しようと行動を起こしている。
出来ないのが罪ではなく、そこから出来るようになったり代替案を用意しないのが罪なのだ。そこを、このクラスの生徒たちは簡単に間違える。踏み外す。
厚顔無恥にも、失敗した相手を責めることで自分を慰めるのだ。「わたしはなんて可哀想なんだろう」ってね。
そこまで伝えて、何人かの顔が真っ青になったり顔を背ける中、グッと息を飲んで「でもでもだって…」と口にできるのは救いがない。ため息を吐いたうえで、チラリと周囲へ視線向ける。
音を鳴らす袋を踏んだカサカサ、という音に、破れた袋から空気の漏れる音。早速、効果を確認した鳴子に目を向ければ、須藤くんたちが帰ってきたみたいだ。
「おかえりなさい、須藤くん」
「おう…!収穫、あったぜ。堀北…」
「ご苦労様。少しだけ休憩していってね」
「いや、まだまだ行けるぜ!」
「っ…!」
そう言って探索班が持ち帰ってきたのは、釣り竿やキャンプ用品の入ったリュックが2つ。小屋のスポットにあったそうで、確保は出来なかったけれどこれだけは自由に持ち出せたようだ。
池くんがそれに目を輝かせ、テントの張り方や釣り竿の使い方を周囲へレクチャーし始める。周囲の生徒たちへ――その輪に男女の隔たりはない――も、テントのペグ打ちから教えている様子は、この非現実に近い状態で、輝かんばかりの活躍を果たしている。
その和から外れた篠原さんたち一部の女子。吐いた唾は飲めない、ではないけれど
あ、ようやくこの拠点へたどり着いた茶柱先生へは「わたしがリーダーをします」と言っておいたわ。なにか言いたそうな顔をしていたけれど、わたしの方が言いたいことは多い。だから、この場では口にしない。…船に戻ったら覚悟しておくことね。
◇
午前中から午後にかけて、拠点化の進んだDクラスのスポット。池くんに可能か確認しながら(出来るのは知っているけれど、みんなの前で聞くことに意味がある)ブルーシートを購入。木々の間にヒモ(ブルーシートを畳むのについていたわ)をピンと張り、簡易的なタープ*1を作る。日中の日差しよけや、試験後半の雨天にも耐えられるように傾斜を意識する。
「これでいいかしら、池くん?」
「だ、大丈夫…だと思う。弛んだらまた引けば良いし、強すぎて破れるよりは、その方が…」
「ありがとう。…綾小路くん、ありがとう。降ろしてくれる?」
「…おう」
そういって、肩車をしてくれていた綾小路くんが膝をつく。その肩から足を下ろして、背中に寄りかかるようにしてもう一度お礼を言う。
「重くなかったかしら?」
「…羽根のように感じた、とでも言うべきなのか?」
「60点。悪くないわね。…支えてくれていた太ももや、降りる際の、背中に当てた感触への言及が無いのが減点かしら」
「…やっぱりわざとか」
見本を見せてあげれば、他の拠点作成班にも同じことをしてもらう。
高いところが苦手な人は、床敷用のブルーシートの設営を。底には無料の配布ビニールを敷き詰めて少しでも過ごしやすく加工する。
…山内くんが佐倉さんに露骨に付きまとって、須藤くんに拳骨を貰ってるわね。仕事でアピールしてくれないかしら?ちなみに彼の今日の釣果は、Cクラスの生徒一人。
「かわいそうじゃん!なあ!?」とか、また大きな声で同意を求めてリーダー陣の頭を悩ませる。平田くんとしても助けてあげたいようなので、連れてきた生徒に責任を取らせろと伝えて滞在の許可を出す。…それはそれとして、やっと会えた。コレで話せるわね。
「調子はどうかしら。…伊吹さん、だったわよね?」
「………」
「この前はどうも。私のこと、忘れちゃったかしら?」
「知ってる。…堀北鈴音だろ。Dクラスのリーダー。龍園が機嫌良さそうに言ってたよ」
「光栄ね」
ぷいっと顔をそらしつつ、会話には応じてくれる澪。その手にある、土の汚れを確認してわたしは彼女をシャワーへ誘う。
「は?」という彼女の手を引き、つい先ほど設営が完了したシャワーを使わせてもらう。
わたしは当然、それ以外の仕事を任せた人たち(リーダー格や須藤くんたちや幸村くん達)はトイレもシャワーも最優先で使うと宣言しておいた。当然、篠原某さんが「不公平だ!」みたいなことを言っていたので、「働かざる者食うべからず」とありがたい言葉を教えてあげる。勉強になったわね。明日から使っていいわよ?
「桔梗、わたしはちょっとこの子とシャワー浴びてくるから」
「ちょっと、私は後でいいからっ…!」
「う、うん、わかったよ…?…っ…」
すれ違いざまに、彼女へメモを渡す。彼女ならメモにある「荷物」と一文字で気がつくだろう。伊吹さんの荷物を探れ、という指示が。ワンタッチテントの中で、テキパキと脱衣する。顔を赤らめる伊吹さんをクスクスとからかうように笑えば、恥ずかしがるように急いで続く。
「はぁ…気持ちいいわね」
「それは…そうだけど…狭くない?」
「そうね。時短になるかと思ったけど体を洗うのも難しそうだわ」
「…やっぱり一度出るよ。私は最後で「あら、ダメよ?」ひゃんっ…!」
危ない危ない、今はちょうど桔梗や多分、他の…ん、佐倉さんか、平田くん?いや、今なら王さんも発言権高くしたからあるかも。「堀北さんの指示だからっ!」ということで 嬉々として澪の荷物を漁っているはず。
特に妙なものは見つからないのだけれど、わたしが彼女を警戒しているという状況証拠を得るために必要なひと手間。だからそう、これは必要なことなのよ。
わたしに背中を向けたのが運の尽きね。備え付けのボディソープを使って、わたしの体で背中を「ちょ、ちょっと!」して、アスリートのように引き締まった体を「どこ触って…やめっ」で包み込む。危なげなく向き合うように姿勢を変えたら今度は「ち、近い…って…」な表情で向き合って、抵抗する手をわたしの胸に当てる。「あ………」して固まる澪の耳元で、ドキドキしていること。初めて会った時から、お近付きになりたかったこと。試験中は立場もあるから難しいだろうけれど、終わったら船の上で「……んっ」の約束をする。
周囲への頼れるリーダーとしての顔や、龍園くんをからかった大人っぽい顔。そのどちらとも違う、まるで恋をする少女()のような熱っぽい視線も込めて、澪の顔…唇へと近づき、そして…
「鈴音ー、湯加減はどう?」
わたしの名前を呼ぶ声にふと、動きを止める。
「…ええ、良い感じよ?とても、ね?」
「っ…!」
「そっか。みんなも使って問題ないかな?」
「…大丈夫よ、桔梗。なにも問題ないわ」
「よかった〜。次、私も使ってもいい?汗かいちゃって…」
外から声をかけてきたのは桔梗。つまり、荷物チェックが終わったのだろう。わたしは暖まっただけじゃない理由で頬の赤い(まあ殴られたのもあるだろうけれど)伊吹に、耳元で囁く。
「楽しみにしてるから。…約束よ?」
「…ま、まだ行くなんて私は…」
「そう…残念ね……」
「あ…」
そう言って悲しそうな顔で笑えば、着替える頃には「時間があったら…」と恥ずかしそうに声をかけてくる。…チョロい。まあ試験の終わり頃には澪の方から噛み付いてくるような関係になるでしょう。この猫を被りあった、仮初の関係も悪くはない。
ぱあ、と顔色を明るくして抱きつくわたしに「ちょ、暑い…」と言いつつ抵抗は控えめな澪。
…きっと内心では「Dクラスリーダーを探る足掛かりだ!」なんて思いと「こいつを騙すのか…いや、コレは試験だし…でも…」みたいな葛藤に駆られているんでしょうね。
わたしにされるがままになっているのがいい証拠。着替えてテントを出る間際までちょっと手を繋いで、それを周囲にみつかる前に名残惜しく離す。
「…シャワーは問題なかったわ。これから夜番に向けて寝る班を中心に回してあげて頂戴。それから購入するのは毎日…」
「………」
手を離した澪がわたしを見れば、そこにはリーダーとしてテキパキ指示を出す
◇
現場への指示を終えた後は、わたしも探索へと赴く。今日の目的地、その一つ目はBクラスの拠点。井戸があり、海辺もそう遠くない。日を避ける場所も確保が出来て、悪くないスポットに彼女たちはいた。
「あ…!すず…堀北さんっ!」
「元気そうね、一之瀬さん」
「………っ」
とても明るい表情で、言い間違いにすぐ訂正をする一之瀬さん。それ以外のBクラスの生徒たちは疑問半分、警戒半分というところ。若干1名、気不味い雰囲気を出しているけれど、努めてスルーする。
クラスのリーダーと旧知の相手だと知ってか、近寄ってきたクラスメイトさん達にも自己紹介を軽くしておく。あまり長居をするのも迷惑になるだろうと、わたしは目的を果たすべく
固まる一之瀬さんに、周囲もなんだなんだとそれを見にして、驚きと一緒に声を上げた。
「え…!これ、この島の写真…!?」
「もしかして…これ、船から撮影したんじゃ…」
「な、なんでこんなものを持ってるんだ?」
答えは簡単。船のアナウンスが流れた直後、わたしは佐倉さんへお願いしてプレゼントした高性能カメラの望遠を全開にした写真を撮影、持ち込んだポータブルプリンターですぐに印刷して下着の中(もちろん使用中の)に入れておいたのだ。
他にも佐倉さんと、ついでに近くに居た長谷部さんへもお願いして3組用意してある。…まあ男子の手に触れるのはアレだし、わたしが持ち込んだ分を渡すつもりよ?一之瀬さんへ渡したのは佐倉さんのぬくもり付きのやつだし。
多少は荒くても開けた場所に小屋が見えたり、川辺、畑のように見える木々とは違う色の一帯。上陸後は足で探さないといけない場所が写るそれは、手書きの地図に空白が多い初日には計り知れない価値があるはずだ。
「…堀北と言ったか。どういうつもりなんだ?」
「神崎くん…」
「あら、余計なお世話かしら?優男さん?」
「…神崎だ。こんなものを渡して、Dクラスは何を考えているんだ?」
予想通り想定通りに難癖をつけてきたのはBクラスで数少ない存在感を出す八百長系男子こと神崎隆二くん。基礎スペックでは悪くないのに、立ち回りや戦績、環境のせいで輝く場面がほとんどないのよね。
Bクラスが一之瀬さんの信者っていうのもあるけれど、それなら彼が危機感を煽る行動をするべきだった。
例えば1年最後の試験ではガタガタ抜かす生徒へ退学覚悟の荒療治をするとか、2年の満場一致特別試験でも自爆覚悟で退学者を出すことに全張りするとか。
どこかの別のクラスの最高傑作くんの甘言に乗って秘密裏に勢力作りなんて1年の後半には終えるおままごとを2年終わりまでやるくらい、この男は優柔不断で甘ちゃんなのだ。
そんな彼に返す言葉なんて、この程度で十分だろう。
「許可されていない私物の持ち込み。…Bクラスにペナルティを課そうと「つまらないわね」…なに?」
「…そんなこと、
「堀北さん?」
さも不思議なように、小首を傾げて彼から視線を外す。ジャージのポケットから出したハンカチで、汗が滲む一之瀬さんの額や首筋を拭いてあげる。あわあわと顔を赤くする彼女へ微笑みを向けて、警戒に加えて不機嫌の色が増した神崎くんへの挑発を続ける。
「わたしの目的があなたの言う通りなら、確認なんてせずに担任の星之宮先生に通報すればいい。わたしが渡した情報が罠だと思うなら、わたしが去った後に処分すればいい。なぜ、聞くのかしら?」
「……いや…それは……」
「初対面の相手を疑ってかかる点だけは加点。ただ
「………っ」
ここで、「この試験で敵対するクラスを信用できるわけないだろう」くらいすぐにレスできるなら言うことないのだけれど…。まあ、仕方ない。
「どうしたら良かったの?」と(周囲のために)口を開く一之瀬さんに、「誉めて煽てて、もっと情報を吐き出させるべきだったわね」「なんで”警戒している”と、その相手へと伝える必要があるのかしら?」などなど、ダメ出しをしてあげる。
わたしなら有益な情報を得たら、まずは感謝をして後から裏取りをする。確実なリターンが望めるなら笑顔で享受するし、罠だったなら他のクラスも巻き込んで包囲網を構築する。善意で踊らされている相手が相手でも、敵の敵は味方理論でこちらの側へ立たせる。それが、バトルロイヤルでは必須の能力なのだから。
少し毒が強かったかもしれないけれど、せめてそのくらいは出来てくれないとまた2年半ばから終わりにはボロボロになってそうなのよね、このクラスは。
歓迎されていないのは十分承知。挨拶もそこそこに、わたしは次の目的地へと足を運ぶのだった。
◇
「堀北か…」
「久しぶりね、葛城くん」
「…なにか話があるのか?」
「流石Aクラス、話が早いわね」
「…良いだろう、…ついて来い」
洞窟のスポット…まあまだ拠点化がまだなのか、生徒や荷物が外に座っていたり、荷物を纏めている途中かしら?Aクラスの拠点へとたどり着いたわたしは、さっそくとばかりに葛城くんへ声をかけたのだけれど…はあ。
「ちょっと、葛城くん…」
「なんだ。…人払いなら「いや、そうじゃなくて」…?」
「えっと…ん、そこのあなたと、あなた。一緒に来てもらえるかしら?」
「…私ですか?」「私?」
そういって声をかけたのは、比較的中立の白石さんと葛城くんの派閥の西川さん。葛城くんも首を傾げながら、特に否定なく同席を促してくれた。ふたりは仲が良い(一方通行)から、一緒になら別に抵抗なく着いてきてくれる。
そうして洞窟の奥まったところで、先ほどの焼き増しのように写真(わたしのぬくもり付き)を葛城くんへ差し出す。
ぎょっとした葛城くんともう一人。白石さんはかすかに目を開くだけだったわね。流石百人切り。でもすぐに、その写真の価値に気が付いたのか凝視する。先ほどのBクラスとは天地の差ね。疑問より先に「感謝する」と言える器の大きさを、もっと他のクラスにも持ってもらいたいわ。
「…それで堀北。これを俺に渡して、何を望む。それにどうして白石や西川まで呼んだんだ?」
「そういうところよ、葛城くん」
「なに…っ…な…!?」
そう言って、白いシャツをめくり、おへそやくびれ、そしてチラリと下着が見えるまで持ち上げて見せれば、深紅の下着が姿を見せた。顔を赤くする葛城くんと、これまた一人…あら?今回はふたりとも顔を赤らめているわね。まあ別に減るものじゃないし、三人やわたし達を盗み見ている生徒に見られても構わないけれど。
目を逸らす葛城くんに、この監視カメラもない無人島で他のクラスの生徒と、それも異性と二人きりになるリスクについてしっかりと説明をしておく。案外有効なのよね、コレ。
冤罪やハニートラップ、泣き落としや捏造。どれもあなたの立場を一瞬で砂のように崩す可能性があったことを具体的な説明を交えて理解してもらう。
「いや、だが…」
「危機感が足りないようね。…お手本を見せてあげるわ」
「え?…ふぇ!?」
顔を赤くする西川さんに腕を絡ませて「お願い…わたしを助けてっ…!」とか白石さんに壁ドンして「悪い子ね…」みたいな男子の下心や乙女心に刺さりそうなシチュエーションを試せば、葛城くんも苦い顔をしながら納得はしてくれた。
「…やり方には物申したくはあるが、二人を呼んだのは俺を冤罪から守るためだったということか?」
「そういうことよ。お友達を男子だけにすると、異性が一人交じるだけであっという間に
「…文化部のサークルクラッシャーみたいですね」
「核心に近いわね。80点をあげましょう」
やはり白石さんを呼んだのは正解だったようね。胡乱な表情を浮かべていた葛城くんの表情にも、ようやく危機感が宿るのがわかる。リアルなところ、この無人島試験の最速チャートは女性の武器を連打した異性を狙い撃つ冤罪攻撃と単身でのスポットへ侵入しての報復誘い受けの特攻によるリタイア、これが固い。前者はわたし一人でも初日で詰ませる自信があるけど、それをするとこの後の船上試験とか夏休み明けとかでとっても恨まれるのよね。…元を取るなら、本気で退学まで持っていくレベルの一撃が必要になる。まあ、堅実に行きましょうか。
その後に、カチコチになってしまった西川さんを白石さんとからかったり、葛城にも片手間でリーダーとしての心得…じゃないけれどいくつか交渉における注意()とかしたら苦い顔をしていたわ。…なんででしょうね?ふふっ。
彼にはまだまだ、復活予定の坂柳さんへの防波堤としての活躍が待っている。応援しているわ。
見送りまでしてくれた彼には、「べ、別にあなたを心配しているわけじゃないから…」的な、素直になれない女子ムーブをしてAクラスを去る。…なにか後ろで、歓声や黄色い声が聞こえた気がするけれどリーダーとして心を新たにした葛城くんなら問題ないでしょう。
今日の探索はここまでね。
そう自分に切り上げを告げて拠点へと戻る頃には、日もすっかり傾き、夕闇が島全体を包み込み始めていた。
初日のお昼と夕飯はポイントで買った。本格的な活動のために、省ける準備は省いた分、雨の日まではほとんど生活に困らない拠点が完成したと言えるわね。
20時の点呼の時間が近づき、設営の進んだ拠点に生徒たちが集まってくる。夜番の生徒もあくびや目を擦りながら、活動の準備を始めている。
そして、いざ、点呼が始まるその間際、茶柱先生から告げられたのは――高円寺くんのリタイアだった。
「はぁ!?あいつ、初日からリタイアしたのかよ!?」
「冗談じゃないわ!何のためにここに居るのよ!?」
案の定、篠原さんや山内くんをはじめとしてクラス中から不平不満や怒号が吹き荒れる。自分たちが必死に設営や探索に汗を流す中(一部を除く)、早々にリタイアして快適な船上生活へと逃げ込んだ(ように見える)彼へのヘイトが溜まるのは必然と言えた。
わたしは騒ぎ立てるクラスメイトを制し、茶柱先生の前へと歩み寄る。
「茶柱先生。高円寺くんから、何か受け取っていないかしら?」
わたしの問いに、茶柱先生は薄く口元を緩めると、ポケットから一枚の折りたたまれたメモを取り出して手渡してきた。
「…相変わらず、気まぐれな人ね」
「堀北、どういうことなんだ?」
受け取ったメモに目を通し、そこに記された内容を確認する。事前にリタイアのことを聞いていた須藤くんにもチラリとそれを見せれば、食い入るように目を走らせ始めた。
周囲の不満げな視線が一斉にわたしへと集まる中、わたしは静かにその紙を折りたたみ、クラス全体を見回した。
「静かにしなさい。…高円寺くんを責めるのは筋違いよ」
「な、なんでだよ堀北!あいつは勝手にリタイアして、俺たちの足を引っ張ったんだぞ!?」
「いいえ。彼はこの短時間で、島内の重要なスポットの配置と、わたしが把握できなかったほかのクラスの拠点を突き止めた。その情報を残して、島を去ったのよ」
「え…?」「マジかよ…!?」
怒鳴り散らしていたのに、一転して手のひら返し。一瞬で怒りの言葉は力を失い、顔を見合わせ始めた。その情勢の転換を見逃さず、わたしは彼の実績を声高に披露してみせる。
「彼が初日に単独で動いて得たこの成果は、探索班が数日かけて得る筈だった非常に価値ある情報よ。…幸村くん、もしこの地図にあるスポットを日に三回。残る五日間回れたら…まあ、甘く見積って七割でも回れたら、得られるポイントはどうなるかしら?」
「ま、待て。11箇所を5日、日に3回…その七割なら、ひゃ、115ポイント…!?」
「そういうことよ。…わかったかしら?」
しん、と静まり返る拠点。文句を言うことしか出来なかった生徒たちが、ぐうの音も出ず口をつぐむ。今日、特に結果らしい結果を出せなかった人たちは殊更ね。
自分の価値観だけで他人を断罪しようとする浅はかさを、突きつけてあげるのもリーダーの仕事。…おっと、耳が痛い話ね。
「…さて、それじゃあ夜番の人は警戒を怠らないように。朝番の人は明日に向けて、各班しっかりと休息を取りなさい」
指示を出し終え、夜風が吹き抜ける無人島の拠点を眺めながら、わたしは小さく息を吐いた。
さて、ここからが本番ね。
読了感謝ー。
今回は控えめに主要人物との顔合わせ回でしたー。
次回はもっと堀北さん節が出来るようにが頑張りますねー。
感想いつも助かってます。
高評価いつもやる気を上げてくれます。
これからもよれしくください(小声)