"わたあめ"の復讐が果たせるかもしれないと希望に満ちてきた今日この頃、"パフェ"が一枚のチラシを持ってやってきた。見てみると『このチラシを手にしたアナタ、特別な島へご招待!! 島でのカンタンな討伐で100倍の報酬をもらおう!! 限定島ラーメンに甘いもの・辛いもの・みーんな実質無償!!』と、それはそれは胡散臭すぎる代物だった。白色の彼や青頭の彼や耳長の彼は行くと即決したらしいが、彼は一度俺に相談してから決めたいそうだ。
「……どう思うッ」
「怪しいけどー、行かなきゃ真偽は確かめられないねー」
「……一緒に行くかッ?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、チョコは島限定スイーツもあるから行くだろー? だったらコンビで行った方が安全だよー」
「お前ならそう言ってくれると思ったぞッ……!」
ガシリと握手をして同行の約束を結ぶ。島で何が起きるか分からないから念入りに準備をしていたら当日になった。チラシにかかれていた時間の30分前、昔の俺を模したいつもの白黒のポシェットや、今回のために買った新品のリュック一杯に荷物を背負った俺はすでに船を待っていた。
「色々待ち切れなかったのはお互いさまだなッ……」
聞きなれた声に振り返ると、マントに大剣といつも通りの"チョコ"がいた。
「文字通りカンタンな討伐だったらいいけどねー」
「だといいがッ……とにかく現地に向かわないと何も始まらないからなッ……」
それもそうだなとゆるゆると話している内にわらわらと大勢の参加者が集まり、やってきた大きな白鳥の形をした船に乗り込んだ。
彼と駄弁っている最中、勉強をしている白色の彼とそれに付き添っている青頭の彼を見かけたので話しかけた。
「移動中も勉強をする熱心、感心するねー」
「少し……船旅を楽しんでもいいんじゃないか?」
「チョコさんに先生もッ」
「ンーン……」
白色の彼は首を横に振って本に向かい合い続けた。どうやらあまり邪魔をしてほしくないようなので、程々に頑張るように伝えて離れる。まだまだ到着には時間がかかりそうなので、"パフェ"に先日手に入れた"わたあめ"を食べたヤツについての情報を話す。
「……ってことがあったんだー。思い当たるヤツいない?」
「大きくてフワフワした水色の尻尾ッ……思い当たる節がないなッ……」
彼の討伐ランカーとしての顔の広さを持っても知らないということは、かなり立ち回りに気をつけているなのかもしれない。そんなヤツがわざわざ島に行くとは思えず、折角持ってきた捕まえる用のロープも役に立たないか────
「プルヤハ」
ぬぅっと耳長の彼が現れ、自信満々に腕を組んで俺を見つめてきた。
「もしかして知ってるのー?」
「フゥン」
「そうかッ……! 是非とも教えてくれないかッ……!」
耳長の彼曰く、自分本位でかわい子ぶっている不思議な存在とのことだ。わざわざあの強い化け物から俺たちみたいな姿になっているから、この姿ならではの振る舞いを楽しみたいということだろうか。ともかく優良な情報だったので、バッグの中からチョコを一粒渡した。
「まてッ、それは結構苦いぞッ!」
「ハァ~!?」
「コレはサバイバルになった時用だからー、普通に甘い奴だよー」
「そうなのかッ……早とちりしたせいで驚かせてしまってすまなかったッ」
「ウラウラ……フゥ~ン……ヤハ」
グッと親指を立ててくれたから口に合ったようだ。満足した彼は船頭の白鳥の顔に登って、誰よりも船旅を楽しみ始めた。そんな彼が大きな雄たけびを上げた先に、目的地である島が見え始めた。
「「「♪ おいし~い屋台~がて~んこもり~わたあ~めビールにじゃがバターたこや~きすきや~きケバブに~てりて~りソースの焼きそば~♪」」」
上陸すると島民たちが陽気な歌を歌いながらおめでたい雰囲気で出迎えてくれた。とりあえず楽しんでほしいのか武器と荷物までもっていきそうになったが、荷物ぐらい自己管理させて欲しいとやんわりと断る。"パフェ"も同じだったようで、いつもの姿のまま島に並ぶ屋台を見て歩く。勉強で見事に船酔いを食らった白色の彼を励ましながら、現在の状況を一緒に考える。
「始まったばかりとはいえー、今のところ問題なしだねー」
「警戒をしておくに越したことはないがッ……怪しまれないためにも楽しんだ方がよさそうだなッ……」
彼は至極真っ当な事を言っているが、島フルーツパフェの屋台を見つけて少しそわそわしている。俺も良い匂いに引っ張られて腹の虫が鳴きだしたので、それぞれのお目当ての屋台に向かうことにした。
「一旦別行動になるねー。食べ過ぎないように気をつけるんだぞー」
「そっくりそのまま返すぞッ」
彼と別れて、俺は一直線に食べ物のわたあめの屋台に向かった。ここのわたあめはふわふわでくちどけも良く、程々の優しい甘味で"わたあめ"が好んで食べていた暴力的なアレとは大違いだった。甘味で必要最低限のエネルギーを摂り、俺は俺なりの策略を巡らせる。彼には問題なしと言ったが、討伐を依頼したにしては不自然すぎるほどの歓迎ムードに違和感があった。
「ちょいと見回ってみますかー」
わたあめの棒をゴミ箱に捨てて、まずは浜辺の方に向かうことにした。ザザンと押し引きする波にさらさらとなめらかな砂がとても美しいが、その光景に似つかわしくない『立入禁止!!』と書かれた物騒な看板とその先にある洞窟を見つけた。普通なら入らないのが賢明なのだが、虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神の俺はとある推理が思いついていた。
「……カンタンな討伐ってのは方便で、この先に危険な討伐対象がいるのかもなー」
それならあのユルすぎる島民たちの雰囲気も何となく説明がつく。事前に都合の良すぎる条件で頭数を揃え、報酬の先出しで後に引けなくさせ、討伐をさせようという考えなのだろう。俺個人としてはとやかく言うつもりはないが、"パフェ"が知ったら島民たちに説教の一つでもするのかもなと想像に結論を出す。
「とりあえず行くしかないよねー」
この島に来る前にも言ったことだが、行かなければ真実が判明しないなら行くしかない。知らずに生きるぐらいなら知って危険な目に遭った方が納得できる、というのが俺の方針なのだ。
ややひんやりとした洞窟を進んでいくと、水面に浮かぶ一隻の木製ボートがあった。ギッコギッコとオールを漕いで進んでいくと、天井に円状の大きな穴がぽっかりと開いて光が差し込む神秘的な場所に出た。こんな場所の何処に立入禁止になる要素があるのかと思っていると、どこからともなく透き通るような美しい声が聞こえてきた。
「♪ おいし~い屋台~がて~んこもり~わたあ~めビールにじゃがバタ~たこや~きすきや~きケバブに~てりて~りソースの焼きそば~♪」
島民たちが歌っていた歌と共に、歌声の発生源がザプリと水面から浮かんできた。貝のような耳、頭から鼻にかけてかかっている黒い模様、困っているかのようなのような八の字の眉、大きくて丸めの目、もにょもにょしている猫のような口元、魚のヒレのような手、赤い魚のような下半身、俺よりもかなり大きくて可愛いヤツだった。俺は拍手と指笛で美しい歌声を褒め称えた。
「歌が上手だねー。アイツどころか島のヤツらよりよっぽどうまいやー。わざわざ船でこの島に来た甲斐があったよヒューヒュー」
「んー……? もしかしてキミ、観光客?」
「そうだよー」
「観光客かー……それじゃあ犯人なワケないよねー……」
どうやら彼女には俺と同じく探している仇がいるらしい。ここで会ったのも何かの縁だから聞いてみるとしよう。