翌朝、島民たちから何か話があるらしいとのことなので、広場に集まって"パフェ"やいつもの仲の良い3人組の彼らや他の討伐参加者たちと一緒に話を聞く。何でも島の住民が次々とさらわれて行方不明になっていて、犯人を討伐してほしいという話だった。俺は案の定の展開にうんざりして大きな溜息をつき、大声を出して反論する。
「その原因は島民の誰かがセイレーンの人魚を食べたからなんだよー!」
俺の発言に周りがざわつく。いくら何でも唐突過ぎたのか、もう少し前後を話せと"パフェ"から補足が入る。
「この島にはセイレーンという大きな魚みたいな生き物がいるッ! 彼女の仲間に人魚という存在がいてッ、元々3匹だったのが島の住民の誰かが食べてしまったのだッ! 食べた誰かは"永遠のいのち"を持っていてッ、尻にその証拠があるらしいッ! 人魚を食べてしまった者は名乗り出てくれッ! 事情を話せば彼女も分かってくれるかもしれないッ!」
彼女のあの感じだと許してもらえるわけがなさそうだが、彼が見事に状況を説明をしてくれた。
「そんなことが図鑑に書いてあった気がするッ……そういえば図鑑の豆知識のコーナーのハカセって面白い顔してるよねッ」
「エッ」
「ハァ?」
「とりあえず君たちや"パフェ"、この島にやってきた他の奴らは容疑者から外れるよねー。島民が全員揃っていることを祈って、この場で確認していこうかー?」
とりあえず、一際目立つ葉っぱの頭をしている2人組からでも調べてみるか────
「ヴワ──ッ!!! ウワ──ッッ!!!」
集落の方からとんでもない悲鳴が聞こえたので先にそちらに向かうとしよう。
そこには人魚2匹を頭に乗せたセイレーンが、島民の1人を咥えていた。どうやら先日の交渉は失敗に終わり、彼女は彼女なりに犯人を追い詰めるようだ。
「キャー!」
「ギャー!」
「ワワー!」
彼女の恐ろしい姿を見てほとんどの討伐参加者が蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。恐らく本当に"カンタンな討伐"だと思っていたからだろう。騙す側が悪いのは当然だが、騙される方も騙される方だ。
「あッ、あんな大きいのを討伐しようとしてたのッ……!?」
「ワッ、ワァ……!」
「ハァ!? ハァハァ!?」
「どう考えても"カンタンな討伐"ではないなッ……!」
「討伐する気がある奴からしてみたらー、だけどねー」
気付けばこの場に残ったのは"チョコパフェコンビ"といつもの3人組だった。島民を定期的に攫える実力の彼女対トップランカー2人と連携の取れるそこそこの実力の3人、と言いたい所だが俺はすでに彼女の協力者なので討伐に参加する気は毛頭ない。だからといって不必要な争いを生み出すつもりもないので妥協点を探るべく話し合いを持ちかける。
「待ってよセイレーン、さっき島民に状況を話したんだー。自分たちの中に人魚を食べた犯人がいるって分かったから、すぐにでも犯人は見つかるよー」
「そうだッ! 犯人の見つけ方も教えたッ! 後は待っているだけで犯人が見つかるはずだッ! だからもう島の住民を襲う必要はないッ!」
「……じゃあまだ見つかってないんだね、犯人ッ?」
実に痛い所を突かれた。見つけ方が分かっただけでまだ調査は何もしていない。しかも島民が全員揃っていると仮定したあの場で調査するつもりだったが、こちらの集落に何人かいて全員揃っていないことが明らかになった。となると一斉捜査で判明させることができず、この騒動に乗じて犯人が逃げる隙を作ってしまったことになる。もしこの場で犯人を逃してしまったら、俺たちのせいで犯人を逃したと彼女から断定されてもおかしくない。
「だったら名乗り出るまでまだ食べるよッ」
「食べ……」
「……んー? こんな時になんだー?」
一瞬即発の俺たちの雰囲気をまるで知らないような、わーわーわいわいとした声が後ろから近づく。
「こんなもんいらないんだよッ」
やけに小憎たらしい声に振り返る────俺はその声の持ち主の姿に固まった。大きさは俺ぐらい、白い体、俺より大きな耳、何より大きくてフワフワした水色の尻尾。金色のアイツが言っていた特徴そのものだった。
ヤツは島民から丸い顔付きの武器をもらってより一層不満そうな顔をした。
「こんなもんより……うんまいものが食べたいんたよオ──ッ!」
武器の先端の丸いものがびんよよと伸び、その矛先は"パフェ"に向かっていた。
「なんッ……」
それに気付いた彼は飛んで回避しようとしたが、伸びた線がクルクルッと彼の足に巻き付いた。
「……なるほどなァ」
俺は咄嗟に爪を装備して線を引き裂いた。
「たッ、助かっ────」
「お前が犯人だなァ!!!」
俺はヤツに向かって駆けだしていた。コイツが"わたあめ"を食った犯人だと決めつけたからだ。
「わわッ!?」
桃色のカニのカチューシャをつけたヤツが邪魔をしてきたので体当たりで吹っ飛ばす。
「どけェ!!! 犯人を庇うんなら同罪だァ!!!」
「犯人~? なんの話だ~?」
「すっとぼけるんじゃねェ!!! お前が食ったんだろッ!!!」
怒りに任せて爪を振り回すが、ヤツはのらりくらりと躱しやがった。
「オ~おそろしッ。ほいじゃ」
あまつさえこの場から逃げ出すつもりらしい。この千載一遇の機を逃していいわけがない。俺は憎しみと怒りを燃料にして全速力で走り出した。
「逃げるんじゃねェ!!!」
「つったかたー」
本能的なのか考えているのかは分からないが、ヤツは動線を悟らせないように木々の中でもジグザグに走っている。元化け物ということもあってかその機動力は中々で、俺との距離を一定に保ったままにしている。
「待ちやがれェ!!!」
「イーヤーヤダヤダ」
より一層俺の憎しみを募らせるような演技が本当に腹立たしい。しかし、何故かヤツの動きが直線になった。ここしかないと思い一気に飛び込んで────踏み込んだ足場がバキリと音を立てて崩れる。
「なァッ!?!?!?」
「壊れそうだなこの橋ッ」
まさかコイツこの一瞬で考えてここまで来たのか。崩れる足場に何とか手をかけてよじ登────装備していた爪がロープに引っかかってブツンと嫌な音を上げる。
「しまっ──────」
嫌な予想通りに橋が2つに千切れ振り子の要領で加速していき、目の前に壁があることを理解した時には何もかもが遅かった。ビタンと思い切り叩きつけられ、そのまま下を流れる川にばしゃんと落ちた。
体中の毛が水を吸って沈んでいくのが分かる。浮こうにも体が思った通りに動かず、無理に動かすととても痛い。とはいえ静かにしていれば顔だけは水面から出すことができるので、爪を外してより軽くなって凌ぐしかなかった。
「……焦りすぎてドジ踏んじまったかァ……やっぱり"パフェ"のこと言えねえなァ……」
悔やんだ所で現状は何も変わらず、ただサラサラと走る水に流されるだけだった。次第に体がより浮くようになり、潮の匂いも少しずつ強くなってきた。だいぶ遠くまで流されてきたのを理解して、"パフェ"たちがどうしているのかが気になってきた。人魚を食べた犯人は分からないが、"わたあめ"を食べた犯人は分かったからそちらを追うのか────
「オイッッ、大丈夫かッ!!」
どこからともなく低くてシブい声が聞こえてきて、俺をザパリと引き上げた。首だけ傾けてその方を見ると頭頂部に王冠のような髪と両側頭部に稲妻のような髪、口元には余裕を感じる髭、割と恰幅の良い体形、"味自慢"と書かれた前掛け、俺を抱きかかえれるぐらいには大きな何者かがいた。