自動車の後部座席に薄手の毛布を掛けた至高の寝床で目を覚ます。何か夢を見たような気がするが、何も覚えていないので大した夢ではないだろう。とりあえずトランクから何かの懸賞で当ててもらった立ち鏡を出して身だしなみを整える。黒くて大きめの丸い耳、まるまるふわふわの白い顔、黒い糸目とその周りの黒い毛、どっしりもっふりとした白い体に黒い手足、ピコピコ動くチャーミーな白くて丸い尻尾、体に合わせた角の生えた白黒の斑模様のウエストポーチ、そこにぶら下がっている両手にはめるタイプの爪の武器、武器に刻まれた俺の顔は4位の討伐ランカーの証だ。
「くあー……今日も決まってるなー……」
あくびをしながら買い溜めしてあるハイカカオチョコを口に含む。何時だかアイツから貰った普通のチョコは甘すぎて口に合わなかった。そしてこちらも買い溜めしてある微糖コーヒーで流し込む。草むしりで生計を立てていた時代、誰から奢ってもらって以来ずっとハマっている。支度が終わったら仕事斡旋所に向けてご機嫌に歌いながら車を走らせる。
「チョ・チョ・チョ・チョコレート~♪ 超・上・々・チョコレート~♪ 今・日・も・チョコレート~♪」
ご機嫌に降り立った場所にはすでにアイツがいた。クリーム色のフワフワした身体、横向きに生えた黒い耳、右目の斜め上にある十字の古傷、白いマントに顔のマーク入りの大剣がトレードマークのアイツだ。どれにしようか悩んでいるアイツの後ろから、ゆったりとした声で呼びかけた。
「相変わらず時間かけてんなー、"パフェ"?」
アイツのことをパフェと呼ぶヤツはこの世界に俺1人しかおらず、アイツはくるりと振り返ると少し嬉しそうににやりと笑った。
「君はもっと時間をかけるべきだ、"チョコ"」
このチョコという呼び名は俺が喫茶店でパフェを食べて頬をムニムニしていたアイツをからかって"パフェ"と呼び、それに対してのアイツなりの反撃だ。その反撃を軽くいなして盛り上がりそうな依頼を手に取る。
「このタマゴボーロみたいな匂いのヤツの群れにしようぜー。楽だし数多くて競えるしよー」
「遊び感覚で決めるのは良くないぞ」
「現場で本気を出すからいいさー。んじゃこれに決定なー」
「仕方がないな……油断するなよ」
「それじゃー、チョコパフェコンビ出撃だー」
誰が呼び始めたか分からないそのコンビ名を俺はとても気に入っている。アイツももそう呼ばれて嬉しそうなので、公言はしていないがしっかり認めている。
プロペラ付きのつかむやつに運ばれてやってきた森で早速群れを見つける。タマゴボーロの匂いを出す触角、色のついた縞々の卵から覗く白い気の抜けた顔、棒のように細くもそれなりの機動力を出す足、ギチギチギチギチと緑色のが6匹だ。
「偶数は引き分けが起きるからヤなんだよなー」
「相変わらずの余裕だな」
俺は爪を、パフェは大剣を構えて群れに突っ込む。俺の爪は速度と手数に優れており、大した相手でなければ1回呼吸する間に倒せる。素早く引っ掻き、突き刺し、時には裏拳の要領で叩き込み、あっという間に3体を倒す。
「もらった!」
「やはり頼もしいな!」
対しパフェの大剣は威力と範囲に優れており、俺の数発分の威力を一撃で出すことができる。奴は一振りで3体をなぎ倒し、あっという間に同点になった。
「結局こうなるか……いや、まだいるか」
「そのようだな」
木の影から赤いギチギチが現れる。俺たちよりも大きく、触角は刺の生えた角になり、足もしっかりと太いものになっている。並の討伐者なら腰を抜かすかもしれないが、俺たちチョコパフェコンビからしてみれば最後の的にしか見えない。早く終わらせて奢ってもらうとしよう。
「先手必勝!」
一気に距離を詰めて跳び上がり、赤ギチの顔に引っ付いて引っ掻きまわす。流石に動けなくなるほどのダメージにはならず、逆に怒りを買ってしまったのか走り出した。どうやら木に叩きつけるつもりらしい。
「助けが必要か、チョコ!」
「帰りの妖精をしておいてくれ、パフェ!」
冷静に赤ギチの顔を蹴って跳び上がる。程なくして赤ギチはドシンと木にぶつかり、俺はしなやかに木の枝に乗り、飛び降りて再び赤ギチの顔に爪を突き立てた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だぜ」
「ギチギ……チ……」
今度はしっかりと効いたようで、どさりと倒れて動かなくなった。
帰ってきて報酬をたんまりもらい、2人でいつもの喫茶店に向かう。からんころんと風情を感じる入店音で気分を高め、カウンター席に隣り合うように座り2人で"いつもの"を頼む。アイツには苺とクリームいっぱいのパフェが、俺には枕ぐらい積み重なったハイカカオチョコと温かい微糖コーヒーが出される。
「毎回思うが、どうしてそんなに苦いものばかり食べられるんだ?」
「お前の甘いモンと同じだよー。好きなモンはいくらでも食べられるー」
コイツの甘味に対する食欲は結構なもので、以前のドライブでスイーツ巡りをした時は1日中食べていた。見ているこっちの胸がうえっとなるほどで、その日の俺は1日中無糖のコーヒーを飲んでいた。
「苦いものが好きなのか……ゴーヤも好きなのか?」
「綿みたいな部分をとって薄く切ってー、塩昆布と合わせれば最高のビールのアテになるなー」
「そうか……苦いもの大食い大会があったら1位になれそうだな……」
「お前は最下位になりそうだな」
パキッとチョコを口に含んでから温かいコーヒーを飲む。チョコがじわりじわりと溶けてコーヒーと混ざり切った所で飲み込む。香ばしいカカオの香りとフルーティーなコーヒーの香りが合わさって、口の中は空っぽになったはずなのに咀嚼してしまう。
「……いつものクセ、だな」
俺の美味しいものを飲み込んだ後のクセであることは否定しない。
「……お前のことあんま言えないかもなー」
こうして今日も一日が終わっていく。最高ではないにしても悪くない日々を過ごしながら、いつの日かアイツを超えるのが俺の夢だ。