話を聞く前にまずはお互いの自己紹介からしたほうが良いと思い、俺は半魚人のような彼女の方に向けてご自慢の爪を装備して見せつけながら笑った。
「"チョコ"で通ってるよー。この島には討伐依頼で来たんだー。キミは?」
「セイレーン。こっちの2匹は人魚」
彼女の左右の水面からちゃぽんと2つの影が姿を現す。頭に彼女のモノに似た赤い模様、そこから生えている2本の毛、点としか言いようのない目、ギャリギャリと言いながら鋭い歯が見え隠れする口、手と下半身は彼女と同じだった。お互いの素性を話したところで犯人の話に入る。
「キミの言う犯人って何の犯人のことなのかなー?」
「ほんとは人魚3匹だったの」
涙を流しながら話す彼女曰く島の誰かが人魚を食べて、その報復で犯人が名乗り出るまで島民を食べているとのことだ。その話を聞いて俺は1つの疑問が浮かんだ。
「誰が犯人か分かるのー?」
「人魚を食べると"永遠のいのち"が手に入って、その証拠におしりにできるやつがあるの。もしあったら……カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで"永遠のいのち"を味わってもらうの」
非常に合理的な復讐プランで感心したと同時に、間違って襲われないように俺の無実の証明もしないといけないと思ったのですぐに行動に移す。
「ないことを証明しないとねー」
俺は彼女に向けて尻を見せた。何もないことをを確認した彼女は嬉しそうにヒレをぺちぺちさせながら笑った。
「ここまで話しておいて犯人だったらどうしようかと思ってたッ」
ここまでの話を聞いて、俺の中であの不自然な討伐依頼が出された理由が想像できた。彼女は島民を捕まえて食べ続けられているから相当な実力者であることが推測できる。そして犯人としてはいつ自分が襲われるか分からないから、自分の都合を隠して島民たちが襲われているという事実だけで討伐依頼を出したのだろう。
「それじゃあ今度はキミの犯人を話す番だよ」
なるべくしてなった展開に、俺は諦めに近い笑いを漏らしながら口を開いた。
「同じだよー。食べられちゃったんだー、"大切な友達"をー」
「……キミにも人魚がいたの?」
「ううん、人魚じゃなくて白くてフワフワしたヤツがいたんだー」
まずは"わたあめ"のことを話した。出会い、友情、そして別れ。それらを聞いて彼女は口をキュッと結んで目を涙でウルウルさせていた。
「……キミも大変な目に遭ったんだね」
「……それだけじゃないよー。まあー、ここから先は自業自得なのかもしれないけど、それも話しておいたほうが良いよね」
怪物化、うんざりした生活、この体への入れ替わり、"パフェ"との出会い、その中で生まれた何か。誰にも言わないようにしていたのに、彼女にはすべて打ち明けられた。同情なのか別の理由は分からなかったが、彼女になら全部言っていいと思えてしまった。
「……何でだろうなー。キミになら何でも話せちゃうような気がするなー」
「こっちもここまでおはなしできたのはキミが初めてかも。なんか……嬉しいなッ」
彼女の言葉が本心からなのは疑う余地がなかった。大切な仲間を奪われ、その仇が己の近くにいて、それを成せるだけの力が自分にある。似た部分がある彼女はとても信頼できた。どれぐらい信頼できたかというと、あんな自己中心的な討伐依頼なんかどうでもよくなるほどだ。
「一旦戻って"パフェ"に話してみるよー」
「わかった、一緒に犯人探し頑張ろうねッ」
彼女と別れて洞窟を出る。日はまだまだ高く、俺の進むべき道を分かりやすく照らしていた。
屋台の並びも程々に収まっていた広場に、焼きそばの入ったプラスチックの容器を2つ持った"パフェ"が立っていた。きっと俺の分を確保してくれていているのだろうと思い、何事もなかったかのように話しかける。
「お待たせー。ちょっと散策しようと思ったら面白い場所見つけちゃったー」
「わたあめしか食べてないと聞いたぞッ……だからお前の分も貰っておいたッ」
彼の好意に甘えながらバンガローに案内してもらい、荷物を置いて割り箸を割って焼きそばを楽しむ。歌通りにてりてりと輝くフルーティーでしょっぱいソースが細いながらもモチモチとした麺に良く絡み、キャベツや豚肉との相性もばつぐ────シャキッとした何かを噛むと同時に刺激が走る。
「エ゛ーーーッ!」
「なッ、何があったんだッ!?」
「かッ、辛いよコレェッ!」
「辛いッ……? もしかしてッ、"紅ショウガ"かッ……?」
「紅ショウガだァッ!? ンなモン入れんじゃねえよォッ! 焼きそばが台無しになるだろうがァッ!」
あんな酸っぱくて辛くて汁っぽいを入れたらどんな料理も不味くなる。美味しい屋台と歌っているくせにこんなを提供するなんて、俺の怒りがメラメラと沸き上がって腹の虫も暴れ出してきた。
「屋台巡ってくるゥ! コレは要らねえから食っていいぞォ!」
「そッ、そうかッ……気が収まったら戻って来てくれッ……」
最低の焼きそばを彼に押し付け宿を飛び出し、割り箸を握り締めて広場に並ぶ屋台を睨みつけるように品定めする。
こういう時は自分の心の赴くままに食べたいものを食べるのが正解だ。なので俺は歌にもあり、中々食べる機会のないアレを食べることにした。
「すみませんー、すき焼き1つ下さいー」
ありがちな白い使い捨て容器に牛肉、人参、白菜、長ネギ、焼き豆腐、シイタケ、春菊と様々な具材がたっぷり盛られる。それと一緒に一回り小さな空の容器を渡される。店の脇にご自由にどうぞとクーラーボックスに入った生卵があったので、遠慮なく2つ貰って木の下の空きスペースに腰を下ろす。
「いっただきますー」
まずはそのまま頂く。甘いタレが具材に染みていて、肉や野菜の旨味に負けていないながらも調和している。そこに溶いた卵をくぐらせれば、黄身のコクと白身のでゅるんとした食感が加わってとてつもない贅沢感を味わえる。
「至福ー……でもまだ足りないかなー」
思ったよりも自分の腹の虫はしぶとく、まだまだがっつりしたモノを求めている。しかしすき焼きよりも味が濃くて方向性が被らないものなど中々────あった。俺は空の容器と割り箸をごみ箱に捨てて、目を付けた屋台に向かう。
「すみませんー、のりしおフライドポテトとコーラ下さいー」
和洋折衷の揚げ物でありながら、特徴的な風味一つで濃い味を成し遂げる奇跡の食べ物だ。磯香る塩気にサックリホクホクのポテト、これにパチパチ炭酸弾けるコーラを合わせればどうなるかというと。
「あ゛ーーーッ! サイコーッ!」
これしか言えなくなる。油を纏った炭水化物と塩分の塊と甘い炭酸の組み合わせは、本能的にクるものがあるギリギリ合法の快楽だ。手や口周りが汚れて、TOP4の威厳尊厳が無くなろうと無くなるまで止まらない。こうして俺の腹の虫は見事成仏し、宿に戻ってきて早々"パフェ"が思わず笑ってしまう程、ご機嫌になったのであった。