今日は討伐に行く日だ。白色の彼を自習にして、朝早くから並んで討伐依頼の選別を始める。何がいいかなと悩んでいると、背後からさわやかなアイツの声が聞こえてきた。
「こんな早くからいるとはッ……めずらしいなッ、チョコッ」
「おはよーパフェ。たまにはTOP4らしいことしないとって思ってねー」
「一緒に行ってもいいかッ……?」
「もちろん────」
とある討伐対象を見つけて咄嗟に取った。この白と黒の顔を忘れるわけがない。
「────悪いィ、ダメになったァ」
「ムッ……何かあるのかッ……"事情"がッ……?」
「……そんなとこだァ。コイツはどうしても独りで討伐したいんだァ」
「……そうかッ……気をつけるんだぞッ……」
彼は深く追求せずに引き下がってくれた。こういう気遣いが彼の良い所であり、トップで居続けられる理由だろう。そこに甘えて車に大量の荷物を詰めて討伐に向かう。
離れた森の程々の場所に車を停め、大量の荷物を背負って討伐対象が現れるであろう場所に歩いて向かう。ザッザッと所々に傷のある木々の道を進み、やや不自然に開けた場所にソイツはいた。凶悪に捻じり曲がって天を突かんとする2本角、銀のセプタムピアス、つり上がってビクビク震えながらかっぴらいている白目と黒目が逆転した目、むき出しでガチガチと鳴り続けている歪な臼歯、ムキムキに肥大した全身、手のように5つに分かれている蹄、囚人服のようにも見える白黒の斑模様。あの悪夢の中にいた怪物だ。
「くあぁ……お腹空いたなー……」
見た目と地を震わす様な声に反してのほほんとしたことを抜かしているが、もしアイツが本気になれば俺ごときでは返り討ちにあうだろう。そんなヤツに対して俺は────
「おーい、うンまいモンいっぱい持って来たぞー」
のほほんとした声をかけた。ヤツは俺の声に反応してドスドスと駆けてきて────
「あっ、"チョコ"だー。久しぶりー。元気にしてたー?」
右手を挙げて気さくな挨拶を返してきた。そう、俺とヤツ改め彼は知り合いで割といい交友関係を持っているのだ。
「元気にしていたけどー、お前はなんかやらかしただろー? 討伐対象になっていたぞー?」
「この間友達といた時に討伐に来た奴を一緒に追い払っただけだよー。3人いたけど、1人逃したからそいつが報告したんじゃないかなー」
「そうかそうかー。あんまやりすぎるとTOP3が一緒になってくるかもしれないから気をつけろよー」
世間話も程々に荷物をバッと広げて手作りのイカの一夜干しをいっぱい出す。すると彼は目をキラキラ輝かせて頬に手を当てた。
「わー! これ全部くれるのー!?」
「そうだけどー、足りなかったかー?」
「折角だからお友達と一緒に食べたいなー! 呼んでいいかなー!?」
「俺を食べないなら呼んでいいぞー」
彼がおーいと呼ぶと、木々の後ろから額には一本角、渦巻き模様の大きな目、小さな口元、真っ白なモフモフな体、とんがりコーンみたいな爪の手足、緑色のぶっとい尻尾の、四足歩行の大きくて可愛い生き物が現れた。ソイツは俺を一瞥すると、嬉しそうに全身を使って踊り出した。
「すっごいよろこんでるねー。久々においしいモノを食べられるからかなー」
彼らが普段何を食べているのかは追求しないが、これで喜んでもらえるなら悪くない。とりあえず焼かない事には何も始まらないので、いつものフライパンとガスコンロのセットでさっと焼いて一切れ食べる。相変わらずの出来で安心したので、焼き立てを彼らにあげる。
「まずは塩味をどうぞー」
「わーい! いただきまーす!」
あの蹄の手を器用に使って中身を口に放り込んだ。彼らのサイズ的にイカ一匹で俺の一口分に相当する
感じだから、丁寧にモムモムと口を動かして堪能している。
「うーん、噛めば噛むほどじわ~っておいしさが広がるー」
1本角の生えた彼の方もニコニコで頷いている。次は醤油味だ。火が入っていくにつれて香り立つ、醤油の香ばしい香りが食欲を刺激する。
「コイツはマヨで頂くのが最高なんだー。君たちサイズに合わせるとー……これぐらいかなー」
1匹のイカの右半分に薄くマヨネーズを塗り、それを2人分作って彼らに渡す。
「醤油のキリっとしたしょっぱさとマヨネーズのコクと酸味がサイコーだねー」
2本角の彼は満足そうだが、1本角の生えた彼は少し物足りなそうに首をかしげている。もしかしてコレかなと七味を渡したら、口の中にババッと振り入れた。
「わわっ、そんなにいって大丈夫ー?」
「アレは効くんじゃないかなー」
しかし俺たちの予想に反して、角の生えた彼はコレコレと言わんばかりにくーっと震えていた。彼は意外と辛い物が好きなのかもしれない。だとすると次のみりん味は気に入ってもらえないかもしれないが、振舞わないと俺の気が済まないので焼いてみる。みりん特有の甘さとアルコールの混じった匂いがあたりに漂い、彼もフンフンと鼻を鳴らして今か今かと待っている。
「これはそのままが良いかなー」
先と同じように俺が食べてから彼らに渡す。
「コクがあってあまーい……幸せな味がするー……」
2人して両手に頬を当てて噛み締めている。どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。パシュッとレモン味の炭酸水を開けて3人で乾杯する。俺は500mlサイズ1本で、彼らは2000mlサイズ10本という圧倒的な差だが、うンまいモンの前では誤差のようなものだ。
そんな陽気で美味しそうな雰囲気に釣られてか、奥の茂みがガサガサと揺れた。
「誰かいるの……?」
忘れられる訳がないある震えながらも太い声だ。俺は咄嗟に腰の爪を装備して構えた。
「────出てきやがれェ……お前の分は特別なモンを用意してあるからよォ……」
俺の声に釣られて出てきたのは、金の毛にちょっと曲がった角、外を向いている赤と黒の眼、剥き出しのギザギザした歯、6本の細い手足、あの時"わたあめ"を食ったアイツだった。
「お前がいるなら余計"パフェ"を連れてこなくて正解だったぜェ……!」
「んー? もしかしてチョコの知り合いなのー?」
2本角の彼は呑気な事を言っているが、知り合いなどという生易しいものでは済まない関係だ。
「あいつはなァ……"オセロコンビ"の"わたあめ"を食ったんだァ……!」
ヤツが俺の範囲に入ったら即座に────
「待って待ってー。だとしたらあの子はやってないよー」
「あァ?」
彼の意味不明な言葉に間抜けな声が出てしまった。俺が見間違えるわけがないのに、何で彼にはやってないと言えるのか────
「
「何だとォ……?」
彼の言葉には妙な含みのある言い方への疑問と同時に、俺もよく知ってることだ信憑性が浮かび上がった。とりあえず、爪をしまって話し合わないといけない状況になったのには間違いない。