甘い夢から覚めて起き上がると、そこは俺の車の後部座席だった。
「目が覚めたかッ……倒れるように眠ったらから心配したぞッ……」
助手席に座っていたパフェの声で段々と昨日の事を思い出していく。
「……アイツを倒した後ー、そのまま眠っちゃったんだっけー」
「かなり来ていたようだなッ……"限界"ッ……」
彼に泣きつくほどには追い詰められていたのは事実で、もし彼がいなかったら俺は俺でなくなっていただろう。伸びを一つして改めて彼に礼を言う。
「今回は本当に助かったよー。ありがとうなー、パフェ」
「よくドライブに付き合ってもらっているからなッ……困った時はお互い様だッ……!」
相変わらずよくできたトップランカーだ。俺の憧れであり、超えたいと思い続ける好敵手だ。だからといってここで引き下がっては納得できない。折角2人で俺の車の中にいるのだから、俺ならではのお礼がしたい。
「今日は遊びまくろうよー。いろんなとこ行って、いろんなもの奢るよー。彼らの特訓は自習にすればいいしさー」
「フム……確かにたまには己の力だけで鍛錬するのは大切だなッ……よしッ、今日はお前に付き合うとしようッ」
こうして本日はチョコパフェコンビの豪遊冒険譚が始まる運びになった。
まずは朝飯だ。車を軽快に飛ばしながらとある湧きどころに向かう。
「♪ チョ・チョ・チョ・チョコレート~超・上・々・チョコレート~今・日・も・チョコレート~♪ 二番は任せたぞー」
「♪ もっと……チョコレート~超飄々……チョコレート~今日も……チョーコーレート~♪ ……歌はお前には敵わないなッ……」
歌通りにやってきたのは白色の彼らから教えてもらったチョコの沼だ。一面の茶色い桃源郷に彼は目をキラキラ輝かせた。
「これはッ……全部チョコレートなのかッ……!」
「確かめるために個人的に来たけどー、どこもかしこもチョコレートだよー」
ディップする用のお菓子、口直しのしょっぱめのお菓子、濃い目に淹れた紅茶など、とにかく楽しめるように様々な物をトランクから取り出す。
「ということでー……勝利に乾杯ーッ!」
「カンパイッ……!」
バタークッキーにチョコをつけて齧る。サクサク生地、パキパキチョコ、バターとカカオの香り、何より頭に響く甘さ。心身ともに消耗しきっていた俺には少々劇物だったようで、思わず目をギュッと瞑ってしまう。
「あ゛ーッ」
「これはッ……!」
音的に彼はすでにほっぺをムニムニしているだろう。俺は紅茶と名菓『柿の種』で口を整え、そのまま種を沼にバラ撒いた。
「なッ、なにをしているんだッ!?」
「飲み仲間に教えてもらったんだけどー、これが意外とイケるんだってー」
浮かぶ数粒を拾って彼の口に入れる。
「ムッ……塩味と辛味と甘味が混ざってッ……ちょうど良くなったッ……!」
「これがクセになるんだよねー。ホントはビールが欲しいけどー、俺が運転するから我慢しないとねー」
一粒で全てが完結する魔法を堪能した所で、少し凝ったものを作る準備をする。いつものガスコンロとボンベとフライパンを取り出し、ちょっと多めの油を入れてパスタを揚げていく。
「それにチョコをつけるのかッ……!」
「揚げパスタはお菓子にしてもおつまみにしても良しの万能料理だからねー」
揚げたてをチョコにくぐらせて口の中に放り込む。カリカリアツアツの麺とチョコの相性は抜群だ。軽く塩を振ると味がしまってより一層美味しくなる。お互いの口の周りが幸せの茶色に染まった所で撤収準備に入る。
「とても豪華な朝食になったッ……感謝するぞッ」
「まだ朝飯が終わっただけだよー、次は場所を移して腹ごなしの運動だー」
よくありがちなキャンプ場に移動して、真っ先に飯盒に米と既定よりやや少なめの水を入れ、米にしっかりと水を吸わせる。その間に先ほど使った調理器具を洗い昼飯の準備をする。
「家事もしっかりやれば立派な運動だなッ……」
「外でやる家事は特別だからねー。キャンプ場に来たからにはカレーを作るよー。具材切るのは任せるからー、ご飯炊くのは任せてー」
以前ご飯の湧きどころに行ったことがあるが、俺はあれよりももっと硬めに炊いた方が好きだ。カレーライスにするならなおさら硬いほうが良い。米がいい感じに水を吸ったら焚火にかけ、沸騰してきたら弱火にする。炊き上がりを待つ間にガスコンロとフライパンでカレーを作っていく。フライパンでカレーを作るコツは日が通りやすい具材を使うことだ。今回の具材は豚こま、玉ねぎ、えのきのシンプルなカレーだ。
「もちろん使うルーは……"甘口"だなッ」
「中辛以上は食べられないからねー」
具材に火が通ったら水とルーと隠し味のチョコを入れて煮込んでいく。ここまでくれば後は彼にルーが焦げ付かないように見守ってもらえばいいので、俺は飯盒の様子を見る。ご飯の焦げるいい匂いがしてきたので火から下ろし、ひっくり返してしばらく蒸らす。蒸らし終わったらふたを開けて軽く混ぜ、皿に盛ってルーをかけたら完成だ。
「できたー。それじゃあいただきますー」
「すごいなッ……玉ねぎの"甘み"ッ……!」
「豚こまの油とも相性が良いよねー。えのきも良い旨味と食感のアクセントだよー」
「料理に関してもお前の方が先生だなッ……! 今度教えてくれないかッ……?」
「パフェの頼みとあったら断れないなー。いつでも歓迎するよー」
いつの日かの約束を取り付けながら笑い合い、とても楽しい昼食を楽しんだ。
最後に夕食だが、最高のシチュエーションにするためにサウナをキメる。温冷の差を体の芯まで楽しみ、整うに整った状態で食べるのはもちろん『郎』のラーメンだ。彼は初めて来るはずなので注文の仕方や食べ方について説明する。
「……なるほどッ……討伐と同じような気持ちで挑むべきだなッ……」
「初めてだからコールは"そのまま"で良いと思うぞー」
店に入り食券を買って隣り合うようにカウンター席に座り、その時が来るのを待つ。
「ニンニク、入れますか?」
まずは彼が注文する番だ。隣でお手並み拝見させてもらうとしよう。
「そのままッ」
何のよどみなく言い放った。あまりにも堂々としていて、常連のソレと何一つ変わらなかった。
「ニンニク、入れますか?」
次は俺の番だ。俺も彼に続いて堂々と言い放つ。
「全マシでェ」
程なくしてそれぞれのラーメンがやってくる。彼のラーメンはそのままとは言ったものの野菜が茶碗一杯分は盛られており、俺の方はその2倍ほどの山が築き上げられていた。ここからは各々の戦いになるため、軽く目だけ合わせて食べ始めた。埋もれた麺を掘り出しながら野菜の山を削っていき、時折スープやチャーシューやニンニクで味変しながら順調に胃に収めていく。
「ウグッ」
対し彼は初めての『郎』の洗礼をガッツリ喰らっていた。甘党の彼からしてみたらこの油と塩味は衝撃的らしく、野菜とお冷で中和しながらなんとか箸を進めていた。それでも止まることがないから、それなりの素質はあるだろう。考えてみれば平然と生クリーム飲めるのだから、油に対しての耐性は充分にあるはずだ。
「……見えたッ」
次第に攻略法が分かってペースアップしていったから俺の予想は間違っていなかった。ただその頃には俺はあと数口で終わる所まで来ていたので、『郎』に関しても俺が先生に違いない。彼より一足早く食べ終わり、丼を返し軽く会釈をして店を出て彼を待つ。数分も経たない内に、満足そうにお腹を擦りながら彼が出てきた。
「中々おいしかったがッ……しばらくは遠慮したいなッ……」
「一回食べると1ヶ月はいいやってなるのがイイんだよー」
「そうなのかッ……特訓の彼らも誘ってまた来たいがッ……大人数で来ると迷惑かもしれないなッ……」
「そうだねー。皆で行くなら焼肉がイイねー。折角だし耳長の彼も誘いたいなー」
「彼もお前と同じぐらい食にこだわりがありそうだからなッ……おもしろくなりそうだッ……!」
来たるいつかを夢見ながら今日という日が終わっていく。毎日それなりに頑張って、たまにパーッと弾けて遊んでしまう。そんな日々が一番の幸せなのかもしれない。