宿に戻って"パフェ"にセイレーンの事を話す。
「────ってことがあってさー」
「なるほどッ……」
「討伐依頼に関しては推測の域を出ないけどー、彼女の話に嘘偽りはないよー」
「そうかッ……お前がそこまで言うならそうなのだろうなッ……」
彼がフムフムと咀嚼するように頷き、目を瞑って再び色々考え始めた。
「"永遠のいのち"を手にした島民ッ……他の島民が襲われてもなお出てこないということはッ、このままずっと出てこないかもしれないなッ……」
もし自分のせいでこうなりましたとノコノコと出てこようものなら、袋叩きにあった上で彼女に差し出されてもおかしくないだろう。だったらバレるまで黙っていて隙を見つけて逃げ出して────犯人がすでに逃げ出した可能性は無いのだろうか。その場の同情で結構重要な事を見逃していることが分かった。
「ただッ……島民が"永遠のいのち"を欲した理由や事情が気になるなッ……」
言われてみれば未来永劫独りぼっちになるかもしれないとかんがえたら、易々と手にしたい物ではないものだ。こうなると彼と一緒にセイレーンから改めて話を聞いた方がよさそうだ。
満天の星空の下、最低限の武器を装備した俺たちは砂浜の洞窟へ向かっている。その道中、砂浜に火の光が見えたので足早に駆け寄った。そこには焚火を囲んでしっとりと『今日の日はさようなら』を歌っている青頭の彼と、歌に合わせて楽しそうに体を揺らす白色の彼と、小気味よく小さな弦楽器を引く耳長の彼がいた。いい雰囲気に釣られてそれっぽく2人で彼らの前に姿を現す。
「いい歌だよねー……"パフェ"が歌わなければだけどー」
「余計なお世話だッ」
「あッ、先生に"チョコ"さんッ!」
「ワァ!」
「ヤハ!」
青白の2人が俺たちに気付いて少し気恥ずかしそうにはにかみ、耳長の彼はポロロンと陽気に返してくれた。
「"チョコパフェコンビ"で島巡りですかッ……?」
「半分正解かなー。ちょっと気になる立ち入り禁止の場所があるから調べてくるんだー」
「何があるか分からないからッ……お前たちはついてきたりせずにゆっくり休んでいるといいッ」
「分かりましたッ! それじゃあいこっかッ!」
「ウン!」
「……フゥン?」
耳長の彼が何かを感じ取ったのか腕を組みながら俺の方を見たが、TOP4の証である爪をキラリと見せつけたら大人しく引き下がってくれた。宿に戻って行く3人を見送り、"パフェ"と一緒に件の洞窟に向かう。その時、とある違和感が俺の歩みを止めた。
「……看板がないなー?」
洞窟の入り口にあったはずの"立入禁止"の看板がなかった。特に補強してあるものではなかったが、強風や揺れがあったわけでもないのに自然と倒れるようなものでもなかったはずだ。
「もしかしてコレじゃないかッ?」
彼が砂浜に埋もれかけている看板を立て直してくれた。流石トップランカーだなと思っていると、その板の橋に水色の毛が付着しているのが見えた。この毛の持ち主が看板を倒してそのままにしたのだろう、と考察すると同時に"水色の毛"という今の俺にとっての劇物がとある考えを巡らせる。
「……"わたあめ"を食ったヤツがこの島にいるゥ……?」
潮風でバソバソになった水色の毛を摘まみながら思わず呟いてしまった。
「何ッ……?」
「……もしこの毛がヤツのモノだったらァ、なァ」
立入禁止の看板を倒しても我関せずの傍若無人っぷりを持つなら、耳長の彼が言っていた情報と一致している。とはいえ今はセイレーンと話をするのが先決なので、いつもの白黒ポーチに毛と同時に胸の高鳴りをしまって洞窟に入る。
彼と一緒にギッコギッコとボートを漕いで、昼間に訪れた神秘的な場所に辿り着く。太陽とはまた違う満月の優しい光が水面で揺れ、水面に満天の星空を映していた。
「いい景色だがッ……見とれている場合じゃないなッ……」
「……だねー。おーい、セイレーン」
俺の呼び掛けに応じるように美しい歌声が聞こえてくる。静かな夜の闇から這い寄ってくるような恐怖と、その上でも心を奪われてしまいそうな清らかさを兼ね備えた素晴らしい声だ。次第に人魚のコーラスも加わってより一層惹かれていった。
「聞き惚れている場合じゃないぞッ……! かなり大きいッ……!」
「話し合いに来たんだからそんなに警戒しなくていいよー」
「そうだよー。初めまして、"チョコ"くんのお友達の"パフェ"さん」
彼女が水面からパシャリと人魚と共に現れた。その大きさに危機を感じたのか彼は本能的に剣に手をかけようとしていたが、まあまあと俺が柄を抑えて抑止する。
「"チョコパフェコンビ"が揃ったからもうちょっと入り込んだ話をしにきたよー。まずは色々と確認したいことがあるんだけどー、いいかなー?」
「もちろんいいよー。協力してくれるならいっぱいおはなししないとねー」
彼女の快諾も得られたので、人魚を食べた犯人が確実にこの島にいることを確認する。この島から海路で出て行った島民は居らず、空を飛んで行くような存在もいないとのことだ。
「飛べる姿に変わる奴もいるかもしれないけどー、"永遠のいのち"を手に入れたからって姿形が変わる訳じゃないんだよねー?」
「うん。おしりにできるだけで、それ以外はそのままだよ」
つまり島民全員の尻を確認していけば人魚食いの犯人は見つかるはずだ。少々手間だが何かしらの方法で全員を集めるのが確実だろう。
「……ならッ、犯人が見つかるまで島民を襲うのを止めてはくれないかッ……?」
彼の提案に彼女がキュッと眉を寄せた。
「エ~? なんで~?」
「時間をかければ犯人は必ず見つかるッ……それなら島民を必要以上に襲う必要はないはずだッ」
彼の言う通りではある。必要以上の犠牲を出してまで犯人を追い詰めているから、討伐依頼を出される対象になっている。見つかることが確定しているのだから、これ以上の犠牲は意味がないのは明白だ。
「────でもー、今頼むべき事じゃないと思うなー?」
「なにッ……?」
何とも抜けた俺の発言に彼が驚きを漏らした。
「"パフェ"の言うことも一理あるけどー……もし彼女の機嫌を損ねたらー、この場で"チョコパフェコンビ"が行方不明になるかもしれないよー?」
俺たちは小さな木のボートの上で、本来の実力の半分も出せればいい方だ。大して彼女は独擅場であろう水中戦に容易く持ち込める。頼み事はある程度実力や交渉材料が等しいからこそできるのであって、この場での俺たちと彼女の優劣は言うまでもないだろう。
「……そういうことかッ……少し熱くなりすぎてしまったなッ……」
「ごめんねセイレーン、コイツはちょっとイイヤツすぎる所があるからさー。でも、追い詰めすぎてヤバイ化け物になるヤツがいる、っていうのはあり得るかもねー」
「うーん……そっか……とりあえず、"チョコ"くんは協力し続けてくれるんだよね?」
「それは変わらないよー。ただ、"パフェ"はもうちょっと状況を知りたいみたいだねー」
「それはッ……いやッ、今は明言できないのは事実だなッ……」
「それならそれでいいよ。どうするか決まったら教えに来てね」
ざぽりと水の中に消えていく彼女たちを見届けて、大きく一息つく。そうそうないであろうヒリつく交渉だった。
これ以上の探索は翌朝に響くだろうと考えて2人で宿に戻る。かなり消耗していたのか、お互いに武器を外すと同時に布団に倒れ込んだ。
「あっぶなかったー……もしお前がもうちょっと強く言ってたら、どうなっていたかわからなかったよー……」
「少し焦りすぎてしまったッ……すまなかったッ……」
「助かったからいいけどさー……それよりも討伐依頼で島民から話がなかったよなー」
「確かにッ……討伐対象や報酬について何も聞かされていないなッ……やはり怪しくなってきたなッ……」
俺はセイレーンと話し合った段階ですでに島民を疑っていたが、彼も島民の明らかになっていない部分を無視できなくなってきたようだ。
「……ふわぁー……とりあえずー、明日になったら説明があると信じてー、今は寝ようかー……」
「……それもそうだなッ……休める時に休んでおくのは大切だからなッ……」
お休みの挨拶をしてから数呼吸で夢の世界へと旅経ってしまった。